118 血魔狩猟◆
競技が開始されて1時間程で事態は大きく動いていた。
「貴様、どういうつもりだ!」
皇甫張は目の前の軽薄な男に激昂していた。
「クックックッハハハハハハ。まさか、こんなに早く獲物が見つかるとは思ってなくてよォ。ついヤッちまったぜ」
にやけた笑みを浮かべて、浅田厄雲は高笑いをし足元に転がる二人のまだ暖かい死体を踏みつける。
「おのれゲスな血魔のくせに、皇甫にたてつくとは…」
「若、おさがりを」
御付きと思わしき老人が張の前に立ちふさがり、さらに女二人と男が三人が最前列に立ちふさがる。
「ふぅ。よくみたら俺の獲物に手を出そうとしたヤツじゃねぇか! 【七擒七重】」
骨を接いだ不気味な大刀を振り回すと、伸びて張を絡め取ろうとする。
「若様危ない」
女がかばう様に伸びた太刀を宝剣で弾こうとするが、あっさりと砕け、そのまま絡め取ると、引き寄せるながら空中へと投げ飛ばす。
「きゃぁぁあああ」
「くたばりな」
容赦なくて四肢を切断し、地面に叩きつけられる。
「ギャハハハハ、芋虫みたいじゃねぇか」
「おのれ!」
男たち三人が飛び掛かり剣を振るう。
「おせぇよ【目迷五重】」
剣で切り付けた思った瞬間、姿が掻き消え刃が降り注ぎ、腹を、足を、腕を切り裂く。
「弱すぎだろ」
「やめ……ぎゃぁぁぁ」
容赦なく顔面を切り裂き眼球を潰し、鼻を削ぐ。
「ひぃぃぃ」
その光景を見ていた女は、尻もちをつき、生暖かい液体で泉をつくるがそれすらも気づかないほど恐怖した。
「若いの、随分と……」
「ごちゃごちゃうるせぇよジジイ」
喋ろうとした老人の口を塞ぐとギリギリと締め上げながら片手で持ち上げる。
老人も必死に抵抗しようと暴れるが、意に介さず、ニヤリと笑うとグシャリと鈍い音とともに顔半分を握りつぶし、投げ飛ばし、樹木へと激突すると同時に、何かが四肢を切断した。
「おのれよくも爺まで」
宝剣を抜き構える。
「てめぇは間抜けすぎだろ【八重餓鬼】」
だが、既に厄雲の攻撃は始まっていた。八方向から、まるで大蛇のように太刀が迫り、喰らいつき張を一瞬で斬り刻み、瀕死へと追いやる。
「おっ、ギリギリ生きてるか。まっトドメは刺すなて言われてるからな」
それだけ言い残すと姿を消す。
血魔神教の面々は散り散りなり狩りをしていた。
「はぁ……外れだ。外れ……はぁ……運がなさすぎでしょ」
大きな熊の死体に座りながら女はため息をついていた。
「なんなんだ貴様は……」
「………………」
包帯に包まれた巨漢の大男は無言で、探検者の一団を壊滅させていた。全員生きてはいる。だが生きているというだけで全員が満身創痍である。
男は無言で立ち去り、ただひたすらに直進をしていく。
「そっちはどうよ。左の」
「左耳と左目をえぐってやったよ右の」
「そうかそうか。次はどっちにいくよ左の」
「そうだな。いつもどおり左へいくとしよう。右の」
「ならば、わたしもいつもどおり右へいくとしよう。左の」
右腕がない男と、左腕がない男。それ以外の違いのない着流しを着た双子はそれぞれに獲物を求めてさまよう。
「はぁ……やってしまいましたね。うっかりしてしまいました。いえ,彼らが弱すぎたのがいけないのです。しかし、ながら隊主である私が皆殺しにしてしまうなんて……」
血まみれの修道女は嘆きながら、あたりの肉塊を見渡す。それが誰だったのか性別すら判別できないほど斬り刻まれていた。
「次は、ちゃんと半殺しにしなければいけませんね」
穏やかな笑顔で、物騒な物言いであるが血の海を気にすることなく進んでいくのであった。
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