139 鳳鴉不和
龍雄は一呼吸を置き、炎双剣『鳳凰』を重ねる。
「焚暴炎刃『畏怖燐威斗』。時間がありません。一分それで決めさせてもらいます」
双剣は長剣へと変わり構える。一分で終わらせるとは言ったが、今の龍雄では炎駆の力をそれ以上は持たせられない。つまるところ、この勝負は短期決戦以外しかありえないのである。
「歩法【溶功・幻溶空歩】」
朱雀心功の歩法【幻火軽功】の上位互換たる歩法。それは、ただ空を歩くだけで、大気が溶けそして、爆ぜた。
「なっ、なんて素敵な歩み……空を溶かすなんて」
血禽は思わず見惚れてしまった。だが、それも一瞬。すぐに構える。
「こちらはいかがですか【火鍼】」
火の針が雨のように降り注ぐが、龍雄が軽く振る余波だけで針がはぜる。
「まぁまぁ、これもダメとは思いませんでしたわ。ではでは、これはどうでしょう? 【千刃蔓】」
チェーンソーがほどけると長い鎖へと変わり、その途中に匕首が無数連なっている。
「さぁさぁ、これはいかが?」
広域を埋め尽くす刃の結界。刃を振り回し、全てを斬り刻む刃が龍雄にせまるが、それでも龍雄は構わず、落ち着いて剣を振るう。
「【大炎装界】」
振り上げた剣からは、炎が渦巻き、剣を一振り一振りするたびに炎の波が辺りを埋め尽くす。
それを防いで見せる血禽は、炎を切り払いながら果敢に攻める。
龍雄は炎の渦の中、剣を縦に構えると、功力を最大限まで高める。
「――鳳は律音で鳴き凰は呂音で鳴き、二羽の嘶きは万里に響き、その羽ばたきからは那由他でも逃れず――奥義【鳳凰煌匡極】」
鳳凰の羽ばたきの如く、優雅に振るう剣から放たれる熱波は、大気すらも焼き尽くし、世界を赫く赫く染めていく。
「あらあら、『武言』を用いるとは……なら、こちらも本気を出さないといけませんわね。――金色烏の鬨の声、戦場の金音を羽音でかき鳴らし、有象無象を屠殺する。ここは殺し間、一切合切の慈悲は無し――殺招【金烏・刃屠場】」
太陽の如く輝く烏が現れ、龍雄の鳳凰と激突し、焔を、熱波を、角切りにしていく。だが、斬られた炎は再び燃え上がり全てを焼き尽くしていく。
朱の羽と金の羽が舞い、火花が咲き乱れ狂い裂き、死に満たされた世界は恐ろしく美しい光景を作り出していく。
「まぁ、なんと美しい……」
「これにて【終炎】です」
龍雄の放った一閃は、金色の烏を切り裂き、血禽を斬りつけるには十分な一撃は幻想的な光景事両断する。
「これは、防ぎようがありませんね」
自嘲気味に笑いながら、その一撃を受けるしかない血禽であった。
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