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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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胎動の日

第2話!


文章って結構キツイですね。

すぐボロが出そうです……

 真綿色した空間を下へ下へと落ちて行く。


 夢だとはっきりわかったが、どうもままならない感覚がする。明晰夢ではあるが、内容を操れない。はっきりと夢と自覚できる物なのに。


 頭を下に向け、恐ろしい速さで、死んでしまうのだろうか。体がこわばる、ガチガチと奥歯の音が聞こえる。


 あー、一年生の物理基礎が思い出せる。加速度ってこんなあるんだなあ、くそう舐めてた。加速度が9.8m/s^2まあ10として音速を350m/sとすると……大体、えー、怖くて計算どころじゃねえ! あ、約35秒でマッハを超えるか。つまり今マッハ1以上の速度で落下、いや、計算で70秒くらいは経ってるかな? ……正直数えてなんかいねぇよ。


 夢だとわかってても怖いなあコレ、なんでこんな夢を見るんだろう。ジェットコースターなんて最近乗れてないよぉ、いく時間ないもん、勉強やだー!


 ……まだ終わらないのかこの夢。

 只ひたすら落ちる夢なんてどうすればいいんだ







 ——冷血公様は森に館を構えたらしい。


 短く刈りそろえた金髪が白髪によって色にまろやかさが出始めた初老の執事が歴史があり日々の手入れによって今もその栄光を失っていない荘厳な飾り戸を叩き、小気味のいい音を奏でた。


「報告に参りました。」


 中から入室を命じられ、ゆっくりと部屋に入る。部屋の中には椅子に座り高価なタバコを吸っている男がいた。館の主人だ、黒のベストに赤のスーツ。銀と金と宝石が執拗に飾り付けられ、男の高貴さと独特の近寄りがたさを演出していた。


「旦那様、只今馬車を出して参りました。治癒師と祈祷師の到着は明日の朝、乳母の到着は今日の夜になります。」


 それを聞き館の主人は、優雅に燻る煙とは対照的なまでに腹立たしげに蛇の意匠の凝らされた金のパイプを置いた。整えられた髭を持つ口から音もなく紫煙が吐き出される。


「お気持ちは、痛い程に。しかし教皇、引いては主神からの命令です。どうか耐えてください。」


 そんな事は分かっている、下がれ。そう命じられ執事は再びゆっくりと退室し、自己への怒りを抑えるように拳を握りしめた。




 ——馬鹿な、冷血公はすでに城を持っているだろう。


 霧の深い城下町の入り口に2人の男女が立っていた。2人とも年を食っていて、また服装から神職についている事が見て取れる。


 お互いに初対面という訳ではなく、軽く会釈し会話を始めた。


「そちらも公爵様から?」

  女が松明に照らされる男に目を細めて語りかける。


「ええ、生の神官様。という事は貴女もですか。」

 男も女に合わせるように顔を崩す。


「はい、太陽の神官。今回はどうしたのでしょうね。」

 お互いに今回の事は不思議に思っていた、事情が一切知らされていない。ただ新しい館に行って、自分の成すべきことを成せ。そうとしか伝えられていない。大体の、見当はついているが。


