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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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準備

今回は間を表すために……を多用していますけれど、別に言いようの無い不安とかを表しているわけではないです。

 ガラにもなく熱く語った散歩から帰ってすぐに寝て、今は朝だ。ポミエさんが朝食にサラダやスープを持ってきてくれた。館ではクロノアデアの仕事だったが、僕の側仕えを他のメイドに任せられないから今後の配膳はポミエさんの仕事になったらしい。


 なんだか暗いことを考えて気分が沈んでも、一晩ぐっすりと寝て食べるご飯はとても美味しい。


 やっぱね、人間に重要なのは『食べて、寝る。』これだけなんだよ。何かに頭を悩ませるのは余計な事さ、悪くはないけれど必要ではない。暖かいところでリンゴしゃくりながら牛乳飲んで歌ってりゃ幸せなんだ、余計なことはしなくて良い。


 それができないからこそリンゴ栽培したり、リンゴを買う為にお金を稼いだり『余計な』事をするんだけどね。


 さて、食べたらすぐ寝間着から普段着に着替える。真っ白なソックスを履いて、真っ黒なワンピースを着てウェストを締めて、絹のような素材の真っ白な手袋をする。


 本当だったらワンピースの方は背中に紐を回して締める作りになっているけれど、僕の服は一人で着れる様にクロノアデアに無理を言って前で締めるタイプにして貰っている。まあ僕は騎士爵の子供なんて言うメイドがいる方がおかしい身分だし、こう言った構造の服の方が自然だろう。


 ……姿見に映る相変わらず女児的な人物については諦めた。別に女に見えようが構わない、絶対的な基準が僕を否定しなければ良いものさ。


 さて今日の予定は制服やらなんやらの準備と観光だ。帝都に入った昨日ほどではないけれど、ちょっとおめかしもする。……ああ、別に観光やらなんやらでも無いのにおめかしをしてた理由を疑問に思って昨晩にポミエさんから聞いてみたよ。


 なんでもあの馬車は外からある程度中の様子がうかがえるらしく、公爵家のサポートがあると言う事の証明として帝王のお膝元に入る時ぐらいは僕自身しっかりとした身なりでないとダメらしい。今日みたいに普段の生活では軽いおめかしで済ませるのも騎士爵の子供という事の証明だとか何だとか。


 さてさて、扉をあけて相変わらず薄暗い廊下を抜けると眩しい日差しの差し込む一階にでる。まだ朝という事で人は居ないけれど、外には小型の馬車が出されて居た。僕が乗って着た中で生活の出来るタイプではなく、まあ出来て四人乗り程度の小さな馬車だ。御者さんも違う人だし、馬もなんだか栄養が足りて無い貧相な馬だ。まあ、小さくて速度が出ないというのは街を移動する為には丁度いい。


 御者に挨拶して乗り込み、なんだかただ木の板に革を貼っただけのような座席に座った。まあタイムリーな物よ、前にチラッと言ったかもしれないけれど僕は馬車の中で体を浮かす術を開発した。自分にかける魔術ってあんまり効き目がないって法則を避ける為に色々とまどろっこしい方法を取っているから説明はしない。まあ要は自分の魔力で自分に対しての魔術を打ち消すことが問題なんだよ、これは反射みたいな物でどうにか意識して打ち消さない様にするのは正直言って面倒——ってだから、説明はしないって言ってるだろ。僕は白痴なのか?


 とにかく浮遊して馬車に乗って流れる風景を見つめる。ずっと森なんだけれど、館の周りの黒々とした物ではなくて日の差す明るい森だ。木々の間隔が適度に開いていて、木種も白樺や楠らしき物などが混在している。


 木々の間隔はやがて開いて行き、そして赤いレンガ塀が眼に映る。門を抜けて真っ直ぐに続く道は広い学生街とでも評せようか、喫茶店や文房等雑貨店に杖等魔術道具販売店、果てはお菓子屋などの看板が見える。


 昨日軽く見ていた様子では余り看板に文字が書かれていた物が少なかった気がしたのだけれど、学生街では逆に文字だけの物があって結構驚いた。


 昨日見た物では箒をぶら下げてたり、剣の形であったり、金槌であったり色々と面白かったんだけれど少しがっかりだ。いやでも、多分これは識字率が関係している。一応館のメイドの殆どは簡単な文は読めたが、例えばイーモンやカンスラダッタは文盲に近かったし、自分の名前以外かけないメイドもいた。そういえばサリーとか逆に驚くほど文学に造詣が深いメイドもいたなぁ、彼女たちは元気にしてるかな?


 あとで手紙でも書くとするか。それはともかく実は識字率が余りよろしくない。字なんて物は当たり前に思えても、まあ僕自身たまに百姓読みをすることもあるように、当たり前でない場合が多い。まあ字なんて物はお互いに了承がある記号だ、よく考えればそれこそ当たり前だな。


 まあ、将来が約束された魔術師はまず字を覚えにゃならんから識字率100%だけど、一般市民だとたまに読めない奴が混じる。しかもそれを放置できる割合じゃないから一般の店では直感でわかる様な看板にするわけだな。


 こういう近場での文化の差が見え隠れするあたり、ちょっと楽しい。


 馬車が止まった店は『ローブ等魔術師の衣服取扱店』。看板に衣服取扱店ってだけが書かれているのはわかりやすいけれど、些かシンプルがすぎやしないか?こっちではこう言うのが普通なのか?


