メタでっき
体が打ち上がる!
君達はそんな経験した事があるかな?
視界は一面に青い空に犯され、体一杯を衝撃と浮遊感に蹂躙される!
僕は昨日体験した、そして今も絶賛体験中だ。まあ、僕はしょっちゅう投げ飛ばされたりする。体重が軽いからね、その分少ない力でちょこまかと動き回れるけれど、やっぱり不利な点はあるのよね。
とは言え、しょっちゅう空中へぶん投げられるのに慣れてるからこそ、そう言った時の対処にも慣れてる。まずは地面方向へ腹を向け、四つ足で着地の用意を————!
猫と同様のメカニズムで空中での姿勢制御を試みた所、更に僕は追撃の魔術を食らう。1つ2つ3つ、複数の魔術を体に殆ど同時に体に当てられる。ザ・シューターなんて言われることはあるな。ジャック女史は試合開始から一歩も動かず、杖を銃の様に構えて魔術を発射しているだけだ。
まさしく射手による一方的な試合、恐れ入る。だが、射手による試合はあまり面白くなかろう。最初から本気を出すつもりだったが、彼女の実力によって本気を出しそびれた。今から本気を出そう、実際口に出すのはダサいのでしないが。
ジャック先輩が体を空中へ打ち上げる様に回転を伴った魔術を放ってくるので、自らの体へ撃ち落とす魔術をかけて無理やり着地する。吹っ飛ばされた距離は最初の地点からは大体30mって所かな、ジャック先輩との距離はだいぶあるし、およそ40m程の距離を取られている。普段は近距離で戦う僕を考慮すると、遠距離を得意とするであろう彼女にだいぶ有利な間合いだと思う。でも、僕だって遠距離が苦手というわけじゃない。
しかし遠距離で戦うにはそれ相応の準備がいるので、僕は急いで魔術の氷の壁を張った。壁は水平面に対して四十五度、先輩からの魔術を上へ受け流す様に作った。先輩が開幕から僕へ機関銃の様に当てた魔術は受けた感じ、無属性か風属性だ。氷でも耐久には問題ないと踏んで、なるべく落ち着きながらも迅速に遠距離射撃用の準備を整える。準備とは言っても、今持っている魔術の大弓に似合うサイズの氷魔術の矢を複数本作るだけだけれど。
氷の壁は思った通り、彼女の目にも止まらぬ連続射撃を全て防いでくれた。しかし、威力不足を知っても改善方法がない、なんて先輩ならここまで勝ち上がってこれない。校内4位の先輩にも当然ながら氷の壁なんぞ易々と撃ち砕ける魔術がある。それが石の玉だ、僕の石の槍を射出する魔術と違って威力もなければ、連射速度も2秒に一回と桁違いに遅い。しかし、慌てて張った氷の壁を粉砕するには十分な魔術だ。
しかし、コンマ1秒が致命的な結果に直結する様な戦いをしてきた僕にはそれで十分。僕は魔術の矢を放った。それでもやはり多少の焦りがあったか狙いはブレ、ジャックさんからおよそ1メートル離れて場所に着弾しそうだ。だが、その程度で死に矢となる様ならそもそも魔術で矢を作成する意味はない。氷の魔術で作られた矢が空中で破裂し、氷の粒を霧状に撒き散らかす。
第一の矢はそれで十分、ジャックさんの飛ばす礫を脇腹に受けつつ、第二の矢を放つ。第二の矢は風の魔術も付与している氷結の矢だ。第一の矢が撒いた氷の霧を魔術の風が第二の矢へ集めつつ、矢自体は刺さった対象を周囲の霧ごと凍らせる。多少空気が含まれて海綿状になってしまうが、これで即席で氷の檻を作る事ができる。
そして、狙い通り氷に閉じ込められた所を本願の第三の矢、即興で作った魔術生物憑きの矢を放つ。しかし放ったその時、どうせあの氷の檻は数秒とて持たんと思ってはいたが、驚くべきかもう氷の檻を破壊してジャックさんは外へ出た。参ったな、第三の矢は外す事を考慮に入れてなかったんだけれど……魔術生物が予め入力されていた命令通り、矢を加速させかつて彼女がいた場所を深々と穿って行った。
僕の魔術の威力を知りつつ、ジャックさんは魔術を火の魔術に変えてまた魔術を連射してきた。一番最初の風の魔術ならいざ知らず、火の魔術であれば避けることは容易い。僕はジャックさんに近づきながら火の魔術を躱していると、また体に衝撃が走った。
吹っ飛んだ所を火の魔術と連続する衝撃が襲う。空中へ打ち上げられたところに、トドメと言わんばかりの石の弾丸が僕のお腹へ撃たれる。うう、燃えていた服が破れ皮膚が剥がされた。体が半裸に近くなる、チクショウ見るな! 僕の玉体をジロジロと見るな、この小児性愛者どもめ!
