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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
154/167

次回は気楽な回

今回はちょっと重いですけど、次回はエルフの娘とのコミュニケーションとかです。

「アンタ……前もそうだったけど、ますます人間離れしてきたわね。」


 エリィさんの言葉は別に超常的な力が云々ではない。単純に、エルフの味方をしたり水妖と契約をしたりしているからだ。他人の魔力の質と言うのはよく訓練しないとわからないのだが、エリィさんには素質があるのかなんとなくわかるらしい。



 エルフに会いにオソレヤマにやって来た僕達は、と言っても水が少ないためルサルカさんはお留守番で僕とナビさんだけなのだけれど、変わり果てた山の惨状を目の当たりにした。ヒューマンの街からは黒い煙が昇り、川は血に汚れ土地は人の死体で汚れていた。神よ、貴方に似せて造られた筈なのにどうして人はここまで残酷になれるのか……。拠点を一つ潰し、奴隷を沢山解放しただけだったのに。僕はどうやらとんでも無い事をしでかしたかも知れない。野蛮なエルフを警戒して物陰から隠れ里の様子を窺えば、ヒューマンが奴隷として働かされているようだった。若い子供まで働かされている、可哀想に。どうにか彼らを解放できないものか。


 エルフの楽園、これが彼らの夢見た世界なのか。失望せずにはいられない。悲しみを知っている君たちがその悲しみを強いるのか。しかしここはもう、長くはないだろう。一体どうしてこんな事に。


 心苦しく思っている所、エリィさんを見かけた。ヒューマンとエルフの混血の彼女だ。説得もたやすかろう。僕は折を見て一人になった彼女に話しかけた。一体、僕が村から離れた後に何があればここまで歪んだ事になるのか。そして君はこの状態をどう考えるか、などを聞くためだ。


「アンタ達、一体今までどこに!」


 エリィさんは物陰から現れた僕達にビックリして大きな声を出したが、すぐに表情を変えて森の奥へくるようにと先導した。エルフの里では場所がマズいらしい。しかし、十分に人気のない場所に移ればすぐに訳を話してくれた。


 事は僕達が宴会を抜け出してすぐに動き始めたらしい。彼らは火吹き壺、彼らに伝わる秘宝を譲渡した事を後悔し始めた。彼らは火の戦略性に気がついたのだ。元々森と共に生き森の中で死ぬエルフだ、火の扱いは彼らにとっては不慣れなもので、焼き討ちなどには頭が回らなかったがそこに僕、ヒューマンの魔法使いが現れて火を使いヒューマンを襲った。そして、同胞を奴隷から救出したお礼としてヒューマンの魔法使いに火吹き壺を渡した……。同胞を幾人も奴隷に落とすほどの火と言う物に良いように操られ、火に大いなる恐怖を抱いたエルフにとっては、自らを助けた魔法使いを疑うのも無理のない話であったのだ。


 相手は人非人、冷酷で残虐なヒューマンの一人。勝利の為なら同胞を多少失うとしても自分らから火を騙し取る為に何でもするだろう。今に見ていろ、魔法使いがエルフの里を焼きに来るぞ。そんな言説はあっと言う間に広がった。中には魔法使い一人でエルフを滅ぼせるのにそんな馬鹿な事があるかと言う冷静な人もいたが、疑心暗鬼になった群衆にそんな言葉は意味をなさない。やられる前にやれ、焼かれる前に焼けと、エルフはヒューマンの里に火を放ち、失われた火を奪還すべく僕を血眼で探したそうだ。


 なんて、醜い……。言葉がそれしか見つからなかった。まさか勝手に疑心暗鬼になって被害妄想に陥り、そして凶行に及ぶとは。そこまで人は醜くくなれるだなんて、信じたくはなかった。


 ガサリ、不意に茂みから音がして、そちらに目をやるとエルフの村長がいた。


「ようやく尻尾を見せたな、汚れた娘め。貴様が監視されていないとでも思ったのか、この猿混じり!」


 猿混じり、ヒューマンとの混血を意味するのだろうか。悪意たっぷりにエリィさんへの侮蔑の言葉を投げると、エルフの長老は僕達を睨み、すぐに火吹き壺を返すように言ってきた。完全に包囲をしたので、今回は逃げられないだとかなんだとか。不愉快な奴らだ、醜さを凝縮したような存在だなあ。そこで、ナビさんが僕の思考を読み取り、ゲーム上喋るのに魔力を消費する僕の代わりにエルフ達へ言葉を返した。


