転生より半年間
描写が難しい> <
衝動で書き始めるもんじゃないですね……。
最近、頭がぼんやりとする。
視界も酷い、白以外の何も見えない。
そして何より、記憶。
昨日のことが思い出せない……時間感覚があやふやだ。
【――――――。】
またか、最近は耳鳴りもする。
この耳鳴りはしばらくすれば治るが、当然だがあまり気持ちのいいものではない。
不定期に、頻繁に始まる耳鳴り。
まるで地獄だな、ここは。ここに入りし者、全ての希望を捨てよとは、ダンテも言ってくれるじゃないか。
年若い乳母がゆりかごを揺らしていると、ついこの前から付き合うことになった赤子が泣き出した。
「はいはい、どうなさいました坊ちゃん。」
赤子を抱き上げ下半身を確認する、汚れた様子はない。
ご飯だろうかと考え赤子を抱えたまま魔術でミルク瓶を寄せる。
「お乳ですかー、よしよし温めますからねー待っててくださいねー。」
空中で黄色い瓶がゆらゆら揺れていると思えば、見る見るうちに瓶の中のミルクから白い湯気が立ち、ふつふつと煮立った。
「さあ、もう少しですよー。今飲めるようにしますからねー。」
乳母が宙に浮く瓶を頰に当て、数秒固まる。
「はい、どうぞー。ミルク一杯飲んでくださ……あれ?違うんですか。えーっと、どうしましょ。」
赤子は瓶から口を離して抵抗する。やがてゆっくりと大人しくなり、赤子は眠りについた。
「ああよしよし、寝付けなかったのですね。ねーんねーんこーろりよー――。」
いつのまにか、落下は止んで周りの風景も変わっていた。
今はカメラのピントがあっていないような、ぼんやりとした赤いマーブル模様のような風景が見える。はは、なんだ地獄の観光もいよいよ中層か。その割には悪魔が見えないもんだ。
耳鳴りは止み、代わりに聞こえるのは轟々とした訳の分からぬ音。
ただ、相変わらず時間感覚がおかしい。
下手をしたら一瞬前の記憶も思い出せない。
乳母がベビーベッドのそばでうたた寝をしていると中の赤子が目を覚まし、手を目の前でバタつかした。
幼児特有の意味のない声を出している。
「——おや、目が覚めましたか坊ちゃん。お腹は減っていないようですし、遊びましょうか。」
赤子を抱き上げ、その幼い容姿を見て乳母は目を閉じ抱きしめる。
「ほおら、たかいたかーい、たかいたかーい!」
赤子は表情を崩さない。部屋に1人の若い少女の声だけが響く。いかにもつまらなそうに少女を見下ろす赤子と、いかにも楽しそうに赤子を抱く少女。
「むぅ、坊ちゃんはあまり興味がない様子……そうだ、坊ちゃんはお歌が好きでしたよね。今お聞かせします!」
乳母が歌いだすと赤子は今までの態度から一転し、無邪気に微笑む。
だんだんと目が、まだハッキリとはいかないが確かに輪郭がわかる程度には見えるようになってきた。
耳も調子が戻ってきた。
時間感覚は未だに慣れないが。
「————————。」
今まで死んでいた知覚神経が戻ってきて自分の状況わかったことがある。
相変わらず、非現実じみているが。いや、今まで見ていたものが本当に現実だったのかもわからないが。
本当、精神に異常をきたしているんじゃないかと我ながら思う。
主観で語れば、僕は生まれ変わった。まるで異なる常識の世界に。魔法、そんなものがあふれるファンタジーな世界に僕は生まれた。恐らく、貴族の子供として。
魔法についてはまだ理解が追いついてない部分もあるから、少し説明は控える。
でも、魔法なんてオーパーツがあるのに、この世界と元の世界の文化は相当に似通ってる。
僕をお世話しているメイドに似たような職種の人がメイド服に似たような服を着ている事からの推測だけど。
貴族って推測は部屋からも来ている。
いかにもお金のかかる装飾のこったベビーベッドに僕はいて、今はまだハイハイもできないが見渡す限りは高級ホテルみたいな、鮮やかな赤い部屋にいる。ベッドも多分大人が寝ても窮屈はしないだろうと言う大きさだ。この生活水準が貴族じゃなかったらちょっと悲しい。
うちはそこそこの貧乏だったなぁ……いや、学校には行けたし、バカみたいな値段のする画材だってある程度は買えたけどさ。
いかにも金をかけた部屋で毎日メイドが僕の世話をしてくれる。メイドってお世話の子もいるし、本当に貴族なんだろう。
悪趣味だ、すごく気恥ずかしい。だって精神的には僕はもう18に行くんだぞ? こんな屈辱に耐えれるか。
僕を世話するメイドは綺麗な人だ。
サラサラの髪、パッチリと開かれた輝く宝石のように鮮やかな目、透き通るような肌、白く美しい手。
ただ人種がファンタジーな感じで耳が尖ってて目が翡翠、髪はグレーになっているのでコスプレのような感覚は拭えないが。
学校一のアイドルみたいな、そんな感じだった。
見た目からして恐らく元の体と同い年の子だ。
そんな子に、抱きつかれたり、幼児の遊びをして、挙句の果てに下の世話を。恥ずかしいやら情けないやらで頭がどうにかなってしまいそうだった。それは僕だって健全な男子、可愛い子は好きだ。いつも一緒にいるのは確かにいい、嬉しい。けど違うだろ!
甘酸っぱい恋愛をしたいんだ、そうと言わなくとも何気ない日常を送るみたいな……近くで普通の生活したいってそんな高望みではないと思うんだけどなぁ
さっきも言ったけどさここの生活は悪い物ではない。ご飯は出てくるし、空気はメイドさんが毎日毎日献身的なお世話をしてくれるから至って快適な暮らしだ。
僕が暮らしている館は深い森と薔薇園の様な庭園で囲まれていて、朝に霧が出来たりとそこそこ湿潤な気候だ。ヨーロッパは噴水が出来る程乾燥した場所だと聞いていたけど、多分イタリアとかイギリス西部の様な場所なんじゃないのだろうか。海が近くて山も近い……みたいな。まさかコレも魔女の魔法で成り立っている様な事ではあるまい。
あるいは、普通に辺り一帯が温暖湿潤気候の、東アジアとかに位置するのかなあ。あまりハッキリとは分からないけど、多分ここまで似通った文化なら違う……と、おもう。でも、ファンタジーだからある程度は覚悟していた方がいいかも。
たまに、チラチラと視界の端に綺麗な光が見える。多分、コレが魔法、いや魔法の力、つまり魔力だ。僕の体から発されることもあれば、魔法が使えるメイドさんが実際に使った後、自然とできることもある。こっちへ来いと思って手を伸ばすと引き寄せることができるので、多分この世界では誰でも魔法が使えるのだと思う。
まあ、青ダヌキの電話ボックスでメガネが作った世界と同じだ。チンカラホイとかアブラカタブラとか言っても何も起きないが。
しかしつくづく美しい世界だ。朝に雀を見かけたり、昼に草花を愛でたり、夜は蝋燭の光を眺めたり、雅やかでのんびりとした良い世界だ。でも、こんな世界でも、父さんや母さんは……いない。それが実に悲しい。嫌だなあ……全く。
あまり進展のあるような無いような話になってしまいましたが、それでもここまでお読みいただきありがとうございます!
まだプロローグみたいなものすら始まっていませんが、よろしくお願いしますね。