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銀髪の殺人鬼(シリアルキラー)   作者: もときち
15/16

殺人鬼と暗殺者03

「ねぇ趵渾(さくま)、もうすぐ私、ここを出るわ。」



その声で、目が覚める。


「……んぁ?」


なにを言っているのか、酷い夢を見たからか、まだ脳が覚醒しきって居ないせいか、聞き間違えでもしたのだろうか…。


「傷ももう問題ないと思うし、明日にでも出ようかな。ありがとう?だっけ、こういう時は。」


「……悪い、、何だって?」


整理もつかないまま初めて彼女から礼を言われた。ただそんな事は今はどうでも良く……。


「だから、もう行く。長居しすぎたし」


身を起こした俺の正面に立ちそう告げられる。


(聞き間違いじゃないか。)


「もう…大丈夫なのか?」


「……ええ。」


「なんだよそれ、俺独り身だし、気にしなくていいんだぜ?」


「くどい……私は元々、留まれるタイプじゃないのよ。」


「そっか。」


なんだろう……これは寂しいとか、名残惜しい、なんてものじゃない。ここで引き止めても何にもならないんだろう、いいや、寧ろ悪い状況になるかもしれない、それでも俺は……って、この表現がくどいな。


つまり、手放したくない。まだ一緒に居たいと思っている。


それ故に守りたくて、話がしたくて、、そもそも誰かとここまで話した事など今までなかった。


世間に無口を通し、癪に障ると直ぐに暴力に走っていた俺が、初めて誰かを救った。そいつが殺人鬼だろうと、人間じゃなく魔界から来た何かだろうと関係ない。この事実だけでも俺の中で世界は大きく変わった。そんな存在を、このまま失いたくないんだ。


だから引き止める様に彼女の手を掴む。


「……行くってんなら、着いて行かせてくれよ。」


「無理よ。貴方には借りができた、何かお願いがあるなら何でもしてあげようとは思ってるけど……連れては行けない。」


「じゃあ、俺もこのまま行かせられねぇよ。」


ガキ臭いのは分かってる。でも。


「……。」


だってお前はこんなにも……。


「なんで、死にに行くようなツラしてんだよ。」


「………」


テイルは目線を斜め下に位置したまま黙った。本音を隠すかのように。


「ならせめてもう少しだけ、俺といてくれよ。お前の懺悔みてーな話は終わってないだろ?途中まで聞いて途切れちまう話ほど嫌なもんは無いぞ、初恋より引っかかるんだよ。」


彼女は暫く俯いたまま黙りを決め込んで居たが、その肩が震えていると認識した途端。


「んっふふふ!」


突然笑われたんだが。


「な、なんだよっ!」


「いや、なんか可笑しくて。だってほらっ、別れ際恋人を引き止める時にしては理由がそれかと思って。」


「俺がそんな小洒落た風に見えるかよ!」


なんか心配して馬鹿を見た。がきっとこれも空元気に違いないと踏む。


「ねぇ、初期設定忘れてない?大丈夫?」


「なんだよそれ、んな事言っていいのか?!」


俺は訳あって独り身の言えばただの不良で、こいつは元(?)殺人鬼で、何者かに追われて手負いな所をうっかりというかもう現状不利な方を見て咄嗟に助けて匿ってしまった的な?

確かこんな設定だったよな?


「って、何言わせてんだ!」


「貴方こそ何一人で纏めて置いて声上げてるのよ……でもそれで大方合ってると思うけど。なら分かるでしょ?貴方はその不良ってだけで一般人なのは変わらない。一方で私は異世界から来た大量殺人鬼。いい?情を抱く相手を間違えないで。」


「うっせ。俺の勝手だろぅがよ……じゃあなんだ?、助けなきゃよかったのかよっ。」


目の前の怪我人を助けて何が悪い。そんな正義感ぶった思いと苛立ちが込み上げてくる。


きっと俺の正義は偽善なんだと自覚している。妹はよくいじめの標的にされ痛めつけられていた。それが俺のせいだと言うのにも気付かず、見掛けては俺が助けに行って蹴散らしていた名残りがまだ抜けない。そしてその度俺はやりすぎて周りから恐れられていた。


