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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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おやすみ

 あの後おじさん、僕が洗脳した男を回収して今は村からだいぶ離れた所で野宿をする準備をしている。


 傭兵達は毛布に包まって地べた寝るようだが、僕たちは馬車の中で過ごす。


 昼間寝ていたポミエさんは車内で寝ずの番をするらしい。傭兵達も僕たちの警戒とは別に番はするらしいが、その傭兵達が信用できないためらしい。


 この世界での傭兵といえば、魔術師ではないから碌な戦力は見込めない上に、同業者同士の戦争では手を抜いたり、金を積まれれば平気で依頼主を裏切ったり、少なくともマトモな人種とは言われない。


 警戒はするべきだと言うから……まあポミエさんを信頼してないわけじゃないけど、僕も用心しておこう。一応クロノアデアからも許可を取って魔術で罠を仕掛けておいた。予め設定する魔力を持った人以外が馬車のドアノブを触れると高圧の電流が流れるようにした。


 個々が持つ魔力といのは細胞のようなもので、例えば食べた豚肉が消化吸収を経て自分の体に変わるように、大気中や食べ物などにある魔力を吸収して自分の魔力に変える。魔力には火を起こしやすい、水を出しやすい、発行しやすいと言った特徴があって、それを属性と呼んだりもする。多くの人は氷や風などの基本的に12の属性に分類できるけど、中には属性が全く無い人や、全くのオリジナルになる人もいるらしい。


 この属性というのはすごく重要で、例えば火の属性に魔力が傾き過ぎていると水の魔術が使えなかったり、一切の魔術が使えな代わりに風の魔術だけが使えたりする。


 属性はオーバーフローを意図的に起こした時にわかる。オーバーフローは簡単に魔力の暴走で、大気中に漏れた自分の魔力が喜怒哀楽などの激しい感情によって勝手に魔術が発動してしまう現象だ。


 コレは魔術は呪文を唱えてもイメージがないと発動しない事や、呪文よりもイメージの方に引っ張られる事と深い関係があるのだろう。


 ここでオーバーフローを意図的に起こすと方法を教える。まず心を落ち着けて、次に部屋に篭って魔力で満たす、終わり。実はこんな簡単な事で起きてしまう。だから意図的にオーバーフローを起こす事は無意識の内の精神の方向性を表すと同じだと僕は思う。


 無意識のうちに抱くごく僅かな怒りや悲しみに対して、個人が抱くその感情へのイメージを無理やり飽和した魔力で魔術に変えるんだ。


 例えば焦りや敵意は僕の中で火のイメージだ。驚きは雷、悲しみは水、安らぎは風と言うイメージだ。多くの人が同じような感覚なのだろう、だから複雑な精神をたった12の属性に分けられるんだろう。


 だが、世の中には千差万別の人がいる。例えばクロノアデアはオーバーフローを起こすとほとんど全ての属性による現象が起こる。よくある12の属性以外に前触れのない破壊や回復、植物の成長や衰退など、余りに多くの現象が次々に起こるのだ。


 僕はコレを彼女が感受性の強い性格をしているためだと睨んでいる。何も考えないように気をつけていてもつい綺麗な花だとか、蒸し暑いなどの喜びや不快感を感じてしまう人なのだと考えた。


 かくいう僕は、分類するのが少し難しい現象が起こる。例えばカーテンなどの日光による変色が直ったり、咲きかけていた蕾が開いたり、擦りむいた怪我が治ったりする。


 僕は最初にコレを美化の属性だと考えたのだけれど、そのままオーバーフローをさせ続けていたら今度は逆にカーテンが虫に食われて脱色したり、花が蕾になったと思えば見る見るうちに萎れて枯れてしまったり、古傷が開いたりもする。


 素人目に見るとクロノアデアの劣化版だ、長い時間一緒に過ごしたから彼女の性格が僕に影響したのだろうか。


 まあそもそも、オーバーフローが性格に起因するとは限らないのだけれど。


 話がだいぶそれてしまった。結局のところ、魔力ってのは人それぞれと言いたいだけなのだけれど。


 今回の魔術はドアノブの近くにある特定の魔力以外は吸収して、集めてた魔力で魔術を発動させるという簡単な物だ。


 長所としてはちょっとした魔力で反応があるから、きっと


 コレの欠点は魔力の照合が精密さに欠けているという事で、万が一にもポミエさんに魔術が働かないようにだいぶ緩めに設定したので多分傭兵達が100回くらい触れば1回くらいしかは反応しないかも知れない。


