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 ウィザードロゥに冬が来た。

 雪こそ降らないものの吹き荒ぶ風は強さを増し、その冷たさが身体に染みる。

 最も苦手とするそんな冬の日、普段なら毛布にくるまって寝ている私だけれど、今朝は珍しく違った。


 昨日王都で開かれた会議の結果が気になり、よく寝付けなかったのだ。




「ふあぁ、お嬢様ぁ、そんなに気になるならご自身で参加されればよかったではないですかぁ」


 大きなあくびを隠そうともせず、目に涙を浮かべふわふわと言葉を発するセーラに、私は温かい蜂蜜入りのジンジャーティーを手渡した。


「それはちょっと…自分が推薦される場にいるなんて居心地が悪そうじゃない」


 ヴィルヘルム公がなんといって私を推薦するかは聞いてないが、推薦するのだからそれなりには褒めてくれるのだろう。そんな場にすました顔をして座っていられる自信はない。だからこそ今回はヴィクトリア先生に現地参加を頼んだのだ。

 私手製のジンジャーティーの入ったカップを両手で抱え、冷えた指先を温めながらセーラが呟く。


「でもどうせ一報が来るのはお昼ですよぉ」

「そうは言っても目が覚めてしまったのだもの。あなたこそ、わたくしに合わせて起きてこなくてもよかったのよ?」

「それはいいんです。だってお嬢様のジンジャーティーはこんなときでもないと飲めませんから。私これ、好きなんです」


 そう言って眠そうな瞼を半分閉じながらセーラはジンジャーティーを啜った。

 起きるのが早いと文句を言いながらも、何だかんだしっかり付き合ってくれる昔なじみの優しさに、内心ほっこりしていると、冬の明け方の静けさの中に騒々しい蹄の音が近づいてくることに気が付いた。


「随分早いですね。ヴィクトリア先生が気を使って伝令を出してくれたんでしょうね」


 ドアノッカーが叩かれる音に、つい今しがたまで長椅子に足を投げ出していたセーラが素早い動きで玄関を覗きに行く。

 一人残された私は、いよいよ報告が来たと分かり、緊張で高鳴る胸の音を聞いていた。


 …どうしよう、ドキドキが止まらない。昨夜の会議、エリック様はどう思われただろう。手紙にはヴィルヘルム公との約束について何も書いていないから、きっと驚いたよね。


 ほんの好奇心でしかけたサプライズの結果も気になる。ヴィクトリア先生からの伝令にエリック王子の様子も書かれていればいいと期待しながら、私はセーラの帰りを待った。



「お嬢様……私…」



 音もなく部屋の入口に現れたセーラは、蚊の鳴くような小さな声で私を呼んだ。その顔色は青ざめている。


 冷たい嫌な空気が部屋に流れ込む。


 震える手で差し出された手紙を奪い取り、目を走らせた。ヴィクトリア先生の美しい筆跡で、落ち着いて読むようにと注意書きがされた本文には、会議で王子による推薦で新たな妃候補が1人承認されたことと、その名前が記されていた。

 予想だにしない文字列に私は思わず声を漏らす。



「これはいったい…どういうことなの」




 そこに記されていたのは―——




 アメリア・ボガート




 4年前、妃候補を辞退したはずのヴィルヘルム公の姪の名前だった。





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