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雷命の造娘  作者: 凰太郎
~第一幕~
7/26

ともだち Chapter.6

挿絵(By みてみん)

「ハァァァーーッ!」

 一体(いったい)(つらぬ)いただけでは終わらない!

 そのまま体重を乗せたショルダータックルに円錐槍(スピア)を押し込め、後衛ごと二体(にたい)まとめて串刺しにした!

 機能停止を確認する(いとま)もあればこそブリュンヒルドは槍を引き抜き、すぐさま跳躍でその場を離れる!

 ただでさえ即興的な対応力に劣る槍攻撃では、一点(いってん)静止は命取りになりかねない!

 剣に比べて破壊力と間合いに有利な反面、小回りに()いては鈍重な武器である。

 だからこそ、使い手の鋭敏さが問われた!

「ハアッ!」

 勇壮()つ華麗に舞う戦乙女(ヴァルキューレ)は、次々と科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達を(つらぬ)き! ()ぎ! (さば)いていく!

 暴走していようが、していまいが、関係無い!

 彼女にとっては、等しく排除すべき害悪だ!

 暴走兵の発砲をブリュンヒルドが跳躍で()わし、流れ弾が科学兵士(ソルダット)を仕止める!

 科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダットが暴走兵士を獲物と定めれば、その(きょ)を突いた円錐槍(ランス)がまとめて(つらぬ)いた!

 意図せずして、()(どもえ)の装丁と化す混戦!

 しかしながらブリュンヒルドの真なる凄さは、これだけの戦況にありながらも一般市民を(かば)い戦えるだけの技量やもしれない。

「何をしているのです! 早く御逃げなさい!」

 慄然と固まる街人を叱咤(しった)し、逃走の自覚を呼び覚まさせる。

 その間にも流れ弾が人々に当たらぬように配慮し、わざと空いている場所を足場と選んでいた。

 言い換えるなら、彼女自身が(おとり)だ。

「クソッ! また、あの戦乙女(ヴァルキューレ)か!」

 装甲車輌の助手席から上半身を乗り出し、前方に生じた戦闘を忌々しく睨み据えるウォルフガング!

 前線状況のリアルタイム映像は、正常起動している科学兵士(ソルダット)のカメラアイを通じて送られてくる。車内コンソールのモニターへと映し出されているのが、それ(・・)だ。

「コード(ブイ)は……使えんか」

 苛立(いらだ)つ内心にモニターへと見入りながらも、ウォルフガングは冷静な判断を(くだ)した。感情的になりながらも、そのぐらいの判別が着く器量は持ち合わせている。

「市街地での勃発(ぼっぱつ)(あだ)となったな……」

 広範囲放電攻撃を使用すれば、一般市民を無差別に巻き込んでしまうのは必至。

 とはいえ別段、彼等の命を重んじたわけではない。

 そんなものは些末(さまつ)だ。

 彼が危惧するところは、それ(・・)によって民衆の敵意が萌芽してしまう事に(ほか)ならない。

 そんな事態になれば、これまで着々と進めてきた民意操作(マスコントロール)が水の泡だ。

「……此処は退()くが得策か」

 腹立たしい決断も視野に入れる。

 自軍さえ退(しりぞ)けば、残されるのは戦乙女(ヴァルキューレ)と暴走兵のみ──後は勝手に、互いが潰しあう。

 勝者は見えているが……。




(どうやら街の人達は全員逃げたようですね……ならば!)

 此処よりは反撃の狼煙(のろし)

 ブリュンヒルドが、そう決断した矢先であった──「ブリュドーー!」──脇道から飛び出してきた幼女の声に、戦乙女(ヴァルキューレ)が動揺を浮かべる!

「マリー? どうして?」

 不覚にも一瞬見せた挙動は、戦況観察に集中するウォルフガングの目にも()まった。

「子供? 知り合いか?」

 鼻頭を指でトントンと叩きながら思索し──狡猾な策謀者はニィと邪笑を浮かべる!

 思い掛けない好機(チャンス)だ!

「マリー! 何故戻って来たのです!」

 (むら)がる敵を(つらぬ)き続けながら、ブリュンヒルドは(しか)りつける!

「だ……だって!」

 叱責(しっせき)への畏縮(いしゅく)か、(ある)いは苛烈(かれつ)戦闘(ころしあい)を前にした恐怖からか──マリーは身を強張(こわば)らせて立ち尽くすだけであった。

 さりながら、その瞳は自分を曲げようとはしない。

一人(ひとり)でなんか帰れないもの! ブリュドと一緒じゃないと怖いわよ! あんなトコ!」

「子供みたいな事を!」

 風穴を(えぐ)って(しか)る!