俺が誰かを助けようとするといつも空回り、結果助けようとした相手まで傷つけるのがお決まりだった。


「(また余計に首突っ込んでるのか、俺は。)」


「少し違うわ。結果敵に私が殺人鬼だったって話よ……見ず知らずの人間を咄嗟に助けるってこと自体は誇るべきだと思うわ。」



「目つきは悪いけど、優しいし勇気もある。この世界の人間の大抵は見て見ぬふりをするわ。」


なんて続けられたら、こう返すしかないと言う事だろう。


「じゃあ……」


「…それは違う。もう知ってしまっているでしょ?住む世界が違うの、それくらい分かって」


と反論する間も与えずテイルは冷たく突き放す。


「あなたまで追われる身になったら、簡単に捕まるか、それこそ殺されるわ。」


それは囁かな優しさとも取れた。だから今までの熱量を消す事にした。


「……分かったよ。」


俺はテイルの手を離した。


それから少しの間、俺たちは無口になり、掛け時計の秒針の音だけを聞いた。


何を思うまでもない、言われてみればそう、異世界に行って何ができる?行けたとて特別能力が得られるなんて転生アニメじゃないんだ。この世の中そんなに甘くはない。それはこんな俺だって理解しているつもりだ。


でも頭で理解しているだけで、心の内は違っていた。自分の意を簡単にねじ伏せられるほど大人じゃない事は、それこそ誰よりも分かっている。


……それで妹を失ったことも。


「はぁ……じゃああと少しは居てあげようかしら。その間で何でも聞いてあげる。」


「少しって、、どのくらいだ?」


半ば子供扱いされている様で少し不服だが、居てくれると言うのならそれはそれで有難いというか、嬉しかった。


「(なんだ俺…ほんとガキだな。)」


「どうだろう、、貴方が満足できるまで?」


なんて抜かしあがる。


「じゃあ何か?、まだ満足いかないって言やずっと居てくれるのか?」


当然そう返す。


「…冗談きついわね、できるわけないじゃない。そうなる前に飽きるわよ?案外つまらない女だし?」


「つまらない?」


(どこが、気にかかって仕方ないんだが…)


「ええ、、無愛想?だっけ?きっとわたしそれよ。」


「どうだろうな…もう少し居たら、これから楽しくなるんじゃねーの?」


「はいはい、じゃあ話が終わるまでは居てあげる。」


と、半ば投げやりな態度で言われて少々癪に触ったというか、逆に俺はやる気になった。



それから5分くらいで支度を済ませると、俺は玄関まで行き靴を履く。


「ほら、出かけるぞ。」


「なに、、エスコートしてくれるの?」


「そんなとこだ。街に出ようぜ?」


「また変な気起こさないでよ?」


「はいはい。」


俺はテイルの手を引く形で、外を出て、最寄りのバス停まで向かった。


「バス待ちまで、続き、聞かせてくれよ?」


「そうね。いいわよ。」


そして彼女はまた語り始めた……。

第6刻 「殺人鬼と暗殺者」(後編)


私、和食が嫌いなの。主菜、副菜、とか、一つのトレイいっぱいに皿を置かれて、あれ目にした途端に食欲が失せるわ。どれか一つで構わないのに。どうしてそんなに食べろと言うのかしら、いや現実に言われている訳ではないのだけれど、そう言われている気がしてならない。


そしてどの席にも同じ位置、同じ量で置かれている。

同じ事を疑問に思うというのはよくあることではないのかもしれないけど、この国は同じものを食べ、同じモノを着る人が多すぎる。


目立つ事がダメなんて言うルールがあるのかしら?


