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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
162/167

応える者

遅れてすみません……

 スポ根が過ぎるぞ。言いたい事は全てそれに集約される。


「私は口下手で……その、誤解される事が多いのだ。だから剣や槍で語るしかできないのだ。」


 黒騎士は槍を持って果敢に攻めるルサルカさんの攻撃を全て適当に作り出した棒で軽く躱していった。それでいて明らかに手加減をしている。ルサルカさんは自らの力不足を実感し、また責め立てるように無神経な言葉を投げかける。曰く、その様な実力では私を殺すどころか汗を書かせることも出来ないぞとか、何故私に執着して来るのだとか、その様な細事に拘泥して鬱々として無価値な日々を過ごさずに天災にあったとでも思って静かに暮らせばよかったのだの……。


「そ、そこまでは言っていない。」


 だとしても五十歩百歩だよ。正直に言ってどうかしてるぞ。黒騎士が焦って否定してきたが、僕には大差ない言葉だった。


 口下手と言ったか、ああ確かにその様だ。自覚症状があるのならばずっと口を噤んでいれば良かったのではないだろうか。黒騎士はたじろぐ。


 まあ、彼の行動がまるっきり失敗だったわけではない。現にルサルカさんは放置するよりも良い結果になったと思える。僕はちらりとルサルカさんへと目をやった。


 今、彼女は槍を杖の様にして肩を大きく上げ下げして息を切らしている。歩く気力どころか立つ体力もない様で、膝をつき俯く彼女はおよそ限界の様だ。


 ナビさんが水を飲ませてしばらく安静にしてなさいとゆっくりと彼女の体を仰向けにした。ルサルカさんはナビさんに任せるとして、僕は黒騎士と会話だ。


「私は……彼女の一助と成れただろうか。」


 それは知らんが、いづれ知れるだろう。


 そう答えておく。黒騎士は不安そうに彼女を見て、大事なければ良いがと言った。彼は、優しい人なんだろう。それは確実な事だと思う。口下手で人の神経を逆撫でする様な事をほざいたが、なにか不思議と人としての魅力がある。隣人を愛する事、というか、慈愛や慈悲を持っている人だと思う。


 具体的な話はできない会って1日も経っていないのだから当然だが、それを超えて尚も感じさせるナニカがある。


 念のために言っておくが魔法的な物ではないだろう、そう言った精神に関する物は邪神どもの魔法だって無効化まではいかなくとも軽減ができる精神性を僕は獲得している。黒騎士が邪神より強いとは思えないし本当に天然の物だ。


「貴君、彼女にした私の説明だが……私は間違えていただろうか。」


 間違えてはいなかったよ。そう答えておく。黒騎士はルサルカさんが悔しさで泣き、無力さに体が動かなくなり始めた頃にそんな事では真の復讐は夢のまた夢だぞと言う言葉を皮切りに事の真実を話した。


 通常であれば信じないだろう話だと思っていた。真に敵は他にいるのだなどと言っても、素直に信じられる人がどれほどいるのか。だが、黒騎士が行なうと何故か不思議と信じられた。


 兜で顔さえ見てもいないのに、彼の説明には誠意があったように感じる。嫌いな言葉だ、誠意だとかと言う曖昧な言葉は。それに、誠意位があったからとて彼の行動は変わるわけじゃない。彼は酷く無神経な言葉をルサルカさんへと投げかけた。


 一つ良い行いをしたからとて過去にやった悪行が消え去るだなんて都合のいいことがあろうか。今まで善良に生きていたとて、たった一回の悪事を見過ごす理由になろうか。


 やった事はやった事だ、無論その逆に過去の行いで今やった善行やたった一回の悪行で過去の善行が消えるわけでもない。悪行は悪行、善行は善行、信賞必罰で必ず個別に罰と恩賞を与えるべきだと僕は思う。


 その点、黒騎士の無神経さは非難に適するがその行動の感謝は伝えるべきなので、感謝を述べておく。黒騎士は人と触れ合う事が少ないのだろうか、少しお礼を言われるほどのことではと気恥ずかしげにたじろいだ。