「子供だもん!」

 負けじと正論が反抗した!

貴女(あなた)には近付けさせないと言ったでしょう! 私が信じられないのですか!」

 振り返り様の遠心力を加味して円錐槍(ランス)()ぎ、背後の暴走兵を(はじ)き倒す!

 コレ(・・)が最後の暴走兵と見極めるや、円錐槍(ランス)を墓標と突き立てた!

「だって……だって……」泣きたくなる感情をグッと(こら)えて、マリーは想いを吠える!

「だって、ブリュドを置いていけない(・・・・・・・)もの!」

「……マリー?」

 不意討ちの銃弾を()わす跳躍!

 高々と宙を背面飛びする中で、戦乙女(ヴァルキューレ)は困惑を覚えていた。

 まったく予想打にしていなかった返答に……。

(適当な言い訳を!)

 苛立(いらだ)ちにそうは思いつつも、それもまた本音(・・)である事は素直に感受した。

 この子は──マリーは、そういう子(・・・・・)だ。

 まっすぐな子供だ。


 ──来たから、どうなるというのだ?


 ──戦力になるとでも考えているのか?


(……まったく、これだから子供という者は……戦場に()いて、足手まといだという!)

 (いきどお)る戦意に反して、心は(ゆる)やかに(いや)されていく。

 神話の時代より幾多(いくた)の戦場を駆け抜けてきた彼女自身(ヴァルキューレ)にしても、初めて触れる感覚であった。

 どれだけの()(いざな)ってきたか分からない。

 どれだけの()()()ってきたか分からない。

 常に(そば)に在ったのは()だけだ──迎える英霊にしても、自分自身にとっても。

 だから、戦いへと臨む心には、いつしか荒涼たる風が()(すさ)ぶようになった。

(なのに、この感覚は何だというのだ?)

 戦場には場違いな想い。

 命取りにすら()()ねない邪魔な雑念。

 ()れども、それを拒めない。

 振り払いたくない。

 戦意と感情の矛盾に自分を持て余す。

 その時、ガチャリと鳴った金属音が、ブリュンヒルドを戦いの現実へと呼び戻した!

 拳の銃口を一斉に向ける科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達!

 その標的は──マリー!

「な……何ッ?」

 滞空の間に戦況が一変した!

「ぁ……ぁ……」

 戦慄に支配され、()(すべ)無く固まるマリー!

 足がガクガクと震えて(ちから)が入らない。

 立っているのも、やっとの事だ。

 自分に対して一身に向けられる拳は、それだけで充分な暴力の威圧だった。

「……ぃ……ぃゃ……」

 か細い(つぶや)きが()れる。

 街を守ってくれていた〝兵隊さん(・・・・)〟が、どうして自分を撃とうとしているのか?

 まったく理解できない!

 ただひとつだけ理解したのは、迫り来る〝死〟への恐怖だけ!

「……ぃゃ……ぃゃ……いや……いや!」

 理不尽さへの抵抗が鮮明な自覚になっていく。

 それは琴線(きんせん)を断ち切り、悲痛な叫びと木霊(こだま)した!

「たすけて! お姉ちゃ(・・・・)ーーーー()!」

「マリー!」

 ブリュンヒルドは駆け出す!

 着地と同時に!

 その屈伸を瞬発力へと転じて!

 我が身を盾に幼女の前に立ちはだかった瞬間──そう、それこそがウォルフガングが意図した瞬間だ──科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達の一斉攻撃が実行される!

「な……何? こ……これは!」

 発砲ではない!

 無数の鎖が彼女の身体へと絡み付き、一切の自由を奪った!

 科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達の前腕部が(くちばし)と開き、捕縛用の鎖縄を射出したのだ!

 その先端部は(おもり)を兼ねた球体機械ユニットであり、ジェット射出とセンサーによる追尾を(つかさど)る。捕捉されたが最後、逃げ仰せるのは至難な代物(しろもの)だ。

「あうっ!」

 (ちから)(まか)せに手繰(たぐ)り寄せられ、無様に路面へと転がされる。

「ブ……ブリュド!」

「マリー! 早く御逃げなさい!」

「やだ……やだぁ……」

「どうして、あなたは……私の言う事が聞けないのです!」

「だって、ブリュドが! ブリュドが殺されちゃう!」

「ッ!」

 少女の打算無き優しさに、ブリュンヒルドの叱責は打ち消された。

 くしゃくしゃに泣き濡れた顔で、鎖の(かたまり)(ほど)こうと(こころ)みるマリー。

 ()れど、無作為に絡まる武骨な(いまし)めは、小さな手に持て余す障害であった。

「…………答えなさい」沸々と涌く怒りを絞り出す。「答えなさい! ウォルフガング・ゲルハルト! 何処からか見ているのでしょう!」

 我慢ならない憤慨(ふんがい)に吠えた!

