寄生か無知か初心者支援か培養
なんだか、夢を見ていた感覚だ。確かに僕が体を動かしてはいたが、本当に僕の意思で動いていたのだろうか……?
『tanaka-deathからメッセージが届いています。』
セーフルームに来ていた、例の小動物の体でだ。ナビさんが人間用の設備の一切を自力で利用できない僕を抱えてカタカタとホログラフィックのパソコンを弄る。なになに、どうやら今度ログイン時間を合わせて一緒に遊びませんかと言うお誘いだった。だが僕がいた世界では正確な時計もありそうにないので合わせられるかもわからない、なのでナビさんにログインが不定期になりそうなんで厳しいかもと打ち込んでもらうとすぐに返事が来た、どうやら丁度小休憩をしていたらしい。それなら今遊びませんかと書かれている。まあ好意の人の誘いを断ることはない、広場で待ち合わせする事になった。
ナビさんに見送られ、プレイヤー集まる広場でコソコソと隠れているとタナカデスさんがキョロキョロと落とし物を探す様に首を動かしているのを見つけた。足元に不注意な人から踏まれない様に気をつけて近づくと、彼は僕を抱き上げた。
「やあ、待った?」
首を振って答えると、彼は早速狩りに出ようと言って僕を森へ連れ出した。僕が泳げるほどの沼がある森にも人間用の道はあるらしく、そこは少しぬかるみがある程度の場所だった。こんな足場がしっかりとしない場所で戦う場合に魔法使いじゃない人とかはどうするのだろうか、少し気になる。ああでも、もよもさんだったかの人は自爆魔法が使えるらしいし、魔法を使うのは必ずしも魔法使いじゃないとダメって設計ではないのかもしれない。
「キャラクリ凄いね、なんの動物?」
【オーストラリアのカモノハシ】
好きなのかと聞いてきて、別にと首を振るのもおかしかったので一応頷いておいた。本当は好きというほどでもない、小動物は可愛いから好きだけど、別にコアラでもネコでもなんな子供パンダでも良かった。ただ珍獣ってだけでコレになった……なんて、言われてどうしろって言うのか。
「へー、声出せないみたいだけど不便じゃない?」
当然不便だと頷く。その後も色々と質問に対してのやり取りをして森を進んでいった。なんかこうしているとアレだなぁ、うまく言えないんだけど、女子にたかる男子みたいな……いやまあスキルポイントとやらの消費を抑えるために仕方がないんだけど。
「あ、グールだ。私が弓で注意を引くから炎で背中を攻撃してくれる?」
炎?……まあ、ここら辺は水溜りがないし普通に効くのか。コクリと頷いてぬかるんだ事件へと降ろしてもらった、コソコソと二手に分かれて充分な位置取りをしてからタナカデスさんが弓でグールの肩を射抜いた。合わせて僕も魔法を打つ、赤い火の玉がぼうと音を立ててグールを包んだ。グールはすぐに倒れ、タナカデスさんが出たアイテムを拾うようなフリをする。何をしているのだろうかと僕は彼を見つめた。
「……ん? どうかした、アイテム拾わないの?」
よくわからない、どういうことなのだろう。今はまだ余裕があるので長めのテレパシーを使っても良さそうだが、帰り道をおんぶ抱っこてのもなと考えて、どう端的に伝えようかと悩んでいたらタナカデスさんが色々と気を揉んでくれたのか僕の悩みを察した。曰くドロップアイテムは権利問題でモメないよう人別に落ちているらしい。レベルアップに必要な経験値は色々と括りがあるらしいが。
「もしかして普段はバトロワ系とかやってる? アイテム各マップで共有だし、あっストラテジー系とか?」
バトロワにストラテジーってなんだ。いや、バトロワはたけしさんのアレ系なんだろうけど。ネットゲームはあんまりしないですと念を送っておくと、色々と僕の世界でも有名なゲームの名前を挙げて話を弾ませてくれた。お喋りでいいなあこの人、お喋りにも種類があるけど、僕みたいな人間は話がつまらないんだよね、基本的に興味のあることしか喋らないし。でもタナカデスさんは結構相手の趣味に合わせて話を展開してくれて聞いてるだけでも結構楽しい、ラジオの進行みたいな感じだ。それに今後の進め方とか、どんな種類のアイテムは取っておいた方がいいとか、ゲームの進め方とかを細かく教えてくれる。頭が上がんないねもう。
その後しばらくグールを倒して僕の魔力を回復させるため休憩がてらブラついていると、タナカデスさんが魔法について興味深い事を聞いてきてくれた。
「そう言えば魔法の詠唱とかってどうしてるの? 頭の中で唱えるだけじゃ発動しないと思うんだけど、そこら辺人間アバターとは違う感じ?」
確かに僕は魔法の詠唱をしてない。頭の中ではなんとなく火よ出ろ〜なんて考えて入るけれども、実際に言語化せずとも打てるのでそうしている。どちらかと言えば、視覚のイメージで補強してる感覚というか……。短くイメージと伝えておくと、タナカデスさんがちょっと驚いた顔をしていた。
「もしかしてナビから貰ったスキルってテレパシーだけ?」
コクリと肯定する。え、なに魔法とかって貰えるの? 師匠からとか身につけるとかじゃなくて? いや、まあゲームだからそういうのも可能なのか。
「いや、格ゲーで弱攻撃をコマンドしてるような物だよソレ、よく今まで倒れなかったね?」
