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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
97/167

希望を抱かぬものは失望することも無い

 少しだけ赤くなった手の甲をじっと見つめる。槍の子にやられた傷で、魔術で簡単に直せる程度の物だ。痣にはさせないが、もう少しだけ体に残しておきたい。


 あの後、普通にじわじわと嬲って行ったんだけど、ちょっと油断して手を強かに打たれた。普段なら内出血するなんて有り得なかった事だけど、ちょっと調子に乗っていたかもしれない。


「で……なんだよ、用件があるならとっとと話せ。」


 手の甲を見つめる僕にフランソワーズ君が机を指で叩いて催促した。教室に第一班の三人が顔を合わせていた。僕が話があるから残るように言ったんだ。話というのは他でもない、体育でのフランソワーズ君強化計画についてだ。正直あまり興味がなかったが弱すぎる、あの弱さは今後作戦を練る際に色々と考えなければならない。強そうなことを言って弱いのは、その、なんだ……本当に言葉に困るレベルで色々とある。バートリーさんの同意を求めると困った様子を見せた。


「授業では僕の作戦を聞くか、僕と一緒に訓練するか、それとも一人で今までと同じような訓練を積むか。班長として君の決断を尊重するから、今この場で選んでほしい。」


 どう選んでも僕の人生には大した影響はないから好きに選んで良いんだけどね。まあそれは口にせずに彼の目を見つめた。彼が一人で強くなって見せるというなら僕は黙って彼が居ても居ないなくても勝てる様な動きをするまでだし、班長として最低限の仕事を果たすのはできる。


 この子はどんな道を選ぶのだろうか。彼は年相応以上に攻撃的な性格をしている、そうならざるおえない環境にいたはずだ。親が一般でない部類にいるだとか、周囲に虐められていたとか、そう言う可能性が高い。強くなければ生きられない、負けたら終わり、勝たなければならない。そう言う強迫観念にも似た何かは人を攻撃的にさせる。憐れな子供……そう思うのはいけない事だが、思わずにはいられない。


「表へ出ろ。お前の腕次第だ。」

「そう、徹底的にへし折ってあげる。」


 考えるよりも先に言葉が出た。分かりきった力量差とか、そう言う問題を考える間もなかった。しかし彼は何をする気だろうか、もしかして彼もやんごとなき血を引いているのかもしれない。バートリーさんが制止をしてくるが、これは別に校則違反でもないし僕達の間柄には必要な事だと言いきかせた。


 実際、彼と同じ土俵に立つ僕は大人気ないと思うのだけれど、別に意見の相違による喧嘩ではないので良いだろう。言葉が通じないから暴力を振るうんじゃない、ただ試合という試験の結果を元に言葉を重ねるんだ。それに彼の目線でも隠し球がなければどちらが強いかなんて物は明白だからね、きっと彼には負ける事に意味があるんだろう。或いは挑まずに負けを認めるのは矜恃というか、誇り高い人生の汚点になるとか、そう言うものなのかも知れない。とにかく、戦う事が重要なんだ。




 3人で校庭に出た。人は疎らで僕達の他には見える範囲で数人程度だった。魔術で適当に四つの石の楔を打ち込む、十分な広さを持った臨時の舞台を作ったのだ。フランソワーズ君と僕はローブを脱いで地面に投げ捨てた。


「本当に、やるの?」


 バートリー嬢が聞いてきた。もっと違う方法があるはずだとか、怪我をしたらどうするのだとか、彼女は箱入り娘だから仕方がないとは言えもう少し物分りが良くてもいいんじゃないか。怪我は僕が治すし、他の道はあるかも知れないけれど喧嘩じゃなくて手合わせだから別にそう嫌に思う事じゃないよと言っておく。フランソワーズ君もうるせえ黙ってろと乱暴に言い放つ。今日はやけにピリピリしてるなぁ、まあそれだけ本気だと言う事だ、適当に良い勝負を演じるつもりだったが、良いだろう、コテンパンに打ち負かしてあげよう。


「ハンデだ、僕は肉体強化以外の魔術を使わないでおこう。——僕の誇りにかけ、ここに誓約をする。」


 今やったのは昔に結構流行ってたらしい魔術だ、約束事を守る事によって誓った対象からの力を貰える。だからホムラビとかの神様か或いは家の血に誓う事が本来の使い方で、自分に対して誓っても何も意味をなしやしない。破ろうと思えば破れるし、まあだからこそ僕の誇りにかけるのだけど。


