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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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努力は素晴らしい物だ、良い結果が出る確率が上がる

 突然だが骨という物質の主成分は何か知っているだろうか。カルシウム、まあ間違いじゃない。正確にはリン酸カルシウム、つまり化合物だ。骨の大部分はこのイオン結晶が占めているが、骨髄や骨膜にコラーゲンだったりなんだったりの有機化合物もある。この有機物のお陰で血球だったり栄養の貯蔵だったりができるのだけれど、ここで更に問題。骨の働きとはなんだろう?


 なんで人間の体には骨があるのか、一言で漠然と聞かれたら生きるためと漠然と答える他ない。実は骨というのは体の中でとても重要な役割を複数果たしていて、さっき言った人体に不可欠な細胞を作ったり栄養を保存したりもあるのだけれど、もっと簡単に臓物の保護や姿勢を保つ事に使われる。


 例えば骨を、硬骨を持たない動物として知られているタコでは、彼らの筋組織は驚くべき物ではあるが、彼らは直立二足歩行はおろか這う様な移動位しか出来ない。陸上にあげられたら普段水中で暮らしている奴は大抵そうなるだろとか、そもそも水中なら基本的に泳ぐから立つ様に進化する必要がなかったんだし仕方がないだろとか言う批判は無視だ。ここで問題なのは、可能か可能でないかの話だ。タコの体ではあの筋力を持ってしても歩行はできない。では虫はどうだろう。


 虫が骨を持っているとは聞いた事ないが、カマキリやバッタがズリズリとタコやナメクジの様に這って移動する様は見た事がない。こういう人はきっと多いのだろうが、実は虫の場合、僕達でいう皮膚が骨の役割を果たしている。虫を観察してみるとある事に気づく。まあ、生きた虫が苦手だという人もいるだろうが、そこはぐっと堪えて蝉の抜け殻や蟻に解体されている最中の虫を観察してみて欲しい。虫は外骨格と言うべき体表をしていて、関節部が節となっていて更に節でない部分はとても硬い。これは、人の筋肉が骨を引っ張って節を動かす様に、体内から外骨格を引っ張る事で節を動かすためだ。節足動物の一種、蟹は脚のほとんどが筋繊維で出来ているが、それも同じ理由だ。僕達がボイルだのカニしゃぶだのでムシャムシャ食べているあの肉は、食すのに邪魔なのでハサミなどで解体されるあの赤い外骨格を中から引っ張るための筋肉である。まあ、殆どの動物は骨がなければ満足に動く事ができないのだ。


 余談だが、外骨格は内骨格と比べて増やせる筋肉に限界がある上にモーメントや腱の位置的に同じ筋肉量でも弱かったりで、人間のサイズ程巨大化するにはデメリットがデカすぎる。面白い話があって、大体3億年前くらい、石炭紀なんて呼ばれる時代にはメガネウラと言うトンボがいた。大体700mmくらいの大きさで、まあおおよその人間は化け物じみた大きさだと思うだろう。実は当時の酸素濃度は35%近く、また地表の温度は遥かに高く、呼吸をする動物が活動するには十全な環境が揃っていた。なので、今ではそんな巨体生まれても即死するだろうと言う無茶な構造も普通に種として生きることが出来ていたのだ。ま、逆に今の地球という環境下においてそんな生物は誕生できない。魔力があるこちらでは違うだろうが。


 さて話を戻すが、君達は先程から僕は骨を説明する際に筋肉に注目して話をしている事を理解できているだろう。筋力を意味するマッスルパワーは、再度日本語に訳せば筋仕事率とも言える。ある程度まとまった量の筋肉がどれ程の効率で仕事ができるのかなと言う意味になる訳だが、詰まる所なにを言いたいかと言えば、当然のことではあるが筋肉が無ければ筋肉の仕事はゼロだ。幾ら体を動かす際に重要な役割を果たす骨を持っていようが、筋肉がなければ体は動かない、と言う事になる。火葬した遺骨が勝手に動いたのを見たことあるか? まあ土葬した遺体だろうが死者が勝手に動き出すのを僕は見た事ないが……。


 本当にそうかな? いいや、おそらく常人は絶対に見ていないだろうが、僕は死者が動き出すのを見ているはずだ。寧ろこの世界ではそればかりだ、最初の街、沼地の魔術師が操るグール達。彼らは死者なのに動いていたね? そして、更に言うなら骨だけで動く物も見た。そう、今回ナキ村の異界で出た魚の骨だ。彼らは一体どうやって動いているのだろうか? 考えられる方式がいくつかある。一つは魔力筋、もう一つは骨変形、最後に魔術構成だ。順を追って話そう。


