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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
155/167

ようご

『別にアンタを批難してるんじゃないわよ、そんなに神経質にならなくたって良いじゃない。』とは、僕が彼女の人間離れしている発言に傷ついた際にエリィさんが慌てて放った言葉だ。


 今は僕とナビさんとエリィさんの3人でセーフルームの中にいる。まあ、一部屋に三人もいるのだけれど、僕は小動物の体をしているのであまり狭くは感じない。ルサルカさんも呼ぼうかと思ったのだけれど、水妖である彼女を呼ぶには人1人スッポリ入る水槽と言うかバスタブが必要で、それらが何れも高額で用意できないので諦めた。僕が収まる桶くらいならあるんだけれど。部屋には人間様のベッドと、ペットハウスに、タライやキャビネット等の家具がいくつか。ナビさんとエリィさんが椅子に座り、僕は目線をできるだけそろえる為にナビさんが抱えている。間抜けだ。


 しかし確かに、エリィさんの言う通り少し神経質になっている。エルフと友好的な接触をして協力を仰ぐと言う本来の目的を忘れ、ナビさんにエリィさんを要求すると言う要らぬ手間をかけさせてしまったし。


「貴方のためではありません、解放者tokage。私はナビゲートキャラクターNavi、ゲーム攻略をサポートするだけです。」


 なんでもないようにそう言ってのけた彼女がありがたい。彼女は小動物になった僕を抱っこしているので、いまいち悲しいが。仰る通り間抜けな構図ですねと心を読んでナビさんが言ってくる。


「そういえばさ、アンタ達は南ドワーフの方に向かったんだよね? 帰ってきたってことはもう用事は済んだんだろうけれど、どうして私に会いにきたの?」


 いや、南ドワーフに関してはまだことに取り組んでいる最中だ。むしろ南ドワーフの件で君に会いにきたと言っても良い。本当だったらエルフ達と協力をしたかったのだけれど……ま、ともかく。君達は長い時を生きているだろうからね、少しその知恵を分けてもらいたいんだ。そう言って僕達はエリィさんに、エルフの里に訪れた目的である文字が暗号化された本を渡した。


「ナニコレ? うっわ、目が痛くなるわね。字も汚いし……アンタが書いたの?」


 エリィさんは本を開くと、僕の方を見てそう言った。まさか、南ドワーフで拾ったんだ。おそらく水を出す柄杓に関係している物だと思うのだけれど、中身が全く読めなくてね。エルフ語とドワーフ語にはそこまで明るくないんだ。本自体にも魔法がかかっているみたいだし、どうにかする方法はないのかなって。文字が汚いって事はある程度は読めるんだね?


「ええまあ……エルフ語やドワーフ語を普段話さない人が書いたのか、少しおかしいけど。ええっと、読み上げたほうがいい? ──『この書は聖騎士隊長ウラナデア・G・Fの名の下に記す。いずれ来る勇者の助けになる事を願って。』」


 聖騎士隊長ウラナデア? 聖騎士がなんだって悪神の造り方なんて本を、それに何処かで聞いた名前の様な気もする。しかしいずれ来る勇者だと? もしかして僕はとんでもないものを拾ってしまったのではなかろうか、勇者が拾うべきものをなぜ僕が。大体、彼女がいくつかのつっかえや言い淀みあったとしても、読めると言う事はエルフの血が混じっているなら暗号されていない文章が目にできるのか? いやまあ、そこは置いておこう、今はエリィさんの読み聞かせの時間だ。


 曰く、まず今件では神にかけられた呪法の特定と対抗策の用意が重要な物である事を留意してもらいたい、だとかなんだとか。被害者を用いた強い憎しみの魔法である為、恐らくは神を悪神から善神へ戻す事が重要である。その為──。


 彼女の口から語られる内容は、かなり驚きに満ちたものであった。書物はてっきり、悪神の造り方と銘が打たれている以上、神を悪神へと変える研究の書であると思ったのだけれど、それは本質ではないらしい。確かに悪神へと変える方法を探る研究ではあるのだが、悪神に変わった原因を探り、それを直す為の書であるらしい。そして研究によると、悪神を神具に封印して弱体化をさせ、勇者が封印結界の中でトドメを刺せば、単純に神は死んでしまうのでそれでも良いらしいが……。