と、ここまで言ってその元となる要因は何かと言われれば、それは今朝出された朝食だった。


「いいから食え、空腹で我を殺せると思うな。」


「…嫌よ、コレなんて木の根じゃないの。この野菜も何故か酸っぱいし、貴方こそ私を毒殺する気?」


「はぁ、、飯に毒を盛るなど外道のすることだ、罰が当たる。」


「バチ?ふふっ、それは空から降ってくるの?」


「はぁ……」


初老の男はさぞ呆れた様子で私を睨む。


「またやろうか?」


「よせ、どうせ勝てん……。」


そう言って男は訳の分からない茶色いスープを音を立て啜る。


もうそれだけで容易く私の怒りは沸点に達する。


「チッ。ままごとはおしまい、ほら、刀を握って、、再戦よ。」


立ち上がりそう告げるも男はこちらを見向きもせず手を合わせる。


「ご馳走様でした……。」


すると廊下から小さな足音と共に同じく和服姿の小さな少女が現れる。部屋に入る前に丁寧にお辞儀し、テーブルの前まで来てまた丁寧に小さくお辞儀をする。


「お下げ致します。」


「あぁ頼んだ。」


「(幼い子に召使いをやらせるなんて、、)」


力で成り立つ格差なんてろくなものじゃないと魔界で飽きるほど感じて居たけれど、こうして目の当たりにするのは癪に障る。


「随分と飼い慣らしているのね、こんな小さな子を。」


皮肉に満ちた私の言葉はやっと初老の男の顔を歪ませ、私を睨ませた。


「……貴様には関係のない事だ。ほら、そんなに刀を振りたいのなら、着いてこい。」


「ふふっ、はいはい。」









「いいな、背筋を伸ばし両手で刀を持ち、まっすぐ目の前に線を書くように振り下ろせ、」


「なんでこんな事しなきゃいけないのよ、、」


「ふん、でなければお前は一生ここからは出られぬし、我を殺すこともできんぞ?」


現にそれは事実だ、3日前の夜の忘れもしない敗北。


「はぁ、(大人しく従うしかないか……)」


なんて考えは甘すぎた。


「違う、こうだ、真っ直ぐ振り下ろせ。それでは斬れんぞ、」


「やってるわよっ」


「いいや出来ておらぬっ、貴様はただ力技で敵を切っているのと同じだ。いくら妖刀と言えど刃が欠けるぞ。」


「(タシカニソウダナ……)」


顔を出してきたかと思えば、敵に同意するなんて


「はぁ、」


「ほら、はやくやらぬか。」


私の意思に反して、というか聞く気もなく強制してくる。だが従うしかないのだろう、今は。


「クッ!」


真っ直ぐに、ひたすらに木刀を振り続ける。手首から、二の腕から徐々に力を入れずらくなり震えてくる。

頭から汗が流れ頬を伝うのが鬱陶しい、だから木刀を下げ袖で汗を脱ぐう。雨にでも当たったかのようにびしょ濡れだ。


「まだやらせる気?」


「日が沈むまでだ、続けろ。」


初老の男はただ閉めた扉の前で仁王立ちをしたまま動かないときた。これは監禁されているのと同じだ、まだ牢獄の中の方がましだわ。


しかし不思議なのか当然なのか、不意に差し込む夕日が沈むのが遅いと思い始めてから疲労がかなりの速度で全身に伝わり、これ以上力を食わえれば血管が破裂するんじゃないかと思うくらい張り詰めていた。