 まず魔力筋、読んで字の如く、魔力を筋肉の様な性質を持たせ操る事だな。微妙に魔術構成とも似ているが、そこは後で話す。で、魔力筋がイマイチよくわからないという人は骨を持った幽霊だとでも思ってほしい。骨は実態を持っているので見えるが、霊体が見える状態だと骨は肉に隠れて見えなくなる……みたいな。まあ、それでもよくわからないぞって言う人は見えない筋肉があるんだって事を理解できればいい。


 次に骨変形だけれども、言っておいてなんだがこれは多分ない。身近な骨といえば人骨くらいだろうが、その僅かな記憶を探ってみてほしい。骨というのはある程度のパーツが纏まって独立しているね? 例えば手骨や脊椎、肋骨、腕骨や頭蓋骨。そう言った部分に、他の独立部をつなぐ関節なり何なりがあるのだけれど、なんだかもうぶっちゃけ、全部ひとつなぎにしても良くないと思えて来ないかな? 人間の骨格標本を調べてほしい、ぶっちゃけ全部糊付けでも組み立てられそうだろ? 他の骨と接触していない骨なんてないと言っても過言ではない構造なんだ、基本的に。という事で骨変形というのは、一個体の骨が全部癒着して一つの骨となった物が、魔術によって変形させられていても、僕達の見た筋肉なくして動く骨が作れなくもないという話さ。まあ効率が悪いので多分ないが。


 最後に魔術構成、まあこれは至極簡単で、そういう魔術と言うだけだ。そう、そう言う魔術。例えば僕が火の玉を打ち出したり石の槍を打ち出したりする時に、僕は別に魔力で作った腕を使って投擲してたとか、そう言うことは全くない。つまり魔術だけで空中を移動することができなくもないのだけれど……まあ効率は魔力の質なり術式の簡易さなりで術者によるが。




「それで? 結局どうなのですか。」


 苛立ったナビさんが僕をせっついた。僕達は、僕が海の記憶と形容した異界の奥に進んだ。しばらく進むと、いかにも何かありますと言う様な大きな沈没船を発見したのでそこを探索したのだ。そしてそこには、魔法使いが住んでいたと思われる部屋があった。僕は異界やナキ村の情報を集める為に部屋の中を荒らし、手記を見つけたんだ。


「情報の整理は良いので、早く。」


 ここの骨は僕の魔術でなんとかできる、この世界を作る術の核になっている物がおそらくこの船内にあるからそれを弄れれば、多分無力化できるんだ。僕はそう言って埃っぽい室内を見渡した、埃のつもり具合からして人の手が長らく付いていないことはわかるのだが、どうも引っかかる。部屋は比較的広いもので、海図の様なものもあるので船長室か何かだろうか。船内の見取り図でもあれば良いが……。


 手記は帝国の古い言葉で書かれた軽い研究ノートの様だった。まあ別に著作権なりを争う現代でもなし、日付なりなんなりも乱雑で適当な内容ではあったが。手記によればどうやらこの船に異界の空気に水レベルの粘度、と言って良いのだろうか、とにかく空中で泳げる様にする性質を持たせる大規模な陣が仕掛けられているらしい。コレを破壊するなりすれば魚の骨は空中を泳げなくなり、あの機動性も失われて楽に対処できるだろうね。それに、異界の生物を生み出す装置もあると書かれているし、もし術式が僕に理解可能な物であればそれを逆に利用することもできるはずだ。まあそんな重要な施設、防犯装置がないわけが無いので、おそらく今まで戦ってきた魚の骨といった生物の強化版とも戦うことになるだろうけれども。


 手記の記述によればおそらく規模は半径6m高さとしては3m程の巨大な立体魔法陣になる。相当な腕前の様だが、そこまで大掛かりな物を設置する場所といえば限られてくる。だから、大きな部屋を探す為に船内の見取り図が欲しいのだけれども、残念ながらナビさんやルサルカさんと一緒に探してもダメだった。まあ、見つからない物はしょうがない。地道に探す他ないだろう。


「そうそう、さっき魚の骨の強い奴と戦う事になるかもって言ってたけど、tokage君がどうにかしてくれるんだよね?」


 ルサルカさんが船内を探索している最中に言ってきた。一瞬何を言っているのか分からず混乱する。ああ、そうか。僕がなんとかできると言ったのは魔法陣を見つけてからだ。まあ、先程の三点の内、骨変動以外ならなんとかできるけれども。


「えぇ!? 今でも結構キツイのに!?」


 ルサルカさんは少し驚いた様だ。確かに、彼女の疲労は大きいだろう。彼女は水妖とは言え、一般人だ。僕やナビさんの様な戦いをする為に作られた体でもなければ、人間の体の時の僕よりも弱いだろう。今はお互いにレベルが低いのでまだなんとかなっている部分はあるが、実力差というものはやはりある。長く旅をすれば彼女も戦えるようになるのだろうから今が辛抱の時ではある。あるが、この世界を生きている彼女には、やはり無理をさせずらい。ナビさんはHPを回復させる魔法を使えるが、回復を彼女に頼り切るのも難しい。回復アイテムも買ってはいるが、減りも早い。ジリジリと追い詰められている感覚もある。


