表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
148/167

スウィムスーツ

「黄色系の競泳タイプですか……まあいいでしょう。」


 ナビさんがウィンドウを弄って水着を装備すると、彼女の足が大胆にも露わになった。似合ってますかと問われたら似合うと答えるほかはないが、何故水着を?


「ギフトはそれだけで価値があります。特に先行者からの物は。」


 ああ、進行度が上の人ならそれだけ高い価値のある物を送られると言うわけか。そう納得すれば、今回はお互いに自分にとっては価値が低く相手にとって価値のあるものを押し付けあった交渉というわけだ。良い話だなあ、僕の同意がなかったと言う点を除いて。


 彼らから求められたお話と言うのは割と短く済んで、このゲームは楽しいかとかどうやって進めているかとか、今後誰かと連むつもりはあるかと……まあ、君達にはいつも省略している邪神どもへのプレイレポみたいな物と、フレンド登録だけだった。フレンド登録、思えば全然していないような気がする。タナカデスさんに、冒涜的な酒乱に、奇形チンパンジー達に、デブ猫さんに、オタクさんに……まあ、会った人数と比べればそこそこしている方か。いつかのトルコ系アピールの強い女性、イスハークさんだって、言ってないだけで登録自体はしてるし。チャットなんて全然してないのでフレンド登録している事を忘れそうになるが。いやしかし、僕自身が人ではないからだろうが、人外率が高い。冒涜的な酒乱さんと言うのは、確かクドゥさんと言う名前で、タナカデスさんの紹介で最初に会った人外だった。奇形チンパンジー達と言うのは僕を人体への孔開けビジネスに参加させた人達で、ナメクジもどきとロボットもどきと一緒の三人衆だ。全く関わりを持たないので一応おさらいをしておく。彼からのフレンド登録に関しても、無意味な物になりそうではある。彼はチャットでの文章による質疑応答がしたいそうで、質問文がチャットで送られてきて、それに対して僕達が返信を送る事を望むらしい。チャットでどこどこ集合で遊ぼうねとかはないらしい。ありがたくはあるが。


「しかし、デザインに関しては目を瞑りますが、良い物をくれましたね。」


 上機嫌な顔でナビさんは青いウィンドウを弄っている。自分のステータスの確認をしているのだろう。彼女はああ言うものの、デザインもそこまで悪いわけじゃない。元々彼女は機械作りの娘で、青と白を基調とした美しく滑らかな曲線を持つ装甲状のフレームをした腕・脚部を持ち、人工皮膚的な均一な白を持ったタンパク質の膜で覆われた手・足・腹部や顔面を持っている。また、腰部や首部などの一部にはビニル線が見えている他、脊椎付近を除く関節部は機械的なモーター駆動となっていた。


 しかし、今回彼女が着た黄色の水着は普段の青白い皮膚を隠し、普段は街で揃えた防具で隠されていた手足を晒す。黄色い生地は手足の青と白のフレームにも反射光を映し、健康的な肌のようにも見せてくれる。ハッキリ言えば凄く綺麗だ。


「お世辞を言っても何も出ませんよ、功徳者tokage。ですが、この水着は凄くいい。着用者に様々な効果をもたらします。」


 攻撃力上昇、継続回復、魅了skill、水泳速度上昇──どれをとっても素晴らしい、感謝しなければなりませんね。ナビさんはそう言いながら、ステータスを自分に擦りあわせるように剣をビュンと軽く振ってみせた。今までもそうだったが、一段と力強い振りだ。こんな体になってしまった僕は自分で自分の体を守りづらいので、ナビさんが頼もしいと助かる。しかも、前衛だから無理してでも良い物を買わなければならない彼女の装備にかけるお金が浮いた。約束されていた僕の杖も、サイズに合った物を用意する代わりに、良い杖用の素材を譲って貰えたのでその分のお金も浮いた。だから買う必要があるのはもう一人の前衛、水妖のルサルカさんの装備だけになった。大幅なコストカットができたと言うことで、お金もそこそこ残った。まあ、いくら古戦場より効率がいいとは言え、10戦しかしてないのでたかが知れてるのだが。




 準備を整えて、ナキ村にやって来た。セーフルームの扉が置かれている水没した教会にいるとすぐに教会の扉からルサルカさんが駆け寄って来た。隣にいるナビさんごとぎゅうっと抱きしめられる。再開を喜ばれるのは嬉しい事だけど、体表が水で濡れてる君に抱きしめられると僕に場合窒息しうるから早急に辞めようね。ナビさんが抱きつかれながらも僕をつまみ上げて抱擁から解放してくれた。落ち着きなさいとナビさんが軽蔑した目でルサルカさんを見る。ルサルカさんは申し訳なさそうな顔をして、いたたまれなさに身をよじった。