「お前の誇りを泥に塗れさせてやる事を誓おう。」


 ゆっくりと構えを取る。クロノアデアとは剣ばかりの修行だったから格闘に関しては我流で、その道の人が見たら僕は弱いだろう。左を前に半身になり、右手を耳や肩の辺りまで上げる。テレフォンパンチだ、魔術で強化されているので難易度的には中の下か下の上くらい、コレに対処できるかできないかでまず実力を見る。


 フランソワーズ君が地面を蹴った。仕掛けてくるか。前のめりで姿勢にバランスがない、僕は柔道選択じゃあないけれどまあ楽に引き倒せそうだ。パンチを辞めて左手で彼を掴み引き倒した。強化の魔術を使えば自分以外の時を遅延できる、正しくは自分の時間を引き延ばすのだろうが……とにかく、いくら早く動こうと無駄だ。素早いジャブだとか、目にも留まらぬ蹴りだの、そう言う物は魔力さえあれば幾らでも再現できる。再現できると言うことは対策ができると言うことだ。


 なら極めるべきは遅くても効果を発揮する技だ。極論そんなものはないのだが、つまり他の追随を許さない程に早く動けさえすればどんな達人にも勝てるのだが、一般的にはある。柔道や合気道、サブミッションなどが当てはまるだろう。倒れた彼の起き上がりかけた背中を踏み、喉に手をかけた。バックチョークまで持って行き、彼の顔が赤くなり始めてすぐ絞めを解く。魔術があっても流石に僕のようなズブの素人が気絶までさせるのは危険だからね。


「君の魔力量は絶望的だから、あまり速さに重点を置かない方がいいんじゃない。弱過ぎて今のは勝負に入れることはできないからもう一度来てよ。」


 いや本当、パンチを躱してからどうするのかを見たかったのに、あのままじゃあクロスカウンターでさえ危うかったぞ。起き上がる彼を見つめる、元々上等な服ではなかったが土埃で更に見窄らしい。


 さておき、また同じ構えをする。そもそもこの構えは魔術を打つ為の部分があるからあんまり意味ないんだよね、普通にボクシングの構えとかの方が良さそうだ。そうとは言え実力を見るための手加減の意味もあるんだし、彼相手に構えを変えるのはどうかと思うので辞めない。


 僕の忠告を受けてかジリジリとフランソワーズ君が詰め寄って来た。嬉しいなぁ、本当に嬉しい。ペットに物を教えるってこう言う感覚なのかな。そうそう、そう言えば彼はどんな心持ちなんだろう、誇りを泥に塗れさせるなんて言った相手に一撃で自分を砂埃に塗れさせられた訳だが。僕なら恥ずかしさで泣いてしまうかも知れない、そう言う点では彼はある意味強いのかもなぁ。


 フランソワーズ君が一歩詰め寄ったので僕も間合いを詰めて彼の左頬を殴った。フランソワーズ君が吹っ飛ぶ。ええ? こんなんでも喰らうのかよ。戦わずして負けを認めるのが誇りを傷つけるのだとしてもよく挑めたな。喧嘩してできる男同士の友情と言うものに憧れたんだけどなぁ。相手が弱いと無理かもしれないね。ジャイアンとのび太の喧嘩の再現なら或いは……?


 よろよろと立ち上がった彼を僕はじっと見つめた。


「相手の立場に立つことも大切だが、相手をよく見ることが大切だ。例えば、僕は人の動きを見れば5秒先の動きくらいまではわかる。」


 なんの話だ、フランソワーズ君はそうこぼした。物事には予備動作なんて物が付き物だ。熟した果実が自然と落ちる事にだって、ヘタの付け根が弱ってきてるだとか、風が吹いただとか、よくよく見れば前兆がある。風が吹くのだってそうだ。暖かな太陽の光は普遍的に大地をさすわけではない、だから昼の場所があり暖かい空気があり、夜の場所があり冷たい空気があって、それらが対流を起こし風となる。これは人間にも当てはまる事だ。切りつけたい相手が振りかざした剣を何の理由もなく鞘に収める事はない、受けたくない攻撃があるのに避けられないなんて理由もなく受ける事はない。


