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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
79/167

神降ろし、あるいは移し

 拙速な僕はいつも元気に喋ってる。喋ってなければやっていられないのかも知れない、遅々とした僕はストレスを受けてもそれを認識できないかも知れないが、通常時よりも僕ヒロトは呑気な性格だ。ヒロトが呑気なら、通常時の僕のそうでない部分はアロガンが担当するわけだ。今の僕にはその心労を図ることはできない。


 テンシ様とはまた別のベクトルで結構美人なアンナさんを紹介した後、僕達はクモとヘビの神様を召喚しなければならなかったんだけど、なんだか拙速な僕は忘れてたみたいだった。これからテンシ様達は準備に入るそうで、その間はこの集落内に居なきゃならないらしく、適当に住民の様子を見に行って来いと言われた。多分僕を呼び水的な何かに使うつもりなんだろう、魔術でもそういう物はある。


 拙速な僕は臆病で、ちょっと彼らに会いたくないそうだ。まあ、彼らは何を目的に何を成そうとするのかがわからないから、彼らを拒否するのもわかる。でも、これからは恐らく彼らと共に過ごすんだから拒否をしてばかりじゃあ後々困るかも知れない。彼らとはこれっきりと言うのなら、別に僕も止めはしないのだけれど。


 嫌がる彼を宥めて集落で謎の活動を続ける人々の見学をしに行った。まず目についたのは草むしりの傍、焚き火をしている人だ。他の人は血と泥で土器の様なものを作ったり、大きな穴を掘ってたり分かりやすい労働をしているのに、彼だけ何をしているのか不明瞭だ。


「あの……もし、よろしければ何をなさっているのか教えてくれませんか。」


 謎の行動をしている男はぱっと見イケメンだ、マゼンダに近い赤い髪を浪人風に髷を結っている白色人種風の顔で、和服の上にどことなく日本の鎧風の何かを着ていた。ラス◯サムライにでも影響されたのかしら。僕が質問をすると、彼は柔和な笑みを浮かべ僕達に説明をしてきた。


「炭を作りながら土器とかを焼いてんだよ。そーだ、完成品でもみるかい?」


 そう言って立ち上がると、男は近くにあった灰の山を崩し始めた。中からは鍋の様な黒い土器が出てくる。煤けているだけかも知れないが……。男は鍋に耳を近づけて数回鍋を叩く。カンカンとやや高めの音が聞こえるのを確認して、ウンウンと頷いた。硬度は音に出るからきっとそれの確認だろうね。


「よし、ちょっと悪いんだけど、これ持って右折氏のとこ行ってくれる?」


 えぇ? なんで僕達が……見ず知らずの人に鍋を持たされてしまった。この人は僕達をなんだと思っているんだろう、初対面だよね? まあ、別にいいんだけどさ。お使いを遂行するにしても、右折さんってのは誰だろう。僕はその人を知らないし、この人達みたいにキャラネームとかを幻視する事もないから困る。僕達に煤に汚れた壺を押し付けてまた草を毟っては火に焚べる作業へ戻ってしまった。仕方がないのでtシャツ姿で暇そうにしている人を捕まえて案内を頼もうとしたのだが、拙速な僕が壺をくいくい引っ張って僕の注意を引いた。


「お前、よくあんなヤバい奴らにぐいぐい行くよな。少しは物怖じしろっつーの。」


 我ながら可憐な容姿と声だが、やはり元男子高校生の悲しさよ、少し言葉遣いに品がない。まあ、普段は僕々と育ちのいい振りをしているが、ああ言う本性担当の彼だから仕方がないと言えば仕方がない。悠長に彼について考えていると返事を返さないことに腹を立てた様で、拗ねてしまった。男性の拗ね顔に関しては厳しさに定評がある僕だが、まあ自分には甘くもなる。それはともかくとして、またまたそこそこの造形の顔をした男をに右折さんとやらについて聞き込み始める。


「右折さん? 右折さんは……ああ、今ちょっと狩りに出てるっぽいね。」


 男は目に見えない何か機材を弄って答えた。立派に文明が感じられる服装で原始的な事をやっていたり、所々に狂気が見られるな。しかしそれは困った、チラッと拙速な僕を見るけれども特にいい閃きをしてるわけでもなさそうだし、お手上げだな。まあそもそも僕達がお使いをしなきゃいけないわけでもないし、大人しくさっきの人に壺を返すのも手だ。その場合に僕へ命の保証があるか走らないが。


