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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
39/167

別れはあっさり

 

 森、というか林か?


 とにかく木々に囲まれた道を通って風の寮についた。馬車から降りれば新緑の匂いとでもいうか、館では嫌と言うほど嗅いだ青の香りがした。


 風の寮の外観は余り林の中には似つかわしくない、イタリアのコロッセオのような穴ぼこだらけのとでもいうか、アーチ状の風穴が空いている余り住むのには適さなそうな建物だった。


 ここで傭兵さん達と御者さんとはお別れだ。さよならと短い挨拶をして手を振る、傭兵さん達には迷惑をかけた割には随分とさっぱりとした別れになってしまったがまあ縁があればまた会える。その時にまた優しくしてやればいいかとした。


 振り返って寮を見る。石材でできた素晴らしい建物だが、建物の価値と宿場の価値はまた別というものだ。


「ここに住むの?」


 怪訝な面持ちでクロノアデアに聞いてみると、「仰りたいことは分りますがまあ付いてきてください。」と涼しげに言われた。言われた通りにスタスタと仮称コロッセオの内部へと歩く彼女の後をつけていく。


 内部はいわゆるスタジアムのような作りになっていて、コロッセオの観客席に通じているようだった。こんな所に住めるのだろうかなどと考えている僕を置いてクロノアデアは歩を止めずにコロッセオの内部を歩き続けた。


 僕はコロッセオ内の石造りの階段を使い二階へ上がった。カツンカツンと音を立てて階段を上がるたびに、少しづつ耳に何か談笑のような音が入って行った。


 カツンカツン、階段を登りきるとそこには受付らしきカウンターと、ロビーのようなベンチの置かれたスペースに座って話す子供数人がいた。


 カウンターに座っているのは妙齢というには少し(とう)のたった女性がいた。女性はこの世界では珍しいメガネをかけいる。少し癖のある黒い髪を束ねていて、この世界ではやや露出度が高い服を着ていた。顔立ちは整っている方で、目が垂れた優しげな顔をしてる。下を向いてカリカリと何やら帳簿のような物をつけているようだけれど、なかなかに……いや、品格が問われるのでこれ以上の言及は避ける。


「すみません、チェルトルカの者ですが。」とクロノアデアが声をかけると、カウンターの女性は今しがた気づいたと顔を上げてメガネに手をかける。


 メガネの起源はいつかは知らないけれど、開発にはどれくらいの文明レベルが必要なんだろう。17世紀とか、結構時代は進んでからできているような気がする。ああでも、レンズ自体はエジプトだかなんだかの水差しがどうこうだったか?まあ、魚の目をくり抜けば簡単に魚眼レンズが手に入るしな。魔術があって大陸に形も生態系も全く違うんだ、文明のレベルとかが交差しててもおかしくはないだろう。寧ろ似たような文明を辿る方が異常なだけで。


「まあ、お早いご到着で。こちらが部屋の鍵で、制服の仕立て屋などはこちらの紙に書かれております。寮内の地図はこちらです、部屋を間違えないように注意してくださいね。」


 クロノアデアはしばらくの間ジィッと渡された地図を眺め、見終わるとかがんで僕の横に並び地図を見せて説明してきた。


 地図によるとこの建物は4階まであり、4階の部屋割はバームクーヘンみたいに8つに等分されていて、3階は内側の7部屋と外側の8部屋にわけて15に分かれている。僕たちがいる2階はこのロビーもどきの場所から長い円形の通路を挟んで15の部屋に分かれている。一階はただの通路になっていた。


 よって計38の部屋がこの寮内にある事になるが……どうやら地下にも部屋が続いているらしい。それも結構な数の部屋がある。こっちは四角い部屋割りで各階25部屋が地下二階まで。その内に備品などの倉庫やらキッチンやら、談話室やらレクリエーションルームなどが置かれてある。その分を差し引いて調べるに、風の寮はだいたい80人が住めるらしい。


 火の寮、水、土などもあるから全体で320人の学生が住める事になるけれどもこれは多いのか少ないのか。


 まずこの学園は飛び級とか留年がなければ10年制、よって一学年に32人がいる。世界に1つであるらしい魔術師の学園だからある程度魔術が使えるけれど周りに教えてくれる人がいない人とか、色々な事情で国内外から魔術師の卵を集める所を考えると少ないかもしれない。


 毎年32人の魔術師が産まれる事になるけれど、魔族との小競り合いで消える人も多いと聞くからなあ……どうなんだろうね。


 そう言えば、基本的に魔術師の親以外からは魔術師の子は生まれない。だけどそれなら最初の魔術師はどうしたんだって話で、たまに平民からも魔術師が産まれる事がある。所謂バグみたいなものなんだけど、実はそういうバグは魔術師にも起きる。


