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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
156/167

長くながく

 登校をすると、僕は担任であるハゲチャビンに朝のホームルームを抜けて、上級生の教室に行くように指示された。それは僕が昨日は2試合とも上級生に勝ってしまった事による。


 ま、昨日本戦出場者が舞台に立って出場しまーすとやった様に、1日目を勝ち抜いた上位選手が選手、総勢16名が自分を応援よろしくねーと舞台に立たされて言わされるらしく、その諸連絡だ。昨日は100名近くの者が出場していたため、出来なかったが、16名程なら出来るだろうと言うことらしい。いや、それよりも……もっと重要な、と言うよりも、少し特殊な目的がある。


 賭博だ、トトカルチョとでも言おうか。今日からそれが開始される。どの選手が勝つか、負けるかを予想し、券を購入し、当たり券を得られたら後に交換する。一般客と違い生徒は購入禁止だが、出場した生徒は戦果次第で成績に加点がなされる。まあ生徒の親は購入可能なので半ば有名無実化してなくもないのだが……ああそうさ、これは学校主体の賭博だ。放っておいても勝手に開かれるから先に公営賭博を開いて、民営賭博を締め出しちまおうぜと言う魂胆らしい。それに、賭博では胴元は常に儲かるから、ここで国家のお金……規模的にはそんな大した物ではないが、学校運営費の足しを稼ぐらしい。なのでこの学園は教育機関の癖に結構本気で賭博に取り組んでいる。


 その一環で、昨日は100名近くの戦闘を行わせ今日から戦う16名のデータを集めることを可能にさせたり、今日に16名の選手に自己紹介をさせキャラクターとして選手を売るわけだ。まあなに、野球チームは弱くても個人的に好きであるなら応援するだろ? そう言う感じで、例えば僕が好きな人は弱っちそうな体型でも、僕が好きだから僕の券を買うかとなるのだ。勝っても負けてもどっちでもいいやと言うつもりで買うので、買い渋りもなく、細々とした物ではあるが塵も積もればなんとやら、推定ではあるがおよそ10%弱の馬券が、ああいや、選手券がそう言った目的で買われているらしい。お金に直結するので生徒を動かすだけでそこまで稼げるなら学校は喜んで動員する。


 それそれそう言う訳で、まあアイドル事業というか、僕達16名は一般客へ向けて僕たちを応援ヨロピクお願いしまーすキャピキャピとアピールをするのだ。それの説明をされて、僕達は再び昨日と同じ舞台に集められた。とは言え、急に一般客向けにアピールしろと言われても困る物がある。僕はアイドル育成学校に通っている訳じゃないんだからな。しかし、先人達は僕達にいい贈り物をしてくれる事が多々ある。


 舞台裏で先輩がアピールしている所をチラリと覗いてみようか。


『さー、続きまして今年の優勝候補、早撃ちさせたら右に出るものおらず! ジャックザシューター! ジャック・レッドメイデン選手!』


 ジャックザシューター? そんなあだ名まで付けられて可哀想に。ジャックさんは見事な赤毛の小人で、顔に大きな傷を負っている女性だ。ステッキを主な武器として使っているらしく、銃のように構えると、バカスカバカスカと風や火の魔術の弾を撃った。野太い歓声が上がる、大体はお前に賭けているぞと言っているが、セクハラ紛いの発言も飛んでいる。あ、発言した野郎に風の球が直撃した。だいぶソフトな衝撃だったが、呪いがかけられていたか苦しそうな表情だ、弱めに窒息の呪いでもかけられたか? しかし、素早い連射速度だ。その点においては僕でも敵わないかもしれない。呪いがあの速度で飛んでくるのは恐ろしいな。


「みんな~、お金が欲しいなら私の券を買ってね~。」


 そう言ってジャック女史はアピールを終えた。そうか、魔術を使ってもいいのか……派手めな方がいいよな? 氷の玉座を作ってそこに座る。いや、絵面のインパクトが足りないから、ステージを氷で改造するのも良いかもね。氷の柱に、氷のマントと王冠を作って着てもいいな。いっそ魔術生物として氷の騎士でも作ってみるか? なるべく他の属性を使わずに住むのなら全部氷で行きたいな。