「私はオーバーペースだとは思いませんが、引き返すのですか?」


 ナビさんは不満げに言った。彼女は今回のフィールドに不満を持っているので、せっかくフィールド状況が変わるかも知れなかったのに、先延ばしにされるのが気にくわないと見える。僕は魔法でルサルカさんは槍、どちらも水中の様な場所でも別に問題なく戦えるが、ナビさんの剣では降るたびに水の抵抗があり疲れるのだろう。一体どうするべきだ、唯一のプレイヤーとして指揮権を握ってしまったのが悔やまれる……。


 悩んだ挙句、僕は一時撤退を選択した。ナビさんには使用している剣のドレスソードを石の棒に括り付けた薙刀的な槍を持ってもらうこととした。システム上は槍に分類されるらしいが、騎士にジョブチェンジした事で装備できる様になっているらしい。しかし、固定具も何もないというか、そもそも何か棒に括られる事を意図した作りでは当然のことながらないので、不安だ。石の槍を渡すことも考えたが、ドレスソードの攻撃力は中々捨てがたい魅力があるので、取り敢えず使ってみてダメだと思ったら石の槍を装備すると言う形になった。


「単純な火力を正義だと礼賛していると、いつか痛い目を見ますよ。」


 そりゃあ、そうかもだけど。撤退をすることになって僕達は元来た道を戻ろうと廊下に出る直前、少し気になる本が見つかった。タイトルは、悪神の作り方。同じく手記のようだ、どうも中身の文字が見づらい、目が滑る……魔法的な力を感じる。文字と文字が重ねて書かれていたり上下左右反転した文字がいくつかあったり、半分に破られた文字だったり。それだけで読めない程見辛くなるとは思えないので全て隠蔽魔法の為の儀式だろうが、よほど中身を知られたくないと見れる……いや? それは可笑しい。誰に見られることを想定した? さっきの研究ノートから分かる通り、手記を書いた魔法使いは別に他人に見られる心配もなく、見られても構わない覚書として残しているはずだ。しかし……自分でもおいそれと見れないものを手記として残す意味は?


「それが気になったのなら、持ち帰ったらどうですか?」


 まあ、戦闘が面倒な彼女にはあまり長居したい空間でないだろう。長居すればするだけ行きで減らした敵が再補填されてしまう。この環境での戦いを煩わしく感じている彼女にとってはそれだけで嫌な事だろう。そう言う事で、僕達は一旦異界を帰り、また別の所で狩りをした後、ログアウトをした。今回のプレイレポは特に当たり障りのない内容で終わった。悪神の作り方について反応するかと思ったが、特にそう言ったこともなく、さらりと。逆に気になるな……。




「坊ちゃん、今日のお召し物です。昨日頼まれた通りの物ですが、もし何かあれば今すぐ直しますので。」


 朝起きると、クロノアデアが半ズボンとシャツを渡してきた。半ズボンはグレーの厚手、シャツは黒の薄手……多分チョッキと蝶ネクタイにメガネをすれば日本人なら誰もが見慣れたシャーロキアンのガキの色違いになるだろう。たったひとつの真実見抜く、とは言えないが。どちらかと言えば夥しい量の解釈導くの方が性に合ってる。


「いい感じ。髪結いもお願いね。あと、今日は一般開放らしいし、ポミエさんと一緒に試合に来てね。自由時間は一緒にお店とかまわろ。」


 僕がお願いすると、クロノアデアはにこやかに笑って必ずと言ってきた。まあ、少し子供っぽすぎたかな。運動会に必ず来てねと言ってるみたいなものだからな、微笑ましくもあろうが少し恥ずかしい。でも、普段一緒に過ごせないのだから彼女と一緒に過ごせる時間は一緒に過ごしたい。僕は彼女が好きだ、過ごせるものなら一生、いや永遠に一緒に居たい。とは言え彼女には寿命がなく、僕には寿命があるので、そこら辺の悩みはあるが。


「髪も結い終わりましたので、朝食を取りましょう。ポミエさんが今日も応援の気持ちを込めた料理を作りましたので。」


 そう言って僕を机に座らせて食器の準備をしていると、ポミエさんが料理を持って部屋に入ってきた。玉ねぎを使ったスープのいい匂いがする。ポミエさんがにっこりと笑って今日は頑張ってくださいねと言いながら配膳をした。ああ、朝日が部屋を明るく照らす。今日はいい日だ、頑張ろう。

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