 (おのれ)の誇りが(はずか)しめられたからではない!

 この少女の涙──それだけが理由だ!

 ややあって耳障(みみざわ)りなハウリングが響き、姦計(かんけい)の黒幕がスピーカー越しの声を届ける。

『フン、久しぶりだな? 戦乙女(ブリュンヒルド)とやらよ?』

「最初からこれ(・・)が狙いだったのですね! 私を捕らえる(ため)に、マリーを(エサ)として!」

知り合い(・・・・)という事は察知出来たからな。結果は、御覧の通りだ』

「こんな小さな子供を、死の恐怖にまで(さら)して……恥ずかしくないのですか!」

『無いな』

「な……何!」

 紫煙を吐く音が微かに聞き取れた。

 現状(いま)、この男は優越へと浸っている。

 腹立たしくも!

『肝心なのは成果であり、それを如何(いか)に効率よく遂行するか……だ。敵を一網打尽(いちもうだじん)に排斥出来るなら〝大量殺戮兵器〟こそが有益であり、相手の抵抗を封じ込められるならば〝人質の命〟など些末(さまつ)な戦略材料──それが〈戦争(・・)〉の定石(セオリー)というものだ』

「違う!」

 聞くに耐えない悪言に、ブリュンヒルドは(みずか)らの信念を吐き出す!

 それは悠久の戦場を駆け巡ってきた〈戦乙女(ヴァルキューレ)〉としての矜持(きょうじ)であった。

「綺麗事など言わぬ……確かに〈戦争〉とは不毛な殺し合い(・・・・)だ。なればこそ、人間としての尊厳(・・・・・・・・)だけは見失ってはならない! 互いの魂へ敬意を(いだ)かねばならない! その一線を踏みにじる勝利など(ケダモノ)同然! それの何処に大儀(・・)があるというのだ!」

『大義名分は、勝者によって作られるものだ』

「き……貴様という男は……どこまでも!」

 ギリッと歯噛みする。

 平行線の口惜しさだ。

 人間の内に潜む怪物性(・・・)──ハリー・クラーヴァルから示唆された〝心の闇(・・・)〟を体現したかのような男であった。

『さて……では、共に来てもらおうか? 戦乙女(ヴァルキューレ)?』

「な……何?」

『以前も言ったはずだが? 貴様には、()が〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉の研究材料になってもらうと』

 ジャキリと鳴る金具音!

 不可解な思いを(いだ)いて、捕虜は顔を上げる。

 科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達が銃口を向けた音だった。

 だがしかし、その標的は自分(・・)ではない!

 敵兵が狙いを定めた獲物は、再びマリーであった!

「ひっ!」

 悪夢の再来が少女を恐怖に組敷く!

 またも身が畏縮し、動けなくなる!

「な……何を? 何をしようというのです! ウォルフガング・ゲルハルト! もう、その子に用は無いはずです!」

 慄然から生まれる怒声!

 返ってきたのは冷酷なる肯定!

『ああ、もう用済み(・・・)だ。だから、消えてもらう』

「なっ?」

(いな)生きていて(・・・・・)もらっては困るのだよ。この子供は、我等の本性を知ってしまった……(みずか)らが銃口を向けられた体験も含めてな。そんな事を吹聴(ふいちょう)されては、せっかく(はぐく)んだ信頼が地に落ちる』

「き……貴様は……貴様は!」

 ブリュンヒルドの(いきどお)りは、もはや無力な呪詛でしかない!

 勝利宣言とばかりに、ウォルフガングが命令を(くだ)す!

『……()れ』

 ヴォンと(とも)る紅い円眼!

「ぁ……ぁぁ……」

 体が動かない!

 迫る〝死〟への屈服に、へなへなと崩れ落ちた!

「マリー! 逃げなさい! 逃げてぇぇぇーーーーッ!」

 悲痛な叫びが街路を染める!

 機械仕掛けの拳が一斉に火花を咲かせた!

「い……いやあーー!」

 その瞬間、幼女の防壁と降り来る巨影!