着地すると同時に服を魔術で直しながら氷の盾を乱立させる。火の魔術を避けた所、僕の体を襲ったのはおそらく風魔術だろう。風属性は威力不足もさる事ながら、日常生活での活躍の方が多いため中々戦闘に使われづらいのだけれど、ジャックさんは風魔術を存分に戦闘に活かしている様だ。
風魔術の利点、それは不可視である事だ。僕達は普段の内に風を視覚的に認識できるのは、タバコの煙やつむじ風に落ち葉が巻き上げられた時など、風によって物が動かされたときにしかない。まあ、風というものが空気の動きであり、その空気が視認できないのだからそれも当然だ。だからこそ、彼女は選んだのだろう。
火と風と土、おそらくその三属性が戦闘に使える程度だろうか。練度や才能的に、風に特化して次点で土属性、火属性は不得意ではないがさほど得意ではなく、属性そのものの攻撃性として……と言った所か。まずは当たればそこそこ厄介な火の魔術で弾幕を張り、避けている所に見ることのできない風の魔術で空中に打ち上げ、そこに連射できないが威力は高い土の魔術でトドメを刺す。なるほど、属性と自らの強みを活かした良い戦術だ、勝たねばならぬ側としてはたまったもんじゃないが。
幾つもあった氷の盾の最後の一枚が今破られ、また再び僕に火の魔術が当てられようとしている。この際、火の魔術は当てられても良い。氷の魔術で防御してれば当たったところで痛くも痒くもない、しかし風の魔術だけは避けねばならない。石の魔術とて当たりたくはないが、それは腰に差した刀で撃ち落とせばいいだろう。だから風の魔術だけ、風の魔術だけ対策を練れば良いのだ。
猛火を顔から浴びせられる、大したダメージにはなっていないが顔を押さえて痛がるフリをしながらもう一度盾を張り、今度は蛇の様に動く氷の鎖を生み出しておく。数体の蛇が盾の破損部に身を当てて補強しつつ、残りの子達は先輩に噛み付きに行くために地面を這いずり回りながら近づいていく。これでしばらくは時間が稼げ得るはずだ。まあ、先輩に近づこうとしている鎖の蛇は尽く魔術で息の根を止められているが。
僕の可愛い子供である鎖蛇達は風や土の魔術で砕かれ、校庭に氷の破片が散らばっていく。しかしそちらに魔術のリソースが割かれる分、盾が消耗するスピードも緩やかになった。
蛇が犠牲になっている間に、僕は合間合間を縫って盾から半身を出して魔術の矢を放っているが中々効果は出ない。一応は氷主体と撃つ魔術の種類を縛っているが、もう石の矢でも放とうかな。いや、それはもう少ししてからでも遅くはないか。ここは水の魔術にして、まだ氷主体で粘っていこう。
僕はそう決めると、水の矢をジャックさんの真上へ向けて放った、飛んでいる最中に矢から壊れたスプリンクラーの様に水がばら撒かれる。辺りはびしょ濡れだ。また氷の鎖が濡れた地面を這う事で地面に釘付け、いや氷漬けにさせられるがそこを中心に周囲を凍らせていく。そして氷で滑らかになった地面を、後続の蛇が今までよりも数段速い速度で滑って行く。
僕と先輩を繋ぐ道の半分ほどが完璧に氷漬けになっている。もう半分はまさ氷漬けにされていない場所と氷漬けにされたが先輩の魔術で砕かれたりとかされた場所だ。これは使えるかも知れない。僕は一応騎士爵のエクストラと言う体なので、他の魔術は力加減をしなければいけないが、氷の魔術に関しては魔法と見間違えるレベルで使える。
であるならば、周囲を氷の魔術を存分に扱える場所にしてしまおう。
僕が大会の最初、ゴブリン先輩をからかう直前の様に、あたりを氷漬けにするんだ。そうすれば氷の蛇や盾、矢を素早く作ることができるし、何より先程から防戦一方に見える僕も攻める手を打ってる様に見えるため勝負の見栄えがいい。見栄えは重要だ、僕が氷一辺倒と言うイメージになれば色々と便利だからね。
しかしどうする? まだ風の魔術の対策ができていない。風の魔術は見えない、見えない物をどう避ける? 幾つか方法は思いつくが、どれも微妙ではある。
一つ目。辺りを霧で満たす。濃度にも寄るが氷の霧を作っておけば霧の中を掻き分け猛スピードで進む塊が見えるから対処しやすい。この策の問題点は、火の魔術をバカスカ撃てば簡単に霧が晴れてしまう事だ。それに、霧を校庭にキープし続けるのは難しい。