「はぁ、はぁ、はぁ__。」


「また崩れて居るぞ。背筋を伸ばせ。常に1本の線を刻むように真っ直ぐ振り下ろせ。」


「うっさいっ!!もう無理よっ!!」


私は男に向かって怒りを込めて一振りかますと同時に、その遠心力を抑えるだけの力を出せず、木刀は床に向かって叩きつけられる形で私の手から離れた。



「……。」


「はぁ、はぁ、、」


立っているのもやっと、もう言葉を発するのさえしんどい。


「……拾え、まだ日は落ちてないぞ。」


ここまで疲弊している私をその乾いた目で見ながら、まだ私に続けろと指示を出す。


「ほんと……鬼ね、うっ、」


1歩歩き出した瞬間私はバランスを崩し床に倒れ込む。


もう体を動かす事が出来ない。アイツに何を言われようがもう無理だ。これ以上は何も出来ない。


「これくらいで朽ち果てるとは、我の見当違いであったか。」


そう貶されたって、その怒りを行動に移す余力などない。それに私を選んだ事がそもそもの間違いだ。


「見る目がないんじゃないの?……飽きたなら殺せば?」


私だってそうしてきた、散々嬲って飽きたら斬り伏せて、繰り返してここまで来たのだ。


「(どうせいつ死んでも悔いなんてないし。)」


この頃から私はある意味はっきり言って面倒な性格だったかもしれない。余裕があれば強気になり、このように疲弊すればもう早く殺せだの、不貞腐れたように諦める。


「……貴様、そんなに死にたいのか?」


この男はまだ話したいらしい……。


「それは……あんたでしょ…。」


もう口を開くのも面倒くさい、どうするでも良い、楽にして欲しい。


「なにが貴様を如何様に腐抜けにした。」


「……鬱陶しい…見て分からない?私は確かに人間じゃない、だから簡単に人を殺せる。でも同じく人間じゃないあんたには簡単に負けた……降参したって言ってるの……分かる?」


