ドレイ先輩
「はっけよーい、のこったッ!」
試合の掛け声の翻訳に関しては気にしないでくれ。帝国語から日本語に訳す際に興が乗ったのだ。実際には英語で言う”ready fight”くらいの物だから、試合開始くらいの味気ない掛け声だ。とは言え、対戦相手が鳥獣戯画じみた構えをとっていたので、まあそうさせてもらった。
なに? センスが悪いから変えろって? まあ……そこはいいじゃないか。別に、試合開始だけじゃ味気ないし、今回だけのお遊びなんだから。次からは真面目にするさ。
ウサギを投げ飛ばすカエルの様な構えだけれど、片手に太刀を持ってその構えにどんな利点があるのか。その答えはすぐに出た、彼は摺り足をして近づくとともに、何も持っていない方の、馬鹿みたいに突き出していた手で魔術を放ってきた。つん伸ばした手は照準だ、自らの放つ魔術がどこにいくかがアレでわかる。魔術属性は恐らく爆発、緋色の輝きを放つ光の球が恐ろしい速さで飛んできたので、それを近寄って行きながら避けると後方で爆発音がした。やはり爆発か、そう考えながら、僕は石刀を振り上げ、振り下ろした。
小手調べに打った僕の単調な攻撃は彼の凪ぎで弾かる。ふふん、そう来なくては。小手調べも軽く対処されたので、今度は微妙に傾斜をつけた袈裟斬りを放ってみると、彼は太刀では無く魔術を放つ拳で石の刀を払った。そのまま魔術を放たれたくないので、僕は氷の魔術を彼へ向けてうち、彼の太刀の間合いから逃れるように数歩飛び下がった。
僕の作る石の刀は80cmの僕に取っては大きな刀で当然ながら刃がない物だ。一方彼はおよそ180cmの一般的ヒューマンに取っては刃のある真剣、間合いが1000mmも違う。10mmを争う刀の勝負では彼と僕には大きな差がある。かと言って僕の背丈で彼と同じサイズの刀を扱っても変な癖がつくだけで、あまり得策ではない。槍なら話は別なのだけれど、初めに刀と魔術を手にしたならば最後まで刀と魔術で戦って相手を打ち負かしたいのが僕の精神性だ。
言わば心の在り方にも関わる重要な拘りであって、それを無視したくはない。そう言うことで、僕はさっきから彼の間合いにぴょんぴょん飛び入っては飛び抜けることを繰り返している。自分でも大人になったら源義経とでも改名しようかしらと思うくらいぴょんぴょこ絶妙な距離を保ててると思うよ僕は。となると彼は武蔵坊弁慶で将来は僕の家来だな、ははは。そうとなると与一は誰だ? 弓使いはドロシー先輩くらいしか知らんし、彼女でいいか。僕は和装した彼とドロシー先輩、そして僕を思い浮かべた。うーん、違和感。
しかし、おふざけはここまでにした方が良さそうだ。彼は大きく回転しながら僕に切り掛かってきた。遠心力をそのまま力に、回転で生じる隙は開いた片手で魔術を放つ事により塞いで。中々完成された技だ、少々詰めなければならないところは有るが、技を完成形にまで持っていったとて大きく変わることはなさそうだ。僕は後方宙返りを披露する様に飛び退きつつ、水の魔術を発動させた。なるべく大量の水をなるべく広くを目標に散布したので、周りの足場が悪くなり彼の体表と腰巻は濡れた。
魔術の属性で上位属性などと言われて持て囃されるものがある、なんて言うことは前にも言ったかな。だけれども、上位属性はしかして従属属性とも言われるべき存在だと思うね僕は。火に対する爆発、水に対する氷、土に対する鋼……なんて物が上位属性と呼ばれるのだけれど、上位属性は下位属性のおまけで使われることが多い。
僕は先程びしょ濡れになった武蔵坊先輩に対して氷の魔術を放った。先輩がどんどんドンドン氷に覆われていく。そこに、僕は人間大の水の球を作って彼を包み込む。あっという間に氷球に包まれた先輩が完成した。