 貴方達は幾つかの大きな勘違いをしている。1つ、私達は火吹き壺を得た後、ヒューマンの街には行かず、すぐにこの山を離れた。2つ、私達は貴方達に害を加える気はない。3つ、エルフが完全勝利したと思って呑気して暮らしているようだが、あまりそう自由にできる時間はない。


 エルフの長老は無意識に己達の危うさを知ってか知らずか、冷静さを失って僕達に三番目の事に説明を求めた。簡単な話だ、ヒューマンがすぐに攻め返しに来る。被差別階級のエルフの集団が王国のヒューマンを攻撃して被害を出した。そこでエルフ討伐隊が組まれてヒューマンに仇なす憎きエルフを成敗する、なんてのはヒューマンの国の出来事としては当たり前のことだ。それに、ヒューマン至上主義を掲げた王国であれば、エルフ以外とも敵対している存在があろう。『エルフが不満を持って蜂起して王国はそれを見逃した、案外に手弱な様子、なれば我々も蜂起しよう。』と、王国で差別されている存在らがなるのは想像に難くない。だからそう言った地雷を抱えている王国は例え少数部族の反乱であろうとそれを許す事ができないのさ。


 だから壺を取りかえすとか言ってないでとっととヒューマンの街を占領したらそこを要塞化するなり、あるいは財産を纏めてオソレヤマを離れるなり、なんらかの次の一手を打つべきだった。それをヒューマンの街をズタボロに壊すわ奴隷とか無駄に手間のかかる財産を増やすわ……。


 彼らにもわかりやすいようにエルフ側に立って説明すると、彼らは顔を赤くしてそれなら我らにどうしろと言うのだ、貴様らのせいでこうなったのだから責任を取って我等に道を示せと言ってきた。彼らが高潔であれば、僕も暗号解読と直接の救出の取引を考えた。だが、結局は忌み嫌うヒューマンと同じ事をして被害妄想に塗れ、恩知らずにもエルフの手に余る火吹き壺を引き取りさえした僕らを疑い、あまつさえ助けて貰う立場の癖に偉そうに……彼らとはこれで縁を切ろうか、僕はそう決心しながら、助言をする事とした。


 まず、山岳地帯であるのであればヒューマンの軍が封鎖するルートは決まってくる。多少キツくても山道から外れた道を通れば逃げ出す事が可能であると思える。また、オソレヤマに住んでいる人間を捕らえ逃したり仕留め損なったりしていなければ、次に来る軍団は地の利がなく戦いにおいて有利に立てる所か、野営地への奇襲や捜索を撒く事くらいは容易にできるだろう。


 だから今のうちに私財を出来るだけかき集めて逃げることも可能である。だが、どうしてもそれは嫌というのなら、僕が進めるのは集落の要塞化だね。ここは山岳地帯だ、湧き水とか水資源は豊富だけれどもその逆、農耕には不向きである。なので、ヒューマンは狩りの他に毛皮や特産品などの交易で外からの食料や油を輸入していた事だろう。だから、彼らはまず麓の道を占拠するだろうね。ヒューマンの感覚ではそうすれば君達が飢えで弱ると考える。地の利で負けている敵に対して、策無しで戦おうとする輩はまずいないだろう。チャンスはそこだ、まああまりそこをアテにし過ぎるのは良くないが……。


 僕がここまで言うと、物陰から若い、大体人間で言う16そこら、エルフはヒューマンの5倍成長に時間をかけるのでおそらく80歳くらいのエルフが弓に矢をつがえながら躍り出てきた。


「長老! 短耳供が進軍しているとの報告が!」


 タンジども……ああ、ヒューマンか。まあ蔑称なんだろう、いや、単に非エルフ族的な言い方かな? ヒューマンで言う亜人的な。ナビさんが『さあ、取れる時間は少なくなってきましたよ』と伝えると、エルフの村長……長老? まあ彼らのコミュニティは排他的なムラ社会だし、村長でいいだろう。


「お、オノレ……! 貴様らか! 貴様らが告げ口を……!」


 そんな訳ないのだが、まあ焦燥は人を盲目にするから目を瞑ってやろう。どうせ、その態度を改めなければ滅ぶだけだし。神の裁きさ、ざまーみろ~。ま、アドバイスくらいはしてやるか。