「ならん、貴様には我を殺してもらう。負けを認めるなら我の言うことを聞け」


「はぁ、、なんでそんなに頑固なの、死にたいのなら普通に死ねば?」


初老の男は軽く息をつき重ねて訳を離す。


「死ねぬのだ……自害ができん。もう何度も試した…刃が喉を通るその手前で腕が、身体が拒絶する、、我より弱いものにやらせても同じだった。」


私はため息を吐き。 突っ伏したまま不服そうに頭を上げ初老の男を見上げた。


「それ、、私でも勝てないじゃない?」


そんな能力があるなんて、どうりで私の速さを持ってしても避けられた訳だ。


だが男は退かない。


「いや、貴様の俊敏さに技術が付けば、或いは我を切る事ができると踏んでの事。よって貴様には我を殺せるだけの力を身につけて貰おう。」


「……え?」


私の脳は今の発言を聞き取り一瞬だけ全身に血をめぐらす事を止め、呼吸器系を動かす伝令さえ遅らせた。


「だから、初めからそう申して居るだろう、今更理解したのか?」


「いいえ違うわ、、貴方の頑固さが私の許容範囲を遥かに超えていることに言葉が出なかっただけよ……。」


そう、気力が失せたというか絶望に近かった。


「(私より強い奴にこれからこの先一生飼い殺しにされるなんて……地獄だわ)」


「立て、続けろ。」


初老の男はまた黙り、その場に立ち乾いた瞳で私を見続ける。


「私は、、あんたの、老後の楽しみにされるなんて…死んでも嫌よ、、」


「ふん、軟弱な。今日はもういい、明日からまた始めてもらうぞ。」


初老の男は踵を返して扉まで歩き開くと先程の召使いのような少女が立っていて、男は少女に何かを言うと部屋を後にした。


突っ伏したまま頭だけを扉の方に向ける私に少女が小股で近づいてくる。とても歩きずらそうだけど、これは丁寧な歩き方、なのだろう、そして私の元までくる。


「あの、、お名前は…?」


なんて無表情で聞いてくるものだから、私は前を向いたまま名乗った。


「テイル。」


「ではテイル様。お風呂の準備が整いましたので、お身体をお流しください。」


格式ばった丁寧な口調が聞こえてくる。どれ程あの男に忠誠を誓ったのか、それとも調教されたのか、なんだか私にはその態度も、口調も、身構え方も気持ち悪く感じた。


「お湯なんていらない、、私は冷水がいいの、だから水を貯めて来て。」


「畏まりたした。では少々お待ちを…その間こちらで汗をおふきくださいませ。」


表情の一切を変えずに私にタオルを渡すと、その場で一礼、そして静かに音を立てずにまた小股で歩き扉の前でまた再度一礼して部屋を後にする。


「(…気持ち悪い子。)」








そうしてそのまましばらく突っ伏して居ると、やがて少女が、部屋の前で丁寧にお辞儀をして入ってくる。


「テイル様、ご準備が整いました。」


「様なんて、、私どちらかと言えばあんたの主人に捕まった囚人よ?敬称なんて要らないんじゃない?」


「いえ、私の立場から致しますと、テイル様はお客様ですから。」


でもおかしい。奴隷はそんな事はお客様だとか言わない言うならば主の命令だからとか、そんな事を言うと思う。


「そう。(まぁどうでもいいか、、)」


今となっては為す術がない。この少女を人質にしたって、或いは殺したってあれは動揺しないだろう。





  ※



衣服を脱ぎ捨て浴場に出ると、いつか入ったホテルのシャワールームとはまるで違っていて、その殆どが木造で、湯気が立ち込めている。


シャワーヘッドを手に取り水の蛇口を捻ると、そこから出る冷水を頭から全身に浸透させる。


「(ああは思ったけど、当然、この現状は嫌だ。ここで飼い殺される訳には行かない……私は自由なはず、魔界を出た時から。)」


(ナニヲスルンダ?)


また黒豹が私の脳裏に話しかけてくる。


「……えぇ、これは前と同じよ…飼われてやるの、、手に負えなくなるまでね?」


(ソレハ、ドウイウ事ダ?)


「分からない?洞窟で貴方に出会った時と同じよ、魔物を切り続けて、最後には上で見て喜んでた白衣の奴らを斬り伏せた時と同じ事をするの……アイツを越えてやるのよ、、」


(ソレハ…奴ニトッテノ条件ト変ワラナイダロウ?)


「ふふ、ふふふ、、そこよ、そこ…」


私は頭を下げ、上がる口角から不敵な笑みを足元に漏らす。


「ふふっ……あいつにとって生きる事が地獄なら、、私はアイツを殺さない。力を、技を習得して、いざ真剣勝負、当然勝ってやるわ、、でも、殺してやらない。自殺ができないなら尚のこと、、ふふふっ!生き地獄を味あわせてやるのよ。」


(デハ、、モウ暫ク、、血ハ喰ラエヌノカ…)


「そう、だから我慢して力を貸してよ……その代わり、この後たっぷり、もう飲めないって言えるくらい吸わせるからさ……頭痛も焦りも、私に発動するのは抑えてもらえる?」


(…グヌヌ、難シイナ、何シロ、感覚ヲ共有シテイルカラナ…ダガ、善処シテヤル)


「…ありがと。」


__。


_それから、私は恐らく初老の男から見れば昨日までのことが嘘だったかのように、修行に打ち込んだ。手が震えても、足がふらついても、時々振るう木刀の芯がぶれてしまっても、直されては素直に聞き入れ、黙々と、振るい続けた。


それこそほんと、自分の時間なんて一切なく、日の入りまでには起床して顔を洗い、朝食をとってからまず昼食まで木刀を振るい、昼食後はまた同じく繰り返し木刀を振るう。そして夕食後も繰り返し木刀を振るい、亥の刻辺りで冷水を浴びに浴場へ、その後はまた用意された寝間着に着替え眠る。


季節なんて感じる間もなく、気がつけば床は冷たくて、ふと庭に目をやると木々の葉はすっかり落ちていた。


「(もうこんなに経つのね、、)」


なんて思った事が、久しぶりに自我を取り戻した感覚だった。


そんな日の午前_。


「止め。テイル、そこまでだ。」


いつものようにこの稽古場の入口で腕組みして居た初老の男の一声で、木刀を振り終え型が染み込んだ素振りの姿勢のまま刀を納刀する様に持ち手を逆手にして片手に持って、男の方を向く。


「次は自分の刀を持って、庭に来い、」


そう言うと男は庭へ出た。


「……」


木刀をしまい、久しぶりに刀を取り出した私は庭へ出ると、開けた箇所に巻藁が数本刺さって居た。


「これは?」


「これを刀で斬るんだ、中央に立ち、できるだけ早く斬れ、これを敵だと思え。」


初老の男がそう言って指を指した棒を私は鼻で笑い、棒達が一定の感覚で立つその真ん中へ移動する。


「こんな棒を敵に見立てはられないけど。」


「ただ空間を空けて立たせては居ない、それは敵が刀を抜き、いつでも斬られる範囲にある。だから素早く刀を抜き斬らなければお前は殺されるということだ。」


「ふぅん。」


「(抜く以前で敵が既に首や手首に(きっさき)を向けていたのなら、その時点で刀を抜けないじゃない、)」


なんて屁理屈は思うだけにし、ゆっくりと持ち手、縁に手を添え(つば)を親指ですこし押し上げる。


……


横向きに立ち、構えながら、自分を囲む合計5本の巻藁を目で捉え、身体で、刀で位置を把握する。


もうこんなにも長い時間、同じ長さの木刀を振るっていたら、(かしら)から(きっさき)までが自分の腕から指先を扱うのと同じくらい違和感なく扱える、だから一刀両断なんて容易だ。