「ゴメンね、tokage君。いつまで経っても呼ばれないし来ないしで、心配で……。」


 呼ぶ? 僕がまるでわからないので考えると、ナビさんが召喚のスキルを得ているでしょうと情報をくれる。そう言えばそうだった、魔力交換をした時に水妖召喚とか言うスキルが手に入ったんだった。スキルと言えばナビさんから貰ったりする物だと思ってたので、あまり覚えてなかったが、アレでルサルカさんを呼びだせるのか。まあ、それに関しては悪かったと思うのでこれからは気をつけよう。そんな事より、そう言いながら僕はナビさんに目配せした。ナビさんが槍と胸当てと籠手を取り出す。


 ルサルカさんは水妖で、水中での移動速度が恐ろしく早い。ここで考えても見て欲しいのだけれど、通常水中で一番動きやすいのは裸だ。まあフィンが有ればそれはそれで素早く泳げるだろうけれど、そこはともかくとして普通は服なりなんなり、有っても泳ぐのに邪魔なだけだ。ビート板や浮き輪を持って速く泳げるか? いいや、溺れないで済むだけだ。だからルサルカさんの装備はそれなりに悩んだ。ただの鎧だったり服では泳ぎづらくなるだけだ。水着と言うのも考えたが、僕達のレベルで手に届く水着の防具は本当にただの布切れで終わってしまうので、今のただの布の服を着ている状態より素肌が晒される分防御力が落ちる。なので、今の服のビラビラとして水流の抵抗を増やす服を、ビラビラと広がらないように軽い抑えを用意したのだ。それが籠手と胸当てだ、これを着ることによって上半身では体と服の間に水が入って結果動きづらくなることはなくなる。まあ、わざわざ胸当てなりなんなりを用意せずとも襷でもよくないかと思わなくもないが、一応防御力のある方を優先した。


「わ、これ私の為に……? あっあり、ありがとうっ!」


 ルサルカさんは過剰とも思えるほど喜んだが、彼女は村が滅んでからずっと一人だったので、こう言った反応もあり得るだろう。なんだか悲しくなってくるな、もう考えないようにしたい。


 そんなこんなで、多少のドタバタは有ったものの僕達は遂に、ナキ村の教会に隠された異界の扉の奥へ進む事となったのだ。扉は落とし穴の様に成っていて、異界へ通じる穴が床に設置されているのだが、ただの人にはその穴が見つからないように穴の空いた部分にも床が見える。つまり、床に飛び込めば異世界へ行くことが出来るというわけだ。なので飛び込むまでは異界の様子がわからなくて危険なので一応、安全の為にまず僕が尻尾をナビさんに掴まれた状態で顔だけ異界に入ることとした。危険だったらナビさんに引き上げて貰えれば良いわけだ。


 ナビさんに尻尾を掴んで貰って逆吊りになる。僕からの合図で、ナビさんがゆっくりと拳を下ろして、僕の顔は床に近づいて行った。床にキスをするようで気持ち悪いが、とは言え床は幻術、何事も無く異世界に僕の頭は入っていった。


 異世界は、まるで海の記憶のようだった。記憶と言う概念を用いて直喩するのは、偉大な物を目にした時のある種の感動があるからだ。ピンク色や赤色の色鮮やかな珊瑚の茂みに真っ白な砂の大地、ヴィナスの乗っていた物の様に大きな真珠貝に、空中を泳ぐ魚の骨。そう、骨だ。殻が破れ空洞と化した中が見れる蟹に、腐った状態で泳いでいるタコ、大砲か何かを底に受けて壊れて沈没した船、様々な物の死した姿が見られる。


 呆けていたところ、ナビさんが僕を引き上げてどうだったかと聞かれる。危険はなさそうだったと素直に答えると、ではとナビさんが僕を抱えて飛び降りた。着地と同時に横に避け、ルサルカさんが降りて来られる様にする。


「なるほど、綺麗ですね。貴方が感動するのもわかります。」


 ナビさんが言葉を発する。なぜ息や発声できているのか、すごく不思議だ。魚が泳いでるし、と言うかなんだったら僕も泳げるし、水中のステージであることは間違い無いのだろうが、何故か息ができる。空気の流動性が水並みになった? いやそんな馬鹿な、嫌でもデータ処理の世界ならば空気のデータを弄るだけでどうにかできるのか?