二つ目、地面から浮き上がって次の攻撃を避けられない事が問題なんだから低姿勢を保ちつつ移動し、浮き上がった瞬間に魔術で体を下へ押さえ付ける。問題点は低姿勢を無理に保とうとすれば移動速度が落ちて魔術を食らいやすくなるのと、下へ押さえつけても結局移動できなくなる事は同じなんだし、本末転倒になりかねない。
三つ目、要は体にあたらなければ良いんでしょと、手持の盾を作る。問題としては強度の不安、強度を出そうとすればするほど移動の邪魔になるし、かと言って弱すぎればすぐ壊れてしまう。それに、ある程度の大きさがなければ何処を狙っているのか分からない風の魔術を防ぐことは難しい……。
四つ目、僕個人はここで動かずに今も結構有効打を与え続けている魔術生物を、もっと強力な物に作り上げて放つ。これはまず見栄えが悪い。青い蛇のお姫様だかなんだかと呼ばれた事があるが、この策を実行したら本気で戦う人というよりも王子様が諸々の問題を解決するのを待つ御伽噺のお姫さまチックになってしまうのでちょっと嫌だ。付け加えて言うなら、流石に石の弾丸を一身にブチ当てられてピンピンしてる様な魔術生物を作ると少し問題になる。あのデカい氷の蛇が神様の分霊じゃねって。そんなデカくて強い蛇は騎士爵の家ににふさわしい下級の神っぽくない。
考えながらも周囲を氷漬けにする作業は終わったので、そろそろ次の一手を打たなければならない。しかしどれも問題点がある、一体僕はどうすれば良いのだろう。
まあ、別に氷の魔術は遠慮なしに使っていいんだから当然全部やるよね。
まずは先ほどから生み出し続けている氷の鎖を集合させてアナコンダの様に大きな蛇を四体作り、氷と風の魔術の合わせ技で周囲に霧を放ちつつ、氷の盾を持ちながら、更に靴に土の魔術で石のブレードを着けてスケート靴に加工して滑る。本命は僕自身の攻撃だが、大蛇も放っておくことはできない。
しかし、スピードスケートをしてる僕もうねうね進んでいる大蛇も地面スレスレの低姿勢かつ移動が直線的では無くサインカーブの様にブレ続けている為、ジャック先輩が得意とする射撃では撃つ事が難しい。
風の魔術が放たれる。大蛇の体が跳ね上げられるが、全身の水分が100%は伊達じゃない。自重ですぐに着地して進行を再開させる。僕にも風が来るが、霧で見える様になったそれも盾で防ぐ。盾は全身を防ぎ石の弾丸すら一発は耐える様に作った大きな盾だ。構えながら弓を引くことはできない。蛇もそうだ、彼らにはジャック先輩に噛み付いて締め上げる事を目的としている為、遠距離の攻撃手段は何一つ持たない。
であるからか、ジャック先輩はすぐに風属性を変えて、土と火の魔術を撃ってきた。石の弾丸が数秒おきにコチラに向かって打たれる。中には敢えて地面を狙って進行を邪魔する物や、火の魔術で一部溶かされた場所を狙って撃たれる物もある。
このまま続いたら危ない、盾も蛇も壊れてなくなってしまう。
まあ、続いたらの話だ。僕はようやくジャック先輩に肉薄した。時間にしたら数分もないのに、やはり随分と長かったものだ。魔術で体を普段より強化している戦闘中の僕の時間は、僕の感覚時間は延ばされるからだけれども。更に強化を強める。1秒が数秒に、十何秒にも延ばされる様に。
ここまで来れば弓はいらない、石の刀を抜き片手で居合斬りの様にジャック先輩の腕を強打する。彼女の柔らかそうな腕に波紋が広がる。普段あまり白兵戦をする事がないのだろう、木製の杖しかふるってこなかっただろう筋肉もさほど無い腕には脂肪がしっかりとつき、衝撃の波がよく見える。そして、衝撃に耐えきれず腕が曲がってはいけない方向に曲がってしまう様子も。
グロテスクだ。それが正直な感想だが、だからと言って手を抜いてもいられない。すぐに刀を持っていない方の手で彼女の杖を奪い取り、その場を離れる。氷の大蛇の一体が彼女の足に噛み付いた。
大蛇の正体は鎖の集合体だ、口先の鎖が足に絡みつき振り解かれない様に結ばれる。二体は彼女の胴と折れていない方の腕に同様に噛み付き、締め上げる。