「んん? ちょっと待ってよ、何これ、読めないじゃない……んー? ああ、ダメね、魔法がかかってるわ。」


 そう言いながら本をペラペラと終わりまでめくって、それが終わるとエリィさんは本を返してきた。彼女が思った以上にすらすらと読み進める物だから、エルフの血だけに暗号化されていない文章が目に映る魔法がかけられていると思ったけれども、完全にそうと言うわけでもないらしい。肝心な所が読めなくなっている、いや単純な解決方法は記されているのだけど。しかし、ルサルカさん、彼女は元は人であったが神の呪いかなにかで水妖になっている為、神が死んでしまっては彼女になにか危険が及ぶだろう。でも、無辜の人に意図的かつ直接的に手を下すのは嫌だ。


 確かに、エルフへ反乱を起こす様に指示した。放っておいたら罪のないエルフ達が奴隷の様に虐げられるのが目に見えていたし、町ではなく村落としてあるエルフだと、規模が小さすぎてあまり抵抗らしい抵抗もできないだろう。だから魔法使いとして彼らに協力をして、ゲリラ戦術を教えた。ゲリラは、確かアラビアのロレンスが作ったらしいから第一次世界大戦中の発明か。ジャンヌダルク、僕は彼女が進んでやったとは思えないが、彼女はルールを守った戦いをしていなかった。大砲は普通拠点の破壊に用いる物だが矢がないからと人へ向けて打ったり、会敵したらすぐに攻撃したり、夜討ち朝駆け虜囚の殺害、しでかしの枚挙には事欠かない。戦争にはゲリラをしないだとか不意打ちをしないだとかルールがあるが、ルールを守らなければ短期的勝利なんて容易い。ま、長期的展望はアレだけれど。今回は別に、エルフが負けようと次に立ち上がる人達がいる。だから短期的勝利で問題はないけれども……。話が逸れた。罪を認識したくないが為に話を逸らすのは悪い事だ、わかってはいるのだが……。


 とかく、エルフの反乱を支持した以上、僕は多くの人の死に動的に関わった事となる。今更ルサルカさんを殺したくないのはエゴだ。それ自体は悪くない。誰だってやってるし俺だってやって良いだろうの理論で、まあ最善ではなくなるけれども悪いわけではないねとなる。僕は、ルサルカさんを殺すのだろうか。いざとなったら、そんな事をできるのだろうか。少し考え……待てよ?


「思考者tokage、どうしたのですか? 私は思考を読めますが、明文化されていない感情は読めませんよ。」


 いや、少し引っかかるのだけれど。言葉に出てきそうにない。喉に引っかかった感覚がある、出そうで出そうにないな……後でふとしたきっかけで妙案が浮かべば良いが。


「はあ、まあ悪いけど、私は魔法使えないから後はアンタ達でどうにかすることね。またなんか手伝える事あったら言いなさい。」


 そう言ってエリィさんは、僕の部屋のベッドに倒れ込んだ。ここは僕の部屋でそれは元僕のベッドなのに、今はナビさんのだが。ナビさんは、サポートを担当している本家大元のナビさんから分離した存在だ。まあ大アントニウス小アントニウスみたいに、大ナビと小ナビがいるとでも思って欲しい。で、大ナビさんは彼女と言うキャラクターの為に作られたセーフルームを持っているのだけれど、僕のサポートをしている小ナビさんは僕とキャラクターデータの一部を共有しているせいか彼女だけのセーフルームがない。なので、人間ではなくされている僕の部屋の人間用家具は基本的に彼女が使っている。まあ有効活用と言うかなんというかだ。それを今、エリィさんが使っている……。


「漂流者エリィ、貴方はどうするのです。これから、何処かへ行く宛はあるのですか。」


「そんな物ないわよ。私はハーフエルフよ? ある方がどうかしているわ。……なに、私を連れ去るっていうのは嘘?」


 いや、連れ去るとは言っていないが。でも、そうか。流れで、醜いエルフ達との交流はしたくないがエルフの協力者が欲しいと願って、それで彼女を引き取ったんだから、僕たちが世話するのが筋か。世話というか、住居におまんまにおべべを与えて、面倒だな。


「はぁー、折角わるーい魔法使いが私を拐ってくれると思ったのになあ。なんだ嘘かー。」


 拐われたいのか? そんな事を聞かれると、エリィさんはそうすれば王子様が迎えにきてくれるかもと冗談を言ってきた。ま、そうね。じゃあ王子様が来るまで、どこぞの亀の王様よろしくお姫様を世話しておいてやろうか。別に困るわけでもないしね。


「困ります。犬猫の様に人を拾ってきて。出費が増えるじゃないですか。全く……今回の件は、仕方がない一面もありますが。」


 理解があって助かるよ。まあ、僕も……自分でもどうかと思うけれど。そう言えば、エリィさんは戦えるのだろうか。彼女が戦える身でなかろうと別にセーフルームも貸し出す気だけれども、戦えるんだったら手伝ってほしい。とは言え、弓とかだったら水中では使えないし、色々と考える事があるけど。