 基本的には魔術師の子は親の才能の5割5分を受け継ぐ。だから魔術師と平民の子は幾らか型落ちするし、同レベルの魔術師の間には親よりも少し強い魔術師が産まれる。貴族が全員魔術師である帝国貴族はそれで結構爵位ごとに魔術師としての差がある。当然公爵家の子である僕は多分伯爵家の子には負けるわけがないらしいし、表向きの僕は騎士爵の子供だから男爵家の子供には勝てるかもしれないけれど伯爵家の子供には勝てるはずがないって事になっている。


 これの言い訳に使えるのが帝王とか公爵とかやんごとなき身分の方の隠し子、またはさっき教えたバグだ。


 一般人に魔術師としての素養が入るように、魔術師にさらに魔術師の素養が入る。


 魔術師の子とて、僕がそうだったように孔を開けるまでは魔術を使えない。仮に開けられたとしても素養がなければ風通しの良い体になるだけで、魔力通しか、特に変わりがない。それが最初っから孔が開いていてしかも魔力を扱う才能まで持っている。


 そりゃあ強い魔術師が生まれるわけだ、生まれながらの魔術師だな。


 ま、散々ペラペラと喋って何が言いたいかと言えば、僕は一応設定上はそのバグに当たるよって事だ。


 だいぶ話が逸れた。クロノアデアによるとどうやら僕の部屋は地下2階の隅の部屋になっているらしい。なんだかなんかな施設じゃないか。僕は朝に日の目を浴びないと眠くて仕方がないんだぞ、体内時計も狂うし、酷い部屋割りだ。


 公爵家の金でなんとか帝都に家を用意できないのか?


 都会に来てまで家が森に囲まれてるのはいいにしても、なんだって地下暮らしをしなきゃいけないんだ。ああしかし、クロノアデアそんなに困った顔をしないで。大丈夫、我慢する我慢する。住めば都って言うしね、大丈夫だって。


 あーだこーだとクロノアデアを慰めつつ(?)僕の部屋に降りて行く。コロッセオ内部は石のブロックでできているので、当然地下も石のブロックでできている。崩落とか起こったら即死だな。でも帝都周辺に石切場に出来そうな山も無かったし、多分この建物は魔術製だ。あまり信用しすぎるのもどうかと思うけれども魔術なら安心できる。


 そう言えばメガネの妙人は早い到着と言っていたけれど、本当に寮内に人がいない。ロビーにいた数人以外は見かけないけれども、入学生が来るまでに里帰りでもしているのだろうか。体育会系の部活じゃなかったしあまり先輩に対してのリスペクトとかはないから、別にいない方が絡まれなくていいんだけどさ。比喩じゃなくて実際に子供と同じ目線に立つのって精神年齢的にキツいし。


 まあ、暇な学生らしく談話室にいるとか魔術師らしく研究でもしているかも知れないけどね。


 地下は魔術の明かりで照らされている。魔術と言っても、ランタンに光の魔術が入っているだけのものだけれど。これぐらいの魔術道具の作成は僕にでもできるから前みたいにはしゃぐことはない。


 だがなんだ、ランタンに照らされた石造りの廊下を歩くのは少しホラーゲームみたいで怖いな。まあアクションゲームとかで難易度上げるためにわざと暗闇だったり吹雪だったりで視界を塞いでくる個人的に無能演出があるけれど、そんなもんだと思えばあまり怖くなくなる。


 さておき僕がこれから生活する部屋についた。


 扉はボロい。引っかかることこそなかったが開けると大きくギィっなんて音がした。


 だがしかし中の様子は結構綺麗と言うか、家具の質が高い。赤い壁紙に赤い絨毯に赤い天蓋付きのベッド、黒樫の椅子には赤いクッション……これ館から持ってきた家具だわ。ああ、いつだかの金縁の姿見まであった。


 いやしかしこれはこれで良い。馬車で長い旅をして来たんだ、慣れたベッドで横になりたいと言うのもある。まあ旅立つ日にはいつものベッドで寝ていたし、ベッド自体は僕がいつも使ってるベッドじゃなくて多分屋敷にあった別のやつなんだろうけど。


 まあ落ち着かないと思っていた赤い部屋もしばらく離れれば恋しくなるのか、すごくリラックスできる。


 クロノアデアとポミエさんは馬車に積んでいた衣服などの荷物を整理するだとかで暫くはここで休むように言われる、ちょっと前までは帝都を見回るぞと意気込んでいたけれどいざベッドを目にすると眠くなって来たから願ったり叶ったりだ。


 靴を脱いでベッドに飛び込むと、恐らくは羽毛製であろう布団の柔らかい感触が全身を包む。


 ああどうした事だろう、こんな快楽を目の前にしては只々思考は空をかくようにしか回らない。


 布団の材料がモンスター的な存在の材料かもだとか、普段なら騒がしくなるファンタジー的な考えもつまらないものだ。


 ……睡眠って、素晴らしい。

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