 そう悩んでいると、近くにいた先輩生徒に背中を押された。まだ順番まで時間はあるかと思っていたが、悩んでいる間にジャック女史から五人ほどはもう終わってしまったらしい。くそう、まだ全然構想が決まってないのに。ええい、ままよ。なるようになればいいや。


『さあ、続きまして今大会ダークホース! 氷の魔術を意のままに! 青い蛇のお姫様! ゲニーマハト・チェルトルカ!』


 おお、お呼びの様だ。しかし、いったい誰が青い蛇のお姫様だなんて恥ずかしい名前を……そもそも男だし。まあいい、仮面を被って成り切った方が楽だ。僕は舞台を一気に凍らせ、雪を降らせた。騒がしかった舞台が一瞬で静まり返る。数秒で解ける程度の軽い沈黙の呪いもかけたからな。数体、使い魔欲しさに魔術で簡単な生物を作る。発光する氷の球で、割と簡単な構造をしている為一々命令をしなきゃならないが、舞台でやる分には構わないだろう。生み出した使い魔に柱や椅子を作らせるなか、僕は新たに使い魔として氷の騎士を二体生み出し、威風堂々悠々と舞台へ歩いていく。腕を一振りして氷の王冠を作り、もう一振りをして氷のマントを作った。バスっと椅子に座ると、マントが砕けるが、すぐに補強させてマントの形を保たせる。


「あー……んんっ! 僕の券を買えば、何かいいことがあるかもね。」


 いや……うむ。残念ながら上手い言葉は思いつかなかった。居た堪れない空気だ。いや、そうだな。そもそも退場の事を考えていなかった。どうしようかな、そうだ。青い蛇のお姫様か、蛇のお姫様という事で、僕は舞台に造った氷を操り、足元へ集める。


 一匹の巨大な蛇を蛇を作り出すためだ。地面からぬるりと湧き出す様に集められた氷塊から蛇の顔が飛び出し、僕を飲み込む。そのまま頭を伸ばさせ、僕は自らが作り出した巨大な氷蛇の体に穴を開け、客に見えない様に舞台を飛び越える様に舞台裏へ滑り込む。そして、着地と同時に蛇をバラバラに砕かさせ、消滅させる。まあ、瞬間移動マジックだ。別の何かに目を行かせて、見えない場所でこそこそと目のつかぬ所へ移動する。割と上手くいったのか、中々大きな拍手と歓声が上がった。


「へぇ、君凄いね。チェルトルカちゃんだっけ?」


 一安心した所、野郎に声をかけられた。僕は男だ、まあ訂正するのもめんどくさいので特になにも言わないが。声のした方向を振り向くと、牙や耳、全てが尖んがった、土気色の肌をした小男だった。ああ、ゴブリンか、初めて見た。帝国は多民族国家だが、魔術師になりやすい種族と成りづらい種族がいる為、この学園に来ている人には偏りがある。


 ヒューマンは数の多さで勝負しているから、割と魔術師に成りづらい癖にトップクラスに多く、次に小人、獣人、巨人、それから魔術師になりやすい癖に個体数の少ないエルフとある。さっきのジャック女史や目の前の小男は2番目に多い小人族だ。種族人間が桁外れに多いので、ドワーフやゴブリンなどと言った者も一緒くたにしなければ面倒だから一緒に小人と呼んでいるが……。


「おいおい、まさか俺の名前がわかんないのか? お前の前に自己紹介やったろ。見てなかったのか、流石。お姫様は下々には目もくれで。」


 別に、見てなくても勝てるから。生意気な対応を持てめられている様なので生意気に返しておいた。小男が汚らしい尖った歯を剥き出して怒ってくる。アピールであんなに魔力を浪費してるから手加減してやろうかと思ったのにだとか世迷言をほざいてきた。だとしてもお前如きが心配しないでも……いや、やめておこう。無視して働かせて置いた魔術生物を回収したり、作業を再開した方が効果的にバカに出来るだろう。


「クソが! 後悔しても知んねーぞ! 試合であったら覚えてろよ!」


 そう言いながら、ゴブリン先輩は僕から離れていった。フハハ、いい気味だな。あそこまで見事な捨て台詞なんて初めて聞いたぞ。






 ……なんて喜んでいたんだが。


「へっ、幸先いいぜ! まさかお前が試合相手だなんてよぉ!」


 そう言いながら、ゴブリン先輩は拳に装備した籠手的な何かを打ち鳴らした。なるほどぉ、僕って実は運が悪い? 自分では幸運な方だと思ってたのだけど。先程挑発したゴブリン先輩が試合相手だった。