 100分の1と書けば多めに思うかもしれないけれど、1000分の10だ、10‰だぞ。だいぶ少ない。


 僕が仕掛けた罠とは別に、馬車が壊されないように強化をしていたクロノアデアが、横になった僕を肩を撫でつけてきた。最近は別に何があったわけでもないのだけれど、一緒にいても一緒に行動することがなかった。


 一緒の部屋にいながら僕は読書、彼女は裁縫と言ったように。食事は僕が取った後にこっそりと食べて、なんだか彼女と『一緒に』過ごす時間がなかった。それは別に僕は彼女がどうでも良くなったとか、そんな事ではなくてある種の信頼をしていたからだろう。


 何があっても彼女とは離れることはない。精神的に僕たちは家族だったのだ。親がいつ子供と離れ離れになる事を想像するだろうか、子供がいつ親と会えなくなる事を想像するのだろうか、そう言った問題だ。


 ただ、それでも僕は人の子だ。心のうちで寂しく思っていたんだろうな。彼女とのスキンシップやコミュニケーションを疎かにしすぎた。今後から積極的に接触をする事にしよう。なんか言い方が怪しいけど、他意はナイヨ。


 肩を撫でていた手をしっかりと握り彼女の目を見た。いつ見ても宝石のように綺麗な目だ。吸い込まれるような瞳が


「ちょっと前まではずっと一緒だったけど、最近そんな時間取れてなかったね。」


 そういえば彼女は外に出るときも一緒に行きましょう、館をぶらつくにも一緒に行きましょうと言っていた。子供に好かれてないという状況は彼女も寂しかったのだろうか。


「坊っちゃん、明日はキチンと屋根の下でゆっくりと寝ましょう。久し振りに一緒に寝ますか?」


 やめてよ、流石にそれは恥ずかしい。ああそう言えば、僕たち貴族は宿を借りることが少ない。


 ここいらの伝統だかなんだかは知らないけど、宿って言うのは基本的にタコ部屋で、淫らなことが行われたり危ないことが行われたり、宿屋と言うのは基本的に犯罪の温床で穢らわしい場所だと言うのが世間一般のイメージだ。


 今の僕たちはまだ少数人数での旅けど、20人くらいでの旅になれば変わってくる。適当に金を積んで宿を貸し切りにしたりするからな。


 だがそうでない時に貴族の宿舎になるのが教会だ。


 基本的にこの世界の教会は一神教ではないからか、それなりに個性がある。例えば火の神様を奉る神殿はずっと火を焚いていたり、太陽を崇める神殿は天井がガラス張りだったり中庭で日光浴ができるそうだ、他にも商売の神様のお膝元では堂々とオークションが開かれてたりな。


 中には復讐やら謀りに死の神とかの神殿もあるそうだけれど……まあ、詳しい話は聞いていない。どうやら邪神だとか危険な神と言うわけではないようなので、知らないうちに知識をつけて先入観を持つのは良くないと思って深くは学ばなかった。


 だが多くの場合、神殿は土地の神様を祀っていることが多い。


 僕が住んでいた館の礼拝堂もそこそこの特色があった。僕が最高神さまの供物になるためか最高神を崇め奉っていて、礼拝堂は身を清める風呂や石膏の人が着るような衣服、確かトーガと言ったか、神へ捧げる食物など、その気になれば生活できそうな設備が整っていた。


 恐らく最高神に関係のある作りだろう。ここで気になるのが最高神はどんな神なのか。まず最高神は個人を見ずに、全人類を見守ってくれているそうだ。


 神の位は庇護する規模の大きさに応じて決まる。だから生の神も死の神も世の中にいるから、全人類を見守る神は生者と死者の両方を見る神さまの筈だ。


 また愛の神などの感情の神や、光の神などの物質の神がいることから、それらもカバーする神様でなくてはならない。まあ生者と死者を見れるんだから人間の感情を見るのは当然だとしても、光や闇などの真逆の事を見る神様が揃えば簡単に、エーとエーバーの集合つまり全集合が出来る。無の神や有の神が居たかは知らないけれど……それら諸々の神様をまとめ上げられる神様なんているんだろうか。


 それこそ、宇宙の神とか全ての神とやらの反則的なものになってしまう気がする。


 目を閉じていながらもずうっと考え事をしていたのに気づいたのか、クロノアデアはランプの灯りを暗くして僕の頰にキスをして僕から少し離れた。


 今日は少し疲れた。



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