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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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誕生の日

結構実験的な文になってしまった……

 あれから一向に夢が覚めない、頰を抓ったり、羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶と唱えてみたり、私達の本当の父でありメシアである主イエス様をこの世にお遣わしになった主に祈ったりした。


 ……まあ覚めない。いっそ、胡蝶の夢だったのか。アイツとの、あの子との、父さんとの、母さんとの、色々な思い出は夢だったのか、そう思えてくる。


 落下から半日は立ったのだろう、それなのにパジャマから火も出ない。いや、もう大気圏とかそう言う物理常識は夢の中だけだったんだろう。


 それにちょっとやそっと体を捻ったり変なポージングしても乱降下しないから、空気抵抗だってないのだろう。なんだか変な気分。あ、乱降下は乱高下のもじりね。くるくる回って落ちるんだ、コレで飛び降りの死亡率がだいぶ変わってくる。


 しかし落ちる感覚だけあって、辺りは真っ白、吐きそうになるね。それに空中浮遊をしているような気もする、景色だけ見たら落ちていく様には見えはない。


 ……ああ、主よ、主よ。どうかこの悪夢から解放を。あるいは、またあの素敵な夢を。エリエリラマサバクタニ、まさか貴方が私を裏切るわけがないと、一心に信じます……。





 静かなはずの満月の映える深夜に、静かな森の中で騒がしく騒ぎ立てる館があった。


「破水が始まった! おい、治癒師と祈祷師を呼べ!」

「ぼけっとすんな、旦那様を呼んでこい!」

「いよいよ出産だ!」


 慌ただしく使用人が動いている中、1人の女中が慌てて部屋を飛び出した。女中は驚くほど若い、下手すれば二十歳もいっていないだろうと思わせるほどだ。制服はともかくとして、彼女の容姿はその若さだけではなく奇抜だ。銀色、いや灰色をした髪。翡翠のように輝く瞳。血色の良い肌。スラリとした鼻。そして何より、人よりやや尖った耳。


 この国から幾らかの国境を跨いだ国では、エルフと呼ばれる種族がいる。人とは少し容姿が違い、まず色が薄い。目は淡い、白にも見える青をしていて、髪はプラチナブロンド、肌は死体のように青く、見る者に生気を感じさせない。それだけで無い、人より線が細く、そして耳はウサギのように長い。また容姿以外にも長寿である、森に住む精霊と交信ができる——など、多くの特徴を持つ。



 彼女はそのエルフと呼ばれる種族の子孫であると考えられる。わからない、もしかしたら違う種族かもしれないただハッキリと言えるのは、純粋な人間ではない。かの地のエルフとは長くの歴史がある。時には同盟をくみ、ときには争い隷属させた歴史が。


 彼女ほど人間に近い容姿であるのは相当な交配がないと生まれない、国が数度滅んでは生まれ直すほどあったかもしれない。いや大げさではない、なにせ一人一人の寿命の長さがとても長いのだから。


 エルフの多くは老いと成長に人の5倍ほどの時間をかける。同じ5歳でもエルフと人間では驚くほどの差があり、また同じ50歳でも驚くほどの差があるのだ。


 彼女に残るわずかな血が、彼女の肉体的成長を止めているのだろう。彼女の実年齢は計れない。だが公爵家の女中、それ相応の年齢を重ねているということはわかる。


「旦那様、奥様が!」


 勢い良く女中が公爵の寝室の扉を開くと、例の不気味な執事がいた。執事は女中をジロリ一瞥すると、おもむろに口を開いた。


「一々騒がなくともよろしい。旦那様はもうご子息とともに奥様の元へ向かった。君も今日からは乳母だ、しっかりしたまえ。自覚が足りないのではないか。」


 朝の客への流暢な喋りをやめ、嫌みたらしく泥の様な声で女中、いや新任の乳母を責める。眉間にしわを寄せ心底嫌そうな顔は、歴史のある家にとっては汚らわしく憎むべき混血への、悪意なき蔑みを表していた。


「……申し訳ございません、反省します。」


 それに対し若い容姿の乳母は深々と腰を折った。

 ハキハキとした発音と鈴の転がる様な清しい声で謝る。


「フン、いや。すまない、八つ当たりだ。お前とて、乳母になりに来たわけじゃない、無理矢理になっただけなのにな。斡旋業者め、適当な仕事をしおって……」


 執事は手を額に当て俯き、ブツブツと独り言を呟く。館のもので知る人は多くないが、彼女は彼が雇った女中であった。混血で乳も出せないモノへ子供を預けるとは、その様な思いが彼の胸を痛ぶった。


「いえ、確かに私の自覚が足りていませんでした。では、私は奥様の方へ。執事様も男性の指揮がなければ混乱しますので、お急ぎを。」


 乳母は今度は軽く頭を下げ執事を残し退室した。背後から嫌味ったらしく聞こえる声を慣れたものだと聞き流しながら。


 乳母が寝室を変えた臨時の分娩室にたどり着くと部屋の前には男の従僕達が布や温水を用意して、部屋から女中が出ては従僕達からそれらを受け取る。


 バタバタと動き回る中、扉の近くでは祈祷師が香を焚き祈りを捧げている。その近くでは公爵家の長男が父に抱きつきながらぐずり始め、その公爵と女中の1人が必死にあやしている。


「乳母、戻りました! 執事様は後程来ます!」


 分娩室に入って乳母は指揮を取っている女中に話しかけた。周りの音に合わせ自然と大きな声で、その美しき声を響き渡らせる。


「 マフスフプスさんは導師号持ちでしたね、では治癒師の応援を! 奥様の陣痛が異常です!」


 女中も乳母に大声で命令を出し、また慌ただしい空間に秩序を産むために動線の作成などに取り掛かる。


「了解しました! 奥様、ご自身でも魔術を!」


 そうしている間にも1人、また1人と与えられた仕事を終えた女中と従僕が増えて行った。しかし仕事にあぶれた者、仕事はあるが空間的に実行できない者が次々と表れ、大混乱が起きていた。


「出血が多い、もっと魔力を! もっとだ──!」



「ああー!」


 破水が始まり4時間ほど、すっかり泣き疲れて寝てしまった第1子のではない、大きな大きな泣き声が館に響いた。二児の母となった女性は、幸せそうな顔をしながら元気に泣く子の顔を見て目に同じく涙を浮かべた。


「奥様、やりました! 元気な男の子ですよ!」


  けたたましい産声を開ける男児が生まれたのだ。その場にいる誰もが喜びの混じった感情を抱いた。難産ではあるがとても元気な男の子だ、父親に良く似た子に育つのだろうと、皆が心の底で考えた。


「 おお、おお! よくやった、こんなに元気な男を! おい、おい大丈夫か! おい、おい!」


 夫人が気を失い公爵が慌てて手を握る。


「奥様が気を失った! 手の空いてる者は全力で魔術を! 乳母は坊ちゃんの保護を! 」


  指揮を取っていた女中が叫ぶ。 乳母が慌てて子を受け取り、受け取ったら人肌程度のお湯につけ、血と脂を洗い落とす。その子の漲る生命を見て、乳母は息を飲んだ。赤子というのはここまで生命力にあふれているのか、こんなに柔く儚げなのに、こんなにも力強く生きる意志を持つ者なのか。


「そっちは頼みます! 旦那様、もっと奥様に声を!」


「大変です! 長男様が泣き出しました!」


  部屋の前にいた従僕の1人が部屋に飛び込んで来た。大人も子供も入り混じって大騒ぎだった。館は阿鼻叫喚、その言葉がふさわしかった。

個人的に加筆修正があるかもしれない

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