『第一試合! チェルトルカ対! ヴォコルダー! 両者前へ!』


「やあやあ! 我こそはヴォコルダー伯爵が子、気高き黄歯のレンバ・ヴォコルダーである。全霊を持って戦うと我が血に誓う!」


 だってよ。ゴブリン先輩はレンバさんというらしい。名乗りを上げ、拳を振り上げている。中々に名のある伯爵なのだろうか、その名乗りから考えるに。僕も合わせた方がいいのかな? とりあえず、家の名前を言っても仕方がないとは思うが、チェルトルカの家に誓って勝つ為に戦うと言っておく。


 歓声が上がる。ヴォコルダーやっちまえだとか、チェルトルカちゃん頑張れだとか、坊ちゃんがんばれーだとか……坊ちゃんと言う呼び声に驚いて観客席を見回すと、クロノアデア達も応援に来ていた様だ。何人か見知った顔もいるし、結構な人が見に来ている様だ。


 審判が、試合開始の合図を出した。


 相手は体格で僕より僅かに大きいので、その体格差を活かすつもりか掴みかかる様に迫ってきた。


 伸ばされた腕を掴み、足を絡ませて彼の重心を奪い、体を背負う様に引っ掛け、そのまま地面に投げて叩きつける! まあ、背負い投げという奴だ。高校の授業では剣道選択だったし、正確な名前はよくわからんが。まあ背負って投げているんだから背負い投げでいいだろう。追い討ちをかける様に腹部に蹴りを入れ様とするが、転がって回避される。頭を狙った方が良かったのだろうか、もっと命を刈り取る様に動かねばダメだな。今のだって腕を掴んだ瞬間に握り潰す様に動けばダメージを与えられたはずだ。


「危ねえなあ……手加減なしかよ。良いぜ、そっちがその気なら俺も全力を出す!」


 最初から全力を出せよなあカッコ悪いんだよその言い訳。まあ口には出さない。なんたって僕も手を抜いて戦ってたからな、そしてこれからもだ。僕は氷で相手と同じく籠手を作った。型はいつもの訓練を思い出して一番違和感のない型で、自分が自然体でいられる型をする。


 魔術師の補助道具は、多種多様だ。杖と言ってもステッキだったりワンドだったりスタッフだったり……ま、長さが違ったりするし用途も結構違って来たりもする。紙っきれに魔術人を仕込んだ符を使ったり、剣を魔術道具にすることもある。まあ、魔力を一切受け付けない物質で構成されてさえなければなんでもありだ。例えば僕の普段着は少し仕掛けがあって特定の魔術を即座に発動できる様になっている様に、まあ本当になんでも良いのだ、割となんでも。


 でも、やっぱり魔術を使いやすくする為に使うのだから、ある程度は人気の物がある。ま、自由だからこそ一定の方向性を持つものもあるのだだ。例えば箒や杖と言ったイメージを固めやすいいかにもな物は人気だし、籠手や盾が魔術道具として用いられるのはあまり見ない。あったとしても、他の補助具のついでだ。『鎧から剣まで何もかもみーんな補助具にしてます!』みたいな人だと、籠手だけそうしないのはおかしいかと思うのか、ついでの感覚でやるらしい。


 盾は知らないが、籠手が不人気なのはそれなりに理由がある。まず、通常の火の玉を放つだとか言った魔術を使うには杖のような棒状の物である方が効率的だ。だから、そうではない籠手ならではの用法、殴ったりする時の補助道具としての役割が求められる。


 しかし僕たち魔術師にとって、殴る蹴ると言った格闘で使う魔術は肉体強化の魔術の他になく、そんな魔術を籠手といった四肢の末端から発動させると魔術のかかり方が不均衡になって美しくない。美しくないと言う理由はあまりにも馬鹿げている様に感じるだろうが、そういった事にこだわるのが魔術師だ。そんな美しくない物を使うくらいなら他の事に力を入れて、それでじゃあ余裕があるし折角だから今まで後回しにして来た籠手でも作るかとなる。


 逆にそうでなければあまり作らない。しかも、籠手以外が終わってしまっている段階では強化の魔術の補助道具はもう既に作り終わっているだろうから、さらなる強化の魔術の補助道具は完全に趣味でしかない。そうなると、もはや作る理由はなく……と言った具合だ。


