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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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人を見た目で判断してはいけない、貴方の品性に関わる物だ

 さて、また語り始めるのは少し恥ずかしいが……僕は目が覚めて、ゆっくりと朝食を取り始めた。今日はドロシー先輩達との合同授業だ、昨日の様な失態は犯すまい。まあ、言い訳をさせてもらう様だが、僕だってきちんと準備すればただの服の一枚は訳ないんだよ? むしろあの時は気が動転していて、キチンとした服を作り出そうとしてなかっただけだからね。


 例えば魔術陣でなら省エネにすることも出来たし、あるいは木の皮が剥げるんだからそれを使った服でもよかった、そもそも魔術で土や風を生み出せるんだから時間さえかければキチンと織られた布だって訳ないし。ちょっと時間が危うかったのと、ちょっと気が動転してたから昨日みたいに魔力を消費しすぎたんだよ。


 そう言えば、昨日クロノアデアが僕のベッドで一緒に寝てたことなんだけど、あれは僕の魔力が半分以上失われていたから訓練をさせずに、しっかりとした休息を取らせるための処置だったらしい。魔力の回復は食事などの平時の生活を送っての自然回復か、あるいは魔力の多いものを摂取するあるいは接触をするなどの人工的回復の方法がある。


 その時の精神状態でオーバーフローで起こる現象が変わるなど魔術において感情とは結構重要な物で、自然回復は平時のあるいはリラックスした状態で過ごすのが望ましい。そして多くの場合の子供は大人に抱かれると安心する。


 付け加えて言うなら、彼女ほどの魔術師なら手を握るだけでも僕の魔力はかなり回復させることができる。僕の感覚で言えば大体5時間から6時間、だから……大体二万分の一毎秒で回復する訳だ。だけどそれは手の平というわずかな接触面積での話で、抱きしめられたり睡眠時の穏やかな……ああ、魔力の補充は穏やかな波長じゃ無いと返ってダメージを受けるんだよ。寝起きの頭だと説明がどうも。その分、一緒に睡眠を取るとか、特に暴動などが起きていない平時の、魔力の溢れた空間で生活するのは中々効率が良い。だから風の寮の自室で一緒に寝ているなんて、そう言う状況が起こった訳なんだね。


 そう言う気遣いを無視して、僕は夜中に起きて普段女性が寝ているベッドで寝てしまったが、あれはあれだから。どれだよ……そう、クロノアデアの勤務外労働を気遣ったんだ。無理があるか。


 朝食も取り終え、学校に通う。今日はキチンと魔術馬車での送迎だ。昨日みたいな混乱もなく、僕はクラスメート達に迎えられた。バートリーさんと山岡さんが話し込んでいたので輪に入れて貰おうかな。本当ならフランソワーズ君と話し込むべきなんだけど、いなかったから仕方がない。少しの思案をした後、僕は男子達に迎合する事にした。


 仲良しっていうのは、ハッキリ言って毒だ。深い友好関係というのは理性的な判断をさせない、素晴らしい力がある。まあ費用対効果を直感よろしくで感じ取らせる様な物だよ、脳裏で自分に良くしているコイツを悪くするとどうなるみたいな計算をさせるみたいな。だからまあ、薬にもなるかもしれないよね。


 適当に午後の授業に関して何やるんだろうとか最近の帝城の動きに関して意見を言っていたりしていると、伯爵様が輪に入ってきた。自分で突っかかって未だに僕に勝てていないので彼は苦手意識があるだろうが、僕にはないので軽く挨拶をした。まあ、所詮は子供だ。幾ら人を憎もうと自分に優しくしてきたらすぐ心を許してしまう。貴族である事もあって、そこそこの警戒心は抱いている様だが。そこは弱みを見せるとすぐコロリさ。


 例えば君達にも憎めない人というか、三枚目みたいな奴が人生のうち1人はいたんじゃないかな。いつも何かバカなことをするおちゃらけた奴とか、ああ言うのに人は弱いんだ。どうしたって自分より下に見てしまうし、そんな人物をずっと警戒するのは疲れてしまうからどうにも。僕の場合は昨日ずっと立ちっぱなしだった事をネタにしてね。手応え自体はあったのだけど伯爵様は未だ少し堅い……初日の催眠魔術があるから、いつまた魔術をかけられるか気が気でないのかもね。


「なあそう言えばゲニーは聞いたか? フロワユースレス公爵の御母堂が久し振りに帝都に帰国するかも知れないだとよ。」


 ゲニーと言うのは僕の愛称で、フロワユースレス公爵のお母さんって言うのは僕の祖母ね。それでまあ高齢の上司の親が遠路を遥々来たら、現代日本では知らないがこちらでは上司の方へお祝いの挨拶をするのが常識だ。


「それ本当なの? 耳が早いね、全然聞いてないよ。」

「おいおい大丈夫かよ。ま、どうせすぐに御達しが……チッ、もう来やがった。また後でな。」


 もし本当に祖母が帝都に来るなら僕チェルトルカ家にとっては今後の家の発展のかかる大イベントとなるので、少しおどけた調子で答えて笑いを取ったのだが、そこでハゲチャビンが教室に入って来たので、僕達は蜘蛛の子のように散った。


