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「もう一生分の幸運を使い果たしたような気がするわ…」

「なにおっしゃるのですか、これから王子と夕食ですよ、気合を入れてくださいね!」


 自室にて淑女らしからぬ恰好(下着姿)でぐでーっととろける私をエイダが椅子に座らせ髪を結い始める。

 されるがままの私は昼間のことを思い出しては夢だったのではないかと自分の記憶を疑う。


 きらっきらだった…

 濃い金色の髪が陽光に照らされて、サファイアの輝く瞳が私を…

 ああ、だめだ思い出し死する。


「やっぱり王子様、威力が上がってるわ。言葉遣いもなんていうか雄々しくなられて…」

「胸がずっきゅんずっきゅんするんですね。わかりますよ私もそうでした」


 そういってエイダも思い出しにやにやを始める。

 確かに、今でこそ家令として丁寧な話し方をしてるけど、もともとジフも結構雄々しい喋り方だもんね?…いままで正統派王子ラブだったけど、あれはあれですごくありだったわ。


「でも、お嬢様。負けちゃいけませんよ」

「…どうして?」


 もう正直今すぐにでもひれ伏して付き合ってくださいと言ってしまいたいのに!


「男は釣った魚には餌をやらないのです。簡単に手に入るものにも惹かれません。幸いにもお嬢様はエリック王子よりも年上であらせられます。ヴィクトリア女史から教わった年上の余裕と魅力でエリック王子を掌で転がすのです!!」

「掌で…転がす!!」


 ずぎゃーん、と雷が落ちたような衝撃だった。

 そ、そうだよ!私のモットーは、いけいけどんどん。もともと王子をめろめろにしちゃうつもりだったじゃない!


「それに王子の従者から聞いた情報によりますと、今回の訪問、ガザン鉱山の視察の帰りに王子の発案で決まったようです。…つまり仕事の帰りにふらっと立ち寄ってちょうどいいと思われてるのですよ!?それでいいのですかお嬢様!」


 エイダが悔しそうに言葉にする。

 え、なにそれ、私まさかのチョロイン?た、確かに…ランドベリーの一件の後、当然のごとく顔を真っ赤にした私のことを王子がじっと見てたけど、…あれって「こいつちょろいな」って思われてたってこと!?


「…エイダ」

「はい、お嬢様」

「あなたに悔しい思いをさせないためにも、わたくしこの戦争、勝ってみせるわ!!」

「お嬢様っ!!」


 何事も中途半端はだめなのよ!王子にぞっこんになってもらうためにも、強気で進め!

 いざ、戦場ディナーへ!!!



 ◆◆◆



 蝋燭の明かりが揺れる食卓に豪華な料理が並べられる。

 こんなド田舎にまさか王子が来るとはおもっていなかった厨房が、必死になって作り上げた品々を私はちょっとずつつまむ。

 うん!今日もおいしいね!!


 王子の口にはあっただろうかと対面を覗き見れば、王子がにこやかにこっちを見ていた。


「食事も美味しくて、話に聞いていたとおり、ヴィザードロゥはいいところだな」


 その言葉に私はほっとした。


「気にいっていただけたようで何よりですわ」

「今日は本当に楽しかった…とくにランドベリーが」


 そういって王子がにやりと悪戯な笑みをみせた。

 くぅ~なにそれ、かっこいい…!けど、だめよ、私はそんなにちょろくないからね!!


「お気に召されたようでよかったですわ」

 私は頬が緩むのを必死に抑えて張り付けた笑みで王子の言葉をサラッと受け流す。

 それにしても…


「…エリック王子は本当にお変わりになりましたね」


 昔だったらそんな人をからかうようなこと絶対に言わなかったもんね!

 大きくなって…と私はちょっと年上の余裕感を出してみた。

 するとエリック王子は私の言葉にちょっと遠い目をして答えた。


「2年だからな…。もうどこかで聞いているだろうが、君が去ってからいろいろあった…。今ではあのお茶会の参加者もアナリーゼしか残っていない」


 ちらっとエリック王子が意味深に私を見る。

 おおーっと。ここでその話しちゃう?てかなに今の。え、まさか私が裏にいたことばれてるとかないよね?うーん、とりあえずこれも流しとくか。


「アナリーゼ様もきっと素敵なレディになられたんでしょうね」


 私の当たり障りない反応にエリック王子は少しの逡巡を見せた。


「そう…だな。たしかに、アナリーゼはすごい。あの歳でもう一人前のレディ顔負けだ。作法だけでなく、センスも悪くない」


 エリックが軽く頷きながらアナリーゼ様を褒める。

 ほうほう?なんかほんとに完璧って感じねアナリーゼ様。


「シンディアの面倒もよく見てくれているし、使用人たちにも慕われている」


 続く賞賛の言葉に私は若干の焦りを感じた。

 へ、へぇえ。で、でも私だってジフやエイダやセーラと仲良しだし??


「何事にも落ち着いて冷静に対応できるあの性格はまさに王妃向きだ」


 王妃。

 その言葉に私は動きを止めた。

 グランチェスタ家は国内でも指折りの名家だ。だからこそ妃選定の場にいたのだが、それでも5位だった。イライザが抜け、ほかの3人の辞退があってこそ今その場にいるはずの少女が、エリック王子に「王妃の姿」を予見させたことに、私は心はざわめいた。



「…王子はアナリーゼ様に一目置いてらっしゃるのですね」

「そうだ。私以外にも彼女を支持するものは多い…だが」


 エリック王子がおもむろに立ち上がる。

 真剣な眼差しで私の前まで来た彼は、その場でゆっくりとひざを折った。


「彼女は君ほどおもしろくない…イザベラ、帰ってこないか、王都に」


 突然の誘いに驚く私をよそにエリック王子は流れるように私の手を取った。


「君の居場所は私がつくろう」




 …エリック王子が放った力強い言葉に、私は紡ぐ言葉を見つけられなかった。



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