 屋根を()(つな)いで現れた頑強な肉体が、雨霰(あめあられ)と飛び交う弾幕を盾と受け止める!

「何だと? アレ(・・)は!」

 驚愕を染め、ウォルフガングはモニターへと食い入った!

 卒爾(そつじ)として戦況を一転させた闖入者(ちんにゅうしゃ)──いつぞやの女怪物だ!

 (みずか)らの身体に喰らいつく銃撃を歯牙にも掛けずに〈()〉はブリュンヒルドの忌ましめを引き千切る!

 そして、平然と〝ともだち〟へ振り返った。

「マリー、呼んだ」

「お……お姉……ちゃ……」涙に濡れた少女の顔が、(さら)にグシャグシャと泣き崩れる。「うわぁぁぁーーーーん!」

 抱きついていた!

 安堵のままに、その巨躯(きょく)へと!

「大丈夫。マリー、いい子、いい子」

 腰に(うず)もれる少女の頭を、大柄な手が()(なだ)める。

 (いと)しさで(つつ)み込むかのように……。

 捕縛(ほばく)(あと)の鈍い痛みを(さす)りながら、ブリュンヒルドはその様子を(いつく)しみに見守った。

 しかし、感傷へ浸っている(ひま)は無い!

 すぐさま〈戦士〉としての顔へと戻り、きびきびとした対応力を発揮する!

「大丈夫なのですか? その傷は……」

 指摘された〈()〉は、ようやく()が身の状態を視認した。

 無数の銃痕(じゅうこん)が刻まれ、細々と赤の清水が流れ出ている。

「痛い」

「早く手当てを!」

「大丈夫、痛いけど痛くない」

 そう言うと〈()〉は、全身に(ちから)を込める!

「ふんッ!」

 体内に残された鉛弾(なまりだま)を筋肉が押し戻し、不必要な異物とばかりに吹き捨てた。軽い硬音を(かな)で、弾丸が路面へと散らばる。

「これで治る」

 ()も平然と片付ける〈()〉。

 実際、傷口(きずぐち)は塞がりつつあった。

「あ……貴女(あなた)は、一体?」

 驚異的な回復力を目の当たりにして、ブリュンヒルドは唖然とする。

 いくらなんでも異常過ぎる。

 数多(あまた)の〈怪物〉を(かんが)みても、それは特異な体質に思えた。

『ええい! また貴様か!』

 辺りに響く激昂!

 その出所を展望に探しつつ〈()〉は素直に答える。

「うん、私だ」

『クソッ……だが、まあいい。ものは考えようだ』

 包囲網がジャキリと銃口を向けた!

「クッ?」

 絶体絶命の窮地にブリュンヒルドは身構え、恐怖心を甦らせたマリーが〈()〉の腰へとしがみつく。

『貴様には、おとなしく捕まってもらうとするか……そこの戦乙女(ブリュンヒルド)とやらと共にな』

「貴様という男はッ!」

 ブリュンヒルドの怒り!

 何故二人(ふたり)が、こんなにも緊迫しているのか……その理由は解らなかった。

 だが──怯える頭を優しく撫でる──可哀想なまでに怯える幼女の姿は、一年前(いちねんまえ)自分(・・)と重なった。

 フランケンシュタイン城から逃亡し、行く先々で暴力に怯えた日々と……。

 だから〈()〉は、()へと()うのだ。

「マリーをいじめた(・・・・)のは、誰だ?」

『何だと? 何を言っている?』

「誰だ?」

 頸動脈に埋め込まれた電極が、パリッと小さな帯電を咲かせた。

「この者達です!」

 限界に達したブリュンヒルドの憤慨(ふんがい)

「この〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉なる再生死体(アンデッド)達──そして、それを率いる狂人科学者マッドサイエンティスト〝ウォルフガング・ゲルハルト〟! 彼等は(みずか)らの悪行(あくぎょう)隠蔽(いんぺい)する(ため)、マリーを口封(くちふう)じに殺そうとしたのです!」

「そうか。解った」

 脚に(すが)りつく幼女(ともだち)を大切に抱き上げ、戦乙女(ヴァルキューレ)へと預ける。

「な……何を?」

 ブリュンヒルドの戸惑いには答えないまま、〈()〉は敵陣へと力強い一歩(いっぽ)を踏み刻んだ!

「私は、誰かが傷付くのはイヤだ」

 電極が(さら)に強い青光(あおびかり)を踊らせる。

「誰かを傷付けるのもイヤだ」

 迷い無く踏み込む!

