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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
152/167

イベント続々

「ねえ、もしかしてゲニー君って……私のこと嫌い?」


 思うに、愛とはエゴだ。どれだけ他者を愛しても、結局は自分の利益が根幹にある。他者を愛する事が自分の利益につながるのだ。僕がクロノアデアを好きなのは、彼女に僕が愛されたいからであり、そして愛する事により幸福を味わいたいからなのだ。愛する事が快楽に直結する……。


 校舎で示された試合会場に着いた時は驚いた。ドロシー先輩も同じ場所だったどころか、なんと彼女が対戦相手だったのだ。勝負である以上、僕と彼女のどちらかは負けなければいけないし、僕はクロノアデアから優勝できると良いですねなんて言われてしまっている以上、できれば優勝したい。なので、非情にも彼女を打ち負かす事となったのだが……ドロシー先輩、中々に手強い!


 いやしかし、なんでドロシー先輩は僕が彼女の事を嫌ってると思ったんだ? 普通に好きだ。まあエゴだが。いやしかし、何度か語ったがエゴは悪いものじゃない。ただエゴをエゴと認識しない事を僕は評価しないだけだ。エゴのアントニムはなんだろう。アルトゥルーイズム、利他主義か? でも、利他主義者なんているのだろうか。僕は、もちろん究極的な話で極端に言うとと断っておくが、他人のためになる事をするならひっそりと死ぬ事だと思う。前も言ったけれど、地球というパイは人数に合わせて増えるようにできてはいない。仮にもし今後人類が発展して、人が火星と地球とスペースコロニーに住むようになったとしよう。それでも不平等は変わりない。人は相対的欠乏によって自身の不幸を認知する。地球や火星にスペースコロニーの環境がそれぞれ等価だと思うか? 僕はすぐに今の地球の様に富に大きな偏りが生まれると思う。そして生まれる貧困に苦しむ地域への差別、偏見。別に想像に難くないね。人はいるだけで争いの種となる。アルトゥルーイズムに目覚めたなら、今すぐ死ぬべきだね。


 まあ冗談はさておき、エゴが悪い事じゃないというのはどうしてだろうか。こちらを念入りに説明しよう。エゴイズム、利己主義的な生き方は他人に利を与える事と相反するものではないからだ。以上、これに尽きるね。まあ念入りに説明するのだからもっと長々と説明を言う。


 例えばAくんはパンを腐る程沢山持っているが飲み水を持っていなく脱水症状に喘いでいました。そこに通りかかったBさんはブドウジュースを廃棄費用の工面に悩む程たくさん持っていましたがパンを持っていないため飢えに苦しんでいました。ここで、AさんBさん、それぞれの利益を最大限追求すると、それぞれの動きはどうなりますか? 大抵の人は物々交換をする事を考えるだろう、たぶん。流石に脱水症状だの飢えに苦しんでいる最中に体力を消費する殺してでも奪い取ると言う選択肢を選ぶ人は少ないはずだ。この場合においてお互いが特に必要のない、物資の余剰分を費用を払わず消費することができて更に自分の必要とする物が手に入れる事が出来たと言うのは、素晴らしい話ではないだろうか。利己的に動いたが、結果的に相手にも得をさせた訳だよ。


 エゴは相手に利させない事じゃない。もちろん対称的にアルトゥルーイズムも自分に利をもたらしちゃいけない訳じゃないが、自分が死ねば多くの利を周りの者、将来、未来に生きる子供達へ人一人分の地球パイと言う大きな財産が残せるのに死なないのはそれ君エゴだよと言う。別にアインシュタインやファラデーみたいに人類の発展に大きな貢献をするなら構やしないが、天寿を全うした所で後世に名を残す様な働きもできない特筆すべき才能もないただの一般人如きが『いや自分は今ここで死ぬより寿命が尽きるまで生きた方が人類の為になる。』なんて言うのは、自惚れも良いところだ。まあかと言って才能が芽ぶく前の大天才様が自分はパンピーだと思って自殺されると大きな損失なので、結局自分が如何なる者か知らない、神でもない輩が自殺するのは絶対に避けるべき事だが。


 で、自死を選ばないアルトゥルーイズムは天才でもないとエゴだとされるなら、極僅かなアルトゥルーイズムに目覚めたばかりの人を除けば、自覚的か無自覚的を問わないエゴイストか天才以外は生きていない事となる。世にある言葉の多くは相対評価だ、正義にも悪にも絶対的評価基準はない。だから、全体の多くがエゴイストであるのに、どうしてエゴが悪だと言えよう。


 でもエゴに正当性はない。そもそも正当性とはなんだ、誰が決める? 何が正しくて何が間違ってるだのを決められるのは神だけだ。人ごときには決められないし、神との交信もできない人間は正しさを知ることはできない。主観的正しさに従うほかないので、客観的正しさ、正当性とやらは諦める他ない。


