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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
163/167

早打ちジャック

 ────召喚! レスポンダー!


 人目につかない、されど入り込みやすい草むらの中で適当なポーズを決めて魔刀レスポンダーを呼び寄せてみる。僕が勝手に抱いていた変身ヒーロー的なイメージに寄せられてか、レスポンダーはバシュンと音を立てて僕の手の中に現れた。カ、カッコいい~……!


 ま、馬鹿な真似は辞めておこう。レスポンダーを魔術でしまい、護衛で数人が付いて来ている筈の聖騎士を呼ぶ。


『ハッ、ここに』と言う声とともに、2人の大人が僕の前へ跪いた。おお、これは良いな。まるでフィクションに出てくる忍者みたいだ。まあ用件は諜報の依頼ではなくただの質問なんだけれども。


 平伏している男2人に昨日の暮れ方に僕へ接触してきた男は誰だと聞く。昨日の暮れ方、僕を公爵家の次男であると知っておきながら図々しく『お願いがあるんだけどさぁ、まさか断らないよね?』みたいなふざけた脅しにもならない声掛けをしてきた奴。そもそもこいつらは僕の護衛で付いているのだから、こいつらが超弩級の無能か相手が侯爵家家来の器に収まらない規格外な奴でもなければ普通にアイツと対面させても問題ないから昨日、僕とあの男を引き合わせたんだろう。であれば、当然の事として事情の背景を知っている筈。


「ハッ、ソンブルアストゥート家の執事です。魔術で変装していたと思われます。」


 ソンブルアストゥート……? ああ、卑劣公の北か。


 さてさて、君達は卑劣公とはなんぞやと思うだろうから僕とお勉強の時間と行こう。この国は基本的に帝王の下に纏まっているだけで下にいる配下の仲は悪い、なんて事は前に語ったね。まあ頼光四天王の様に全員が全員、戦闘が得意で地位も偉いんだけれど、その中でも役割分担がある。


 僕に流れる血、フロワユースレスの家は帝国南部を治め、魔族相手に戦線を常に張っている事もあり戦争が大得意な家として認知されている。一方、北部を治めている家は王国と帝国の国境沿いを治めている。しかし帝国は元々信仰する神を数世紀でころころ変える王国なんぞ信用できるかと蜂起した国で、王国との戦争が終結した今では戦争などはしていない。よって北の公爵家は戦争以外のこと、通商関係の外交や内政に力を入れているのだ。


 正直北の家と仲が悪いって南の家は財務省と仲が悪い省庁みたいな物で、終わってると思うけれどもそれでも公爵を建国当初からやっている家だ。東西の公爵家とは仲がいいとは言え、中々恐ろしい家よな。ま、そんな事はともかくだ。その、北の公爵の家が例の男が執事として仕えている家、ソンブルアストゥート家なのだ。ただ、南北の家は国民から嫌われているのか何か、南は冷血公、北は卑劣公と呼ばれてたりする。


 さっきの『卑劣公の北か』と言う発言にはそう言う意図があったんだ、別に僕個人に北の人と変な確執があった訳じゃない。そもそも、僕は公爵家で育ててもらったわけじゃないから南色が薄いし。


 しかし、卑劣公が一体全体なんで僕にバートリーさんの件で頼み事を。当初、バートリー家の家来が一丁前に僕へ脅しをかけてきたと思ったが、公爵家の執事だったとは驚きだ。


 執事は、まあまた違った使用人体制を持っていた日本で生まれ育っていた僕にはあまりピンとかないのだけれど、他の使用人をクビにできたり逆に新たな使用人を雇用できたりするある程度主人と対等の位置にいる上級使用人らしい。大抵はいいとこのお坊ちゃんで、家事使用人組合とか言う組織に属していたりする……らしい。


 情報が不確かだと言いたいかもしれないが、貴族の子供に執事っていうのはだのをベラベラ教えてくれる人がどれほど居ると思ってるんだ。むしろここまで知っていたのを褒めてほしい。


 確かに執事が良いとこのお坊ちゃんであると言うのは、『貴族の次男とかが姉妹は嫁にやられ家は長男に継がれであぶれて、就くべき職もないのでその高貴な血を活かして高貴な人のお世話係になる。』なんて当然の予想で知ってて当たり前に思える。だから今の僕は、組合以外の事を知らないにも等しい。


 まあでもそんな事はどうでも良いだろう。重要なのは、なぜ彼の家の使用人が、だ。取り敢えず、今日の用事が終わったら父に書簡を出しておこう。北の家から脅されたんで取り敢えず従っといたわ、なんて手紙が子供から来たら、当然それなりのアクションがあるだろう。今度お父さん怒っておくね、なんてきたら人を顎で使おうとしてきた奴が痛い目を見て儲けもん。父さんがそれを許可したんだよと来たら、またそれはそれで楽に事の仔細を把握できるので良し。


 うん、色々と整理できたし、ちゃんと聞けてよかった。じゃあこれからもお仕事頑張ってね。あ、そうそう。今日は僕含めて4人しかいないんだから、選手が例の薬を飲んだかどうかちゃんと見張っておいてね。僕の試合の前に飲んでたらちゃんと報告すること!


