123 月光間諜
遅くなって申し訳ございません。
龍雄たちは一日の余裕を残してゴールした。そうして案内されたのは広い屋敷。その屋敷まるまるが『武林祭』の間龍雄たちの居住として与えられた場所だった。
「良かったのでありますか? あと一日あればもう少し狩れたのでは?」
食堂で、食後のお茶を楽しむ中、真守が龍雄に質問をするのであった。
真守の質問に龍雄は、椅子に座りながらお茶を一口、口にしてから答える。
「そうですね。でも、それは避けたいところです。僅か一日ですが、余裕をとっておかないと次に進んでもいい結果は得られません。それに、どんな人が残っているかも気になりましたから」
確かに無理をして狩りをして不意な戦闘をして疲労したり負傷する可能性もある。それを考えれば、理解はできるが、それでも狩りの点は取りにいってもいいのではないかと真守は思っていた。
「点を少しでも多く取っておきたいというのは解りますが、36位いないに入ればいいのです。そして、ゴールできるのは50組以下でしょうね」
「それは何故でしょうか?」
「簡単に言えば、狩猟対象となった牌を追っかけているチームもあることと、妨害役のチームが紛れているということです」
まず、狩猟対象の牌はそれなりに高得点ではある。が、それに固執する必要は特にない。現に龍雄たちは、出会えたらいい程度の感覚で走破してきた。なにせ広いフィールドで特定のチームを見つけるのに労力を割くくらいなら普通の獲物を見つけた方が何倍も効率がいい。ようはその為のひっかけ問題なのである。
そして、参加者として妨害役に徹するチームが存在するということである。勝つことを目的ではなく疲弊させることを目的にして本命チームに突破させるために活動をしているチームは少なくとも2割入るだろうというのが龍雄の見解である。
「少し不安に思うと思いますが、大丈夫ですよ。皆さんのチェックポイントの成績は優秀ですし、それに皆さんが仕留めた獲物の量を考えれば、かなりいいせん言っていると思いますよ」
そういってニコニコと微笑みながら柚恵が用意したお茶のお替りに口をつける。
「それに明日は日の出とともに面白い光景がみれる気がするんですよね」
龍雄の何気ない一言に全員が首をかしげる。
「なにはともあれ、明日は日の出よりも少し早く東門へといくことにしましょう」
ゴールした際に転送される東門。そこに何があるのかと思いつつ全員が就寝の挨拶を終えて部屋へと戻る。
龍雄は一人、縁側へと移り月を見上げながら晩酌を始める。
「いい月夜ですよ。コソコソ隠れてないで出てきては?」
そういって、よく手入れの行き届いた庭の一角へとお猪口を投げる。
「まさか気づくとはな」
その一角から慌てて飛び出す黒装束の人物が一人。
「バレバレですよ? この屋敷だけで8人とは……ずっと覗いてましたよね」
「それが?」
黒装束の人物は身構えるが、視線の先にいたはずの龍雄は消えていた。
「なっ!?」
驚きあらわにした黒装束ではあるが、次の瞬間、腕を取られ地面に組み伏せられていた。
「さてと、出てきてください。出てこないと」
ボキッ――
黒装束の腕が折る。激痛で叫び声すらも上げられず身悶えする。
「この人の腕を折ります」
折った後に龍雄はそんなことを涼し気にいう。
「ふん、折っておいて折るとはな」
黒装束たちが次々に姿を現し、その人数は龍雄のいった通りで全部で八人。
「いえ、腕は二本あるじゃないですか」
そういう龍雄は笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。
「この人をつれて帰って下さい。そうすれば見逃してあげますよ。みんな疲れているのでゆっくりと休んでいますので」
緊張感が漂うこと数秒。リーダー格と思われる人物が口を開く。
「……わかった……退かせてもらおう」
「それは良かったです。あっ」
何かを思い出したかのように、組み伏せていた黒装束を解放すると、一瞬で移動し、別の黒装束の首を吊り上げる。
「あなた、柚恵さんのお風呂覗いてましたよね?」
底冷えのする声色と気迫に黒装束たちは身動き一つ、瞬きどころか心臓も止まりそうになる。
「お、オレは覗いてなど……ぐえっ」
「フフフフ、柚恵さんの綺麗な体を覗きたくなるのは解りますよ。でもね。わたしがそれを許せないんですよね」
そういって【剣指】で両目を斬りつけるとリーダー格の人物へと投げ渡す。
「次は、殺します」
黒装束たちは向けられた殺気をうけて一目散に逃げだす。
「どこの勢力かはわかりませんが……柚恵さんのお風呂を覗くなどうらやまけしからんのです……わたしは何を言ってるのでしょうか……さてと、わたしも休むとしますか」
汗一つ掻かずに黒装束たちを撃退した龍雄は部屋へと戻り就寝するであった。
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