「俺が後で渡しとくよ。あっそうだ、その代わりトーマスさんって髪が青い人にこのお守り渡しといてよ。よろしくね。」


 ……仕事には、適切な報酬が設けられるべきである。例えば、遂行する仕事と同等の仕事の免除等。この場合、僕達の仕事の報酬は何だろう。彼等がもたらしうる危機からの命の保証以外は何もないじゃないか、マッチポンプも良いところだ。だが人間、法に従わない者を裁くために法から逸脱することはしてはならない。法で裁けない悪を裁くには、それを裁くために法を改めるしかない。私刑でその人を三枚に捌いたりしちゃいかんのだ、法の下で裁くと捌くことが決まるのなら良いのだけれど。まあ法の守る守らないは究極的でに考えると本人に委ねるしかないから、別に私刑を止める術は法で許された手段以外ないんだけどね。


 そう、法が許すなら人間は何をしたって良い。何故かと言えば法を定める時は常に民意だからだ。絶対王政なり独裁体制なり、嫌なら反乱でもなんでも起こせば良い。起こせないのは、直接的に見えないだけで皆がそうである事を選んでしまっているからだ。だから皆がそう望んだ結果たまにクーデターは起こるしフランスじゃあよくストライキが起きる。いくら文明が進んだって結局は生か死かのやり取りさ、極端な関税かけてこのままお前を餓死させるぞとか、それなら核打ち込むぞとかのな。そうだからこそ民意なんて物が力になりうる。人が結託すれば直接的でない方法で人を殺すのは簡単だからね、殺さないにしても、生きていられない状況へ追い込むことは。人はそれを、自殺補助と呼ぶ。


 そんな強大な民意で作り上げる法だからこそ、人間に絶大な力を与えられる。それなら法を作る人は自分に有利な物にするに決まってる。だから法を作り上げる人は強い。力が欲しいなら民意を集めて法を作り上げる他ない。なあに、こんな精神疾患者の有象無象など烏合の衆も同然よ。僕ならやれる、僕は、新世界の神になる……!


 ばかなことはおいといてだよ。青い髪のトーマスさんね、青い◯ーマス、上司に◯ップハムハッ◯卿とか言う無能に近い人でもいるのかな。青い髪のトーマスさんトーマスさん……まあ、いくらファンタジーな髪色が許されるとは言え青い髪だ、十数人に近い中では目立つもの。考え事をしながらと言うこともあって、特に長い時間を探すのに費やした感覚もなく見つけることができた。トーマスさんは家の建築をしているらしい、土を薄汚い赤い水で粘土の様にしては植物でできた家の骨組みにくっつけている。


 汗流し泥積み立てて建てる家、そうまでしても建てる意義にや。ヒロト、心の歌。


 日本はプレートの間に位置する災害の多い国だ。地震や火山活動から津波や火山灰降下による冷害などだけではなく、雲が傾斜のキツイ山を越える際には大雨をもたらし洪水や土砂災害に飽き足らずそれらによる三次災害は枚挙に事欠かない。だからか、梁を三角構造にしたり水溶性でない物を建材に使ったりしていないと、文明が未発達の様に思えてしまう物だ。勿論、こちらでは雨が降るのか地震が起こるのかどうかすら分かっていないのだが。


 うすら汚ならしい労働者階級の人に声をかけ、トーマスさんである事を確かめた。なんだかこの人も容姿の整った男性だった、顔的にはゴッ◯ファーザー時代のアルパチーノのホリを浅くしてシワを伸ばしたかの様な……イケメン、ではあるけれどどうも日本人に寄せようとして顔が崩れたというか何というか。人種が違うんだから無理に合わせずとも、その人種に合うかっこいい造形が有るだろうに。イタリア男の気楽さと日本男児の堅っ苦しさと言うかむさ苦しさでは、男前な顔つきでもだいぶ変わった物になるだろうよ。まあ、日本人だって三船敏郎さんとか外国人の様な顔つきの人もいるけどね。