 そう聖騎士達に伝えると、また聖騎士達はハッと言う声とともにNINJAよろしく姿を消した。か、カッコいい~……!




 さてさて、早速試合と行きたいところだが今日は3位決定戦を含めても試合が全部で4つしかない為に、尺稼ぎのイベントが盛り沢山だ。まあ全部トトカルチョ購入促進のキャラクターPRだけど。まず第1試合の前に一つイベントを差し込み、その次に決勝戦前にもう一つ、そして決勝戦後にまた一つ。中々多い。


 そして記念すべき三連ちゃん最初のイベントはと言うと、昨日あったらしい人気投票の結果発表だ。有象無象に好かれている好かれていないに興味はないが、とは言え他の多くの人が持ち得ないメタ認知の大きな足掛かりともなる。僕は身分を偽る身なのだから、まあ二重の点であまり意味がないとは思うが、しっかりと参加しよう。


 して、気になる結果だが、これがまた中々発表してくれない。外部の人が学園に入ってから3日、早くもお馴染みとなった特設のステージに今まで勝ち残った4名だけでなく、昨日までは残ってた人達も集められ計16名がステージの上にいる。尋問はもう終わったのか、ヒヒイハキナ先輩達も全員いる。がしかし、着ている服で見えないが腰のあたりに魔力を感じる。きっと再び暴走することがないように魔術を封じるか動きを制限する魔術道具があるのだろう。このイベントの後も尋問が再開されたりだのがあるのかもしれない。


 優勝者を発表するまでが長いので雑談をさせてもらうが、16名は多いと思ったかな? 昨日から始まった人気投票である為、投票は当然12名の敗北者達にも行われる。投票は強い弱いではなく人気不人気を競う為、弱い12名への票は全くの無意味でカウントしませーんなんて事をするならそもそも優勝者に他の候補者はいないので人気投票一位ですと訳のわからぬ事をすれば良いのであり、そうなれば人気投票なんかする必要もなく、当然のことながら12名の分もカウントしなければならないのだ。


 なので長い。人気投票は不人気順で発表される。これが情報社会が発展して、テレビを見ながらリアルタイム投票ができるようになった時なら、人気ワーストワンの人も絶対数で言えばそれなりの人気があると言う前提が成り立つ為、一番不人気を最後まで引っ張ったって誰が一番不人気の烙印を押されるんだろうとハラハラドキドキ、エンターテインメント性バッチリだけれど、ここは世界唯一ではあるがただの魔術師養成学校、集客にも限りがあり投票者もそれに準ずる。故に引っ張ってもしょうもない感動しか得られないので引っ張らずにあっさりだ。


 そして説明でだいぶ尺を稼ぐ事ができたので、ただ今より発表される人は第5位からになる。残っているのは僕を含めた男子2名、女子3名である。僕でない方の男子は如何にもな強面のイケメンで、中々覇気がある。しかし、女子が16名中5名しかいなかったのに、その内3名が上位5位に食い込むとは中々趣旨が違うような気がしてならない。いや、それを含めての人気投票といえばそれもまたそうか。


 3人のうち2人ははよくわからないが、1人は今日まで勝ち残ってた人だ。先程校長室であった。確か名前はジャックさんと言ったかな? 小人族の女性で顔に大きな傷がある。しかし艶やかで豊かな赤毛はとても美しい。ホームズや赤毛のアンで見られるように、赤毛というのはあまり本人達にとっては良い物ではないらしいが、僕はあの純銅の様な見事な赤は素晴らしいと思う。


 しかし、やはり顔の傷が大きな減点なのか、ジャックさんは他の女子とは違い、特に女性的魅力を強調する様な服装や化粧もせず、ただ杖を付いて堂々としているだけだ。勿体無い、とまでは言わないけれど、彼女が着飾った姿はさぞ美しかろう。まあどうでも良いことだが。


 ジャックさんが第5位の表彰を受けとると、次に司会者は僕の前へ歩いてきた。おお、次は僕か。16名中4位の人気とは中々いい線イってんじゃないの? あんまり媚びらしい媚も売ってないし、純粋にパゥワーを評価されてると思うと嬉しい。


 第4位の僕には鉄製のメダルが贈られるらしい。首にかけてもらい、他の人と同じ様に客の皆んなに応援の謝辞を送ると会場が沸いた。ま、上々だ。しかし意外と人気なんだなぁ僕は。別に子供らしい見た目だし人に蛇蝎の如く嫌われるとは思ってないけど、10位以内に入るとは思ってなかった。多分だけど、僕のレートが高かったのが一因かな?


 さて、僕の人気が意外と高いと言うことが分かったのならば後はもう関係ない。だってそれはそうだろう、他の誰それが僕より人気があるんだと聞いてどう反応すればいいんだ? 『く、~~に負けた……!』とでも言えと? 誰もろくに知らないのに?