 そんな籠手をメインに使うだなんて、ゴブリン先輩も物好きだなあ。そう思いながら、走って襲い掛かりにきたゴブリン先輩に蹴りをいれる。別に籠手をしてるからって蹴りをしちゃいけない訳じゃないからね。大体氷の武器だなんてすぐ壊れるから使えないし。


 ゴブリン先輩が体を歪める。相当痛かった様だ。ここで手は抜かない。顔を手で掴み、地面へと投げつける。魔術で強化された剛腕だからこそできる技だね。そして、倒れた先輩へ今度こそ蹴りを入れる。脚は人体で最も大きい骨を有する巨大な部位だ、攻撃に利用しない手はない。まあハイキックは体勢を大きく崩す技なので、今回の様な字面に倒れ込んだ敵への追撃でのローキックしか目立った活躍はないが。


 一対一だったらまあ有りかもしれないが、正直、多人数で戦う時とかは考えたくないな。空手を極めれば別なのかも知れないが、同じ修練度で蹴り技を使う人と殴り技を使う人なら殴る人の方が強そうだ……。


 倒れている先輩の胸に足を乗っけて見下してみると、ゴブリン先輩は悔しそうに歯軋りをした。もっと力を込めて胸骨をぶっ壊しても良いんだぞ? 肋骨が折れて肺に刺さったらさぞ苦しんで死んでしまうのだろうなあ……。


「ぐ、クソ……!」


「あれ~? 本気を出すって聞いたのでちょっと身構えたんですけど、なんで本気を出してないんですか~?」


 ちょっと煽ってみると、手を突き出して魔術を撃とうとしてきた。腕を踏んで術を発動させない事もできたけど、氷の盾を作って防ぐ事にする。彼が選んだのは土属性の魔術で、石の礫が氷面に小さくヒビを入れた。この程度か、だいぶ弱々しい攻撃だ。


「あ、そうだ。先輩、ちょっと時間あげるんで本気とやらを見せて下さいよ。僕、気になるんですよ。」


 そう言って僕は飛び退く様に距離を取り、肉体に掛かっていた強化の魔術を弱めた。あまり能力的に面白い試合ができそうにないから、彼の身体能力に合わせてグレードダウンさせたのだ。


 僕が普段かけている強化の魔術は、基本的に健康状態であるなら半永久的に使える。つまり、魔力における1秒あたりの自然回復量と消費量が等しいんだ。アレだね、落下速度には終端速度がある様な物だ。増えすぎた空気抵抗と重力加速度が釣り合う為、落ちる速度が変化することがなくなるという物だ。


 消費する魔力と回復する魔力が等しいからずっと使えていたのだが、今回は強化を弱めて消費を抑える為、むしろ魔力が回復するという事さ。今朝ほどどでかい魔術を使った僕は魔力を消費しているし、その魔力は戦いが長引けばドンドンと回復する。つまり戦えば戦うほど強くなる訳だね、びっくり!


 思考でふざけていると、ゴブリン先輩が飛び蹴りを仕掛けてきた。僕の思考を彼が傍受できていれば避け得ただろうに可哀想な事だ。飛んできた彼を最小限の動きで避け、すれ違い様に腹を殴りつける。身体能力を落としはしたが、別にそれで僕の技量が落ちるわけではないので、赤子の手を捻るように、とまではいかなくとも簡単に彼の攻撃に対処することができる。


 また距離を取り、掛かってくる様に構える。また再び迫る先輩は、今度は正拳突きを食らわそうとしている様だ。腕を掴み捻り上げ、組み伏せて関節を曲がらない方向へ曲げる力をかけ、また再び離れる。殴りかかってもダメ、蹴りかかってもダメ、掴みかかってもダメ。全部ダメだな? そうなってくると、彼は土の魔術を使い作り上げた石を投げてきた。魔術も効かぬというのに。氷の魔術で飛んでくる魔術を囲み、封殺する。青い蛇のお姫様だっか、僕の呼び名は。それならお姫様の前らしく跪いて貰おうか。


 僕は魔術で氷の鎖の蛇を生み出し、ゴブリン先輩の膝をぐるぐると巻き、手を後ろで縛り、足首と腰を鎖で縛りつけてと……ゴブリン先輩は、僕の魔術によりあっという間に跪く体勢をさせられた。中々いい魔術を使えたんじゃないか?