 そう言うのを意識していれば自然と見えるものがある。僕はこれを超直感と呼んでいるが、別に僕だけの特別じゃなく身につけようと時間さえかければ誰にだって手に入る技術なんだ。ニュアンスで言えば強化直感とでも言うべきかな、とは言え他の誰が持つと言うわけでもないので超と呼んでいるけれど。


 ゴクリと息を飲んだフランソワーズ君が一歩後ろに下がった。その分だけ一歩詰める。今の説明で引く要素があったか? 無いはずだ……だがわからない、彼目線では何か恐ろしい物を彷彿とさせるものだったのかも知れない。


「僕は君にこれを身につけて欲しいと期待しているんだ。その手始めとして、君の実力なら充分に避けれるパンチをもう一度放つ。今度はガッカリさせないでくれよ。」


 行くよ、なんて懇切丁寧に合図まで送ってから。二歩を飛ぶように詰めてまた右ストレートを打った。またマトモに食らった彼は地面に倒れこんだ。だーかーらー、なんで食らうんだよ! 僕はキレかけた、とは言え教え子の覚えが悪いのは教師が悪いからだ。僕は彼を起こしてレクチャーをした。狙ってもいないかぎりはパンチは体の向いている方向に突き出る訳で、特に目線の先に飛びやすくなるの。ここまでは普通に考えれば当然のことでしょ? それで僕はもう一度同じ行動を繰り返すって言ってるんだから狙いもさっきと同じ顔に決まってんじゃん。目線的にも状況的にも顔に来る、なんて思ったら腰まわり肩まわり、首、3つも曲げられる場所があるんだから避けられるでしょ? 或いは腰をもっと落とすとかさあ!


 ほら、今からパンチ放つよ? パンチ、行くよ? 行くよ? 僕はゆっくり拳を突き出して、フランソワーズ君はぎこちなく避けた。できんじゃん! これを早くやるだけだよ、ねえ。わざわざ強化の出力を落とした状態で打ってるからね僕これ、君の運動神経見極めてこれくらいなら避けれるよねってところを余裕持たせてついてるから。


 ねえ、何黙ってんの。黙ってて強くなれるんだったら口縫ってあげるよ。言っとくけど君って恵まれてるよ。僕の師匠はもっと厳しかったから。なんなの、プライドの方が大事? ならもう辞めたら? ——とまではさすがに言っては無いけど。いつだったか、前世の部活動見学の時にこれより幾らかマイルドだったけどこんなこと言って後輩を泣かせてた運動部がいたような気がする。あの時はそんな事言ったら余計萎縮して出来るものも出来なくなるだろなんて考えたものだが、今になったらその人の気持ちもわかる。これって相手に八割がた興味がなくてただの憂さ晴らしなんだな。強く当たるのやめよ、やっててバカらしくなってきた。


 ゴメン言いすぎたって謝ってから彼の肩に手を置いて少し考える。彼はまだ諦めてはないだろうか……いや。コロコロと変わる僕の態度に不信感を抱いているようだ。まあ目の前の物事にしか集中した様子を示せないのは誰にだってある事だ、もしかしたら心の裏ではいつ僕を打ち負かそうか考えているのかもしれない。


「な、なんだよ……。」


 怯えたように聞く彼には失望を抱かざるを得ない。なんだか面倒くさくなってきたんだよね。一人で盛り上がって一人で消沈するのは何時もの事なんだけどさ。今日ばかりは事情が違うよ、君のせいでもあるからね。


「だから何だってんだよ。」


 もう一度戦ってあげるから今度は全力で来てよ、僕が全力を出すと勝負にならないから君の力量に合わせるけど。そう言って彼を突き飛ばして、今度は仁王立ちをした。構えも何もないのだけれど、さっき数回殴った時に彼を買いかぶり過ぎたと悟ったからね。さあかかって来いとハンドサインを送ると、勢いよく走ってきた。今度は最初のように無理した速さじゃない、自然な速さだ。普段の組手でもこんなスピードを出しているんじゃなからろうか。半身になって彼の拳を払い彼の蹴りをチョイと上げた足で受け止める。すぐに離してあげたが、特に追っての攻撃はなかった。


