112 五大世家
一瞬触発。
まさに、その言葉の通りの緊張の糸が張り巡らされている。もっとも、その原因たる皇甫張だけが、傲慢な笑みを浮かべている。
パンッ!――
その緊張を打ち破ったのは、張の背後に立った女性がハリセンで頭を叩いた音が鳴り響いた。
「はぁ~面倒なことしてるわね~」
「眠貴いたいではないか」
すらりとした長い手足に、抜群のプロポーションがくっきりとわかる。赤いチャイナドレス。すこしたれ目ではあるが、それがなんとも妖艶な雰囲気を漂わせている。
「あなたは、唐 眠貴さん?」
「は~い、ご無沙汰しておりま~す。薬師寺先生に燕慈くん~ごめんなさいね~わたくしの知り合いが失礼なことを~」
「あの、わたしもいますが?」
「あら~ごめんなさいね。気づかなかったわ。菜桜ちゃん~」
胸と胸がぶつかり合う程近づき睨み合う。
「なんだ、この女性は君の知り合いか。というか、先生ということは……なんだ、年……」
パン!――
「だから~失礼な発言はやめなさい」
「おやおや、どうかされましたか?」
騒ぎを聞きつけたのか小太りな男が姿を見せた。
「もしかして、皇甫さんが迷惑をかけましたか? 申し訳ありせん。不手際は、此度の壮行会の宴の仕切りである、この河北 琴の不手際です。お客人への非礼を重ね重ねお詫び申し上げます」
二人の登場で毒気が完全に抜かれてしまった。
「なぜに謝る必要があるのか」
「少しは空気を読むことを推奨」
今度は小柄な学士風の少女が姿を現す。
「君まで来たのか諸葛 朧」
「あなたが問題をおかしていると予測。琴と眠貴が謝罪しているパータン」
「おいおい。それではまるで問題児みたいじゃないか」
「無自覚ほど性質、悪し」
「はぁ。食事もおわってるさかい。宴はお開きやな」
「なら、星を呼んでくる。呼びにいかないとずっとお茶飲んでる」
そういって朧と呼ばれた少女が奥へと歩い行く。
「ほら、いくわよ~」
「痛い痛い耳を引っ張るな」
騒がしい一団を見送るしかなく、龍雄たちは個室へと案内された。
…
……
…………
「なんだったんだアレ?」
食事に橋を伸ばしながら燕慈は先ほどの一団のことを話題にだす。
「ははは……そうですね」
「龍雄さん、めっちゃキレかけてたしすげぇヒヤヒヤしたし」
「申し訳ない。つい」
「けど、怒った龍雄さんもカッコ良かったですよ。エヘヘ」
「そうですか? いえ、そうではなく。本当に失礼な人でしたね」
「相変わらず、眠貴さんも失礼です」
「そういえば、眠貴さんと菜桜さんて接点少ないのに仲悪いですよね」
「それは……」
菜桜はちらりと燕慈とみる。
「うん? どうかした?」
「いえ、なんでも」
「それにしても皇甫、唐、河北に諸葛ですか……あと一人は多分、南宮ですね」
「知ってるんですか龍雄さん?」
「中華五大世家という中華連盟の名家です。特に唐、諸葛、南宮は有名ですね」
南宮は家門武功が有名であり、特に剣術に秀でた名家であり、武林盟の中心的な家柄でもある。
諸葛は諸葛孔明を祖とする軍略や兵法、陣法に機械といった学問の一族。
唐家は、毒の唐家と呼ばれるほど毒・薬学のエキスパートとされる一族である。
河北は商神と呼ばれるほどの商家であり、その財力は世界屈指とさえ結われる大富豪中の大富豪。
皇甫は流通を中心とした商売で財をなした一族である。
共通しているのは、それぞれの家の財力が小国の国家予算を優に上回る名家ばかりである。
「あの偉そうなのにあんまり強くないのか」
「いえ、燕慈さん。彼は武功を修めていますよ。壮行会と言ってましたし『武林祭』で会うことになると思いますよ。さて、折角用意された料理を美味しくいただきましょう」
こうして、龍雄たちは料理を楽しみ始めた。
その頃――
バーの個室で二人の男がさし飲みをしていた。
「まったく失礼な連中であった。やはり分からせてやる必要かあると思わないか琴?」
「その為にワイだけ呼んだんですかいな? 張さん」
「当然だ。で、できないのか?」
「黒道でもしかけますか? 『荻』なら動かせますけど仰山金かかりますで?」
「ふん、悪名高い『荻』かいいだろう……金は任せろ丁度、憂さ晴らしにダンジョンに行くからな」
「さいでっか」
「様子は撮影しておけよ」
「ほな、商談成立てことで」
「あぁ」
そういってグラスの中の酒を飲み干しバーを後にした。
「あっ、ウチやちぃーと受けて欲しい仕事があるんやけど」
にこやかな笑顔で仄暗い謀を画策する河北琴であった。
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