「なんで……! なんなんだお前は!? 俺はヴォコルダー伯爵家だぞ! レンバ様だ! 祖父から名を受け継いだ誇り高きレンバ・ヴォコルダーだ! お前は、お前は俺に負けるべきなんだ!」


 負けるべきだって? なんで僕が弱い奴に負けなければならないんだ。まだドロシー先輩の方が強かったぞ。どこの家かは知らないが、もし本当に君の家が誇り高いんだったら、もしかして君は落ちこぼれなのかな? なんて。


「そうだね、君は僕に勝つべきだね。ところで、君は今何してるんだい? 地べたに這いつくばって。小銭でも見つけた?」


 おっと、もっと酷い悪口が飛び出たぞ。まあ、ふざけるのも大概にしておこう。僕は魔力を練りながらゆっくりと彼に近づいた。別に魔力を練る必要はないと思うのだが、クロノアデアが如何なる時も油断するなと言うから一応だ。


 もう降参するしかありませんねと尋ねると、ゴブリン先輩は急にマリオネットの糸が切れた様に項垂れた。い、いったい何だ……?


「我は、気高き血、スデク・ゾ・ンバの師、我が祖に父の遺骨、母の肉、仇なる魂────」


 詠唱か! クロノアデアの忠告を聞いていたのが幸いか、練っていた魔力で氷の壁を作成し、詠唱を完了し放たれた魔術から身を守ることができた。いや、氷の壁がひび割れている、すぐに壊されるな。先程の魔術とは桁違いの威力だ、まさか魔術ではない!? 僕は飛び退き、辺り一帯に指定した物に氷の弾を放つ魔術を仕掛けた。石の魔術を前方に撃つ事なら慣れた物なので、石の弾といわず石の槍ですら楽だったのだが、氷の家を気取っている以上とても面倒だ……!


「我、ンバリシルの裔、籠手持ち、研ぎ、構えり。酩酊の中見据えり。」


 ゴブリン先輩はまさか、神の魔力による魔術を使っているのだろうか、つまり魔法を。上手くわからない、足に力を込めたと思えば目の前に急接近してきた先輩に喉輪を喰らわしながら考える。強化系の魔術だろうか、先程の氷の壁を割った魔術はよく見えなかった、魔力塊をそのまま打ち出したか或いは……手で殴って砕いただけか。彼から漏れ出す魔力の膨らみは感じるのだが、それ以上に彼は強化されているように感じる。多分、僕同じタイプだ……。神の魔力を強化の魔術に使っている。


 神の魔力、法力を強化に回す戦い方は、独特ではある。対人戦、正確には対個人戦特化だからだ。たった一人で万の軍勢を足止めする事が出来るだろうか? 魔術師は、万の軍勢を倒すことができても、足止めする事は人によっては難しい。それが対人特化型だ、大規模魔法を使えば全体に攻撃をできるので足止めも容易だが、対人特化型は一万人の兵士を時間をかけて倒せても一気に倒すことはできない。


 だから、魔術師は殆どが軍人として働かせられる帝国ではそっちの方が重宝されるため、人からの信仰が得られなければ生きられぬ神は殆どがそう言った魔法が打ちやすくなるように進化しているし、殆どの魔術師の子供がそう訓練されている。


 まあ僕は公爵の子供だが、そんな実父と生活し、将来は非魔術師と言う圧倒的弱者へ魔法を放って暮らせるような生っちょろい教育は受けずに、対人戦特化型に育て上げられたが。僕は権威者的というか、何があろうとも死んではいけない存在であり、生まれながらにして危険な事を禁じられている身である為、攻撃的有利ではなく生存的有利を得る様に訓練されているのだが……彼はおそらく、また違った理由だろうが、それはいま考えることではないな。僕は彼の腕を捻り、肘関節を曲がらぬ方向へ曲げ、また強烈な蹴りを入れて離れた。


 クロノアデアから習った事だ。無理である動作はせず、地道に確実に打てる手のみを打ち重ねる。彼相手にはだいぶ打てる手が多い、そもそも彼の身体能力に合わせた強化もせずに、攻撃を防ぎ切り手痛い一手を喰らわせられるのだ。僕も実力者、と言う領域に入るのだろうか。


