119 武林世界
武林の世界は探検者以上に力がモノをいう世界である。強者こそが是であり、弱者はいかなる通りであろうと否定される。
つまるところ、襲撃は是であり、このような競技であれば、妨害工作に、奇襲などは初歩の初歩。
不用意に肉など焼けば匂いで居場所を教える行為ともいえる。つまり、襲撃を受けるのは自明の理ともいえる。
「なんや肉を焼いてる間抜けがおるとおもたらあんさんらですか、こいつはついてますな」
つまるところ龍雄たちは、目を付けられ奇襲を受けることになった。もっとも、その奇襲は失敗に終わり、しかたなく派手な金色の唐服を来た小太りで短身の男――河北琴――は姿を現すことになったのだが。
「いえ、獲物がかかるかと思ったので助かります」
もともと龍雄にとっては予想通りである。見た目こそ若いとはいえ、龍雄は海千山千の駆け引きで生き抜いてきたベテランである。特に力を失ってからは生き残る為に情報収集などは怠ったことはないルーティンワークである。
「さよか。しかし、あんたらの師匠はどこいます? お弟子さんをボコボコにする前に、ご挨拶しようかとおもうたんやけど」
「わたしが師匠枠ですよ」
「ほんまかいな。弱小とはおもてましたが……ほな、始めましょうか」
そういって構えをとる。
「まてやぁ。オレが相手だ」
二人の間に、燕慈が立ちはだかり、構えをとる。
「なんやあんた?」
「こないだ襲撃されたもんだよ!」
そういって駆け出し、勢いよく飛び蹴りを放つ。それを身を低くして躱す琴。
「なんや血の気のおおいやっちゃな。【河北拳法・伏虎双打】」
その姿勢のままから、片拳を頭の高さにもう片拳を腹部へと突き放つ諸手突きを放つ。
「【火燕翼心功・燕尾脚】燃えな!」
炎を纏わせた後ろ回し蹴りを琴の横腹に叩きみ吹き飛ばす。
「やるやないか。この『火鼠の金衣』やなかったらあぶないところやった。お前ら、こいつは抑えとるさかい他のやつらをやりぃ」
その声を合図に隠れて様子をうかがっていた。琴の仲間たちが飛び出し一斉にかかる。
「師匠の男は儂が抑える。お前さんたちは、他のもんを倒して若にかせいせい」
そんななかで小柄な老人ではあるが筋肉の鎧を纏った老人が龍雄へと拳を振るうが、その拳を掴むと捻りを加えて投げ飛ばす。
「あなたが師匠枠の方みたいですね。では、お相手願いますか」
投げ飛ばされた老人はひらりと着地し構えをとる。
「ふん、随分と余裕じゃのう。若様と戦っておるやつがお前さんたちのなかでも一番じゃろうに」
「さぁどうでしょうね?」
ちらりと、真守たちの方へと目を向けると、剣を振るう二人と棍をもった男が真守に襲い掛かり、紐の先に錘がついた武器――流星錘――を振るう女が真守の背後にいる菜桜と朱里に錘を飛ばし、輪っか状のメリケンサック――圏――を握った女がそれに合わせて朱里に殴りかかる。さらにその背に隠れるようにして飛び上がっていた女がナイフ――鏢――を投げ、それに合わせて全員の最後尾にいた柚恵に大斧をもった男が襲い掛かるのを確認した。
「随分と奇襲になれているようで、それに武器も多様ですね」
「ふん、河北家は千の武客を迎えた家じゃからの」
そう言いながら放ってきた老人の抜きてでの突きを、龍雄は背を反らしながら躱すと、そのままバク転をしながら、その手を蹴り上げ地面についた手を軸に回転して蹴りを放つが老人もそれを受け止めながら横に跳び衝撃を緩和する。
そして、再び真守たちへと目を向けると、金色の両椀が剣を受け止め、棍を振るっていた男の腹部へと真守が放たった思われる拳を棍で受け止め、飛んできた鏢は全て周囲の木に流星錘を絡める様に突き刺さり、圏をもった女の頭を踏み台に跳躍している朱里の姿と大斧を受け止める柚恵の姿が目に映った。
「馬鹿な!? あの連携をとめるじゃと」
「みなさん優秀ですね。うん、任せても大丈夫そうですね。ご老人、手合わせといきましょうか?」
クイクイと手招きをして軽く構えてみせる。
そして、真守たちも動きだす。
「【岩戸観音身法・剛力噴泉】」
地面を真守が力強く殴りつけると、地面が爆発しその衝撃波が剣をもった男たちと棍の男を吹き飛ばす、だがそこで止まることなく、棍をもち男の頭部を掴む。
「ハッ!」
そして、地面から突き出された金の腕が真守を空高く打ち上げると
「【岩戸観音身法・流星剛鉄槌】」
最高点まで到達し落下を開始すると同時に棍の男を地面へと投げ飛ばし、そして、膝から男の腹部へと落下し地面にぶつけられた男は背骨がくだける音を最後に意識を飛ばす。剣をもった二人組は少し意識を失ったが着地の音で意識を取り戻し、着地した真守へと襲い掛かる。
その真守の攻防の間にも斧をもった男が腹部を抑えて悶絶をしていた。やったのは柚恵である。
「軽く身体を活性させてこれって凄いですね。さてと、みんなの加勢をしないと」
振り向いた瞬間、髪を流星錘がかすめ、少し甘い香りが漂う。
「これは……毒? 毒使いが唐家の人以外でもいるんですね」
「そうネ。唐家だけのものじゃないよ毒功は! 【毒香】」
流星錘使いが流星錘を振るうたびに甘い香りが広がっていく。
「だとしても、わたしを狙うのは失敗でしたね【藍炎火】」
藍色の炎が毒の香を焼き払っていく。
「錬丹師に毒は悪手ですよ?」
そうした手には紫色の丸薬が握られていた。
「まさか…錬化した?」
「はい。では行きますよ【樹霊歩功・風華雷音】」
十二分に距離をとっていたはずの流星錘の使い手であったが、その間合いが一瞬で縮まる。
「木気は火気を生む。木生火【樹霊薬神功・藍染生華】」
柚恵の放った掌底が流星錘使いの胸を打つと、藍色の炎が一気に燃え上がりその炎が消えると流星錘使いは傷一つなく気を失い倒れた。
「殺しはしませんよ。錬丹術師ですので、ただしばらくは戦闘不能にはなってもらいましたけどね」
一応、容体を確認し、他の戦いへと目を向けるのであった。
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