142 餐嶽社稷
戦いの激しさは増し、血の嵐が巻き起こっていた。
「それでは、これを展開するとしましょう。陣法【餐嶽社稷図】」
赤黒い球体へと、カンナ、アヤカ、ガネーシャを引き込み、三人が目にしたのは、赤黒い動物や巨大な昆虫、剣山のようにそびえ立った赤黒い木の葉は鋭い刃になっていた。
「……小世界を作り出せる陣法を操れる境地ですか」
「かなりヤバいわね」
カンナは剣を構え、普段はおちゃらけているアヤカも、真剣な眼差しであたりを見回すと、赤黒い牛が突っ込んでくる。
「させません! 【激化鼻刃】」
ガネーシャは鼻を振り回し牛を叩きつけ、牛は弾けガネーシャは返り血を浴びると激痛が駆け巡る。
「ぐっ……師姐。こいつら毒血が動物を象っているみたいです」
爛れた傷を無言で見つめたカンナは視線を動物の群れへと視線を向け静かな口調で語りかける。
「アヤカさん、ガネーシャの手当てを」
「まかしとき」
爛れたガネーシャの皮膚に霊薬をかけなおす。その間にカンナは剣を縦に構えると剣が震えだし、それはやがて剣鳴へと変わる。
「【斬響散華】」
鳴り響いた剣鳴が斬撃へと変わり、周囲の全てを斬り刻み全てを血だまりへと変える。
「あらあら、まさか一鳴りの剣鳴で全てを切断するなんて」
宙に浮きながら、コロコロと笑う沙月は無傷であった。
「……あなたも斬るつもりだったのですが」
「本来のあなたの力でしたら斬られてでしょうが……分霊のあなたの力は本来の一割もないですからね。それに……」
パチリと指を鳴らすと血だまりが再び動物や植物へと姿を戻す。
「陣目を破壊しない限り、何度やっても再生できちゃうの。けど、その技あと何度使えるかしら?」
剣を握る手に力が入るが実際にカンナの使える大技はあと二、三回が限度であろう。
「師姐。師姐の奥義ならなんとかなりませんか?」
「無理……今の状態で【絵巻斬】を使っても精々、指の長さくらいしか切り裂けない」
ガネーシャの問いに静かに答えるカンナ。カンナの奥義『絵巻斬』は全てを、まるで絵巻を斬るかの如く切り裂く奥義であるが、現状では使用できない。
「アヤカの方で解除はできない?」
「陣法の解析に全力を尽くせばなんとかなるかもやけど……この陣法めっちゃ複雑で計算にめっちゃ集中せなあかんからウチは案山子になるで」
陣法は複雑な計算式によって構築されており、単純な陣を破るだけでもかなりの専門知識が必要になる。
「くすくす。この陣法の式は8の64乗の式で構築されているから解除するだけでも難しいと思いますわよ」
途方もない計算式。しかも現代の知識が織り込まれた高度なプログラム言語も組み込まれた陣式。それはもはや別次元にまで進化した式であり、太古の陣式に精通したアヤカでも解除は困難といえる。
「こらあかん。ソロバンでその計算量なんて無理やで」
絶望的という状況。
打つ手なしのじり貧。
逆転の目なしで勝ち目も無し。
それぞれが、それぞれに打開策を考えるが手づまり。
三人に打破する手段はなかった。
故に、
――【螺旋星雲陣】――
破ったのは外部のからの陣法。
「遅くなって申し訳ありません。助けに来ましたよ」
龍雄とそれに率いられた若人が、一斉に沙月へと立ち向かうのであった。
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