「戦争において戦えないヒューマンの奴隷は役立たずと思うでしょうが、殺さずに、それも声が出せる程度に健康であれば、木の高い所に吊るすとか開放に時間のかかる方法で拘束しておけばいい時間稼ぎになりますよ。」


 特に子供は自力でそう言った拘束から脱出が万が一にもできない上に、人の道から外れてもいなければ誰だって助けるでしょうし。まあ、これを真に受けるかは賭けだ。信じてくれれば多くの人の命が助かる。危険な賭けだが、早ければ早いほどいい。今の所はまだ侵略者と原住民の関係で、事態がこれから予想される事態よりまだ単純な部類に入る、比較的。自らの信用を稼ぐために更に現実的な事を言っておこうか。


 幸いにしてここは山岳地帯、上を押さえたら有利に立てる。とは言え、麓に拠点を築かれたら兵站責めが容易、君達は自給自足で生きていただろうが、山に人間がちょくちょく妨害に現れれば君たちだってエルフは飢えで死ぬだろう。そこら辺の対策ができるかできないか、重大になってくる。逆に、向こうが拠点を麓に築いた際には、エルフと人間の拠点に流れる川の中流に毒を流せば向こうは弱り戦いが容易になってくるけれども、少し後が怖い。それをするくらいならいっそ火矢をもって夜襲する方が吉ではあるだろう。とは言え、一度ならず二度までも火で攻撃されたのだから向こうも対策は打っていることが容易に想定されるから、そこら辺も留意してほしい。


 ──などと、エルフとの戦術会議もどきを、いやさ僕の考えをベラベラと喋ってやっただけだけれども僕は責任を負いたくないので戦術会議としておいて、その会議を終えると、なんと出来上がったのは各地で待ち伏せして攻撃をしたらすぐ逃げる、つまりゲリラ戦術だった。


 ゲリラ戦のの目立つ利点は、仕掛ける側の人が死ににくい事と、敵へのストレスを与える事と、更に言えば味方に決定的な装備の差を意識させない事だ。酷く劣った装備であっても攻撃において致死性を保つ事ができるなら、逃げ足だけが重要になってくる。そうなると靴だとかの移動の為の必要最低限の装備以外はかえって邪魔になる。ゲリラ戦はヒットアンドラン、一撃離脱が要だ。だから視界のひらけた平野や、馬が走りやすい整った土地や、逃げ道の確保や待ち伏せが困難な地元以外では役立たないし……まあ、なかなか助かった。


 所で、待ち伏せする場所なんだけれども、逃げる事を考慮すると必然的に地図が必要になる。さもなければ逃げ道が被って混線して混戦する羽目になる。状況が状況なのでジョークになってないが、いかなる時も忘れてはならないのがジョークなのさ。なので地図を用意してほしいのだけれど、まあ地形図とまでは行かなくとも、山の外形がわかるくらいにはなってほしいのだけれども……。


「地図……? そんな物はない、ある訳がなかろう。」


 ま、そうね……。史実準拠では、いや史実というか僕が生きる世界は帝国以外はあまり地図なんて作ったりはしない文化だった……。クソが、なんだ負けても良いとでも思っているのか。制御できない壺を後生大事にするくらいなら地図くらいは作っておけ。くそ、なんならいっそ、一斉蜂起でも呼びかけた方が良いのでは……?


 そこまで考えが及ぶと、今まで喋れない僕の代わりにベラベラと喋っていたナビさんが言葉を止めて、じっとこっちを見つめてきた。エルフに聞かれないように魔法を使って話しかけられる。曰く、戦乱の時代になりますよと。……うむ。また、それもむべなるかな。無理のある国はいずれ滅ぶ。王国は奴隷制を、帝国よりも帝国主義を貫いている国だ。ヒューマンを上に、多種族を下に。そんな歪みが目に見えている体制なんて、今崩せるのならば今崩そう。それが最良の道だと僕は思う。


 最良と最善は違いますからねと、ナビさんはそう言うと、同じく虐げられている同胞へ飛脚を出し、ゲリラ戦術に関してその方法といつやるかを知らせなさいと言った。ナビさんの言葉を聞いて、エルフの村長は近くにいた人に命令した。命令を受けた若い人が走る。なんとなく、あっけない物だ。……ゲームとは言え、歴史が動きそうな物なのに。