「私の感想は無視ですか? 無礼者tokage。」


 疑問のあまり黙っていると怒られた。でも、ああ、そうだね。すごく感動する。広大で不思議な世界だ、これで心が動かされない者がいようか。感動をしつつも、ナキ村を水に沈めた魔術師の事で何かヒントがないかこの世界の探索をしようとした。ところが、ルサルカさんの様子がおかしい。先ほどの僕と同じく呆けてはいるのだけど、どうもここに見覚えがあるようだ。


「ご、ごめんね。おかしいな、始めてきた場所のはずなんだけど……。」


 デジャブか? まあ、冗談はよそう。彼女はどうしてここに覚えがあるのだろう。一番ありそうなのは、忘れてるだけで一度ここに来たからだろうが……こんな印象的な場所を忘れるか? そもそも、彼女はこの村の教会のシスターだった筈だ。彼女が水妖になる以前からあるなら彼女には馴染み深いだろうし、なった後に出来たとしても一度は生前馴染みのある場所に来るだろうしその時に気づく筈だ。落とし穴形式だし、きっとハマってるだろう。だからあり得るのは記憶が消されたとかだけれども、その場合の理由はなんだろう。見られてはいけない物を見つけてしまったなら、それはそれで彼女を殺せば済む話だ。彼女を殺せない理由があったか? 妖精は不安定な存在だから事実上の死ならすぐにもたらすことができる筈だが。


 考え込んでいても仕方がないので、僕達は違和感を感じつつも探索をすることにした。辺りの空気は水の様な性質を持っているので、泳ぐことができる。今までの僕は陸上を歩いてばかりいたが、カモノハシと言えば泳ぐ哺乳類だ。潜水時間も長いし、尾をヒレの様に使って尻尾を持たない他の生物よりも早く泳ぐことができる。水妖のルサルカさんには負けるが、僕達のチームで一番遅いのはナビさんとなった。だからと言ってナビさんをおいて行くわけにもいかないので、ナビさんが泳ぐスピードに合わせて僕達がその周りを隈なく探索することとなった。ナビさんは僕達二人の先導、怪しそうだと思う方向へ泳いでもらう。


「しかし気持ちいですね、泳ぐと言うことは。」


 ナビさんがポツリと言った。僕達もそれに反応して、そうだねとか本当だったら水中はもっと涼しいのだけどとかと返す。ナビさんが私は屋外で泳ぎたいとは思いませんが、いつか室内プールでもあれば入りたいですねと言った。室内プールか、まあ作れなくはないのだろうが……もし、ちょうど良い機会があれば、その日はプールで遊ぶのもいいかもしれない。


 しかし、今僕の視界をハッキリと描写すると、水着を着た機械仕掛けの美女と軽く武装をした美女が宙を泳いでいる。辺りの風景は言った通りのファンタジックな物で、まるで神話の位置風景の様にも思える。僕はクロノアデアが好きだし、彼女ほど美しい人はいないと思っているのだけれども、ナビさん達も驚くほど綺麗だ。普通の人なら気が気でないんじゃないだろうか。


「女性を褒める時に他の女性と比べるのは失礼ですよ、況してやその女性と比べて評価が勝たない時は尚更。」


 僕の思考が読めるナビさんが僕を捕まえて怒った。まあ、それは悪かったさ。ナビさんは綺麗だ、機械で体が出来ていて、その瞳一つとっても人間離れした美しさがある。まっすぐ目を見つめられると少し顔が赤くなりそうだ。あまり顔を覗かないでほしい。二人で喋っていると、ルサルカさんも僕達が探していない事に気付いて遊んでいる中に混ざろうとしてくる。私も混ぜてと僕ごとナビさんに抱きつき、3人でもみくちゃになった。


 遊ぶのは楽しいだろうが、さっきから脱線しすぎではないだろうか。僕がそう思い始めたのはしばらくしてからで、それまで何もせずに和気藹々と遊んでいた。無駄な時間を、とまではいかないが目的にそぐわない時間を結構過ごしてしまった。


 だが、遊ぶ事が楽しいとは言ってられなくなった。周りにいた骨魚達に鮫の骨が混じったり、イッカクの骨が混じり始めた。一体何の悪夢だ? 骨になった魚達が僕達に襲いかかる、これが人骨ならそれはそれでホラーテイストがあったんだろうが、魚骨だとあまりそんなものは感じられない。ルサルカさんが槍で突いたり払ったりした物をナビさんが切り捨てたり、僕が炎で炙った物をナビさんが切り捨てたり、地味に体力があるのもめんどくさい。


 洋画のホラーはいまいち感性に合わないと言うか、ホラー映画と言う感覚がしない。まるでB級映画の様だ、骨の鮫って、まるで弱っちそうな物を……。複雑な感情を抱きながら、僕は二人ととも海の異界を進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