「私? あー、弓は打てるし、罠とかは仕掛けられるけど……。」


 何だかいたたまれない様になったらしく、逃げ足だけは早いわよとエリィさんは言った。まあ、それならそれで良い。別に働かざる者食うべからずと言うつもりはない。そもそも、ルサルカさんのレベル上げなりなんなり、やらなければならない事が多いのだ。あまり、新たな人員を増やす余裕はない。


「安心しなさい、貴方には私達がこの部屋の外に出ている間、やって貰う事があります。」


 そう言ってナビさんは部屋の奥にある怪しげな機械へ目をやった。『マルチぽーしょん製造機』と書かれている。アレは、確かだいぶ前に買ったポーション作成キットの改良版だ。あれを使うと、材料によって多種多様なポーションが作れる。実際に使っている所は見てはいないが、使用した痕跡はあるのでおそらく僕がログアウトしている間に彼女が黙々と一人で作業しているのだろう。それを彼女に手伝わせようと言うわけだ、確かにそれなら命の危険もないし、また良いと思うのだけれど……。


「そうね、あんまり出歩いたってろくな事があるわけじゃないし。部屋でなにもせずにいるよりはそれで暇つぶしておくわよ。」


 エリィさんが協力的で助かった。そしてそれにたたみかける様にナビさんは武器の手入れキットや革なめしキットの使い方も教えた。どれも使い込まれた後があるのでナビさんが今まで一人で扱っていたのだろうが、節約家だなあ……。呑気にそう考えると、貴方はもう少し自分の経済状況に関して関心を持ちなさいと頬を抓られた。いてて。


「それで、探索者tokage。今日はこれからどうします? 水妖ルサルカには私から話をしておきますから、もう今日のプレイはやめにしますか?」


 意外な事に、ナビさんがそう言ってきた。あまりそんな事を言う人ではなかったので、驚くところもある。彼女曰く、今日はもう疲労が溜まって集中できないだろうかららしい。まあ確かに、ルサルカさんのレベル上げをしようと思ったら、エルフの村でゲリラ戦のやり方を教えたり、中々生命に関して考えさせられる濃い時間だった。彼女の言うことはもっともだったので、僕は最後にもう一度ルサルカさんを連れてのレベル上げをしてからログアウトをする事になった。



 ログアウトをすると、いつも邪神達と謁見する事になる。それはいつも面倒で億劫で憂鬱だから、特筆すべきこともなければできるだけ省ける所は省いて来た。だから今回も省くが、今回は彼らが僕が人を大量に殺す事になり、世界を混乱に陥れる一手を打った事に狂喜乱舞してたとだけ伝えよう。




 そして、朝だ。寝るとゲーム世界に連れ去られて、起きれば元の世界だ。あまり、そう長く離れていたわけではないのだが、今日は一段と帰ってこれた事が嬉しい気分になる。エルフの反乱に加担する、なんて嫌な話だ。世界は平和であってほしい、その世界が歪みない世界である限り。歪みのある世界ならまたそれはそれで別なので、今回はやってしまったが。


 朝、僕の体寝汗を拭いたり朝の着替えを手伝うために、今日も変わらず来てくれたクロノアデアにおはようと伝えると、おはようございますとにこやかに挨拶を返してくれる。この世にこんなに幸せな事があろうか。いや、100はあげられそうだ。とは言え全部僕の愛しいメイド二人、クロノアデアとポミエさん彼女達にまつわる事なので、あまり考慮する必要はない。


 身支度が整えば朝食だ。ポミエさんが作る料理はいつだって美味しいのだが、今日は一段と気合が入っていた。まあ、大会2日目だからだ。彼女の感覚で言えば我が子の晴れ舞台の様なもので、しかも昨日だって上級生相手に二回とも勝った。公爵家で相応の魔力を持った僕からすれば当然の事ではあるのだが、ポミエさんにとっては凄い事に思えるだろうし、それに、そう言った理由がなくとも喜ばしいものなのだろう。朝食を食べ終わり登校の時間までお茶を飲んでいる際に、昨日の事を思い出したので口にする。


「今日も学校を一緒に見て回ろうね。良い景色のところとか、いっぱい知ってるんだ。」


 昨日、ドロシー先輩に連れまわされて、デートコース的なルートを教えてもらった。最後には噴水の所とかにも連れて行って貰ったし、彼女達にも喜んで貰えるんじゃないかと思う。


「はい、楽しみにしておきますね。坊ちゃん。」

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