「どうかした? それとももう終わり?」


 フランソワーズ君が正拳突きをするのでそれを真正面から拳で受け止める。僕とは対照的にフランソワーズ君が激しく動くものだから土埃が舞っていた……この校庭の砂はやけに粒子が細かいな? やっぱり魔術で相当痛めつけられているのだろうか? それにしては随分としっかりしているが。まあ、雨降って地固まるとも言うし、水の魔術を使う生徒もいるだろうからこれぐらいが妥当なのかもね。


「目線、肩の引き、腰のひねり、全てが君の動きを教えてくれる。」


 早くも途切れかけてきた集中力の中で彼の蹴りを再び受け止めると、今度の彼は投げ技を仕掛けようとしてきた。僕は重心を逸らしながら彼の両腕を握り、無理に剥がした。


「魔術有りの早さで勝てないってことは魔術有りの筋力で勝てないんだよ、こんな事も言わなきゃわかんないのかな。」


 腕は握ったままだ。振り解こうとしているが、強化しているから特に意味はない……今更だけどハンデの意味ないなこれ。まだ強化の魔術切りまーすおっすおっすの方が良かったかも。まあかと言って魔術有りなら有りで彼に手を出された負けの可能性が高いし、彼に手も足も出させない可能性があるけど。まあ、たらればの話をしてもしょうがないか。僕は言い聞かせるように口を開いた。


 人間は真に平等ではない。等しいってことはすべての環境が同じってことだ、自分や他人の原子の配置から何まで。別世界を考慮しなければそんなものはあり得ない。それは極論か? だとすれば平等とはなんだ。社会的地位が同じことか。持って生まれた肉体、施された教育、親から与えられた財産、それらはすべて社会的地位を構成すると言うのに。自由、権利、機会、そんな物はまやかしだ。有ったとしても概念上に作ったマヤカシを無理に現実へ引き落としてるだけ、つまり究極の三角形さ。イデア論の話ねこれ。


 つまりだね、何が言いたいかと言うとよ。フランソワーズ、君と僕には持って生まれた才能に差がある。僕は君になれないように君は僕になれないから、僕になろうとするな。


「訳わかんねえよ……原子だかイデア論だかなんだか……俺とお前、何が違うってんだよ……!」


 持って生まれた才能だって言ってるでしょうよ。僕の持っている才能を君は持っていないし、同じように君の持っている才能を僕は持っていない。それを活かそうよって話だってば。原子論にイデア論については教えなかった、教えても大した意味はないからね。言葉の装飾を説明するのは興味を持っている相手以外にはあまり楽しくない。


 彼を突き放した。勢いで校庭まで飛び出したはいいが、彼の底が知れてきたような気がして飽き始めたので締めにかかる。


 人間の戦う土俵なんて幾らでもある。数日間の授業を見るに知識量で僕に負け、今の勝負を見るに力比べで僕に負ける事がわかった。だけど品性、知恵、度胸、運、それ以外にだってたくさんの土俵があって勝ち方なんて幾らでもあるんだから、それを探して行きなさいって話なのねこれは。


 いい? 要は勝利条件を見直したらって話。今の君は自分よりも背の高い人に目線の高さ比べしようって提案してるようなもんだからね。強化以外の魔術を使わないなんて膝追っても勝てないんだから、事前に何か段差を用意しておくなり搦め手を使ってみたりさ、あるいは目線の低さ比べしてみようなんて相手が勝てない土俵を提示したりさ、色々手はあるでしょって。そこら辺の努力をしないで僕に負けてくださいって馬鹿じゃないの。それともうどうやっても君の負けは揺るがなさそうだし、今日はもう君の負けでいい?


