初めてのお仕事!
火野さん視点
「そっち行ったぞ火野さん!」
「行くわよ!火炎球!」
私は向かってくる1メートル程の大きさの鼠に手の平を向ける。
そして頭の中で魔法陣を展開、魔力が減る感覚とともに手の平に魔法陣が形成される。
形成された魔法陣に、更に魔力を込める事で魔法陣の先に炎の球が生み出された。
「いっけぇぇぇぇ!」
ドォン!
炎の球は魔法陣から離れ、そのまま一直線に鼠の魔物に飛んでいき直撃した。
『ヂュウウゥゥゥゥ!?』
鼠の魔物が絶叫と共に宙を舞い地面に落下する。
しかし鼠の魔物は着地し、草むらを掻き分けて私達から逃げるように走り出した。
私の攻撃は上手く当たらなかったみたいね。
「ごめんなさい!避けられたわ!」
「サーラ、カバー!」
「ん!樹縛牢!」
私の少し後方にいるサーラが魔法を発動する。
その魔法の魔法陣は鼠の魔物の進む先に現れ、丁度上を通った瞬間魔法陣から樹木が急速に伸びて鼠の魔物を拘束した。
「今だ!メイアねぇさん!」
「ぜりゃぁぁぁ!」
『ヂュ!』
海斗君の指示に合わせてメイアが拘束した鼠の魔物に接近、そして一撃を叩き込み鼠の魔物をノックアウトした。
「ふぅ、なんとかやれたわね。」
「初めてにしては上出来だろ。」
「ん、同意見。」
私の言葉に近づいてきた海斗君とサーラが反応する。独り言のつもりだったのだけれど返答してもらえるのは嬉しいものね。
「サーラ、手間かけるが鼠の拘束外してくれ。」
「ん。」
メイアの言葉にサーラが頷き手をかざす、すると鼠の魔物を拘束していた樹木が魔法陣に戻るように縮んでいき消滅した。
後には気絶した鼠の魔物が横たわるだけとなる。
「そいじゃ、こいつ解体してギルド持ってくぞ海斗。」
「分かった、翔太も手伝ってくれ。」
「えぇ、めんどくさいんだけどな…」
接近戦の三人が横たわる鼠の魔物を運び、解体していく。
いつ見てもグロテスクで慣れないわね、これは…
そもそも何故こんな事をしているかといえば、私達がジークさんにお昼をご馳走になった後、このままじゃ明日の宿代を払えなくなってしまうという事で私達は初めての仕事を受けることにした。
とはいえまだ私達は入りたてのビギナー。受けられる依頼など大した額にはならなかった。
そこで私達は素材回収依頼を受ける事にした。この素材回収依頼というのは通常の討伐依頼に比べて報酬が良いものの、解体の技術が必要になる依頼で、仕留めた魔物の解体をしてギルドに持っていかなければ依頼達成にならないという技能が求められる依頼だった。
本来の初級狩人で解体の技術を習得している人はほぼ居ない様なのだが、運良く私達のパーティーには三人も解体の技術を習得している人が居た。
海斗君とメイア、そして柊君、この三人は修行の時にそれぞれの師匠に教わったらしい。
「ごめんなさい、私達も手伝えれば良かったんだけど…」
「あ〜、火野さんは気にしなくて良いって。そもそも俺だって主要な所はメイアねぇさんに任せっきりだし。」
「僕にも任せっきりなんだけど…」
「翔太の方が上手いじゃん、それに戦闘でほとんど役に立たなかったからその分働けぃ。」
「うっ!そ、それを言うのは無しでしょ。それに平地での戦いは苦手なんだよ僕は…」
「お前ら少しは手伝えや!」
「「す、すいません!」」
あはは…あの二人またメイアに怒られてるわね。
メイアに怒られる二人を見て思わず苦笑いを浮かべる。
十数分後には、骨と皮とお肉に分けられた元鼠の魔物が置かれていた。
これをギルドに持っていけば依頼達成になる。
私達は手分けして素材を街まで運んだのだった。
その途中で、あんな事になるとは思わなかったけれど…
ーーーーー
海斗視点
あー、重い…
今俺の背には、解体した魔物の素材が積まれている。主に骨と肉だ。
この部位は俺と翔太で運んでいたのだが、翔太の提案でジャンケンをする事になり、見事に負けた俺は二人分の素材を運んでいるのだ。
とはいえ正直なところそこまで辛くはない。
この世界に来てから高くなった身体能力のお陰で肉体的な負荷は殆ど無かった。
「海斗君、少し持とうか?」
火野さんが俺の荷物の量を見て聞いてくる。
女神だ、女神がここにいる!
その慈愛の心を目の当たりにした俺は、火野さんに後光が差しているのを幻視した。
「女神…じゃない。火野さん、これは俺がジャンケンに負けたせいだし、何より女子に任せちまったら男が廃るってな。」
「そう?なら良いんだけど…辛くなったら言いなさいよ?」
「はいよ、ありがとな。」
「べ、別に良いわよお礼なんて!」
そんなこんなで俺達は進んでいく。街までもう少しだ。
と、そこで変なものを発見した。
「あれなんだ?……人?」
俺の視線の先には人らしき物体が横たわっていた。
「オーラが有る、生物には間違いない。」
「なら急ぐぞ!何かあったかもしれねぇ!」
サーラの言葉に先行して走り出すメイアねぇさんについて行く。
遠目ではなんだか分からなかった生物は、近くで見ればすぐに分かった。
「獣人…しかも子供だ。」
「気を失っているみたいね、それに怪我してるわ。私の異能で治すから、みんな少し離れてちょうだい。」
みんなが少し離れた事を確認して、火野さんは獣人の子供に手をかざした。
そして火野さんの異能が発動し、獣人の子供が炎を包まれる。
みるみると獣人の子供の怪我が消え、数秒後には完璧に傷が無くなった。
「うぁ…ん?」
うめき声と共に獣人の子供の意識が戻る。
「よう、目ぇ覚めたか?」
「うん……、に、人間!?フ、フシャァァ!」
まるで猫の様に威嚇してくる獣人の子供、まずはなだめなくては…
「君、俺達がここに来た時に傷だらけだったんだけど、何があったんだ?」
「オイラが傷だらけ?……そ、そうだ!ルイ!ルイに知らせなくちゃ!」
獣人の子供は何かに気づくや否や、すぐさま立ち上がり街に向かって凄い速度で駆けていく。
話を聞く前に行かれては流石に困る。
俺達は獣人の子供を追いかけた。
凄い速度で駆けて行った獣人の子供だったが、メイアねぇさんと俺の方が早かった。
震脚で一気に追いつき抱き上げる。
「にゃ!?何だよお前ら!?離せこんにゃろー!」
「離してやっても良いんだけど、まず何であんなにボロボロだったのか聞かせてくれよ。何かあったのか?」
「煩い!早く行かないとルナが危ないんだ!」
「何でそのルナ?って奴は危ねぇんだ?」
「早くしないと、あの街に奴等が攻めて来る……だからその前に、ルナを安全な所に連れて行かないと!」
……ちょっとばかし、厄介な事になって来たみたいだ。
とにかく今は、この子からもう少し話を聞かなくちゃならない。
俺は合流した三人に事情を説明し、獣人の子供をつれて街に向かう事にした。
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