「(手前3本はいいとして後ろが問題か、居合の構えで行けば背中ががら空き、どちらにせよ一太刀で全てを斬るのは無理ね、、)」


直ぐに振り返り斬るのが正解なのは分かる。でもコイツも私も、人間のやり方なんてしない。


「……ッ!!」


前かがみで1本踏み出し素早く抜いた途端にまず左から中央、右を斬り終えるともう一歩踏み出して右脚を中央の巻藁の根元に置いて押す様に力強く前へ蹴る。同時に左脚をあげ、私の身体は少し浮いたまま後ろへ平行して下がる。そして真後ろの巻藁2本の中央を後ろ向きに通り過ぎ、右脚を下げてブレーキ代わりに地につけて立ち止まると、刀の振れる間隔が開いたところで左の巻藁の上部を真横に刀を振るって斬る。


「(これが敵なら丁度後ろのやつの項を斬ったくらいか、、)」


数秒して蹴り込んだ中央から続いて左と右の巻藁は同時に倒れ、程なくし傍にある巻藁も2本同時に倒れる。


「どう?斬ったわよ。」


男は腕を組みながら少しばかり黙ったまま眺める。


「…背後の敵に体格差があれば、どうしていた?」


「変わらないわよ、背後に下がっていた時点で身体の位置は手前3本の時と一緒、まあ既に刀は抜いてるから初動の動きはできないから一、二回ずつ斬り込むわ。何せ相手は私の動き追えず背を向いているし、」


「ふん……貴様なら容易か。」


それだけを口にすると、男は少女を呼び、巻藁を交換させる。


「何、正解でもあるの?」


「無論、それでも構わぬ。だが我の技も見せてやろう。」


「ふふ、自画自賛したいならどうぞ?」


「……」


男は黙ってさっき私が立っていた位置に移動する。


「……ッ!」


男は私の目から見ても明らかに速い速度で抜刀直後に目の前の巻藁を3本を斜め下から斬り上げ直ぐさま斜め上から斜め下へ戻るように斬り付け、軸足はその位置から離さず振り返り、残り2本を斬り裂く。


「(なんだ…それじゃ普通のやり方じゃない。まぁでも威力も速度も私より速いけど。)」


「……お見事。」


私より距離を置いた先で少女が独り囁く。


「それで、次は何をすれば良いの?」


男は私の方に身体を向き直す。


「……もう頃合だろう。お前の技を見てやる。手合わせだ。」


「待ちなさいよ。まだ素振り程度しかしてないわよ、私。」


昼夜ひたすらに空を切り続けただけの私が、果たしてこの男に勝てるかと言われれば、可能性はゼロだ。


「ふん。本戦では無い、木刀を握れ。」


「あぁ、そう。」


「(もう飽きてきた……。)」


貴方もそう思った?悪いけどまだ続くわよ。


私達は再び稽古場に戻る。そして互いに木刀を握り、3、4メートル距離を開けて向かい合う。


「……菊、合図を頼む。」


「はい、」


そう言われ少女が大体中央に当たる位置に立つ。


「(へぇ、あの子名前あったのね、、無いわけないか。)」


「……」


菊という少女は初老の男と私とに目を向け再び中央に視線を戻す。


「それでは、"はじめ"の合図で試合開始をしてもらいます。」


「……」


「……(初撃はぶつけて、次の手がどう来るか……)」


私は菊の合図に耳を傾け、木刀を両手で構える。


__。


「……はじめ。」


「ッ!」


「……」


KAHHH!!!!