 泥だらけになったトーマスさんへ僕たちは預かっていた御守りを手渡した。魔術が使えないここではそんなスピリチュアルな物が役に立つとは思えないけれど、まあそれは早計であると言わざるを得ない。モチベーションやら何やら、精神は驚くほど現実に作用するのだ。たかだか人間の頭1つの狭い空間内でのミクロの事象ではあるが、それのもたらすマクロな効果は計り知ることが出来ない。皆もカオス理論を信じようね、カオス理論を認めれば諦めもつきやすくなる。


「いやあ、助かるよ。今の村だとどうも人手が足りなくてね。行商人が来れる様にするまでの辛抱なんだけどね。」


 トーマスさんはハーレー飛ばすメリケンよろしくの豪快な笑いをした、そう言えばこの人達もロードアビスと言う世界から来たらしいのだけれど、本当にここに来る人たちは同じゲームのプレイヤーなんだろうか。三度の来訪者達はどの人もヴァーチャルリアルオンラインゲームをしていると言ったけれど、その上舞台もロードアビスだったんだけど、どうも同じゲームをしているとは思えない。単なるオンラインRPGかと思えば恋愛ゲーム要素があったり、今度はガーデニングゲームというか、開拓ゲームだぞ。しかも結構原始的な物だし、いや、レンガ造りの家が登場キャラの家になるあたりそうでもないのか? まあ、少なくとも前回の産業スパイの目では僕達にテクスチャが貼られてたし、彼らは石造りの建物を建ててるつもりでもおかしくはないな。狸に化かされてる様な物かも知れない。それは置いとくとして、度重なる大型アップデートと言ったってそんなぽこじゃかぽんぽことゲーム内コンテンツを追加するか? もしかして彼らのゲームはシリーズ物だったりするのか? 余計な新要素追加とマップの使い回しみたいな。あるいは、並行世界だったり?


 お使いを終えてやる事もなくフラフラと歩き回っているとホムラビが僕達を迎えに来た。ようやく二柱の神を連れて来れた様だ。さてさて、赤蜘蛛と黒蛇の神様達だったな、どんな化け物やら少し楽しみだよ。蜘蛛とかだって僕は一般的な人と比べれば抵抗はないけれども、崇め奉られるような化け物だぞ。どこまで恐ろしきものやら……。


 他の粗末な家とは一線どころか数線は画した素材で作られた僕らの家に近づくたびに、段々と神々の圧と言える様な物を肌で感じる様になる。ピリピリと刺すような鋭さと胃を握りしめられるような鈍さが……うん、僕の食道からエクトプラズムが込み上げて来る。あのホラー映画絶対ゲロだよね……いや、こういう下らない物を言ってないと本当に吐きそうで。


 ホムラビは玄関の前で待つそうだ。心細いし一緒に来て欲しいとねだったのだが断られた。何がいけないのかは判らないけれど、まあ神様の事情があるんだろうと思考を放棄する。そう言えばこの家ってなんで玄関あるんだろ、全員土足で出入するしシュテンドウジと僕に至ってはなぜか靴すら履いてないのにね。


 圧を感じて2人してトリップしている僕達の緊張を他所に、部屋の中には優しそうな2人の人物がいた。まあ詐欺師は笑顔がうまいし泥棒はスーツ姿でインターホンを鳴らす、外見が良い奴はそれを利用するものだ。美術の目を持つ僕がいうのもなんだが、パッと見の外見から信じられる人柄はあまり多くない。その生活習慣くらいは言い当てられるけどね。


 部屋にいた2人は女性だった、どうせ拙速な僕が喋ってくれるので僕は会釈だけして彼女らを観察する。両人ともどこから仕入れてきたのか麻のような生地でできたソファーに腰掛けていて、ホムラビとは違い成人女性の姿をしている。片方の人はギリシャ系のしっかりとした面立ちで編み物をしていて、もう片方の女性は浅黒い肌にやや鷲鼻と言うか、中東系の顔をしていてリンゴを食べている。……待ってくれ、いつもの様にベラベラと語りたいのだけれど言わせて欲しい。あからさま過ぎないか?