 なんだか、黒騎士の嘘……と言うか、不自然な供述に関しては言及する気が無くなって来るな。こうやって相対していると、彼の人間味あふれる一面にばかり触れてしまい、彼が言いたくない事は今はまだ聞かなくても良いのではないかと言う感覚すらして来る。


 思うに、僕と彼は波長が合うんじゃなかろうか。息遣いから発音、話題選び、言葉遣いに至るまで、彼の言葉は僕に安心感を与えなにかするすると飲み込める感覚がある。


 不思議な感覚だな。そう考えていると、ルサルカさんがふらふらと立ち上がった。黒騎士が大丈夫かと近くが、近寄らないでと槍を持ち直したルサルカさんに制止させられる。


 ルサルカさんは浅い息を繰り返し、足が震えている。まるで弦の様に張り詰めた緊張感がそこにはあった。ルサルカさんの指は血に汚れている。皮がズレたんだ。相当に痛いのだろう、手が麻痺をしているのか彼女は槍を取り落とした。


 しかし、武器を失っても尚の気迫がルサルカさんにはある。


「アナタの言ってた事、イマイチ信じ『たく』ない。でも……信じるわ────。」


 ルサルカさんがそう言って、黒騎士は安心した様だ。『それはよかった、傷を治してあげるから早く』などと言いながら近づいていくと、また近くなと釘を刺される。


「教えなさい、魔法使いについて。神について!」


 そう言った彼女の目は鋭かった。揺らめく炎の様に熱い意志を感じる瞳だった。身体中がボロボロなのに、まるで巨岩の様な威圧感さえ感じさせる。


「貴方を、信じるから……。」


 ルサルカさんの声は震えていた。燃えるような意思も、巨岩の様な威圧も、それらを支える鬼の様な顔も、全ては人である彼女からできていた。彼女はこの悲しみの今から脱却を渇望しているのだ。ただひたすらに復讐を終わらせ、自らの人生の続きを歩みたいのだ。黒騎士に恨みこそあれ、その恨みは本願ではないと判るや否や、魔法使いを倒し神も善神へと戻すことを決意したのだ。


 その為には手の皮の一枚や二枚、全身の痛みの一回や二回には目もくれない。


 ただ、前へ進む。その人間的意思が彼女を人たらしめ、そして鬼の様な気迫を持っているのだ。彼女は、ああともすれば今この場にいる4人の中で一番の人であった。


 美しい、そう言ったかんそうしか言えないのが残念でならない。彼女の美しさを語れない。荒波に揉まれながら進む船の様とでも、川の流れに逆らい遡上する魚の様とでも言えるが、イマイチ的を射ない。それはそう、まさしく彼女は人なのだ。


 ルサルカさんの覚悟を知ったか、黒騎士はコクリと頷いて南下しろと言った。


「ここより遥か南、王国と帝国をを分かつ境に霧深き森と魚住めぬ清き泉がある。そこに住む人々に稽古をつけて貰え。強くなったら、再び貴君等と相見えよう。」


 黒騎士は僕にナイフを鞘ごと投げてきた。帝国の大鷲紋章の意匠が彫られていて、また中々に良く作られた物だ。黒騎士の温かな魔力を感じる、これが身分証となるのだろう。確認を取ろうとしたが、黒騎士は竜の背に早々と飛び乗り、来た時と同じように空間を切り裂いて異界から出ようとしていた。


 それと同時にルサルカさんが糸の切れたように倒れ込む。息はしているようで、疲労による失神だろう。立ちくらみとかと同じで安静にさせねば。なんて事をやっている間に黒騎士には逃げられた。


 はあ、気を取り直すしかない。ナビさんには申し訳ないが、僕の背丈ではルサルカさんを運べないので彼女に背負ってもらい、異界から出る。


 異界に行って、黒騎士とあった。今日やった事はたったそれだけなんだけれど、なんだか今日は疲れた。南下するのは明日のプレイにしよう。




 ログアウトをして、そう間を置かずして目が覚める。伸びをすると、不思議と今日は疲れがない。いつも良く眠れて居ないのか、前の日の疲れが残っていたのだけれど。もう一度グイッと背伸びをすると、体が猫のようにしなやかに伸びて、朝の冷たい空気が肺に心地よく取り込めた。


