137 獅雀近战
ついに、この日一番の注目を集める試合を今か今かと、観客は待ち望ん出でた。武台の上では、燕慈が既に構えている。が、待ち望まれているのは、天魔神教・小教主『紅骸慈』その人である。
現代の天魔神教は、比較的に民衆の支持は厚い。中華連盟でもダンジョンが発生した直後の対応で初期対応が遅れた武林盟と異なり、即戦即応でモンスターと戦った天魔神教が民衆の支持を受ける様になり、現代では政府との関係を確立させ多大な影響力を持つようになっている。
そんな天魔神教の小教主となれば注目されない筈はない。
「お前の師匠ならともかく、お前が俺に相手になるとでも?」
深く静かにそう吐き捨てると、燕慈は睨み殺さんばかりに睨みつけると
「あぁん? 舐めんなよ。コラァ」
腰を落として、構える。と開始という合図と共に燕慈は一気に踏み込み、跳躍するし、その流れのまま
「【火燕乱舞脚】」
空中での連続蹴りを放つ、それを紅骸慈は受け流して見せる。
「【黒獅掌】」
攻撃を捌きながら繰り出された掌底により、燕慈は後方に大きく吹き飛ぶ。
だが、紅骸慈は手のひらに滲む血を見つめニヤリと笑う。
「なるほど。それなりには、楽しめそうではあるな」
燕慈は体を起こしてニヤリと笑う。
「まだまだ行くぜ。【火燕低旋脚】」
足元を潜り込むような体を滑り込ませると足首を刈り取るように地面に水平するかのように蹴りを放つ。それを跳びあがり躱し
「これをどうする?【黒獅無双】」
手を交差させるように振るい、斬撃のような衝撃波を放つ。
「こうすんだよ!」
地面に手を尽き、跳ね上げる。
「喰らいなぁ! 【燕昇脚】」
放たれた蹴りが紅骸慈の顎を捕らえて今度は紅骸慈が後方へと吹き飛ぶ。
誰もが予想しなかった試合展開。それは紅骸慈自身がもっとも感じていた。今までの相手は退屈でしかない相手ばかり、師範というべき相手も直ぐに超えてきた自負。同年代に自分と互角なものがいないという傲慢さ。そしてをそれを証明する実力。だが、この短期間に二人も自分と戦える相手が現れた、歓喜。そう、間違いなく喜びだ。戦う相手がいるという喜び。目の前にいるのは間違いなく『敵』に値する実力者。ならば、ならばここで抜かないわけにはいかない。黒剣『黒天獅』。それを抜くときこそ紅骸慈の全力である。
「これを抜かされるとは、どうやら俺はお前に負けたくないらしい」
「それが、てめぇの切り札ならオレも抜かせてもらうぜ」
白い炎が舞い上がると燕慈の手には、刃のない白い剣が握られていた。それを見た、この闘技場の一番高い位置。ベールの奥に座っている人物が立ち上がり、思わず独り言を漏らしていた。
「うそぉ。あれは姉さまの『白帝剣』なんであの子がもっているの!?」
浮かせた腰を落とし今まで特に集中してみなかった試合に目を向ける。
「間違いない……けど、あれはお姉さまのお気に入りだったはすなのに……」
ぶつぶつと呟きながら成り行きを見守り始める。
「その刃のない剣で戦う気か?」
「あぁ、こいつの刃は――」
自らの炎を送り込むと炎が刃へと変わる。
「これで問題ないだろ?」
「ふっ、いいだろう。俺の名は天魔神教小教主『紅骸慈』名乗れ。お前は俺の敵として認めよう」
「龍天武院門弟『赤坂燕慈』いくぜ! 紅骸慈!」
二人の振るう剣から黒と白の炎の斬撃が放たれ観客を守る結界に激突するたびに結界が揺れる。結界がなければ観客は間違いなく消し炭すらも残らなかったであろう。そんな火力の剣を振るいながら二人は激闘を繰り返す。片方が剣を薙げば、それを受け流しその隙に蹴りを叩き込もうとする。一進一退どころか一進一進、下がることなくむしろ前に前に進み相手を叩きのめすという意志の下に行われる純粋な闘争。
「【黒炎柱陣】」
黒炎の柱が辺りを埋め尽くす。だが――
「【白燕悠遊】」
燕慈が剣を振るい生み出した白い燕たちが飛び交いながら紅骸慈へと襲い掛かり、ぶつかると爆発を起こす。それを気にすることなく紅骸慈は距離を詰めると剣を振るい燕慈が受け止めた瞬間、腹に重い蹴りを叩き込む。大男をも吹き飛ばす蹴りを踏ん張り受け止めて見せる。いつの間にか互いに笑みが自然とこぼれる。楽しくて楽しい戦い。殺すことを目的にしているわけでもなく、負けてもいいとも思っているわけではないが、負けても悪くないと思いつつも、もっともっと技を力を見せてみろという純粋な闘争。故に互いしか眼中になく全ての人の意識は二人に集中していた。
「もう、がまんできませんわぁぁぁぁあぁぁぁあ」
一人の修道女を除いて――
「はぁぁ、こんな素敵な戦い混ざらないなんてありえませんわぁぁぁぁ」
修道女は両手にもったチェーンソーを振り回し結界を砕き、武台の上の二人へと斬りかかる。
「ぐっ」
「なっ」
燕慈も紅骸慈も集中していた為に反応が遅れるも互いを突き飛ばし、凶刃から逃れるが、それでも凶刃は止まらず、勢いそのままに二人を目掛けて投げつける。体制を完全に崩した二人には避けるすべはなく、凶刃が二人の命を刈り取ろうとした瞬間――
「【鎖陣法・亀甲壁】」
鎖で作られた障壁がチェーンソーを叩き落とした。
「弟子の試合に乱入するとは無粋じゃないですか」
武台の上へと龍雄が降り立ち、修道女『血禽』と向き合うのであった。
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仕事の関係でしばらく執筆がおくれていました。申し訳ありません