 蜘蛛と編み物と女性といえばアラクネさんと言うギリシャ神話の人物が有名だ。神々を冒涜する様な柄で見事な織物を作り上げたら怒った女神に蜘蛛へと変えられてしまった人だ。蛇とリンゴと女性といえばアダムの最初の妻リリスだ。キリスト教はユダヤ系で、ユダヤは中東あたりだからあの顔立ちも納得できる。まあ知恵の果実がリンゴであると言う説もあるだけで他の説によれば無花果だったり柑橘だったりバナナだったりするわけだが、そこを疑う場合は蛇がリリスかどうかも疑うので無視だ。


 しかしなんでこう……地球との文化的背景が見え隠れするんだ。おかしくないか。民族衣装ってほとんどが異様に見えるよね、あれは凡その伝統的衣装がその土地の必要に合わせたものなんだからなんだよね。後は文化的背景に合わせてたりで、結構な場合で服装は変わるはずなんだよ。例えば下着といえばあれは元々西洋の物で、日本の男性は確かにふんどしを履いていたのだけれど、古くの女性はふんどしやらの下着を着けないことが一般的だったり。他に言えば昔のエジプト人やローマ人はズボンなんて履かなかったけど、その時にも北欧の人達は寒かったから履かざるを得なかったんだ。


 後は美的感覚ね、なんでこちらの世界で線の細い人が美人になるんだ。戦いに赴く男性はダビデ像に見られる様に前々から細いけれども筋肉質な人が魅力的とされていたんだけど、女性はアフロディーテに見られる様なデ……言葉に気をつけると豊満な方が魅力的とされていたんだよ。豊満って言ってもまるっきりの豚じゃなくて骨盤がしっかりとしてるってだけね。今で言うポッチャリ系と標準体型の中間ぐらいかな。確かに勝利の女神ニケの石膏なかでも細身の女性が出て来たりするし、細い女性がいいとされて来た時代もある分にはあるんだけど……。


 中世の医療技術じゃあ腰の骨があまりに小さいと難産か死産かが危ぶまれるからある程度ポッチャリ系の人がモテたんだよ、体力のない太り過ぎた人はそれはそれで忌避された。18世紀で美しいとされた人、マリーアントワネットとかの肖像画を見ればわかるけど、あの人って頰がやけに赤く丸っこいだろ? 頰の赤みは幾分かは血色をよく見せる化粧もあるだろうが、あれは太ってる人によく見られる顔つきだ。あれで美しいとされるんだからもうね。まあフランス王妃だから美しいと言うしかなかったのかもしれないが、ここでは彼女が当時の人にとっては美しい人だったと言う前提で話を進めさせてもらうよ?


 それで、そもそも欧州の人は黄金比に見られる様に縦長で、多少胴体に肉がついても日本人の白銀比に近い顔に慣れた人じゃあ顔が太っているかどうかもわかりづらい。まあマリーアントワネットの絵の全体像を見れば普通の体つきをしているが、あの時代はコルセットで胸を強調する事が流行った。そのせいで通常の体型が分かりづらくなってるのもあるだろう。


 ともかく、時代はポッチャリ系のはずなのに、体型は細身がいいとか、わがまま放題じゃあないか。なんというか、日本のオタク文化に近い、まるで本当にゲームの様な……いや、よそう。自分の勝手な思い込みで自分から勝手に混乱したくない。


「おーい、きこえてるか? そこのぉ、神々からの説明を上の空とはまた我の強い。別に構わないぞ? だがそれ相応の対応はさせてもらうが。」


 おっと、熱くなり過ぎていた。つい考え過ぎて、蜘蛛の神から叱責をうけた。幸いな事に彼女らはギリシャ神話に出てくる様なネチっこいと言うか、ただ強大な力を持った人間のような性格ではなく、素直に謝るとカラカラと笑って許してくれた。いやあ有難いなと考えていると、ふと拙速な僕が気になった。彼ならこういう時にすぐに教えてくれそうな物だけど……目を横にやると、彼の青ざめた顔が見えた。焦点が定まってない、彼は急にどうしたんだろう。あ、もしかして僕が蜘蛛や蛇に対して不快さを感じない一面を担当しているとか?


「流石、お前は違うな。お前あれだ、部屋を蜘蛛がうろついていてもそこまで気にしないタイプだな。気に入ったぞ、お前。」


 いや流石にそれは気にするけど、しかし否定する必要はないか。神からの加護を受けられると思えば気にしないことは出来なくもないだろう。それに大勢の人が嫌っているし、せっかく忌避感を覚えないんだから、僕くらい彼らを好いてあげなきゃね。僕が素直に頷くと隣の彼はすごく驚いた表情をした。他人の好き嫌いを疑うとか、普通そこまで嫌うか?