 彼の攻撃は単調だ、まるで狼の様に低く飛びかかり、一撃の威力を犠牲にしてでも沢山の攻撃を出してくる。本当にたったそれだけだ。最速を求めて素早く腕を突き出し引っ込めるので、一連の動作に変化と言う物がなく誰だって慣れれば対処できる物だ。こんな物にてこずれば後でクロノアデアからしこたま怒られる。


 伸びきった腕を掴んで、一瞬引っ張りながら魔術を喰らわせる。両の腕を引っ掴んで骨折をさせる勢いで握り潰せば、獣の様に腕を振り解き後退する。そして、構え直し──


「我、ゾンボウィ。黒金の骨、赤樫の体、ゾン・ヴァル・レンダリ。」


 まただ。彼に割と致命的な攻撃を与えているが、どうも彼の詠唱により回復されてしまう。僕もそれくらいはできるつもりではあるが……なるほど、一日にたったの12試合を4会場でやる割に、イベントとして成立する訳だ。相手を戦闘不能か降参させるまで試合が終わらないから、実力がある人達の試合ほど長引くと。


 再び殴りかかってきたが、今度は何を思ったかタックルをかましてきた。相手の体制を崩せない場合にタックルは最悪の手だぞ、まあ教えてやらないが。体で覚える分には構わないので、膝蹴りと脊椎への殴打を思う存分くらわしておいてやる。


 ははは、肺への衝撃は辛かろう。すぐにタックルの腕が緩み、逆に押し倒すことができた。氷の塊を作り、それを石の様に使って左胸を攻撃してやった。どうせ回復するだろうから、遠慮なしだ。そうだ、体温を冷やしてやろうか。朦朧としてきて試合中ぶっ倒れるんじゃないかな。


 早速、首に脇に股座を氷漬けにし、仕上げに思いっきり力を込めて作った特大の氷槍を腹目掛けてぶっさしてやった。まあ、大きな衝撃にはなっただろうが突き刺さりもせずに砕け散ってしまったが。やはり氷はダメだな、水よりも構造的に密度が大きいだけあって脆い。


 いや、効果はあった様だ。相手は血反吐を吐いた。何故血を……? 食道や気道にダメージは入らなかったと思うが。続けてむせる様子もなくダラダラと流れている様子を見るに口から血を出してるな、舌でも噛んだか歯でも砕いたか。それも彼の一説の詠唱により治ってしまった。しかし傷の治りが少し遅い、全くの無駄というわけでもないな。


 持久戦になる。そして、僕は相手を侮り弱めてから一度も強化の魔術を強めていない。つまり長引けば長引くほど魔力が回復する……ははは、言わずともわかるな?






「坊ちゃぁん、お疲れ様ですぅ。」


 試合が終わると、ポミエさんが濡れたタオルと水を持って迎えてくれた。クロノアデアはクロノアデアで、僕の服の土埃や血の汚れを魔術で落としてくれたりしてくれて、二人のおかげで一気に清潔な身なりになれた。


「坊ちゃん、よく頑張りましたね。」


 クロノアデアが僕の体に傷がないかチェックしながら褒めてくれた。嬉しいものだ、今日は特に自分の成長が実感できたからだ。強化の魔術を相手よりも身体能力が遥かに劣った状態で保ちながら、相手を一方的に手玉にとれた。もし、半年前の僕であれば出来たかどうか怪しい。腕を上げているのだ、確実に。


「しかし、坊ちゃん。ヴォコルダー伯を完膚なきまでに倒しましたが、かの家は東方の家ですから少し気をつけましょう。」


 クロノアデアがそう囁いた。東方の家、確か虎爪公だったか。僕の実の父は帝国の南側を治める公爵で冷血公という渾名があるのだが、それと同じ様に東を治める公爵にも渾名があり、それが虎爪公と言うわけだ。ヴォコルダー伯はその虎爪公に使える伯爵であると言うわけらしい。クロノアデア曰く、かの家は少し東方の家では存在感がありすぎて、そして東方の家は少し情熱的すぎる。もしかしたら今後、東方の家から勧誘なりなんなりが増えるかもしれないと言うのだ。


「……い、行こうかクロノアデア、ポミエさん。今はそんな事より一緒に遊ぼう!」


 僕は、あまりの面倒くささのあまり、現実逃避することとした。


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