 おはようございますとクロノアデアが声をかける。今日の彼女もとても綺麗だ。慣れた手つきで僕の長い髪をとかし、三つ編みに結って、そのままお団子にしてくれる。仕上げにリボンを結んで軽い魔術をかけて固定する。


 どうですかとクロノアデアが聞いてくるので、どうせ完璧なのであまり意味はないが、僕は確認のために頭を左右に振って見せて、ニコニコとしたクロノアデアを見上げてよく出来ていると褒める。


 いつものやりとりをし終えると、ポミエさんが今日のご飯を持ってきてくれた。今日は薄切りにしたお肉と野菜のスープをメインに、デザートの果物もついていて豪華だ。とても気合が入っている。ポミエさんが今日の試合を優勝できるように祈っていますと可愛らしい事を言ってくれるので、感謝の意を伝えてよく味わって朝ごはんを食べた。


 食べ終えて優勝してくるよと2人に伝えて外に出ると、眩しい朝日が僕を迎えてくれた。2人が建物の外まで見送ってくれて、応援してるので買ってくださいねとハグをして送り出してくれた。耳が赤くなるのを感じながら、僕は足早に学校に向かった。



 学校に着くと、同級生の皆んなに揉みくちゃにされる。昨日の闘いは熱かっただの、凄いねだの、カッコよかっただの、一辺倒で退屈で代わり映えもなく一つ聞けば後はちり取りで集めて捨てたくなる様な賛辞を受け取る。同級生だけじゃなく、上級生もちらほらと来ている様だ。有象無象の中にも見ない顔がある、兄が大会中には僕に構うなとか言っていたんじゃないのか? 後で兄に苦情を出しておこう。


 朝はヤマオカさんと話たいのに。遠巻きにコチラを見つめている彼女を見つめ返すと、困った様に微笑まれた。彼女と話したいのは理由がある、今日の夜の事で相談がしたい。僕は夜中に学校へ忍び込んでバートリー嬢の事で色々とやらなければならない。彼女には少し前にバートリー嬢の情報収集を頼んでいたので、その成果を確認したいのだけれど……。後で会おう、そうアイコンタクトを送ったが、それも伝わったかどうか。


 僕が困っていた時にハゲチャビンが教室に入室した。周りの子供が蜘蛛の子を散らすように逃げるが、残念な事に彼は入室からすぐにHRを始める人なのでヤマオカさんに話しかける事はできない。しかも、ハゲチャビンは僕に昨日と同じように教室から出るように指示した。今日は校長室へ行けとの事らしい。


 昨日に大会へ出場する選手は16名だったが、今日は僅か4名。その程度であれば校長室へ一堂に集める事も可能だろうとの判断か。集めて校長直々の激励の言葉でもかける気だろうか、退屈な話だ。そう言った話は、大嫌いだと言うほどではないがダルい。


 勝手にやっていて欲しい、応援したいのなら1人でやっていてくれ、応援対象に私は応援してますよとか態々アピールをする必要はないだろう。応援が欲しいとか言っていたなら話は変わるが、心で勝手に思ってろ。自分は応援していると言う自己満足が欲しいだけじゃないのか?


 ぐちぐち不満を募らせながら校長室へ歩いていくと、すでに校長室には3人の生徒がいた。まあ一年教室が校長室から一番遠いしな。しかし、流石に思春期ともなると皆んな成長がすごいな。当然だが年齢にして小学一年生ほどの僕は一番のチビで、皆んなすごい大きい。いや、一人小人族の女生徒がいる。彼女の方が僅かに大きいが、似たような背丈で安心する。


 部屋に入ってから数分、ある男子生徒が舌打ちをした。苛立っているようだ、確かに全員が来ているのに姿を見せないでいる先生は腹立たしいが……。


 まあ催促しても問題なかろうか、僕は害意を込めた魔力を漏らた。突然の僕の奇行に3名がギョッとする。いや、僕の背後にギョッとしたと信じたいな。


 癪に触る笑い声が聞こえてくる、校長だ。僕が入ったすぐ後にドアが勝手にしまったので、部屋にはいるなとは思っていたが後ろにいたのか。何故よりにもよって僕の背後に、相変わらず気色悪いジジイだ。僕はまだ心の隅では彼が小児性愛者じゃないかと疑っている……。