ビキビキと彼女の肉を凍らせながら三体が巻きついているところ、最後の一匹が首から折れた腕の指先にかけて巻きついて締め上げる。頭部は頬にぎゅうぎゅうと噛み付いて今にも喰いちぎりそうだ。
強化を緩め離れると、耳をつんざく様な彼女の悲鳴が耳に入った。奪ったばかりの杖を構えると、悲鳴が止んだタイミングで審判が止めに入る。僕の肩を押し除け選手同士の距離を取らせながら、審判はジャック先輩の容態を確認する。あたりが静まり返る、僕は戦いの興奮がまだまだ体に残る中、我ながら冷酷な瞳で彼女を見つめていた。
彼女がもし粗悪性の薬に手を染めていたら、ここからもう一回戦わなくてはならない。最悪、真剣を使う事になる。
「ジャック・レッドメイデン気絶、勝負有り! 勝者、ゲニーマハト・チェルトルカ!」
残虐に思える勝負の末、歓声が上がる。僕は今まで使っていた魔術を全て解き、ジャック先輩の腕を掴んだ。折れているし所々が凍傷になっている為、すぐに手当てをしたい。
僕は美化の魔術が使える。枯れた花を再び咲かせたり種を急激に成長させて芽吹かせたり、物を最良と思える状態へする魔術だ。人体もちょろい物で、先ほど僕の燃えた服や傷を治したのも同じ魔術を使った。ジャック先輩の腕も元どおり、何だったら気絶まで治るのだけど……。
目が覚めた先輩は飛び起き、僕から距離を取った。
「なっ、なな、何が……!?」
「勝負はもうつきましたよ。先輩の失神で。」
ジャック先輩は近くに居た審判を信じられないと言った顔で見るが、審判もうなずくし、遠くから見ている為僕たちの会話が聞こえない観客も皆んな僕へ歓声と花を敗者たる先輩へ罵声とトトカルチョのハズレ券を投げつけている。
先輩はそれを見て理解はした様だ。審判が呼んだのか担架もくるが、僕が治してそんな重傷になっていない先輩は意気消沈しながら退場していく。取り敢えず僕はそんな先輩に倣い、応援をしてくれた人々や馬券、間違えた選手券を買った、いやトトカルチョで僕が勝つと賭けて来れた人々へお礼とファンサービスのパフォーマンスをしながら退場していった。ファンサービスと言ってもこっち向いてとか聞こえたらそっちに笑顔で手を振る程度だけれど。
さて、試合が終われば昼食、次に握手会、その後小休憩の後に次の試合となる。昼食の内にヤマオカさんと会って、朝のうちの事を話したいのだけれど、ヤマオカさんはさて何処に……?
きょろきょろとしながら歩き回っていると、後ろから肩を掴まれた。背丈が同じぐらいの小人族の女性、見事な赤毛に大きな顔の傷。先ほど戦っていたジャック先輩だ。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。」
ジャック先輩は真剣な表情だ。先輩の真摯な頼みを無碍にすることはできない、まあ大した恩義も何もないが。聞く姿勢を取ると、僕の手を握って魔力を当ててくる。ん? んん? どうしたんだろう。顔をトマトみたいに赤くしているとなんだかちょっと引く。
「やっぱり、貴方どうして魔術が効かないのよ……!?」
魔術が効かないとは一体。いや、待てよ、今一瞬だけ嫌な予感、と言う程でもないが、少し頭をよぎる物があった。
「まるで呪いを掛けたそばから解呪されてるみたいだわ。」
それだ。僕の予想が正しければ、僕はとんでもなく有利な状態に気づかず戦っていたのだろう。
「あの、もしかして先輩って試合中も呪いかけようとしてました?」
おっかなびっくり尋ねると、勿論してたわよと言う返事が返ってきた。やはりか、やはり彼女はそう言う戦い方をする人だったか。
ジャック先輩の戦い方は素早く正確に多種多様な魔術が打ち出されると言う特徴がある。それで一番厄介な戦い方と言えば、呪いを掛けてくることだろう。金縛りや窒息、引きつりと言った呪いを素早く多重にかけさえすれば相手は息も絶え絶え、勝負は早く着くだろう。勿論、戦闘中に撃たれる簡易な呪いだから素早く解除すればいいのだけれど、その対処に手が割かれるのはどんな実力者だろうと避けられまい。
しかし、僕においては事情が違う。
「まるで卑劣公に呪いを掛けてるみたいだわ。もしかして、貴方の家の神って聖属性もある?」