上位属性などと持て囃されている氷属性は、水属性のサポートがなければ十全な威力を発揮できない。爆発属性、熱と衝撃を発生させる属性があるのだけれど、火属性がなければそう大した威力を発揮できない。鋼属性に至っては発動すら難しい……風属性に対して雷属性と言う上位属性があるのだが、それだけはイメージしづらいだろう、実はこれにはカラクリがあって──おっと、氷球に閉じ込められた先輩が爆発の魔術を使って飛び出してきた。
氷の破片が飛び散り、そこそこ危なかった。まあ当たった所で僕にそんな物は効かないのだけれど、観客席にいる非魔術師の事を考えると意識しないわけにも行くまいよ。まあ今回は大丈夫だった様だが、以後気をつけよう。
僕が魔力を練りながら観客の事を考えていると、先輩は鋭い突きを放ってきた。突きは繰り出し易いしリーチは測りづらいしで中々良い技なのだけれど、欠点は避け易い事だ。点より線での攻撃が、線より面での攻撃の方が強い。だから魔術師は軍事的優位に立てるのだ、もちろんそれだけではないが。ともかく、先ほどから僕に攻撃を当てられなかった彼が僕に突きを当てられるかと言えばまあ分かる事だろう、僕はスルリとかわして先輩の肩に石刀の突きを放った。鋭く肩を穿つ、とまではいかないが、中々僕の石の剣は武器として優秀な様で、彼の肩の肉を抉る。
……刃が付いてないから石で武器を作ってるのに、まさか流血沙汰になるとは。驚いていると、先輩は考える時間を与えてくれそうにない、傷を手当てしてすぐ様突きを繰り出してきた。切り払いですら当てられやしないのに、ご苦労な事だ。僕は後ろに飛び抜き突きを避けると、石刀の切っ先についた彼の血を振るって落とした。
僕と先輩の距離の差は10mあるかないか。中々離れている様に思えるが、魔術師同士でこの距離の差は気休めにしかならない。詰めようと思えば1秒足らずで詰め寄れるし、魔術を即座に打ち出せばもっと早く相手に攻撃できる。ただ、彼の攻撃範囲が円形にあり半径が10mと考えると、10×sin1°が0.17くらいなので攻撃する箇所を少し間違えるだけで17cm以上は命中する箇所が変わってくるし、実際は上下のブレがあるので更にブレが生じる。
先輩はそれを考慮してかしてないかはわからないが、接近をして横薙ぎの一閃を放ってきた。石刀でそれを防ぎ、石の魔術で作った礫を彼の胸に打ち当てる。彼との試合が始まってまだ間もないがわかった事がある、氷の魔術は威力不足だ。とは言え石の魔術を使い過ぎるのはまずい、使用頻度を少なく武器の製造程度に留めておくとしよう。
ぼくはまた距離を取り、構え直した。石の魔術を使った後だ、氷の魔術でも打っておくか。ぼくはそう思いながら吹雪の様に氷の風を相手にぶつけた。ダメージはそうないだろうが、彼は目蓋が凍りつき、また体が冷え切った筈だ。この程度で低体温症になる事はないだろうが、彼の魔力なり体力を削れるから便利だ。ああそれで、話が途中で途切れたが、10mやそこらの距離では誤差が大きいにだから多少狙いズレようがある程度の面積で攻撃ができる魔術を使えば、中々便利だねと言う話さ、僕が言いたかったのは。
普段、僕は石の槍を飛ばしたりなんだり、線よりも点での攻撃の方が多い。それは確かに相手に当たる事はそうないのだけれど、相手は接近するための進路を確保したりあるいは僕が同時に放つ攻撃を避けるために、そちらの対処を強いられるのだ。でも、今回はそう言った点での攻撃は悪手だ。だから面での攻撃をするのだよ、と言う事だね。もちろん、逃げ回る相手に対して点での攻撃を当てる方法は普通に有るのだけれど。
なんとなく気が向いたので、その方法とやらを見せてあげよう。まず、先輩がかかってくるのを待つ。とは言え、先輩は先ほどから猪突猛進猛虎よろしく僕に切り掛かってきている。待つまでもなかった。