「なっ、だ、ダメだ!」


 なっ、じゃないよ。何驚いてるの僕が驚きたいぐらいだよ。ガムシャラにやってきましたみたいなその貧相な技を磨くなり、親からもらった物に甘んじてきましたみたいな少ない魔力を増やすなり、僕ちゃん負けるのだけは我慢ならないんでちゅみたいな精神を治すなり、現状を変えるすべは幾らでもあるよ。それを、しないで、僕に負けろ? 気でも狂ったんじゃあないのかって。


 僕は一区切りごとに彼を突き飛ばした。舞台ギリギリまで持って行くために結構話が長くなった。この舞台もなああ、もし彼が強かったらなんて考えで設計してたのに。もう4畳くらいで良かったかも。


「今すぐ負けない?」


 彼は首を振った。コイツ……。彼は汗をかいていてちょっとベタベタする。土埃と彼の汗で手袋が汚れるし、さっき掴みかかられた時にシャツがすっごい汚れたし、最悪だな。


「チャンスがそうなんども君のドアを叩くことはないよ?」


 彼は頑なに首を振った。ワザワザ丁寧に聞いてやってるのによぉ……。


 めんどくさくなったので彼の鎖骨を折る勢いで彼の肩を握った。ミシリと嫌な感触が手に残る。クソが、これも偉そうな事を言うだけのコイツのせいだ。挑んで来いよな、お前から仕掛けた勝負なんだからよお。まあふざけた事をしてくれたが根性はあるのだろう、唇を噛みながら何やら声ならぬ声を叫びしゃがみ込むだけで済ませてくれた。彼の肩の傷を治さずに無理矢理立ち上がらせる。今度は『ぐえ〜』だか『いで〜』だかなんだかの声を上げた、どうでもいい。


「最後の機会だよ?」


 涙を堪えた彼が必死に首を振った。ああ、酷いことしてるなあ僕。イラついてるのかな、なんでだろう。彼を突き倒して馬乗りになった。斜陽が黄色く大地を染め上げる中、彼だけが僕の影に黒く染まっている。怯えたような顔だ、もしかして昔にこう言う体験をしたのかな。父親から馬乗りになって殴られる、そういう虐待を受けた子供ならまあ攻撃的になるのも無理はないよね。環境が人を育てる、卑屈にも尊大にも、どうとでも。僕はゆっくりと彼の未成熟な左胸に手を置いて、親指でグリグリと刺激していった。流石に鎖骨と違って折ると臓器がヤバイのでそこまでの力はかけられないが。


「大きな口ばかり叩いて、結局やろうともしない。君見ているとなんか腹たつんだよね。」


 右手にかける力を強めて行く。肋骨をグリグリと擦られるのはどんな気分なんだろう。彼がまだ元気な左腕で僕を叩いたり、体を捻ったりして脱出を試みている。健気だなあ、なんでこうまで負けない事にこだわる癖に攻めて来なかったんだろう。そろそろ本当に肋骨の破損するかもしれないので手を引っ込めて、今度は暴れる彼の左腕の手首を握って砕いた。彼は痛い痛いと大粒の涙をボロボロと流した……口元を耳まで近づけて囁く。


「君の夢を笑った皆と同じだよ、偉そうだけど実力が伴わない。」


 そんな事は僕にだって当てはまるけどね。人間は誰だってそう言う面を持っている、だけどそれを自覚するしないは重要な分かれ道だ。僕は彼の暖かで柔らかな喉を握った。まだ若さに溢れる子供の喉だった。


「負けを認めれば治してあげる。まあ、嫌なら僕の負けという事にしてもいいんだけどさ。」


 勝負の続行以外なら君の決定を尊重するよ、僕はそう言い放った。負けてない負けてない、そう泣きわめく彼がもう眼中になかった、なんでだろう。仕方がないから相手をしやってるって感じがすごい。子供の泣き声嫌いなんだよね、早く負けてくれないかなぁ。


 10、9、8……声に出して数えて見たけれど、10秒の時間は長かった。その間に彼はすごい葛藤を見せた、眉をシワができるほど瞑って、今度は息切れを起こしながらカッピラいてみたり。こいつホント品がねえよなぁ、ボクが言えた口じゃあないが。


 結局負けを認めなかった彼にボクは唾を吐きかけた。


「おめでとう。君は絶望的な実力差を物ともせず、ボクに勝てた! 凄い時間の無駄だったね。」


 彼を放して、回復魔術をかけた。傍観してた令嬢からローブを受け取る。彼女は何か言いたそうだが、ボクの知ったことでは……とは言えだ、彼女はこんな下らない事に長々と時間かけさせてしまった。大体10分くらいか? 今回の時間はもはや価値が0を通り越して-だからね。彼女を労らなければなるまいて。しかし、どうしようか……ボクは傾きかけた夕陽に目をやった。

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