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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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失踪当日

ワナビの特権つまり実験!

 俺の息子は、少なくとも金や足も用意せずに家出する馬鹿じゃない。その点においては信頼しているが、実際問題としてアイツはいない。一体全体、どこへ消えてしまったのだろう。強く窓を打ち付ける雨が、俺を一層焦らせた。


 朝起きたら、息子が失踪していた。制服、そのまま。パジャマ、一着足りない。靴、足りてる。私服も何も、息子の寝巻き以外消えた形跡はない。


 しかし家にいない。


「どうしましょう、あなた。」


  聞かれても困る。 だが、夫である俺が妻であるアイツをそう突き放しちゃいけない。できる範囲でしっかり答えよう。俺は髭を撫でながらゆっくりと答えようとした。


「靴は全部あるのに家にいない。コレはつまり……いや、とりあえず、学校と警察に連絡しよう。犯罪に巻き込まれてたら大変だ。」


「警察!? いえ、そうよね。早速してくるわ!」


  妻が慌てて電話に向かう。飛び出すように動いたので、足を廊下にとられ転びかけた。咄嗟に腕を掴んで支え、しっかりと目を見つめた。こんなに慌ててちゃんと説明できるか不安だ。ここは俺がやるべきだな。


「まあ待て母さん。落ち着こう、落ち着けないというのはわかるが。まずは深呼吸だ……よし、母さんは学校の方へ連絡してくれ。警察へは俺の方からしておくから。」


  妻はこう行った突発的な問題に弱い。普段は即断即決で行動するが、いざという時こうやって舵取りをしてやらないといけない。俺がしっかりせねば。俺は深く息を吸い込み、震える指で1と0の番号を押した。


「もしもし、朝早くから失礼します。はい、捜索願……ええ、行方不明者届です。子供が……はい、今までそんな素ぶりは……はい、昨日まで普通に————。」




「あ、山岡さん。先生ちょっと会議で今日部活見れない。ああ、あと佐々木君は部活来ないから、ヨロシク。」


 いつものように埃臭い教室で、思った色が出なくて四苦八苦して絵の具を混ぜていると唐突に先生から話しかけられた。筆を置きエプロンを正しながら先生の顔を見ると、少し焦っているようにも見えた。


  「部長が?  わかりましたー。」


  ヒロトくんが部活に来ないなんて珍しいな。先生の足音を聞きながら思った。どうしたんだろ、早退かな? そう言えば朝も会わなかったし風邪なのかも。そう思いながら筆を取って絵に向き直すと、ガラガラとまた教室のドアが開閉される音がした。


「ちわーっす。あれ、部長まだ来てないんですか?」


  いつものように古谷さんが来た。


「ああ古谷さん。今日部長は来ないんだってー。それと、先生は今日いないから早めに切り上げていいよー。」


  古谷さん、筆が早いからいっつも途中から絵が乾くの待つって携帯いじり始めちゃうんだよね。うちは顧問の先生が緩いから良いんだけど、ちょっと他の先生に見つかったら怖いからやめてほしい。


「へぇ……今から見舞いには行かなくていいんですか、愛しの彼の。」


  古谷さんが絵の準備をしながら聞いてくる。少しドッキリして筆がブレた。危ない、取り返せる範囲の失敗でよかった。腹いせではないが、私は少し早口で彼女に反論した。


「イヤイヤ、なんで今から。大体、風邪かもわかんないし忌引きとかそういう公欠かもしれないでしょ、私が行く意味もわかんないし。」


  別に付き合ってもない、そう口に出すには少し彼女の前で彼と一緒に良すぎたかもしれない。私の舌は空回りした。


「えぇ?  何時もあんなくっついてるじゃないですかぁ。ほら、話してください。本当は心配なんでしょう。」


  古谷さんが壺に油を注ぐ前にこちらへ顔を近づけて喋って来た。私は少し嫌になって、彼女を見ずに絵だけを見て答えた。


「くっついてません。一緒に帰宅してるだけです。部活も同じで、家も近所なんだもん。そうなっちゃうよ。」


  ただの幼馴染、日本全国に腐るほどいる関係だって。私はそう付け加えた。でも、実際にどうなのだろう。欧州などでは告白という文化はなく、自然と恋人という関係になると聞く。私もそうなのかもしれない、ただ、彼は男性的というよりも……。