次に、先輩の攻撃を刀で受け止めつつ接近する。ここは速さが勝負なので、余計な事を考えずに次の工程へ移る。先輩の腹に『狙え』と唱えて印付けの魔術を放つ。先輩のお腹に緑色の目印がついた事を確認したら、素早く離脱。
今のは印付けの魔術を着けただけだ。狙え、と唱えて目印を付着させる。たったこれだけなのだけれど、僕は魔力量が豊富なのでこれだけで十分だ。クロノアデア曰く、もっと魔力に乏しく魔術の扱いに長けてない人は色々とあるらしいが……まあ、それは次の機会に。
大したダメージも食らっていない先輩が向かってくる。観客は先程から向かっては一撃を喰らわされ距離を取られる先輩に下品な野次を飛ばしている。僕にもそんなちゃっちい攻撃じゃ試合が夜まで終わらんぞとかね、まあそこまで言うならどうにかしてやろう。
体を強化して、高く高く飛び上がる。観客からは驚きの声を上げた、いや、驚愕というよりかは歓声というか、まあイルカショウでイルカが飛び上がった時みたいな物だ。次は何を見せてくれるのかという興味とその跳躍の高さに対する驚きと、という物さ。大体地上から十数mほど離れたところで、僕は魔力を練って魔術を放つ準備をする。
「的に当たれ!」
鉛直方向への速さが0になるかならないかあたりで、そう言いながら僕は氷で作った槍と石の礫を更に高く上空へ打ち出した。点でバラバラな方向へ飛んでいる。もう少し見てみたいが、そうも言ってられない。
僕は自身の体を魔術で撃ち抜いて無理やり先輩から離れた場所へ降り立った。空中にいる僕へ攻撃しようと発動しかけた魔術を、地に降りた僕へと先輩が放つ。いいぞ、それが自分へ不利に働くとも知らずに。
僕は氷の魔術を彼の魔術へぶつけ、彼の攻撃を防ぐ。それと同時に、彼へと斬りかかる。彼注意をこちらに向け、なるべく彼を今いる地点から動かさない様に立ち回った。いいぞ、彼は僕の狙い通りに太刀を振り回して僕の攻撃を防いでいる。
思うが、彼の振るう剣は実直な剣だ。ただ一心に僕へ横薙ぎと大振りの一撃を喰らわせようとしてくる。偶にフェイントの様に魔術を放ってくるが、それも全ては隙を生み出し僕へ攻撃するため。中々情熱的な剣を振ってくれる。
でもそれももう終わりだ。先程、僕が上空へ放った攻撃が彼目掛けて振ってくる。僕は万が一にも彼に躱されない様に、目を瞑り魔術で閃光を放った。目潰しだ、僕や彼の肉体が遮り分散された光を見る観客は眩しい程度だろうが、肉眼で見てしまった彼にとっては目が焼けるかも知れない。でもまあ、それも試合が終われば治療ができる。
彼が閃光の目を突き刺した痛みの余り、思わず開いた左手で目を押さえた。
そこへ、氷の槍と石の礫が彼の体を打ち抜く。
先程、彼へ目印をつけて、的に当てれと言って遥か上空へ魔術を放った行動は、この為だ。上空へ放った魔術は常に的へ向かう力をかけられ、更に重力による落下も加わり、彼へ当たる際にはゴウゴウと音を立てる程加速された状態となる。本来、印付けの魔術という物は火の魔術なりなんなりをあまり正確に狙いがつけられない時に当てる為の魔術で、今回の勢いをつける為に敢えて真逆の方向へ撃つ魔術じゃない。
しかし、印付けの魔術の力は然程強力なわけじゃなく、最初から勢いをつけて対象へ向けて放つと、狙いがズレた時の補正が上手くかからないことがある。そこで僕は今回、狙いとは逆方向へ打つ事により、狙いへ向かう力を長くかける事を、ひいては印付けのの魔術でシッカリと補正をかける事を可能にしたんだ。
氷の槍は彼の肩に深々と刺さって砕け、石の礫は彼の肉を抉った。彼は辛そうだ、観客から歓声が上がる。流石、ここの人々は随分と血生臭いのがお好きで。血だるまとなった先輩はふらつく、威力が強すぎたか?