格ゲーのコマンドって昇竜拳とか? あの十字キーかちゃかちゃやる。いや、テレパシーも大分消費が激しいのだけれど、そんなに変わるの? にわかに信じ難いのだけれど、効率を上げる為にナビさんから新たに魔法を貰うことになった。まあタナカデスさんみたいに優しい人がこうするのがいいと言うのなら何も言わず従う方がいいだろう、モヨモさんみたいに背後から頭をグサリとかされたくないし。
「ナビがあんまり案内しないっていうか公式で非公式攻略サイト推してる感じがするけどさあ、ウィキ見ない派なの?」
インターネット環境がないから必然的にそうなるので頷いておくと、タナカデスさんは結構喜んだ。自分で攻略するのが楽しいよねとか、わからなければすぐネットじゃなくてちょっと実験をして判断する感じが云々と語ってくれた。所々にわかるよねと確認して僕が微妙な態度を示したりすればちょっと態度を軟化させる辺り、タナカデスさんってもしかして30くらいにまで行ってるのだろうか。オトナって感じがする、まあゲームやってる時点でマトモな大人かどうかってのは前時代的なので語らないにしても。
さて、そんなこんなで街へ戻り僕達は街へ戻り、プレイヤーの集まる広場から少し外れた教会の中へ入った。不思議だ、教会の中へ入るプレイヤーはいたのだけれど、中にはプレイヤーらしき人は誰もいなかった。これが例のルーム機能なんだろうか、教会のドアを境に一緒に遊んでいるタナカデスさんを除き他のプレイヤーが世界から弾かれた、いや、僕の世界と彼らの世界が重なるのをやめたが正しいのか?まあとにかく、そんな事を考えながらタナカデスさんの案内通りナビさんに祈りを捧げていると突然目の前に色彩豊かなノイズが現れ、中からナビさんが現れた。
「……敬虔なる我が使徒、探索者tokage、貴方の望みを言いなさい。貴方に奇跡を授けましょう。」
楽な通常攻撃があると聞いたのですが、僕の使う魔術は消費が激しいのでどうにかして欲しいです。ナビさんへと話しかける事を意識して考えると、ナビさんがニコリと笑って僕を撫でた。『Naviがskill:ballを与えようとしています。承諾しますか?』とナビさんの声が聞こえ、頷くとナビさんからボールと言う攻撃呪文を貰ったアナウンスが聞こえた。これで攻撃魔法がもらえたのだろうか、上目遣いでナビさんを見るとニコリと微笑みまたノイズとなり消えてしまった。
「おめでとう、これで大分楽になるはずだよ。さっそく狩りに出かけて試し打ちして見なよ、きっと凄い驚くから。」
タナカデスさんの発言によって僕はまたグールを倒しにいくことになった。しかしタナカデスさんは弓を使っている為矢をなるべく回収するにしても限度があり、僕も消費した魔力を回復させる為に広場までアイテムを買いに来た。
「えっと、あ、あそこに青い風呂敷ひろげてるドワーフの店は見える?まずあそこに寄ろう。」
タナカデスさんがそう言って僕を抱え、広場の端の方までよると地面からふっとその説明に当てはまる露店が湧き出した。世界が重なる瞬間だ、教会の扉を境にしたルーム調節は違和感がなかっただけにちょっとビビる。
「おや、タナカ氏〜。こうして広場で会うのは珍しいでありますにゃー、今日は一体どのような……おや、そちらの御仁は?」
うおキッツイな。中々のキャラだった、一昔前というか、多分意図的なステレオタイプオタクなんだろうけど凄いインパクトがあった。彼、いや彼女の容姿は若い女の子で淡いピンク色の髪に魔法少女みたいな服をしていて、中々のギャップがある。抱えられながらではあるがぺこりとお辞儀をしてトカゲですと名乗るとオタクさんは可愛らしい声で中々にオタクっぽい喋り方をした。
「ほっほー、貴君はトカゲ氏というのでありますにゃ。拙者、ここで細々と商いをし申すかにゃんと言うケチなネカマであります! よろしくお願いしますニャア。」
タナカデスさんがハハハと力なく笑った。驚いたかいとかなんぞ聞いてくるが驚かない人がいるのか?電車で敬礼出た敬礼って言ってるオタク並みのインパクトだぞ。
流れを説明すると、タナカデスさんは僕を彼のクランとか言うパーティーに所属する人がやってるらしい露店まで案内して、大体の適正価格を教えようとしてくれたのだ。なんでも初心者を相手にしたぼったくりがあるらしいので注意が必要らしい、とは言えこうまで親切してくれる彼のクランを差し置いて他の露店へ行って売るのもどうかと思い、僕はその店を利用することにした。今後とも贔屓にさせてもらおうと思う。かにゃんさんは喋りこそネットゲームでも独特なキャラをしているらしいが結構な常識人らしく、そうやって初心者に親切なフリをする劇場型の詐欺もあるからまずは見て回った方がいいとかのアドバイスをしてくれたり、そうやって話しているうちにもソコソコの数の利用者がかにゃんさんと楽しそうに商品の売買をしていたり、なかなか信ずるに足る人柄っぽかった。
「またのお越しを待ってるでありますぞーだにゃー!」
キャラは濃いが。彼女の背後に恰幅のいいチェック柄のシャツとバンダナをした男を幻視したが、アレはただの心象であることを祈りたい。
そう思いながら、僕はタナカデスさんに抱えられて森へ進んでいった。