 やはりこの建物も他の帝都の建物と同じくブロック上に加工された石材でできている。だだっ広い帝都にこんなふんだんに石材が使われるには当然の事としてどこかに近くの山に石切場やらを構えなくてはいけないはずだけれど、それらしき物は見当たらなかったからこれはもう確定だろう。


 魔術師すげぇ……。


 まあ、自分でも驚くほどのアホな感想は置いておくとしよう。石材で建てられた家だがドアノブが金かあるいは真鍮的な物でできていたり、そのドアは緑色に塗られている木製のドアだったり、屋根や窓の縁が赤かったりとなかなかお洒落だ。単調な灰色にソコソコのアクセントがセンス良く取り入れられていて不自然な感じもしないし、この店の設計者は凄くセンスがいい。


 店の中はやや広い程度の作りになっていた。店内の両端には折りたたまれた服の在庫とトルソーを使った見本の展示、入って目の前にはカウンターと恐らく店員の居住スペースないし事務所に繋がるであろう扉。カウンターにはパイプで煙草をプカプカと吸っているお爺さんが座っていた。


 深く刻まれた皺やヨボヨボの手つきに喋り方からして結構な高齢の方であるのだろうけど、普段はお子さん達が経営をしていらっしゃるのかな。口の中がタバコのヤニでぐちゃぐちゃだし、肺炎か喘息でも患ってそうなほどの声色だ。健康体でさえもうポックリ行ってもおかしくない年のようだしあんまり吸わない方がいいと思うのだけど。


 耳も遠いようでクロノアデアが大きな声で注文をすると、杖を使ってプルプルと震えながら衣服の入っている棚へ移動しようとした。なんだか今にも倒れそうな具合だったので慌てて椅子を持って座らせる。


「あの、服を棚から出したりするのはこっちでやるから、お爺ちゃんはここに座って支持を出してて。」


 耳元に顔を寄せて喋るんだけど、ふがふがふがふが何を言ってるかわかったもんじゃない。なんだか盗まれやしないだろうかみたいな事を言っていることは判ったのでどうどうと宥めて服を用意した。


 採寸がどうだ色や仕立てはどうだとバタバタしているとイキナリ扉がガチャリと開いた。扉を開けたのは中肉中背の何処にでもいるような30代くらいの男で、脇には大きな壺が置かれていた。


「あー!おっとうまた勝手に店に出て……っ、すみませんお客様。俺はこの店で店主をやっとる男です。様子から察するに父に付き合わせてしまったみたいで、申し訳ないでさ。すみません、暫く待っててくださいませんか。」


 水の入っているらしいちゃぷんちゃぷんと音のする壺を店内に押し入れると、男はお爺さんを店の奥へと案内をした。あの壺は水瓶で、今まで店主の男が水汲みに行っていたと言うことか。それであのお爺さんは痴呆か何かで元の店主として行動していたわけね……。


 ま、いいけどさ。彼らの問題は僕が首を突っ込むべき案件じゃない。


 男が戻ってきて、「服をお求めですか」なんて当たり前の事を聞いてきたので、ついさっきまでお爺さんの話をなんとか聞いて用意していた服を渡す。お前がしっかりとしていればこっちは面倒な事をしなくてもよかったんだぞ。


 新しく制服であるローブを購入をして、どーもすみませんとイマイチな謝罪をしてくる男を背に僕たちは表の馬車に戻った。


 制服は黒に近い灰色をしていて、衣装などもないシンプルな作りだが縫い目などがしっかりとしている素人目だが良い言えるフード付きのローブだった。素晴らしく魔術師っぽい。


 これで僕も漸く女子と間違えられることもなくなる……なんて事はない。聞いた限りだと制服といっても黒や白などの落ち着いた色のローブを上に着る以外の縛りはないらしい。これはまあやんごとなき身分の方が着られる程の服装を例えば騎士爵とかの子供が用意できるかと言えば、当然制服は幅が無くてはいけない。他にも平民ないし貧民から魔術師が生まれないわけじゃないからそう言う人でもなんとか工面できるようにしなくてはいけないしね。


 だから騎士爵の子供である僕は、まあ公爵家からの援助もあって伯爵家でも着れる程度のローブを羽織りながら、ローブの下はいつもの女装だ。


 ……女装。まあ僕は元からこれは男児が着る服ではないと言う意識があったしね、今まで女子の格好をして生活をしてきたと言うことにそんなショックはないよ。そして何やらこの女装は神様の命令らしいし、これからも同じ女児の格好をしていくことに抵抗する気は無い。


 そう言えばこれからは小さな子達と一緒に学生生活を送るらしいけど、この服装をからかってくる子供とか居るのかなあ。騎士爵の子供がいい身なりをしてるってだけで絡まれそうなものだけれど、男女とか言われるのはやだなあ。


 まあ所詮は子供の言うこと、ムキになるのは馬鹿らしいし一々それで傷つくのも愚かなものだ。それを頭においてどうにか穏やかに暮らしていきたいものよな。



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