先輩は糸が切れた様に動かなくなった。つい最近も似た様な事がなかったか? ああ、嫌な予感がする。
予感は10秒と経たずに現実となった。もっとゆっくりしてもらっても構わないんだがね僕は。彼は耳をつんざく様な、悲鳴にもにたカン高い雄叫びを上げる。彼は、可視化されるほど濃い魔力に包まれた。
赤黒い激しい魔力を身に纏いながら、彼は切りかかってきた。刀で防ごうとするが力で押し負け、吹っ飛ばされる。それに追うように彼は更なる斬りかかりを仕掛け、僕を攻撃していく。一度二度三度と、息をつく間もない攻勢だ。僕の石造りの刀は、元々切れる刃なんぞ物はないが、一回防ぐ毎に大きく刃こぼれをしていった。
面白い、僕は強化を強めた。ドロシー先輩と言い、学生なんぞ手を抜いて十分と思いきや、中々手応えのある生徒もいるものだ。法力なし、つまり魔法を使う事をしなければ、僕の実力の八割方の力を彼の攻めの対処に要する。8割で防戦一方の試合なのだ、僕もある程度は力を入れればなるまいて。
彼の袈裟斬りに対して僕は逆袈裟を仕掛けて真っ向から力比べをする。つばぜり合いだ、お互い同時に大きく飛び退いて、再び斬りかかる。彼は突きを繰り出すようだが、彼のリーチの方が長い。先程のように余裕はないのだから、真っ向からやりあわない方がいいだろう。彼の刀を巻き上げる様に上へ流すと、彼は勢いをそのままに刀を振り下ろした。
良い振りだ、そう言った感想しか出なかった。彼は僕の防ごうとする動きを置き去りにして、僕の首元へ刃を置いた。
不思議な事に、僕の時間は引き延ばされることが多い。それは、光速度が一定という条件下で光速に近い速度で動いているからとか、そう言った話ではなく、思考速度や演算能力、目のシャッターフレームの速さがぐんぐん周りを置き去って加速するからだ。しかして、そう言った事態になるには僕の体を魔力で限界近くまで強化することが必要だった。
その筈なのだが、何故か今は違う。石の剣は切っ先が赤黒く汚れている、先程肩を抉って負傷を負わせた彼の血だ。今度は彼の刀が僕の鮮血に赤く染まるのだろうかと思うと、すごく背筋が凍る思いがした。
時が見える。このまま僕は動かなければ、僕は心臓付近まで切れるそうだ。肺は確実にやられるだろう。
今は死にたくない。
そう思うと、認知した時が影に掴まれた。未来の、僕に斬りかかる彼のビジョンが暗緑の手に包まれる。動きを巻き戻す様に、ゆっくりゆっくりと彼の刀を握る手をグニグニと引き戻していく。見れば、影に掴まれているのは彼だけではない。観客も、空も、地面も、僕でさえ掴まれている。僕の傷口を押さえ、歓声と悲鳴を上げようとした観客たちの口を塞ぐ。ゆっくりと影は引いていく。彼の攻撃は完全に振り下ろす前へと遡り、僕は彼の攻撃を防ぐ直前の姿勢へと戻っていた。
このまま呆けて動かなければ死ぬと、体を更に強化して彼の刀へ逸らす様に攻撃をする。力が強すぎたのか刀は大きく歪み、たわみ、そして根元から折れた。強化はまだ続いている、魔力が切れる前にと彼の首元へ刀を運び、力強く押し当てる。割れて鋭く尖ってしまった石刀は彼の首にボツボツと小さな穴を開けて、切り抜く前に引っかかった。彼の強化された体は石刀では切れずに、いくつかの刺傷と打撲しか与えられない様だ。そのまま刀を振り抜くと、ゆっくりと彼の体は浮き上がった。
