必殺の一閃
おまたせしました
Exhibition Match !
元々は苛烈で長い死合いを魅せる為の決勝戦だったが、諸事情により短時間で終わってしまった。諸事情とは対戦相手が本気で相手をしてほしいと要求した事による。
相手が高望みをしたからとは言え、それを理由に僕は本来長々と継続して客へ血生臭い娯楽を提供する義務を放棄した。これが良くなかったらしい。だいぶ長引くことを予定されていたので、また同時に三位決定戦も行われている為時間稼ぎもできずに、尺が大幅に余ってしまった。まさか三位を争っている間に一位二位の表彰だったり後夜祭をする訳にもいかないし、かと言って三位決定戦が終わるまで決勝戦を見に来ていたお客を、つまりある程度地位の高い人も混じっている観客を待たせておくこともできない。
なので、エクストラゲームを要求された。
いや、正直自分でも訳が分からない。『決勝おっつー、でも早すぎ。つか早すぎて逆にウケる。とりま時間あっしもう一戦ヨロ(笑)。』的なノリだろうか。そこまで軽いとは思わないが、似たような話だろう。
とは言え、それは学園側の話だ。僕に従う義理はないし、逆らう理由ならないとも言い切れない。学園の最高権力者である校長から事情を説明されて不承不承ながらに受け入れる意思を示すと、ご機嫌取りかなんなのかはしらないが、相手に勝ったら願いをなんでも聞くし負けても成績優遇をすると言ってきた。
別に成績優遇なんて要らないが……まあ元より受け入れると言っているのだから、条件がこちらに有利になったから辞めるなんて天邪鬼な事もせず普通に受け入れた。
それでその余分に行われる事になった試合は、決勝戦で使われた事により床がバキバキにひび割れ泥に汚れた校舎の大広間ではなく、第二校庭で行われるらしい。今日はやけに酷使する石の刀を数回振り、感触を確かめながら校庭へ出た。
「えー、只今より、今大会優勝者と造魔による模範試合が行われます。使用される造魔は選手の安全を考慮した物となりますので、勝敗を予想する賭博は開かれませんが、選手の美しい試合をどうか皆さまごゆっくりお楽しみください。応援席となる校舎の廊下では、飲み物の販売が──。」
僕の入場により観客席が湧くが早いか、さっそく試合のアナウンスが入った。まあ今のでわかると思うが、僕が勝つことは確定している試合だ。別段そこまで疲れているわけではないが、今日で3回目となる試合なので楽な試合で何よりだ。でも運営としては楽な試合では困る、もっと言えばアナウンスにも有ったように賭博が開けないのは。
しかし僕と言う政治的に危ういバランスの上に成り立っている存在に、たかが一商業イベントで物を願うのは自殺願望があるのか相当な実権がある者か、いずれにせよ常人の発想じゃない。
だからか、球場でビールを売るように飲食物の売り子を出しているようだ。売り子が今まで出ていなかった訳ではないが、どうも今回のアナウンスはいつにも増してアピールが多い。
ああそうだ、今回戦う造魔について説明でもしておくか。造魔とは簡単に言えば使い魔の別称だ。僕が普段魔術生物と呼んでいる物となんら変わりはない。
しかし、君達もわかるだろうが言葉にはニュアンスと言うものがある。箸を1セット用意すると一膳用意する二本用意するでは、同じ数量の物を指定しているはずなのにまるで印象が違う。
端の数詞としては1セットも二本も適当な語彙である事を認める事が難しい。前者は日本文化に不慣れな事を、後者は割り箸を日常的に使うからこその語彙とも取れることから日本社会において中流かあるいはその下の身分の生まれであることが予想される。いやまあ、上流階級に割り箸の存在がないとは言い切れんが、多分日常的に意識する量程ではないだろう。
それの地続きで、とまではいかないが造魔と魔術生物も似たような物だ。造魔は基本的に造る事を意識した人工物色が強いが、魔術生物は自然発生していても生物のように自己保存能力があればそう認められる。
造魔は人の手のよって作られる分、ある程度の品質が約束されるが所詮人の創造物、限度がある。一方の魔術生物に関しては人の手が加わっていない分生きているのが精一杯な物がいるが、魔力が莫大な量あれば自然発生することもあるので……と言うか、魔力で構成されていればもう全部魔術生物と括られかねないので、例えば神そのものとは言わずとも神に近しい精霊のような存在も含まれるので、本当にピンからキリまで存在する。造魔は中級から高級、魔術生物は最低級から最高級までとでも覚えればいいだろう。
さて、では僕の対戦相手たる造魔はどうだろうか。高級か中級か、まあ間違いなく高級の部類には属するのではないだろうか。なんせ作成者は我らが──
雷の落ちる様な轟音がした。どこか聞き覚えある様な音だ、いやまあ、雷の様と形容できている時点で聞き覚えがあるのは確かなんだけど。
「さあ!校長謹製の造魔の登場です!その名も、剣獅子!」
再び、雷の様な獅子の鳴き声が校庭に轟いた。
剣獅子だと……?