「自分勝手ですが、僕は好きですよ。ドロシー先輩。」


 そう言いながら僕は氷の矢を放った。彼女の寒色系の青い髪に、氷の魔術は良く似合うなあ。僕が放った矢は彼女の作った氷の盾に吸収された。いや、吸収されたと言うか何というか。氷の盾の表面が解けていたか何か、矢先が盾に触れた瞬間に盾と接合された。矢へ何か触れた瞬間に対象を凍りつかせろと命令したのが悪かったみたいだ。流石氷の神の家、氷の魔術に対しては扱いがピカイチだ。取り敢えず氷のナイフを作って適当に投げておく、ホーミング機能も着けられたが、ドロシー先輩からの魔術を警戒してつけていない。単純な水平投射だったので、簡単に盾で防がれてしまった。めんどくさいので、石の槍をぶつけて盾ごとドロシー先輩を攻撃したい……いや、氷の神の家をアピールしたいのだから、やめておくが。


「自分勝手……? 意味はわからないけど、私も、ゲニー君は好きだよ。可愛い妹みたいで。」


 せめて弟と思って欲しいものだが、まあ彼女には妹として触れても良いですよと言ったのでそこには目を瞑る。矢やナイフが無意味だと判明したので、蛇の様に動く氷の鎖をばら撒きながら舞台を走りまわろう。氷の鎖はたとえ僕の攻撃が効かなくても蛇が勝手に彼女を雁字搦めにして戦闘不能にしてくれるだろう。女児を雁字搦めにするのは少し気がひけるが。


 僕が走り回っている間もドロシー先輩が氷の魔術をドンドンと飛ばしてくる。水の魔術との合わせ技で、核となる氷球を水で包んだバレーボールくらいの球だ。当たると氷の核が周りの水ごと対象を凍らせてくる。地面に当てられた物はツルツルとした氷を作るので足場が悪くなり、動き回って戦う僕にとってはなかなか効果的だと言えよう。試しに彼女の上空へ跳んで真上に打たせてみたが、氷の球が落ちたので、氷の核は衝撃トリガーとするというよりも、経過時間で周りの水を凍らせる様だが……。


 氷の鎖が彼女に噛みつき、彼女の体に巻きついた。これで勝負はついたものだと思って油断をしたのだけれど、彼女は鎖に対して水の魔術をぶつけた。鎖が氷の棒になる。おっとこれはマズい……! 僕がそう思うが先か、彼女は棒になってしまった鎖を蹴り降り、多少油断してしまった僕へ向けて魔術を撃ってきた。氷の槍を慌てて球へ向けて放つ。槍が氷と水の魔術を凍らせ、重心を変え空気抵抗を生み出し、僕に直撃する軌道を変える。


 鎖と言うものは曲がるからこそ意味があるので、先程のドロシー先輩の行動は正しい。触れた物を凍らせる鎖に水を引っかければ自らが凍らせた水に鎖は閉じ込められるので棒となる。体を構成する氷が増える分直接的な強度は上がっても、力を逃がすことができなくなる為、折ることができる様になると……戦いの中の一瞬でそんな考え方ができるとは思えない。氷を扱う家にとっては使い古された手だったのだろうか。まあ良い、お陰で良いヒントを得た。


 ドロシー先輩が放つ氷と水の魔術、アレは水自体に特別な何かがあるわけではない様なので、僕の魔術で凍らせられる。速さのある槍などで凍らせると、運動エネルギーは質量に速さの二乗をかけた物の半分と言う定義であるため、水球に対して槍が少し軽かろうが、一体となった所で大きく威力が殺される。なので、今まで逃げ惑うしか対処が無かったものが、自らせめて行ける様になったのだ。と言う事で、遠慮なくドロシー先輩の方へ駆け寄る。


 ドロシー先輩が打ってきた魔術を氷の槍で凍らせ無力化、更に、ちょうど良い様に思えたので、それをハンマーとして扱わせてもらう。ハンマーでの戦闘は初めてだが、クロノアデアとの戦いで彼女が使っていたのでそれを見よう見まねでやってみる。


「キャッ、やっぱり私の事嫌い!? なんか容赦って物がないよ!」


「試合なんだから殺さない程度には手加減してますよ!」


 ドロシー先輩はそう言いながら分厚く背の高い氷の壁を作った。邪魔な壁だ、壊すのにも迂回するのにも時間がかかる。どうせ僕は壁を突破すると見て、ドロシー先輩は僕を迎え撃つべく詠唱を始めた。人は影を知り光を望むだかなんだか、仰々しい詠唱だが……もしかしたら、ヤバイかもしれない。彼女は前にジュデッカと言う氷の魔法を打ってきた事があるが、その時はテンシさんの魔法を使って防いだ。しかし、彼女の氷の魔法に対抗するために聖属性の魔法を使うのはマズイ。聖属性の魔法、つまり聖属性の神の魔力による魔術が使えるのは、氷の神の家を演じている僕にとっては非常にマズイ。まあぶっちゃけ、今更の様な気もするが……まあ良い。


 丁度氷の壁を登りあげ、僕は10mは下にいる先輩へ向けて氷の鎖を投げつけた。詠唱を邪魔してやる……! 僕の鎖が彼女の体に巻きつくが、彼女は詠唱をやめなかった。辞めなくても構わない! 良いさ、発動しなければ、詠唱し切る前にギチギチに絡めまくって、動けなくし……ドロシー先輩が鎖を先程と同様の方法で壊した。なんだってんだ全く!