「第一子のパシオン様の時はこの城でしたのに、一体どうしたという事でしょう。」


 2人が話し合っていると、外から屋根付きの馬車が泥を跳ねあげながら走ってきた。


 御者の青年は見た目麗しく、車体は良く塗装された木製、紋は赤い蜘蛛と黒い蛇、今回の依頼主、公爵の使いだ。


 中から男性の従僕が降りる。


「治癒師殿、祈祷師殿お迎えに参りました、どうぞ中へ。さあ、人目につかぬうちに。」


 2人がやや急かされる形で馬車に乗せられる。そうして乗せたかと思うと若い御者が力任せに馬を操り、そして馬も応えるように荒々しく深い森へと駆け出した。


 柔らかい泥を大きな音を立てかけて行く馬車。

 雨で濡れた落葉が舞い上がり、風が馬車の飾り布をバタバタとたなびかせる。馬車本体は大きく揺れないが、操縦席はひどく揺れ男は立ちながら御していた。

 深く進むごとに霧は濃くなり視界は悪くなる。

 向かい風は轟々と枯れ枝を激しく揺さぶる。


 暫くして濃霧の中、御者の目に枯れ木に巻きつく茨がハッキリと目に入る。


 馬はゆっくりと速度を落とした。


 いつのまにか地面は硬い土になっており霧は若干薄らんでいる。ここまで来て漸く御者は操縦席に座り、乱れた呼吸と服を戻した。


 黒い槍状の柵見えてきた、独りでに柵門が開き御者が制せずとも馬は石畳に添いそして足を止めた。

 馬車から従僕が降りる。


「さあ到着しました。エントランスにて執事のものが待っております、付いてきてください。ああ、お足元にはお気をつけを。」




 ——あの石のように冷たい城があるのに、なぜ更に。


 神官たちは落ち着かない様子で馬車を降りる。

 辺りを見回すと泥炭のように黒い茨とそれに沈む遺体のような赤。


 男の方はさらに館に目をやり驚く。

 女もそれにつられると、絶句。


 目に飛び込んだのは赤、赤、赤。


 血の塗りたくられたような鮮やかな紅色の壁、屍肉のような赤褐色の屋根、生きているように艶めかしい桃色の窓ガラス。全てが不気味だった。


「驚きましたか? 綺麗と思われたのならば光栄です。しかし今朝は冷えますので、失礼ながら見学は昼にすることをお勧めします。」


 静かに発言した従僕。それに慌てて神官たちは頭を下げ案内を頼んだ。恐らくこの館の外観で唯一の赤以外の色、黒い扉をくぐると1人の男が凛と立っていた。


 磨き上げられた靴にパリッとノリの利いたスーツ。

 ワックスも使ってしっかりと整えられた髪とヒゲ、深く刻まれたシワ。


 全てが男を引き立てつつ、そして不気味にさせていた。


「お久しぶりです、そしてようこそいらっしゃいました。祈祷師殿、治癒師殿。ここからは私がご案内します。」


 深く優雅なお辞儀で神官達は迎えられた。


 それに対し更に深くお辞儀で2人は返した。

 執事は流れるように滑らかな館の説明をして行く。赤い絨毯、赤い壁、桃色の窓、黒の扉、また偶に飾られている煌びやかな絵画や陶器。


 執事がピタリと足を止めた。


「こちらが食堂となっております、朝食が用意されておりますのでどうぞ召し上がってください。」


 そう案内されたのはとても大きな食堂だった。

 ステンドグラスから光が差し、上座の近くに食事の用意がされている。


 席について数分、公爵様が現れた。


「祈祷師殿、治癒師殿、場所は違えどこうしてまた再び会えたことを嬉しく思います。」


 慌てて立ち上がろうとして執事に止められる。


「さて、朝早くにお越しいただいて大変申し訳なく思います。まずはこちらで用意した朝食を召し、その後で仕事について話を致しましょう。」


 もちろん2人は事前に自分たちの仕事が分かっていていた。第2子の出産での仕事は助産師だ。


 第1子の時も2人で担当した。夫人の腹が大きくなったことも既に城下では噂となっている。そもそも、祈祷師の方は安産のための祈祷道具を持ってくるように言われていた。わからないはずはなかった。


 給仕が持ってきた皿は葡萄酒、パン、カイワレのサラダ、コンソメのスープ、ボイルドエッグ、ローストポーク、果実数種。人生で何度もないキチンとしたコース料理だった。よく調理されている。サラダなどはふんだんに香辛料が使われていて、おそらく神職につく2人にとっては人生で一番の贅沢な食卓になった。


「いやあ、こんな果物を頂けるなんて。初めて食べましたよ、オレンジと言うのですか? 外国の果物ですか! それはまた、贅沢ですねえ。」


 神官の男が朗らかにいう。

 だが、唐突に公爵が執事に耳打ちをした。


「すみません……お招きした身ですが、旦那様は少し体調がすぐれないようです。誠に失礼ながら私共々退室させて貰いますが、どうぞごゆるりと。後は従事の者が案内しますので。」


 そう言い残して執事と公爵は奥へ消えていった。


 その後は、また先程馬車で迎えにきた者とは別の従僕が2人の神官をそれぞれの客室へ案内した。また公爵の体調が戻れば改めて話を通す、従僕はそう言って退室し、2人の神官はこれからの仕事の準備を始めた。


 午前、もうすぐ日が昇り切る時。森の霧は晴れて、屋敷の窓からは広い庭園と、更に広大な森が広がっていた。


濃霧&強風って、どんな気候やねんって思った人

……まあ、ファンタジーということで、ひとつ。

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