 僕が人気投票で反応できるのは精々が先程の赤毛の小人族の人で、他には昨日戦った奴隷先輩とゴブリン先輩だけだぞ。その先輩達は13位と11位と言う反応に困る順位だったし。やはりいくら軍事国家といえど人気投票では見目麗しい方が上位に来るので、どうしても入墨ばかりの奴隷先輩や人種からして大きくかけ離れたゴブリン先輩では……と言う具合で。


 まあ、それでも一応伝えておくか。1位はイケメンの男子、2位3位は女子2人だ。歓声から推し量るに、性的魅力をアピールした女子2人には女性票が少なかったが、一位の男の人は女性からは容姿方面の性的魅力が、男性からは勝負の気持ちよさと言った物が人気の要因となり女性票と男性表の両方が入っていた様だ。


 1位の男子の表彰が終われば僕達16名は舞台裏に下げられる。舞台裏から音に聞けば今は校長による例の薬の注意喚起が行われている様だ。『魔力をブーストさせるとか言う安価な薬が出回っててそれ粗悪品だから気をつけてちょ』って言う話が聞こえてる中、僕を含む今日戦う選手も同じくその様な注意喚起などが行われていた。


 まあとは言え、選手4人の中で疑われているのは僕だけなんだけど。嫌な話だが、まあ自分で巻いた種と言えば仕方がない。


 僕は昨日、魔力に関しては道具を複数個使って下駄履いてまーすなんて作り話で自分の強さに言い訳を付けていたので、その道具のうちの一つがそれではなんて言う疑惑があるのだ。とは言え、そんな物に手を染めてるわけでも、そもそも道具すら使っていないので、その例の薬とやらを出して使ってますとか使ってる道具を全部公開して使ってませんだとか、そう言う話さえできない。面倒な話だが、僕は使ってませんよと言って信じてもらう他ないのだけれど……ま、実践に勝る証明なし。


 劣悪な薬を使っていたら暴走するんですし、今日を含め大会の全日程で暴走していなければもうそれが証明でしょうと言って難を逃れた。






 そして、それ故に僕は全力を出して戦わなければならないのだ。


 だからコテンパンにやられてもどうか僕を恨まないで欲しいなあ、そう心の中で思いながら、僕は石の刀を腰に差し魔術の大弓を取った。後は大鎧と馬さえ有れば武士のフル装備なんだけれど、馬よりも早く走れるし鎧なんかなくても十分な硬度を保てる魔術師の僕には不要な物よ。であるからして、弓と刀だけが僕のフル装備だ。


 僕が弓の弦をピンッと鳴らし、刀を二三振れば観客が歓声を上げる。やっちまえだのなんだの、下品な連中だ。


 一方の対戦相手はと言うと、長い杖と帽子にマントが装備らしい。杖を上空に向かって振ると目にも止まらぬ早撃ちが成された。その腕前からついた呼び名はジャック・ザ・シューター。聞くところによると、今までの対戦相手は五分と経たずに満身創痍、一昨年は選手が蜂の巣になった事もあるとかないとか。


 大会最終日、僕が始めにやる試合の会場は校舎裏、第二校庭だ。名前の通り二番目の校庭で、広さも校舎からのアクセスしやすさも学園内で二番目。第一校庭が人気投票の結果発表をした場所ね。ついでに、そっちでは別の組の試合が行われている。


 ただ、観客席を作る余裕がそこまでなかったのか、一部の観客を除き観客は校舎に入って窓から僕達を応援している。イマイチイメージが湧かない人にはアレだ、僕達選手は小学校の校庭に迷い込んだ犬みたいな感じがする事を伝えておこう。なんか犬が迷い込んだから授業ほったらかしでクラス皆んなが窓から校庭を覗いているイメージだ。これから血生臭い戦いをする僕らを楽しそうに観る客と、校庭に迷い込んだ犬畜生を物珍しそうに眺める小学生、そこに大した違いはない。


 一部の金払いの良い客は校庭に特設された観客席から勝負を間近で観る様だが……流石に100名近くいた選手のうち上位4名ともなると中々に注目はされている様だ。魔力から察するに中々やんごとなき方が多いぞ。


「君、中々強いんだってね。」


 先輩が勝負開始前に話しかけてきた。試合前の馴れ合いに観客が興奮するので、こう言った潤滑な大会運営を妨げる行為も許される。僕は大会の最初っからずうっと貴方達世俗の事なんぞ眼中にありませんよ的な行動を取っていたので、今更変えるのもなんだし、『まあ、強くなかったらここまで来れませんし』とでも答えて置く。うすぼんやりと、人の話を聞いてんだか聞いてないんだか。悪い男じゃないんだが、いまひとつ情熱のない奴と認識される様に……。


「ま、イイや。どうせ私が勝つから。」


 僕達のやりとりが終わるのを見て、審判が試合開始の合図を出す。


 それと同時に、僕の体は衝撃によって打ち上げられた。


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