瞬時に走り込み右斜め上から斬りかかる、しかし男はそれを素早く払い、右斜め下へと私の腕と起動をずらすと、天上から真下へ振りかざす。


当然直ぐに木刀を真上へ向け、左手で刀で言う(むね)に添えて受け止める。


「……」


「ッ!(衝撃は思ったより弱い……なら、そのまま次の構えにっ、、)」


男の動きに目を血走らせ、押し切る力が弱まったのを感じた直後に左足と木刀を引き、逆袈裟斬りを決め込む。

だが当たった感覚はない。


「甘い……それでは隙だらけだ。」


「ッ!!?」


ドンッと音はならないけれどそれ程の衝撃の波が、私の腹部から全身に伝わっていく。


私が大きく切り上げたのに対し男は1歩引き交わして、バネのように素早く同じ位置に戻りそしてもう一歩距離を詰め突かれたのだろう。


「んぐっ!」


全身が痺れたように衝撃を受け鈍痛と共に腕から木刀が落ちると同時に私の首元に男の木刀の刃が当を添える様に当てられる


「そこまで、勝負あり。」


菊の声がする。


「痛いんだけどっ?」


「あぁ。痛む場所を突いたからな?」


「試合、なんだからっ、加減くらいしなさいよっ、」


「(溝打ち出なくとも相当痛い…ほんと酷い。)」


「加減か。人で無いものに加減すれば我はとっくに死していただろうな。事実、人が今の突きを喰らえば痛みがまさり皮肉も言えんぞ?」


「仮にも模擬戦でしょ。私に殺されたいなら、もう少し丁寧に扱って欲しいものだわ、そのうちほんとに動けなくなるか心が折れるわよっ。」


「………」


「………」


菊は無表情で立っている。そして初老の男は珍しくこれには言い返さず、目を閉じ少しばかり黙るとゆっくりと口を開く。


「……善処する。」


「…それだけ?」


「少し休め。」


男はそう吐き捨て稽古場を背に歩き去る。


「……はぁ、やけに素直ね。」


すると真横から細く大人しい声が耳にはいる。


「テイル様、これを。」


タオルを手渡してくる。


「ああ。」


受け取り額の汗を拭う。


そしてそろそろこの存在が私は気になり始め話しかける。


「貴方って何なの?」


私の突然の質問に、しかし彼女は表情一つ変えずにこう答えた。


「はい、このお屋敷の座敷わらしです。」


「……なに?それは。」


聞き覚えのない言葉に私は再び聞き返す。


「人間たちからはそう呼ばれて来たのです。私の姿を見たものは幸運が訪れると」


「(という事は…そっか、この子も人間じゃないのか。)」


「ふぅん。それがなんでこんな所であいつの召使いなんかしてるの?」


「ここは元々旅館でした。ですが経営難が続き店仕舞いを。経営者は当然その後この屋敷を捨てて、その後今のご主人様が買取り、こうして暮らして居ます……私はこの屋敷が無くなってしまえば私自身も消えてしまうのです。」


