120 柔撃花舞
真守、菜桜、朱里、柚恵に襲い掛かった7人は一瞬で3人を倒す、残るは剣をもった男二人と、圏を握りしめた女と、空中を駆け巡る女。男二人には真守が、圏をもった女には菜桜が、空中を駆け巡る女には朱里がそれぞれ相対していた。
そして、柚恵はというと…
「くっ、くそが」
「はわわ、結構タフです」
大斧を杖代わりに立ち上がろうとした大男に慌てて側頭部に右のハイキックを叩き込むと左のフックからの右フックからの肘打ちと容赦なく殴りつける。しかも的確に人体の急所を狙うという徹底ぶり。大男も早く気絶できればいいのだが、なまじタフなだけに気絶もできず、かといって立ち上がれるかといわれると、最初のハイキックの時点で既に膝にきており、どうしようもなく、ただのサンドバックとなるしかないのだが、対人戦の経験が少ない柚恵はそのことに気が付かず、ひたすらに殴打を加える。
さて、真守と剣を構えた二人組だか、こちらも容赦なかった。真守の習得した『岩戸観音身法』は金剛椀と呼ばれる金色の太い柱のような腕を顕現させる武功であるが、それ以外にも肉体を強化することにも適している。
つまり、金剛腕を躱したとしても。
「はぁぁぁぁせりゃせりゃどりゃぁぁぁぁぁあああ」
真守自身の怒涛のラッシュが一人を襲う。左足刀が腹部に突き刺さり、それを軸に放たれた右の飛び回し蹴りが側頭部へと叩き込まれ、さらにそこから両肘鉄が後頭部へ叩き込まれる。筋骨隆々であり2メートル近い身長の大男とは思えない柔軟である軽やかな動きにもう一人の剣をもった男は動揺してしまう。
今のは武功ではなく基本的な打撃技でしかない。だが、それらが一撃一撃が重症になる威力を秘めているということは、武の道を歩んできた男には十分に理解できてしまう。
「【金剛合掌】」
金剛椀の掌が左右から挟み込む。それは大型トラックに挟まれるのと何ら変わらない。
「うぉぉぉ、【河北剣壁】」
河北の剣技である剣気による防壁で身を守ろうとするが、それごと粉砕し剣が砕ける。
「ふんっ!」
金剛椀によるアッパーカットが何とか立っていた男を高く吹き飛ばし、木に激突した。
「うむ。強き相手であった。また手合わせできるとよいのだが……菜桜殿と朱里殿はと」
真守が視線をむけると、朱里にむけて、女が何度目かの鏢を投げつけいたが、それを難なく空中で躱す。
「な、なんで!? 空中で私の鏢が躱せる!?」
「にゃははは。あぁしにとっては楽勝だよーん。それよりも、その投げナイフくらいしかないなら、いくよー」
今度は空中で加速し一瞬で間合いを詰める。
「【銀豹獣身功・銀雪斬舞】」
銀色の雪が舞い、女の体吹き抜けると全身に裂傷が走る。
「【銀豹獣身功・落雹槌脚】どーん」
さらに追い打ちにと放った踵落としによって地面へと木の枝に激突しながら落下する。
「ありゃ? やりすぎちゃったかな?」
高い木の上のてっぺんに降り立ちながら朱里はこともなげに頬を掻くのであった。
そんな戦いのさなか、菜桜は圏で殴りかかる女性と対峙していたが、奇妙な光景ともいえる。圏の女は必死に攻めるが菜桜は緩やかに掌底で軽く払い攻撃の軌道を変える。
明らかに圏の女のほうが動きは速いはずなのに全身のバランスが崩れてスピードに乗り切れない。そんな印象をうける。
「ぐっ、なにをした」
明らかな身体の不調に狼狽しながら、がむしゃらに攻撃をする。
「【孔雀明王心法・不動柔掌】です」
そういって、緩急をつけて腹部、左肩、右太ももに触れる。その緩やかなはずの動きを回避できない。
「おのれ」
右足で地面を蹴り、距離を取ろうとするが、本人が思っている以上に後方へとんでしまい背中を木に打ち付けてしまう。先ほどから味わっている違和感。奇妙な活性化を体に感じる。
「【不動柔掌】は相手に触れた場所にバフ・デバフを与える技です。既にあなたの体24か所の感覚は狂わせました」
武功とは、全身を精密に操る事で力を発揮する。その要点となる箇所が普段とことなる感覚となれば、全身のバランスを崩れるのは自明の理である。
「これ以上、戦うと経脈へとダメージになりますので大人しくしてもらえないでしょうか?」
菜桜らしい優しい技とも思えるが、その威力は凶悪としかいいようがない。使い方次第では薬にも毒にもなる技である。
「なめるな!」
故に、菜桜は戦いに身をおく人間の気概というものを理解しきっていない。負けを認めろといわれて素直に負けを認める武人などいない。しかも明らかに格下にしか見えない相手に対しては特にそうだ。
だから、不意の一撃をうけ肩に圏が食い込む。
「どうだ!」
ガッツポーズをしてみせる女に対して菜桜は肩に手を当てそのまま治癒をする。【孔雀明王心法】を身に着けてから回復魔法などの効果も高まり、深い傷でも落ち着いて治すことができる。
「ふぅ……申し訳ありません。そうでした。カンナ様から武とはなにかを教えられたのに……あなたを侮りましたことを深くお詫びいたします」
そういって抱拳で礼をして改めて菜桜は構える。
「どうやら本気みたいだね」
「はい。【孔雀明王心法・三身破】」
それまでの緩やかな動きから一変しまるで濁流のような激しい攻撃が圏の女を襲い、そして鳩尾、喉、額を打つ。
「活!」
「カハッ」
吐血とともに女は気絶した。
【孔雀明王心法・三身破】それは、心臓、肺、脳を強制的に活性化し、気道と血脈にダメージを与える技である。
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