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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
7/167

一年

短くなってしまった。

「さあ、あんよがじょーず、あんよがじょーず!」


 メイドが少し離れたところで手を叩いて歌うので、そこへボールを持って歩く。よたよたとカーペットの上を滑りやすい靴下で歩いて行くのは大変だ。ボールもゴムまりみたいなものじゃなくて、ヌイグルミみたいに綿を詰めた袋だから持ちづらいし。


 メイドと遊ぶことに関して恥ずかしさはもうない。


 自分で下をコントロールできないだけでなく、女の子におしめを取り替えられるのは確かに今でも屈辱的だし、慣れるべきものじゃない。


 だが彼女だって賃金が貰えるからって可愛げのない赤ん坊の世話を見るのは嫌に思う面があるだろう、ここは男の子として一歩譲り、全面的に協力してやろうと思うことにした。それ以外に手立てがないってのもあるが。無視っていうのも結構体力を使うものなんだ。


 こちら側の気遣いとしては彼女が居眠りをしてる時は腹が減っても呼ばない、下の方は漏らす前に告げる、楽しませようとしている時はたとえ屈辱的でも全力で笑う。


 前に「いないいないばあ」的なものをされた時はあまりの恥ずかしさに徹底的に無視を決め込んだが、その後の落ち込みようをみて可哀想に思えた。コレでメイドがそこそこの年を重ねた人ならば哀れに思わないが、おそらくまだ彼女は未成年だ。同い年ぐらいの子の涙を無視するのはきつかった。


「よく出来ました、坊ちゃんはすごいですねー。もう一回しましょうか!」


 ……ああ、恥ずかしい。






 子供部屋にて、乳母が厨房の女中と話をしている。部屋の中で子供が歩き回ることを考慮して、2人ともブーツを脱いでいた。若い乳母は足を子供を抱いている。


「ポミエさん、最近はどうですか?」


 寝る子をあやしながら乳母が女中に話しかけた。スヤスヤと寝息をたてる子供に気遣ってやや小声で話していた。子供は乳母の腕の中でぐっすりとここちよさそうに寝ている。


「いやぁ、相変わらずですよぉ。坊ちゃんのご飯はともかくとして、流石に1人で全員分を作るのは疲れますねぇ。お食事の時以外は暇なのですがぁ……まあこの仕事にも慣れて来たといえば慣れて来たましたよぉ。そちらはぁ?」


 女中は鬱陶しそうに肩をすくめたり、にこりと笑ったりとせわしなく表情を変えながら乳母に話題を振る。一方の乳母は会話が始まる前からも変わりなく、花のような笑顔を見せている。


「坊ちゃんですか? 夜泣きもしませんし、お漏らしもしませんから楽ですよ。今もこうやってぐっすり寝ていますし、本当に先輩から聞いていた話が嘘みたいです。」


 乳母はそう言って抱いていた子供を揺らす。揺らされた子供は少し寝苦しそう身じろぎをした。乳母は慌てて子守唄を歌った。不慣れな後輩を見て微笑ましそうに女中は微笑んだ


「羨ましいですねぇ、初めてですよね? この仕事。」


 そう聞きながら女中は穏やかな笑みを浮かべ、優しく子の髪を撫で付けていた。窓から差す陽の光にあたりながら、子は気持ちよさそうに笑った。


「ええ、家事仕事は経験してるんですが、なんの手違いか乳母として斡旋されちゃって。」


 乳母が先ほどまでの笑顔を少し曇らせ不思議そうな顔で答えると、女中は嬉しそうに笑った。顔を寄せて乳母にこそこそと耳打ちをする。


「私ちょっと調べたんですよぉ、なんでマフスフプスさんがうちに来たか。でぇ、聞けばマフスフプスさんを呼んだのって、お城にいるあの執事らしいですよ!」


 女中は集めた噂を嬉しそうに話した。お城にいる執事とは、この館を含め城で働く全ての使用人の取り纏め役だ。当然完璧な仕事を求められる上に誰かが失敗をしたら減給や嫌味などの罰を与えるために、乳母の驚きもさることながら、女中の顔は普段の鬱憤を晴らすようにニコニコとしていた。