 首筋に小躍りする蛇は、次第に身体中を(まと)わり呑む大蛇と(ふく)れた!

「だけど──」

 沸々と込み上げてくる激しい感情が()なのかも理解せぬまま、〈()〉は(おのれ)(ゆだ)ねる!

「──マリーを悲しませるのは、もっとイヤだ!」

 青き化身と成りて地を蹴った!

 駿足!

 次の瞬間には科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダットの懐へと潜り入り、(たくま)しい拳で腹をブチ抜いていた!

 ただの拳ではない!

 電流(ほとばし)雷拳(らいけん)だ!

 それは太い杭と突き刺さり、同時に放電を発して内部から喰らい尽くす!

 凄まじい電圧の処刑によって、ガクリと事切れる兵士(ソルダット)

 その脱力的な亡骸(なきがら)は、まるで〝糸の切れた人形(オモチャ)〟だ!

 すぐさま他の科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達が敵の姿を捕らえるも、発砲の瞬間には(すで)にいない!

 瞬間移動(テレポーテーション)(ごと)く消えると、次なる獲物の前に出現し、圧倒的なパワーで(ほうむ)る!

 続け様に、次なる(にえ)

 普段の重々しい挙動が嘘であったかのように〈()〉は地を(すべ)り距離を詰めた!

「フンッ!」

 (つらぬ)く雷拳!

 返り血とも潤滑油(オイル)とも取れるドス黒さを、その身に浴びる!

 そして、また一体(いったい)人形(デク)が感電死した!

「あ……貴女(あなた)は……いったい?」

 あまりにも苛烈過ぎる戦いぶりには、さすがの戦乙女(ブリュンヒルド)も慄然とする。

 獅子奮迅(し し ふんじん)たる戦いぶりながらも、それは先の戦乙女(ブリュンヒルド)とは質が異なっていた。

 優美なる舞を彷彿(ほうふつ)させるブリュンヒルドの戦いに対して、〈()〉のそれ(・・)は鬼気迫るほど激しく荒々しい!

 まるで戦神(せんじん)

 (いな)殺戮の鬼神(・・・・・)だ!

 脚へとしがみつく幼い震えを(かば)(なだ)めつつ、彼女は危惧(きぐ)すら(いだ)いていた──もしも、あの矛先が人類へ向けられたら……と。

(その時……私は、貴女(あなた)殺せる(・・・)でしょうか……)




 電光(まと)う殺戮兵器をモニター越しに観察し、さしものウォルフガングですら戦慄を覚える。

「これは……まさか〈イオンクラフト効果〉か!」

 放電によって大気中の電子へと干渉し、同極電荷間──(すなわ)ち〝正電荷と正電荷〟及び〝負電荷と負電荷〟間──に斥力(せきりょく)を発生させる浮遊理論!

 つまり、現状の〈()〉は飛んでいる(・・・・・)のだ!

 それも異常ともいえる瞬発力を秘めて!

 理論上では可能とはいえ、あの巨躯(きょく)で現実化させるには尋常ならざる電気が必要となる!

 認めなければならない!

 まさに〝恐るべき電気の怪物〟である事実を!

「な……何だ?」

 心底に淀み涌く黒い(もや)……。

「何だ!」

 それは次第に(かさ)を増して、彼の根底すら呑み始めた。

 まるで、世に蔓延(まんえん)する魔気(ダークエーテル)のように……。

「何なのだ! この〈怪物(・・)〉は!」

 それが〝恐怖〟と呼ばれる感情である事を、彼の自尊心は認めようとはしなかった。




「オオオオオォォォーーーーッ!」

 猛る!

「ゥガアアアァァァーーーーッ!」

 猛り叫ぶ!

 初めて(おのれ)の戦闘能力を発現した〈()〉は、(あたか)も暴力の衝動に酔うかの(ごと)く破壊し続けた!

 はたして、そこに理性(・・)はあったのだろうか……。

「ゥアゥアゥアアアァァァーーーーッ!」

 電光の野人は吼え狂う!

 それは、魔獣たる咆哮(ほうこう)か──(ある)いは、人間(ひと)たらん慟哭(どうこく)か────。

 ブリュンヒルドの目には、憐れな存在にしか映らない。

 ひたすらに憐れで哀しい虚像であった。

 だから、彼女は無自覚な一滴(ひとしずく)を頬へ(こぼ)した。



 

 死罰の狂宴(きょうえん)は、ひたすらに続く。


 総ての()が沈黙するまで…………。

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