 今日はフランソワーズ君が遅刻だ。いやあ、学校が始まってから三日間で我が一班は成績優秀を鼻にかけ毎日遅刻をしてしまって、なんだか居た堪れないね。いや、本気だぞ? 立ちっぱなしを経験させられたから彼の気苦労を無視するだけで。


「まあ、授業を始めましょう。教科書の10ページ、第二人魔大戦について……じゃあ、ロータコメートさん。本文読み上げて。」


 ロータコメート君は男爵の子供で、さっきの談話の際に僕へお祖母様の来訪する可能性を伝えて来てくれた人だ。あれどうなんだろうね、本当に来るんだったら僕はどうすればいいのか。実父の公爵に会って『おめでとうございます!』なんて言うのもなんだかおかしな話じゃないか。そうとは言え、ここじゃあブン屋が結構幅を利かしている……まあなんと言うか、政治にある程度の透明性がある。ブン屋を追っ払うのは簡単だが、何かやましい事をしているに違いないと騒ぎ立てられたりするのだ。貴族制で何故そんなに新聞屋が力を持つかと言えば、その新聞が各貴族の保護下にある訳だが……ま、そこらへんは置いておこう。重要なのは、僕がお祝いに行くかどうかだ。


 いやまあ、お祝いに行くのは確定なんだが、お祖母様に実際に合うかどうかだ。事情を知らない人から見たらお祖母様に会うのは良く言って出しゃばり過ぎ、悪く言えば無礼になるが、知っている人にとっては会わないと会わないで非情になりそうだ。


 僕にだって人間の情がない訳じゃないが、お祖母様に会うのは少し抵抗がある。そもそも会う方法がどう足掻いてもめんどくさいと言うか、変な勘ぐりをされない様にするためには必要なものだ。そもそもお祖母様は僕に会いたいのだろうか、僕は息子をやもめにした女の子供だぞ。それにお父様曰く僕の造形はお母様そっくりらしいし。複雑な心境じゃないか、お母様を自分の義理娘と認識しているならそれで良いのかもしれないが……。


 特に国政がどうのこうのと言う時期でもないのに老体に鞭打ち帝都に来ると言うのはプライベートな観光か、市井には知れ渡っていないシークレットな問題があるのだろう。僕は……プライベートかつシークレットだな、どうなんだろう。


 考え事をしているとハゲチャビンが僕を指名して人魔大戦についての説明を求めて来たので君達にも説明をして置いてあげようか。


 人魔大戦とは神々の代理戦争だ。この世界を守護する第一級神とかの神に仇なす邪神どもの。これが結構面白いもので、少なくとも人間の周りには一貫してどちらかの陣営の味方をした生物はいない。ゴブリンなんかは良い例で、奴らは魔族ゴブリンと人族ゴブリンがいる。そう言う種族二分化もあるだけど、ある時期は人間側ある時期は魔族側と切り替わった種族もいる。ヒューマン……ま、僕達人間も人間側じゃなく魔族側に回った時もある。ちょっとややこしいが、まあそれはヒューマンの国である王国のプロパガンダとか政治的な物が関わってめんどくさくなるので説明するのは省かせてもらうぞ。


 ああそれで、第一次第二次の区切りはヒューマン、王国を基本として作っている。第二次第四次などの偶数の戦争ではヒューマンが魔族側に回った時の戦争で、第一次第三次、奇数の戦争はヒューマンが人間側に回った時の戦争だ。第一次の時が大体50年つまり半世紀もの間戦っていたので人魔大戦なんて言い方が定着して……おっと、名前に関しての説明は省くんだったな。


 まあ種族では一貫していないんだけど、国単位では一貫して特定の神を支持する国がある。それが帝国だ、まあ神殿もある人間側の本拠地だしな。魔族側もそんな所とっとと全戦力ぶっ込めばいいのになぜか何百年と攻めあぐねているんだが……帝国がいくら魔術師の国であるとは言え、流石に何世紀も敵の本丸を目前として何故指を咥えているのか?


 簡単だ、帝国が最前線の割にのほほんとしているのと同様、向こう側ものほほんとしているのだ。別に戦場を見た訳じゃないが、新聞の現地報告が今日は巨人族達とパスタを食って食費がヤバイとかドワーフ達と酒盛りをして酒が枯渇しただとか本当に戦地にいるのかすら怪しい物だったり、ほぼ100に近い帝国兵士の帰還率や、ブドウが豊作だとかの話で前線付近であるはずの産地が上がるとこからわかる。まあ帝国貴族用の新聞だからあまり他国や帝国民にはどれほどの緊張が走っているかはわからないが。