僕は確認の意味も含めて、今一度相手をしっかりと目に捉えた。
なるほど確かに、僕が戦う造魔は剣獅子と言う名に相応しい見た目をしている。全身は鎧の様な物で構成されており、そのうち爪や牙、たてがみ等が剣で構成されている様だ。体躯は一般的に自然界にいるライオンと同じで、子供である僕からすれば十分に大きいが、そこまで恐るべきサイズではない。
観客席から剣獅子を見事だと褒めたたてる声が聞こえてくる。しかし僕は裏腹に、どことなく剣獅子にはその出来に失望を抱いていた。まず、作者の観察不足だろうか後脚の関節が実際のライオンを基にするのなら少し間違っている。
剣獅子に衝撃を受けていると、試合開始の合図がなされてそれに飛びかかられた。後脚が不自由なのだろう、歪な走り方をして襲いかかってきた獅子は体重という武器のわりに速度もなく、簡単に攻撃をいなせた。筋力もないのだろう、その身に持つ刃はもれなく鋭いがそれを活かすことはできない。
哀れだ。
哀れでなければなんなのだろう。倒される事を目的に作られた歪で不完全な動物だ。獅子を模した体もその様な不完全さではまるで意味をなさない。大人しく僕のしーちゃんを模しておけばよかった物を、なぜ剣と鎧で再現しようとするのだ。
そう、剣獅子は、しーちゃんに似ている。しーちゃんは僕が作り出した使い魔で、石の体を持つ獅子だ。不幸な事故により僕の支配から離れてしまい、僕が泣く泣く殺処分した石獅子のしーちゃんだ。
まさか、こんな形で次世代機と相見えるとは思わなかったぞ。だが、この次世代機は出来損ないだ。とてもじゃないが戦ったもんじゃない。戦いとは実力がある程度互角の相手に対してする物だ。圧倒的な実力差があればそれは虐めとなる。校長よ、幾ら不興を買いたくないとは言えもう少し強い物を作っても良かったのでは。
ぎゅうっと、気持ちを改める意味で石の刀を握り直す。覚悟と哀れみと、心の中を占める二つの感情を手に収め、真剣のつもりで構えをとる。模範試合だったか、せめて美しく倒してあげよう。
せめて美しく死なせてやる事が、せめて間接的な親であるこの僕の手で殺してやる事が、せめて殺されるために生まれたその生命に意義を与えてやる事が、それらすべてが慈悲だ。
2、3回攻撃を躱してみた結果、獅子は単調な動きしかしない事がわかった。飛びかかるか噛みつくかの二択、火を吹いたり舌を伸ばして銛のように突いてきたりはしない。まあ獅子であるなら当然とは思うが、魔術生物の癖に随分と簡素である。それ故、僕は彼との試合に集中できるわけだが。
守勢に入り一先ず敵を知ることができたので模範的な試合となる様に、攻勢へと移りここから模範的な剣術を見せるとしよう。
しかし、話は折れるが僕の剣術は帝国流の派生だ。確かに、帝国流は魔術師流の分派である。だけれども僕の剣術は帝国流の剣術とはかけ離れている。一人で戦う僕と、集団で戦う帝国軍では剣術に求められるものが違いすぎるからだ。これは非常にまずいとまでは言わずともよろしくはない事である。