 今日、我々は大きな一歩を踏み出した。ヒューマンどもへの反逆の狼煙をついにあげたのである……とかさ。普通、火を使う作戦は余程の事でもない限りは行わない。火を使って攻撃することは、単純だけれども異様に効果があるのだ。近代の戦争においては東京、ロッテルダム、ロンドン、ハンブルク、ドレスデンと、これらの大都市がどれも一度は焼けている。トロイア戦争においても、使われたそうだ。それだけ有効と言うことだろう。しかし、一度火を放てば都市部でもない限り自然環境は壊滅的になり、戦後が面倒なのだ。土地としての価値が下がる。だからその点を活かして焦土作戦だったりがあるのだけれど……まあそこは詳しく語らなくても良いだろう。


 エルフは自然とともに生きる。鹿を射止め、果物を採取する。弓を取らせば子供でも一人前だ。生まれながらにして狩人、と言うのだろうか。しかし、それは……社会体制としては、ホモサピエンス的に考えると原始的だ。農耕をしないために、居住区さえ用意できれば一ヶ所にとどまる必要がない。日本で言えば縄文時代とほとんど変わらないのだ。しかしそれは時として武器となる。そも人は生き残るために発展するのだから、発展しないで生きてこられたエルフは種族のスペックとしては相当優秀なのだろう。そして社会体制的にいざと言う時に火を使う事がヒューマンと比べ抵抗感がないので、相手に多大なる被害を与える事ができる。


 考えると、今の今までゲリラ戦術を使えなかったエルフも相当だが、エルフの追い詰め方を見誤った王国も愚かよな。まあゲリラ戦は情報伝達技術や強力な統率などがなければ烏合の衆のテロもどきになるので、ヒューマンの街ができて開発によるインフラや拠点といった失うと相当な痛手になる設備が相手側に整う最近まではできる状態になかったのかも知れないけれども。ははは、そう考えるとますます皮肉な物だな。


「魔法使い殿、油を、油を用意しなされ。我らに油を差し出したら、貴殿をついぞ信用しましょうぞ。」


 おっと、考え事をしていたら、エルフの村長……いや、酋長が何か戯事をほざいてきたぞ。まあ、是非もなしだ。もはやエルフ達にとってのルビコン川は超えられたのだ。望むのなら与えてやろう、初動は大きければ大きい程良い。これから沢山の命が失われる……他の種族まで巻き込めなければ、エルフがヒューマンに対して完全勝利することはないだろう。逆に、エルフが負ける時は悲惨だ。規模が違い過ぎるので、地域一帯からエルフと言う種族が消え失せるまである。それに、王国には魔法で加工されたエルフ奴隷だっているから、主人であるヒューマンの命令に逆らえないエルフが同族と戦わされるかもしれない。奴隷にする魔術は結構仕組みが複雑だが、それ故に実は脆い部分があるので、その呪いの解除自体は魔術師なら殆どの人ができる。でも、戦場でそれができると言ったらまた別の話である。ああ、なんで……まったく。


「エルフの長よ、よく聞きなさい。先導者tokageはエルフの忌子エリィを連れて行くためにここへ訪れました。良いですか、私たちに要求すると言うことの意味を考えなさい。」


 ナビさんが僕に断りも入れずにそう喋った。ありがたい物ではある。エリィさんはヒューマンの奴隷に対して幾分か同情的だった。戦争を煽っている身で言うのは笑えてくるが、彼女が戦争に巻き込まれるのは苦しい。正義とは一体なんだろう、奴隷に武器を持たせ立ち上がらせたらダメだったのだろうか……せめてアメリカの様に、なってくれれば良いのだけれど。


 僕は魔法で油を生み出す機械になってから、暫くするとエリィさんとともに開放された。あまりエルフの住処の様子は覚えていない。醜いエルフがヒューマン達おびき寄せる為のヒューマンに家畜の様に餌と水を与え、また弓矢作るために木を切り倒し、焼け落ちたヒューマンの街から炭と街で戦っていた人がせめて火事がひどくならないようにと火の手から逃した油壺を回収していたりと、あのエルフ達が戦の為に着々と準備を進めていたのが印象的だった。


「アンタ……前もそうだったけど、ますます人間離れしてきたわね。」


 エリィさんが言った言葉は、別に、異常だとかそう言った意味ではない。



次回は気楽な内容になります

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