「ええ! あのお爺さんがですか。何がしたいんでしょう、あの人1番そういうのに煩そうなのに。」


 寝ている子供を抱いているために小さな声で驚きを述べているが、そうでなければ大きな声を上げていただろう。その驚いた顔を女中は嬉しそうに見て、矢継ぎ早に聞いた噂を話していく。


「折檻を受けたらしいですから、本当に手違いっていうのが今のとこ有力ですよぉ。それで仕事の説明も受けてからでしょう、手違いってわかった時。今更取り消すことも難しいし、護衛も兼ねてそのままって——。」


 話の途中で女中は声を潜めた。興奮しすぎたのか、子供が目覚めかけてウンウンと声を漏らした。女中が泣いてしまわないように子供をあやし始めた。それから子供が元の通り穏やかな寝息を立て始めた頃、乳母がまた小さな声で話し始めた。


「なるほど、私もびっくりしたんですよね。護衛の依頼って聞いていたのに、いざ来てみると乳母として仕事しろだなんて。お乳も出ませんし無理ですって断ってももっと出すって言われちゃって。」


 乳母はため息をつき自分が来た経緯を話した。それに立て続けに、子供の待遇に対する不満も。


「坊っちゃんが可哀想ですよね、人のお乳じゃなくて家畜のお乳を飲ませるだなんて。」


 子供は、親元から、それどころか人里から離れた場所で育てられていた。その家柄には不相応な待遇だった。一国を代表する家の次男が、素人の女中に囲まれて育てられていたのだ。

 普通、子育てこそ女性がやる者だが、家というものは果実酒の管理や門番などの警備等、男性がやるべき仕事がある。そういった仕事をするべき者を惜しみなく雇ってこそ子供も快適に暮らせるというものを、在ろう事か集められたのは職歴や血筋もバラバラな女中ばかりで、これらのことは一般の感性を持っていたらとても納得できるものではなかった。


「おかしいですよねぇ。こんな森の奥に急に屋敷を建ててぇ、そこで密かに育てろだなんてぇ。全く、事情もなんだかわかったようでわからない物ですしねぇ。」


「雇われている以上は逆らえませんがね……。」


 女性使用人達は井戸端会議で1日の多くを潰していった。





 ……愚痴、聞こえてるんだよなあ。そりゃあ、急に起き出して『え、それどういうことなん?』とかは聞き出さないけど、そういうものなの?


 僕って高貴な生まれ?

 ブルーブラッドが流れてるの?

 戦争になったら積極的に参加しなきゃいけないの?

 つか『護衛』ってなに、聞いたことない単語だからよくわかんないけど、子守とは関係ない言葉だよね。若いし洗濯係とか?


 つか爺さんが『折檻』なるもの、多分翻訳するならお仕置きを受けたらしいけど大丈夫なのか? それほど僕って異常な環境で育て上げられてるの?


 えっと、メイドさん一人を雇うのが住み込みかつコックさんを除いて食事付きだとすると、まあ農夫の平均所得をギリギリ満たないくらいだと思うけど、少なくとも十数人程度を森の奥に押し込められる訳だ。

 そう言えば城に住む執事って言ってたな、下手したら王族並みじゃないか?


 ああいや、日本じゃないから一国一城である必要はないのかな。てことは……まあでも、貧乏ではないだろう。


 おっと、狸寝入りがバレそうだ。もっかい目を閉じてじっとする事としよう。まあこの体では、そのまま、寝てしまうことも……あるの……だけど。


会話を書きたい時って地の文に何を書けば良いのかわかんなくなっちゃうんですよ……orz

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