これはこの試合が望まずとも将来前線で戦う兵士のトップの戦い方を見るための試合と言う側面を帯びているからだ。この大会は全学年の伯爵位以下の生徒が出る試合だ。そして、そういった人はもれなく帝国の軍に所属させられる。もちろん私兵を率いて指揮官として戦場へ出る人も少なくはないが、魔術が使えない兵士なんて帝国軍にとっては事務やらを任す以外では何ら役立たない物なので、より位の高い貴族が隊長をやっている部隊に一般隊員として組み込まれる方が多い。
まして騎士爵の子供である僕はその代表の様な物だ。僕の戦い方が今大会参加者の目標となると言っても過言ではない。それでは僕が本気で戦うと将来戦場で戦う人が帝国流とは違う流派の物を見習われると言う事になる。
僕の行動で下手すれば人が死ぬ。そう考えては体が少し鈍ってしまう。いや、しかし、確かに僕の行動で人が死ぬかもしれないが別に自分の戦い方に合っていない物を見習って結果腕を落とす様な人間は僕が関与するしないに関わらず死ぬ様な気がする。
それなら遠慮もいらぬか、そう考えれば僕の体が軽くなる。体の中の歯車が噛み合う感覚がした。強化の魔術がじわじわと体の隅々にまで行き渡る。持つ剣は石造りの刀だが、そんなものは関係ない。
飛びかかってきた獅子に真っ直ぐ見つめ、刀を振り上げる。獅子は咆哮を上げながらこちらへ飛びかかる。その体は鋼鉄、ギラリと光る刃で出来ている。倒される為に造られ、今倒されるべき相手と相対している。
その咆哮に意思はあるのか。倒されるべき相手だろうがせめて一矢報いようと言う負けん気さえ無いのか、あるいは相手など知ったことかただひたすらに戦うと言うつもりだろうか。その意志は知れず、まして意識が有るのかさえしれず。哀れな命よ、今僕が終わりを迎えさせてあげよう。
「──死は慈悲である、新たなモノへ生まれ変わるといい──ティア・インパクト!」
振り上げた刀を、真っ直ぐ振り下ろした。黒金の頭に石の刃が沈む。鈍以下の刃であろうが、そんなものは関係ないのだ。切ると言う意志さえあれば、なんであろうと切る。そのための多重詠唱だ。
沈んだ刃は周りの鋼鉄を引きちぎりながらグングンと下へ向かう。魔術で鋼鉄を切るための処置か、石の刀に触れた鋼鉄は赤熱され液体となり衝撃を波紋として伝えながら幾ばくかが飛び散った。しかしこちらへ溶けた鉄が飛び散ることもなく無事溶断できた。
刃を振り下ろし終えると、一瞬静寂が訪れた。遅れて司会進行が勝利宣言が出される。仕留めたのは一閃である。僕は美しく殺してあげたかったからだ。他の有象無象に迷惑がかかろうがどうでもいい。僕は美しく殺すと決めたから殺したのだ。そこに是々非々もない、良い悪いと判断するべきものではないのだ。
時間が余っているのであれば商業的理由で更に造魔を作り戦わせるのも良いだろう、それも僕が殺す。勝負にならぬと僕を退場させるのも良いだろう、僕とて哀れな生物が見たいわけではない。
しかし剣獅子との模範試合自体の時間は短くとも、観戦席の用意等準備の時間が長かったこともあり向こうも終わったようである。
これから授賞式の準備へと移るようで、僕は係員から移動を命令される。対戦相手のこともあり、あまり爽快感のある試合ではなかったな……。
作者が入院したためここ暫く更新頻度落ちます