「えぇー! つまんないなぁ! そこはくっついといてくださいよ、それでも思春期の幼馴染キャラですか! 」


  古谷さんってしつこいなぁ。ヒロトくんと私が付き合ってるだなんて、別に彼女になんら影響もない、どうでもいい事じゃない。他人の交際関係に口を出すなんてはしたない、本当に信じられない。そもそも自分が愉快か不愉快かで交際すべきかどうかを判断するだなんて、ひどく不道徳な話だと思わないのかな。


「キャラとかわけわかんないこと言わないの。そこまで言うんだったら自分で他の誰かと付き合えば良いじゃない。」


  古谷さんってオタクっぽいんだよね、メガネかけてるし。いや、我ながらちょっと短絡的すぎたかな。でも別に彼女に私の思考が読まれるわけじゃないし、気にすることでもないか。


「いや、私は良いんですよ。でも見ましたよ。先週の土曜日一緒にデパートの洋服コーナーに居ましたよね?、ほら、これ証拠写真です。」


  そう言って突きつけて来た携帯の画面には、確かに私と彼のツーショット写真、2人で洋服を見てる。ただし、コスプレ用の黒いワンピースとエプロンを。はぁと息を吐き、私はとうとう彼女へ体を向けた。


「それ文化祭の買い出しって知ってるよね、そもそも古谷さんもいたよね。」


  部の出し物で作品展示なんてやるにしても文化祭っぽさを演出しようって、二人で必要ないって言っても無理やり古谷さんがコスプレをねじ込んだ癖に……。恨み節を言いながら、私は彼女をジトりとした目で睨んだ。


「いやぁ、オタクの自分にはあの甘い感じが耐えられなくって! つい遠くから写真を撮っちゃいました。」


  酷く自分勝手で享楽主義の意見に呆れた私は再び絵に向かって作業を再開させようとしたが、古谷さんが少し待っててくださいとまた携帯をいじり、画像を突きつけて来た。


「あとファミレスでカップル用パフェ食べてる画像もありますよ、ホラ。」


  明らかなウソだった。そもそもそんな記憶はないのでどんな画像が来るのだろう、私は少し興味を持ったので古谷さんの携帯を見た。


「悪質コラージュ、せめて美術部らしく手を込めてよ!」




「来ちゃったなぁ。」


  ──来ないはずだったんだけどな。

  古谷さんが、あんなこと言うから。お見舞い、ジュースしか持って来てないけど良いよね。大丈夫、どうせ大した病気じゃないだろうし。と言うか、本当に忌引きだったらどうしよう。まあ、小さい頃に遊びに来てはいたけど、今はそんな事出来ないし……。


 まあインターホンを ……制服乱れてないかな、ちょっと直そう。よし、これで大丈夫……さあインターホンを──。


  押して、おばさんがでたら『プリントを届けに来ました』って、大丈夫、不自然じゃない。イヤイヤ、不自然とかの問題じゃない。大体なんで隠す必要が、別に心配で来たって言えば良いのに。すぅー……はぁー……よし、インターホンを押そう!


  ……押そう!


  …………押そう!


  ………………押そう、いや押せない!


 なんで、なんで押せないの私。 別に良いじゃない、お見舞いに来ただけじゃん。古谷さんが無責任に変なこと言うから!


「……座り込んで何してるの?  桜ちゃん。」


 不意にドアが開き、おばさんが家から出て来た。少し、服が乱れてるし疲れた顔をしてる?


「あ、おばさん。えっと、こんにちわ。」

「こんにちわ。」


 挨拶で言い訳の時間を稼ごうと思ったらすぐに返された。当たり前か、我ながら焦るとダメだなあ。とりあえず、姿勢をなおしておばさんの目を見る。


「ヒ、ヒロトくんに部活のことで相談に来ました!」


 そう、これはいい。あまり不自然じゃ……私のバカ! 今日の彼は体調不良って推量できるんだから相談はないでしょ! 病人に私事の相談って鬼か私は!


「……家に帰らずに直で来たの?」


  おばさんからの返答は、文脈的におかしいと言えばおかしい物で。なんだか私を不安にさせた。


「うん、ちょっと上がってくれる? おばさん、ちょっと聞きたいことがあるの。」


 そしてその不安は的中した。

一部の登場キャラの名前が出てきました。


主人公:佐々木ヒロト

名前の方の漢字はまだ未定……。

主人公、性格はこの子の思考で話が転がる都合上、色々と考える子になった。一人称は俺じゃなくて僕にしてみた。

多分理系、美術部部長やってるけど理系。



幼馴染:山岡桜

文系志望で美術部の副部長、友達以上恋人未満的な一番楽しい存在。


部員:古谷さん

オタッキー系の人、きっと大学生になったら姫になる


設定を意識してみたけど、通じてるかな……?

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