そう、僕はテンシさんと言う聖属性、浄化属性の神から加護を貰っているのだ。テンシさんは邪神に狙われている僕の為に遣わされた神で、強力な加護で僕にかかっている呪いなどを強制的に解除してくれる。それが今回は裏目に、いや良い方向へ働き過ぎてしまった。
ジャックさんの呪いを相手にかけながら戦う戦闘方法の、ミソである呪いを殺してしまっていたんだ。
「はは、そうであったら良かったんですけどね。呪いが効かないのは普通に魔術道具で対策があるからですよ。」
冷や汗をかきながら怪訝な顔をするジャックさんを誤魔化す。ジャックさんは少し疑い気味だが、確かにそう言った時にどうするかを考えないといけないわねと呟き対策を考え始めた。このまま参考までに一体どう言う魔術道具を使ってるのかと効かれたらまずい。先に話題を逸らす。
「そう言えば怪我は大丈夫ですか? 一応出来るだけ直しましたが。」
話を逸らすと、先輩はそこそこ食いついてきた。あの短時間で一体どんな手品を使ったのだと言われる。手品も何も、魔術十四属性の内の無属性に対を成す属性、特殊属性以外使ってはいない。校長が剣の魔術を操れるように、僕は美化の魔術が扱える。そう答えると、先輩は少し考え込んだ。
「特殊属性……惜しいわね。それで騎士爵でさえなければ。」
彼女の言う惜しいとは、特殊属性の遺伝性による。
そもそもの話、魔術と言うのは心のあり様を映す物と言われる。烈火のように激しい性格の人とと、そよそよと吹く春風のように柔和な性格の人とでは火の魔術に大きな差がでる。勿論、激しさにも色々な種類があり、同じように激しい性格でも火や水、風や土の属性の内どれが一番威力を出せるかは人による。
しかし、魔術は当人の性格だけでなく、遺伝で決まる面もある。例えば僕や僕の兄は水属性、土属性が得意だ。フロワユースレス公爵家は代々そうらしい。それは恐らく、魔力量が多い人の子供は吊られて魔力量が多くなることに関連している。
つまり魔力は当人の人格を形成する生まれ育った環境とその血統、後天的要因と先天的要因に依る訳だ。
そして特殊属性の魔術は後者、先天的要因が強いと言われている。親の属性が子に遺伝する可能性が高い。僕の場合は、父や兄の特殊属性がまた別の物らしいので少し事情が違うか、あるいは僕を産んでからすぐに亡くなってしまった母からの遺伝だと思うのだけれど……。
話が逸れたね。特殊魔術の遺伝で問題になるのが、魔力量もそれに準ずると言う事だ。通常の騎士爵の人の持つ魔力を1としてある男爵の魔力を2とすると、子供の魔力はおよそ1.6となる。前に話したが、親から5割5部の魔力が子に遺伝するのだ。
だから、計算すると1.6の内の0.5あまり、1/3しか騎士爵の魔力が子に遺伝しない。魔力量に開きがある場合はもっと少ない割合で遺伝するので、狙った特殊属性を子に移すには対象とされる属性を持つ人のツガイをその人より弱い人から選出しなければならないのだけれど……。
当人の性格、後天的な物はどうにかなっても生まれ持った物はどうしようもない。魔力量が1より小さい魔術師なんてそう転がっていないし、そこまで行くと、もはや魔術が使えることすら怪しくなってくるのだ。
と、言う訳で、ある貴族の家が僕の特殊魔術が有用に思えて手許に置いておきたくても、それは僕が騎士爵である以上無理なのだ。クローニング技術が発展すれば或いはだが、残念な事に科学がはるかに発達した21世紀の初めでも無理だったからね、ドリーちゃんとかデザイナーベイビーとかは居たんで、僕は転生してしばらく経っているし同じ程度に時間が進んだ地球では出来てるかもだけど。
「まあ、僕はそもそもフロワユースレス家に使えてますし……て、あれ?」
僕が脳内でベラベラ喋っていると、先輩はもう用事が済んだのか何処かへ行っており、いつの間にか僕の前に来ていたヤマオカさんが僕の事をジトーっとした物言いたげな顔でこちらを見ていた。
「その考え込む癖、治したほうがいいよ。」
いや、物言いたげな顔をするだけでなくバッサリと物言いをしてきた。しかし、癖は治せないから癖なのだと何度言えば……。