 あまり彼が拒否反応を示すので、僕は糸が張るギリギリまで歩み出た。まあ数歩だけど、部屋の中ではそこそこ近ずいた事になる。物怖じをしない方がお好みな様だから、近づいたのだけれど、この蜘蛛の人凄いな。虹彩が1つの眼球につき四つある。大小の大きさがあるが、一様な色をした薄い虹彩が独立して動き、重なった部分の色が濃くなっている。どんな構造をしてるんだろう、解剖して見てみたい……いや、だって虹彩は眼球の中心に固定されてて、眼球の横についている筋肉によって眼球の向きが変わるから、虹彩が動く様に錯覚するんだぞ。あんなレイヤー構造を取る様なファンタジー系のは気になっちゃうじゃないか。怪しい話じゃあないはずだ。


「怖いもの知らずよのぉ、いいぞ。気に入った気に入った、お前に私の力を分けてやろうぞ。取り敢えずは式神でいいよな? 近う寄れ、近う寄れ。」


 随分な語調だ、そう呑気に考えながら拙速な僕の腕を引っ張って蜘蛛の神様まで近づいた。式神を与えるとは言われたものの、一体どうするんだろうか。僕がじっと彼女を見つめていると、彼女は急に立ち上がり、僕の唇を奪った。いや、どちらかというと、舌に噛み付いたと言うべきか。欧州系の人達は節操云々とは聞くが、挨拶のキスは頰だろ、しかも相当な仲で無いとしないだろうし。


 だから多分これはそんな生易しいものじゃなく、涙が出るほどの痛みと血を使う様な魔術だ。実際僕は死ぬほど痛い、痛みで暴れていると、後ろから蛇のお姉さんが抱き締めてきて、僕が痛みで暴れるのを抑えようとしたのかと思えば、彼女もまた首筋に噛み付いてきた。なんだ、なんの文化なんだ。そう言えばホムラビも最初は首から血を出させたり、顔中を舐め回したりしてきた。今回も血を吸われる様で、ズルズルとナメクジが這い回るか、あるいは蛆が巣食うかのように舌で傷口を嬲られる。当然僕は体を動かすのだけれど、神様特有の超パワーで押さえ込まれる。


 蜘蛛の神の虹彩が忙しなく動いた時、舌に焼ける様な激痛が走った。いや、襲われたと言うべきか、唇を離された今も尋常じゃ無いほど痛い。唇から血がダバダバと溢れ、息が出来なくなる。ニタニタと蜘蛛が目を細めた。血を吐き出すために前かがみになろうとすると、蛇の女が僕を抑え込み、僕の首を噛みちぎった。まるで熱された鉄棒を口の中に捻じ込まれ、焼きごてを首に押されている様だった。


 ああ、拙速な僕が見える。彼はひどく動揺した様だ、僕は恐ろしいほど冷静になったが。一つの精神を無理に真っ二つに分けた障害だろうか?


 苦しくて、熱くて、なんだか体の芯が冷める様な感覚がして。僕は赤の世界から目覚めた。


 痛みが嘘の様に引いたのだが、いつもの如くおびただしいほどの寝汗だ。僕は自室にいて、外の様子を自作の窓から眺めると今は夜中だと気づいた。クロノアデアが隣で寝ている、きっと朝に逃げ出したから僕の様子を心配したのだろう。しかしまあ家族同然だけど、同衾は少し心臓に悪い。僕は寝起きの働かない頭をどうにか解決策を探す様に働かして、寝汗でビッショリのベッドから抜け出しクロノアデアが普段使っている小さいベッドで寝ることにした。いや勿論、寝汗で濡れたベッドはタオルやらなんやらを敷いたりの応急手当はしたよ?


 しかしクロノアデアのベッドはマット自体が少し硬いし毛布がどうにもゴワゴワしている。使用人だから雇い主と同程度に取り扱うわけにはいかないとは言え、この労働環境を改善せねば……そんなことを考えながら、僕は好きな異性の布団で寝るだなんて、なんと表現したら良いか判らない愚を犯したわけだ。


 なんだか恥ずかしいので、今日のところは語るのを止めよう……。顔から火が出そうなほどに熱いのがわかる。

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