ここまで来ればもう安全だと気を抜けば、強化の魔術がとけてしまい、彼と彼の折れた刀は音を立てて飛んでいってしまった。刀の破片は地面へと突き刺さり、彼は壁へぶつかり少しばかり壁を破損させた。
彼を侮っていたら、死ぬ。そう思える程には危機感があり、そして彼と長く戦いたい、もっともっと生命の危機を感じる程に勝負したいと言う欲望がないまぜになって、僕は立ち尽くしてしまった。
ズたりとくたびれたずた袋の様に彼は倒れ込むと、数秒は動かず、おもむろに立ち上がった。体は血濡れで手には刀だったものを持ち、その入れ墨の入っていた赤黒い体躯は、赤グロい物となっていた。少し不謹慎かな、まあ……ユーモアはいつ如何なる時も忘れてはならないと言う信条と、グチャグチャとなった感情で真っ白となった頭が起こしたバグだと思って欲しい。
さっきのは一体何だったんだろう。未来予知、と言う物だろうか。魔術的な物だったが、それでは緑がかったあの黒い影はなんだったんだ。まだ起こっていない世界に対して、どうして影で巻き戻す? いや、すでに起こった事象を巻き戻した? それは……ないだろう。必要とする魔力が多すぎる。
公爵家の血と何柱もの神の加護を受けた僕は魔力タンクみたいな物ではあるけれども、辺り一体の時間を巻き戻すとか、時間を止めるとかは無理だ。物が壊れる前の状態に戻す魔術や、時が止まった様にしか思えない程素早く動ける魔術は使えても、会場一体を魔術の対象にするのは訳が違う。それなら、僕単体に未来予知をさせた方がまだ魔力が少なくなる。未来予知はただの演算だからな、台風の進路予想みたいな物で、まだ安上がりだ。
キャッと短く悲鳴が上がる。視界が青一色になった。一瞬何が起こったかわからなかったが、なんて事はない。ボロボロになった先輩が僕へ喉輪をかけて、僕にまた恐ろしい速度で攻撃を仕掛けてきただけだ。彼の手に刀はない、邪魔だったから投げ捨てたか、ただの素手だ。彼の手には血で濡れていて、なんだか生乾きでヌタヌタとした感覚が喉にある。
素手なら、刀はいいや。僕はボロボロとなった刀を捨てて、彼の腕に絡み付いた。この試合に言葉はない、お互い余裕がないのか、僕は無言で彼は叫んでいる。ドロシー先輩と戦った時やクロノアデアと戦う時の噛み締める様な、しっかりとした上品な面白さや楽しさはない。でも、ただただ愚直に面白い。言わば、ハンバーガーとか、ジャンクな美味しさだ。高級な味ではないが、なかなか馬鹿にできない。
しかし、それももう終わりだ。先輩が僕の服を掴んだが、僕は服が破りながら彼の首に巻き付いた。蛇が獲物を絞め殺す様に、滑らかに音もなく。彼は僕を何度も何度も叩き、抓り、地面へと倒れ込んで諸共にダメージを与えようとしたが、それでも絞め続けると、血反吐の混ざった泡を拭いて倒れた。
審判役が試合終了の合図を出し、僕は体の傷を魔術で治そうとした。青痣が引き、破れた服が破れる前の状態へ戻っていく。しかし、首元から胸へかけて黒いカサブタが残っていた。爪でカリカリと引っ掻くとカサブタは剥がれたが、それは風が吹くと灰の様に飛ばされてしまった。
アレは……影?
自分が使った筈の魔術を想いながら、僕は観客に手を振って退場していった……僕は一体どうやってあの魔術が使えたんだろう。