「そう。あいつは死ぬ気らしいけど?そうしたらもう誰もここに住まないんじゃない?」


「ええ、存じております。ですが私も長く生きてきました、何も悔いはありません。」


「なにそれ、長生きすると死にたくなるの?」


ほんと不老不死なんてろくなものじゃないわね。


「どうでしょう。もう100年以上も人を見守ってきましたので。」


「ふぅん。じゃあもうひとつ聞いていい?」


と私は半ば菊の話を流して追加の質問を要求する。


「何でしょうか?」


「あいつ、本当に私をこのまま鍛えて目的を果たすと思う?このままだとまた年を越すわ。」


「そろそろ限界の様ですね。」


なにか見透かされた気がした。その時の菊の表情は少し笑って見えたからだ。


「とっくに超えてるわよ、飼い慣らせなくなるくらいまでになってやろうとは思ってたけど、流石に時間は惜しいわ。あんたらと違って時間が無いの。」


「はて、、そうしますと貴方は何かに追われているのですか?殺人鬼なりの目的がお有りですか?」


「……っ。」


そう言われて正直返す言葉がない、別に追われているものなどない……でも違う、先を急いでいる訳では無かった。そしてそれを感じるのと同時に答えも出ていた。


「違うわ、自由を奪われるのが嫌なのよ。束縛されるのが、誰かの余興に付き合うのが嫌なの。好きにさせてくれないかしら?」


「私にその権限はありません……それに、貴方は殺してきた人達から時間を奪っている。虫がいいですね。」


「なにそれ、、お説教かしら?」


今更私を言い伏せようなんて、もう何年も遅いと内心思い言ったが、菊は無表情で淡々と続けた。


「諭すつもりはありません。ですが、貴方がここを出て殺人を繰り返すとなると少し、いえ、大いにそれが心残りになりますが、私に力はありません。ただ見届けるしか……。なので此処でなくとも、その代償は必ず何処かで償うこととなるでしょう。」


「……あぁ、因果応報ってやつかしら?」


「はい。ところで、先程の質問の答えですが、きっと貴方はご主人様に敵わわず、後数年は此処に留まる事になるかと思われます。どんなに鍛えられても、貴方はご主人様に敵わないでしょう。」


「なんでそう言い切れるの?」


その問いにも菊は淡々と答える


「私の目は見る相手のオーラを見る事ができるんです。なので、あなたの背後からはとてもおどろおどろしいオーラを放っています。きっと貴方に殺されてきた者たちの無念からなるものでしょう。対してご主人様には、武神のオーラが宿っています。きっと代々将軍家や天皇家を守ってきたのでしょう、なので決して戦闘で死すことはないでしょう。加護とも言えます。」


「はぁ、、、何よそれ、これじゃ私本当にあいつに勝てないじゃない。」


「(となるともう逃げるしかない。)」


そうだ。屋敷内での行動が許されている以上、奴からできるだけ離れ、塀の外へ出てしまえば良い、飛び越えるくらい容易だ。わざわざ此処に縛り付けられることなんて無い。


「なので、貴方はきっと解放されませんね。」


「いいえ、逃げてやるわよ、明日にでもね。」


「…テイル様。それも叶いません。あなたはここから出る事ができません。」


無表情のまま菊はそう言い放つ。その無表情はより一層気味悪さを増した。


なんだか悪寒がする。単純に季節が秋だからという訳では無い。


「どうしてよ?」


「この屋敷は人間をテイル様から守ると決めた。であるからにはあなたの意思と反して屋敷は貴方を外へ出そうとしません。」


「この屋敷も生きてるって言いたいの?」


全くもって馬鹿馬鹿しいけど、この少女はその表情を崩さずにただ言葉を発する。


「生きていると言うより見聞きしております。それほどまでにこの中には幾つもの残留思念が残っています。それ等が貴方のような異質なものを閉じ込めようとしている。それこそ、ご主人様のご意向が果たされるまでは。」


「なんてこと…じゃあなに、そのアイツの加護とやらに打ち勝たなきゃ出られないって事なの?」


冗談じゃない。そんな話を聞いてからでは余計に気が抜け絶望せざるおえない。だってこれでは本末転倒だからだ。どうやっても戦死する事を叶わない相手に対して、それを打ち破って斬り伏せなければならないのだから。


「(いや待て私、)」


菊は一礼して去ろうとする所を私は引き止める。


「ねぇ貴方、、、この事、あいつは知っているの?」


「いいえ。ご主人様には話しておりません。」


「そう。もう行っていいわよ…。」


私は視線を逸らしたまま菊を解放すると。口から少し笑をこぼした。


「……ふふっ。」


「(なら簡単。あいつに事実を伝えて絶望させてやれば良い、、お前はこの先も一生死ぬことはないって。)」


とは思いつつも、あの男は頑固だ。それでも聞かずに私を自分より強くする事に専念するんでしょうね。


さてどうしようか。私はふたたび振り出しに戻った。

大変長らくお待たせ致しました。


半年更新しないと公式ページ側がそういう連絡するらしいの最近知ったんですが、心配ありません。途中で止めることは無いです、書ききりますのでっ、よろしくどうぞ。


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