 昨日の腹いせにベラベラと早口で喋っているとハゲチャビンがもう座れと言って来てくれた。まあいずれ知れることとは言え、小さい士官候補生に上層部は戦争やる気が無いと捉えられかねない情報を伝えるのはどうかと言う配慮だろうね。新聞を読めばわかる話だが、ある程度整理された日本の新聞ならともかく、各国のスパイ対策で暗号が入っていたり何を表したいのか不明瞭な表が入っていたり、まあ不明瞭というか怪しいグラフを乗せて適当な報道をするのは日本のマスコミも意図的にやることなんだけど、印刷が未熟で読みづらいこちらの新聞を子供が読むかどうかなんてそうそうね。


 さて、適当に追い払ったところでだ。そう言えばこの世界について僕が思うことはだよ、神様のせいでだいぶ文明が怪しいんじゃ無いかこの世界。新聞が出せるってことは活版印刷があるし、地球で言う所の15世紀ごろの技術はある訳だ。その頃は大航海時代だし、銃も段々と普及し始めた筈だ。騎士も無くなってて良い筈だが……まだある。確かに異なる歴史を歩んでいるのだから当然と言えば当然なんだけど、ネットゲームが好きな混沌の神がいる世界だ、神様の影響だと見ても問題はないんじゃあ無いか。赤の世界は僕の妄想だと切り捨てる選択肢もまだあるにはあるが。


 神様の誕生はいつからだ……神様とは魔力の塊だ、クロノアデアはそう言っていたし、ホムラビ達と対面した時に僕はそう感じた。膨大な魔力、ないし謎の力を。


 魔力があれば自然と形をなすものなのか? そもそも神は新しく生まれるものなのか? 今現在に存在する以上、いつかはわからないが確かに生まれたものだ。ならば何かがそれを阻害しない限りまた生まれても良い物だろう。であればどうやって生み出す? ホムラビの様に膨大な魔力は必ずしも必要なのか、それともただの魔術生物なのか……頭が痛い、水に濡らしたマスクをしているかの様な息苦しさと、サウナに何分も閉じ込められたかの様な熱を感じる。クソ、またこれか。いや、何でもない。別に病気じゃなくて呪いとかの類いなんだ。適当にしてればすぐこの熱は引く。


 適当に過ごして、昼だ。あの後は当時の戦術やら何やらを教えてもらった。しかし、そんな物を一々残しているのに文明の発達が遅いのはそう言うことなんだよね。


 軽く残る痛みに眉を潜めつつ、僕はフランソワーズ君の事を考えていた。彼がまだ来ていないのだ。今日欠席か? 体育だけ出る小学生って……いやまあ、いいかな。彼の人生であって僕の人生じゃない。僕の班の成績は下がろうとも進路の決まっている僕の知った事じゃないし、バートリーさんも多分進路は嫁入りだけだろうし。


 そう考えていると山賊みたいな顔立ちの男が入って来た。筋肉質なレスラーの様な体型をした中年で、顔や腕に切り傷のある大男だ。髪は焦げ茶に近い見事な赤毛で、特に手入れされていないのもあるだろうが髪質は悪く酷いくせ毛だ。肌はやや緑色を帯びた黄色、ゆで過ぎちゃった卵の黄身みたいな……右目に眼帯をしていて、左目は意外と可愛いつぶらで綺麗な青色の目をしている。トルコ石みたいな感じだ。サファイアみたいな透明感はないが、あの目を単体で見るとそこそこかわいく……いや、ないな。


 自分の席でぼーっと見ていると付いて来いなんて声をかけられた。何かしでかしたかな僕、『君にお義父(とう)さんと呼ばれる筋合いはない』ってセリフに屁理屈をこねられるほどのささやかな反骨精神は常に持っているのだけど、これと言って取り立てて言うほどの物では。なんて考えていると、山賊さんは教室に残っていた生徒皆にもお前らもだと叫んだ。僕達全員を連れ出すとは……そもそもコイツ学園関係者か? 実は部外者……いや、そこまで帝国は追い詰められてないだろう。


 てことはあれだ、体育教官か何かだろう。そう言えば高校生故に許される無知だとは思うけどなんで体育教官なんだろう、小中では普通に教師って言ってたけど高校に入ってから急に教官って。数学教官とか言わないのにあの人達は……いやまあ、そう言ってた時代もあるかもしれないがあの人達だけ伝統的な訳を知りたいね。まあ、今の僕には関係ないんだけど。


 ぴょこぴょこ一年生の皆で付いて回ると、校庭へたどり着いて、ドロシー先輩たち三年生の姿が見えた。先輩方はこちらに気づいた様で手を振って挨拶をする。僕の容姿でいうのもなんだが、可愛い子供達だ。僕も小さく手を振って答えた。


 まあそうじゃなかったら困るのだけど、山賊さんは三年生の体育教官らしい。まあ軍事学校だから強面のほうがいいんだろうけど……だからってもうちょっと身だしなみには気をつけたほうがいいんじゃないだろうか。爪の手入れ具合とか見るにどうもロクな暮らしをしていない様だし……。


 僕はどうもこの山賊さんを好きになれそうにないな。同じ山賊風でも、カンスラダッタの方がまだ清潔だったし。まだ何日も経っていないのに少し彼が懐かしい……。

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