 校長はニコニコとしながら、よく気がついたとかほざきながら僕の頭を気安く触り、皆も良い反応じゃと生徒の頭を撫でて回る。


「さて、皆も二日間、いや長い者は四日間良くぞ戦い抜いた。今日は泣いても笑ってもも最終日じゃ、悔いのないように戦うのじゃぞ。」


 校長はそう切り出して各々に激励の言葉をかける。僕の場合はよく短い間でそこまで研磨しただとか、そんな所だ。まあ、僕は日に日に成長を続けている。彼の言葉もそれほど間違ってはいない、いないが彼に教えられた事は少ないのでそこそこ腹が立つ。なに師匠面してんだ。


 用件は激励だけではない様だったが、まあ省略しても良いだろう。今日の予定に関しての説明だ、今言っても仕方がない。午後はパレードだとか後夜祭の予定はだとか、今日は学校がいつ閉まるだとか、そう言った物だ。いずれわかる。


 話が終わったところで解散を言い渡されるが、僕だけ残る様に言われる。気色悪いと思ったのだが、存外に真剣な様子であったので何も言わずに残る。


「君が昨日試合した子、ヒヒイハキナ君はわかるね?」


 いや、わからんが。ああいや、ドレイ先輩か。昨日、危うく命を落としかけたけれど、最終的には魔法か何かを使用して勝てた先輩だ。それがどうした。


「彼も、呪いがかけられていた。」


 ……それは、なんとも。そう言い出したタイミングで、僕と校長で二人きりの校長室の扉があけられた。数人の男が立っている、聖騎士だ。教会直属の聖騎士で、僕の配下にいる。彼らは確か昨日から僕の護衛を増員してまでしていたそうだ。


 ああ、そうだ。そう言えば彼ら聖騎士隊に聞きたい事があった。とは言え、校長の前ではやめておくかな。それよりも、どうして来たのかが気になる。部屋の主人を差し置いて僕に平伏した彼らを立たせて、用件を言う様に指示する。


「ハッ、尋問の結果、学生街に魔力を上げる薬と称された怪しい物が出回っている様です。一昨日、昨日の生徒の内暴走した者が全員コレを服用していた事が発覚しました。」


 魔力を上げる薬? ユニコーンの角の粉末とかか? 一時的なブーストとしてはわりかし一般的だが、それでも多少の値は張る物だから、副作用のある廉価版が出回ったか。それで試合の前か最中に呪いが発症し……とかかな。


 聖騎士は校長に注意喚起を要請すると、コチラに向き直して『不要な物とは存じておりますが』と、くれぐれもその様な物に手をつけないようにと言ってきた。まあ僕ぐらいの人を疑うことを知らなさそうな年齢では人付き合いで流されて、なんて事もあり得そうだし、彼らの言う事はもっともだ。僕はご苦労と言って、これからも頑張ってくれと言って帰らせた。


 彼らが下がったのを見て、校長は僕に小振りの刀を渡した。ずっしりと重い感触だ。皮で補装された鞘もヒンヤリとした感じがする。いきなり物騒だな、なんだこれは。


「いざとなったら使いなさい。レスポンダーと言う魔刀だ。直前に魔力を通した者が名を呼べば手の中に現れる、この様にな。」


 校長の手の中には先程まで僕が握っていたはずの刀があった。本当に移動したのだろうか、校長はいつの間にか持っていたその魔刀レスポンダーなる刀をもう一度こちらへ手渡してきた。魔刀レスポンダー、鞘から抜き出せばその冷ややかな輝きを放つ銀の刀身を覗かせる。


「切れ味はなまくらもなまくら、そこらに売っている何の変哲もない剣に劣るが、真剣が無いよりかはマシだろう。首を切り落とさん限り手当てはできる、躊躇はしてはならんぞ。」


 ……そうか、わかった。僕は校長の目を見て本気である事を確認する。刀身に魔力を通した後、刀を異空間へしまってみる。


 そして名前を呼ぶのだ、レスポンダーと。


 僕の手には、音もなく刀が握られていた。いざとなったら────


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