 僕が慌てに慌てながら氷壁を飛び降りて、急造した氷の刀でドロシー先輩に斬りかかると、彼女は丁度詠唱を終わるか終わらないかの所だった。魔力を体に巡らせ、時を減速させる。彼女の詠唱が終わるまで実際の時間にして1秒、僕の減速させた体感時間にしてあと30秒だ。そう長くはない、ゆっくりと落下する僕の体を自ら魔術で攻撃することで自由落下するより早く地面に着地、そのまま彼女のお腹に掌底を打ち込む。流石に剣で攻撃するのは気が引けたので、剣を持っていなかった左手での掌底だ。あまり威力はない。


 先程から僕の妨害を尽く突破してきた彼女は油断ならないので、30分の1の速度で吹っ飛ぶ彼女の足を掴み、引き寄せる。本来魔術や魔法において詠唱はただの補助、邪魔した所で威力を半減させたりする程度の効果しかない。だが、自分の実力以上の事をしようと詠唱に頼り切った物においては別だ。詠唱がなければ打てない物は、詠唱を完全に止めるどころか、意識さえ反らせれば練られた魔力が霧散し、一からやり直しになる。なので、流石に可哀想だとは思ったが、彼女にキスをするフリをした。キスをするフリだ、実際には唇と唇の間に手を挟んでいる。


 挟んでいるが、30倍もの速度で動いている僕の事を彼女は目で追う事が出来ないだろうし、勘違いしてもおかしくはない。と言うより、勘違いした。急に目を見開き、顔を見る見るうちに赤くさせて行く。そこまで意識がそれれば大丈夫だろうと、手を彼女の唇に当てたまま顔を離す。


「……降参します?」


 ドロシー先輩はコクコクと頷いた。無事に終わって良かった、手を彼女の唇から離し審判に勝ちですと宣言すると、審判も遅れて僕の勝ちを宣言した。ドロシー先輩の方を向くと、唇に指を当ててボーッとしていた。試合は終わりましたよと声をかけると、僕の顔をじっと見つめて、耳打ちをしてきた。


「意気地無し。」


 驚いて彼女の顔を見つめると、彼女はしてやったりとした顔をして『妹がお姉ちゃんをからかっちゃダメ』と言ってきた。い、妹……まあいい。勝てたものは勝てたのだ。実際、彼女があそこで降参しなければ首を絞めて落としていた。最初から氷の魔術で勝負するから手こずっていただけで、彼女が惚けた状態であそこまで接近する事ができたならあとは楽に片付く。なので、あそこで降参を引き出せたことにより首を絞める様な戦い方を晒さないでいられた事を喜ぼう。


 ふと観客席に目を向けると、顔を赤くさせて小声でキャーキャー騒いでいるポミエさんが目に入った。隣にはクロノアデアもいる……少し、背筋を冷たい汗が走った。


「ゲニー君、どうしたの? 試合も終わったんだし、行こうよ!」


 ドロシー先輩が手を取り、意地の悪い笑みを浮かべて僕を引っ張る。もしかしてワザとか? いや、歪んでいるな。状況が状況だけに、焦って色々と歪んだ観測をしてしまう。しかしマズイ。クロノアデアの前で無様な試合を晒した事は言わずもがな、彼女が見に来ているという事を忘れてドロシー先輩にキスをしてしまった。いやしてないが、フリだが、とは言え観客席じゃあよく見えなかったかもしれない。ポミエさんの反応からして僕の体が重なるなどして完全にキスした様に見えたのでは。それはまずい、僕はクロノアデアが好きなので、下手にドロシー先輩にキスをしたなんて思われたら困る。困る上に、ドロシー先輩が僕を連れ回して出店を回ろうとしている。いや、ここは彼女に事情を説明してクロノアデアに弁解をしに行けばいいのか?


 は、事情の説明ったって何を言うつもりだ僕は。好きなメイドに自分は君を一途に思っているしさっきのキスはフェイクだよって? 信用できるかぁっ! どうしようどうしよう、どうし、どうしっ!?


「ね、ゲニーちゃん。お姉ちゃんは飲み物を買いに行きたいんだけど、何か飲みたいものある?」


 ドロシー先輩が覗き込む様にして聞いてくると、彼女の妹を演じる身では少し断りづらい物があり、僕は少しなよっとした女性っぽさを出しながら、オレンジジュースを頼んだ。この世界にお祭りの日に一般へ売れる様な果実のオレンジはないので、オレンジジュース的なナニカだが。クロノアデアには後で弁明すればいい、取り敢えず先輩にバレない様にこっそりと使い魔の小鳥を飛ばしメッセンジャーとする。一先ずは先輩との出店巡りを楽しもうか


 ううっ、先送りをした所で解決なんぞしない事が分かっているからか、二人への言い訳をどうするか少し意識しただけでお腹が痛くなってきた……

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