表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
129/167

世界拡張

 さて、話し合いでわかった事がある。1つは神子の権利、そして義務だ。まあ義務って言うのには権利がつきものだからね、逆は首を捻りたくなるけど、大抵は権利と義務はセットで押し付けられる。


 義務と言っても国民の義務みたいに常識的なものだ。口上が長いくなるので色々と省くけど、神事を手伝え、神を裏切らない、神に尽くす、神に愛された人として死ね。まあ寧ろ神子の定義レベルだろと言いたくなるような物で、その地位に就くと言う事に選択の余地がなかった事以外は至極真っ当な内容だった。気になるのは神事の内容だが……まあ、若いうちはあまり式典への参加などの外部に露出する様な仕事はなく、国家安寧の祈祷をするとか、神殿へ慰撫しにちょこちょこと訪れるとか、お祓いをするとか、そう言ったものが主なものらしい。なおその様な日程は学校の登校日とかは無視して組まれているため、偶に被ったらその日は休んでこっちへ来いとか言っていた。ほぼ毎日有るのに偶に被ったらと言うことは、頻度もそう多くはないのだろう。


 次に権利、教会の権利を二番目に握ります。これだけしかないがこれに集約されている。つまり人魔対戦において人族側で二番目に偉いのはこの政治も戦争も生の尊さも、それらの「せ」の字すらも十分にわからぬガキだ。結構致命的な物だと思うけど、摂政的な人も居るらしいのでその人が悪人か狂信者でもない限りは大丈夫だろう。まあ権力の内容としては信者への移動等命令権、テンプルナイトとか言う教会所属の騎士達への命令権、教会の設置、御布施使用の指針を決める会議への参加権などだね。まあ第一位の教皇に反さない限りは何をやっても良い的な感じだ。それ故にガチで摂政の人を真剣に選ばなければ多分終わる。僕じゃあとてもじゃないが職務をこなせないだろう。しかして権利は持ってない奴のために振るわなきゃいけないから、使わずにいるって言うわけにもいくまいよ。いっそ摂政を複数人にするか? いや三国志じゃ十常侍がやらかしてたしな……いや、権力の集中がいけない訳だから、平時の今はお互いの利害が人類側へ有利となると言う事以外で一致しないようにすれば良いのか? ……直ぐにでも決めねばと言う訳でもないし、取り敢えず様子見で派遣された摂政に任せておけば良いか。


 教会側からの説明はそれくらいで、要求も特になかった。強いて言えば時間をくれ、しかしお前は急げくらいか。こちらは神子の代替わりで色々と儀式の準備があるし直ぐにどうとは動けないがお前も子供でどうこうとかし辛いしさっさと物を学んで立派な大人になれよ、だとかなんだとか。だったら崩御したら次の神子とかそう言う形で用意せずに次弾くらいは常に用意しとけよとは思うけど、そこは言わないお約束だ。どうせ神が死んでからじゃないとダメとか言い出したんだろうし。


 しかしテンプルナイトねえ……形式上は僕の指揮下に入るテンプルナイトって言うのは、日本語で言うと聖堂騎士、つまり教会に属する騎士だ。国の方向転換如きで信仰を捨てられるかって言う覚悟の決まった騎士達が教会の保護に入り出来た組織らしいが、まあ実態は不明だ。内部へ向かった大義名分を持つ宗教団体であり、敵対する宗教団体(名称邪教)があるので、そもそも教会が主体となって作り上げた可能性の方が高い。いやまあ、神、いや超常的存在が前世よりも直接的に認識できるこの世界では当然の事だろうけど。いやしかし、僕の翻訳は僕の思想に基づいているけど、そんなあやふやな物に基づいているが故に若干齟齬が出るな。


 前にも話したと思うけど、ユダヤ・キリスト・イスラムそれぞれの宗教の概念による神と日本語的な、つまり神道的な概念での神は違う。向こうで神と言えばただ一つの対象に絞れるけど、神道的な神は一柱に絞れない。複数いる超常的存在という意味では、神という言葉は英語で言うゴッドよりもエンジェルの方が近いんじゃないかと思うんだ。神が独立していて熾天使やら力天使みたいな明確な上下関係もないから、エンジェルとも確かに違うと言えるけども、形の上ではやっぱりゴッドって神に近くはないと思うんだよなあ。少なくともクリスマスにケーキを食べて正月に餅を食べて神社に行く、そして近い人がお亡くなりになられたら寺で法事をあげる日本人的感覚だと、どうも齟齬が出る……。てか本人達にその意識はないだろうけどハロウィンをやる人って神道、キリスト教、仏教に加えてイギリスの民族宗教も嗜んでるって事になるんだよな……まあハロウィンなんてアメリカでもやってるし、中国やインドなんて人口が集中しているアジアはシャーマニズムの宝庫だから、そう言う宗教的無節操さは世界的によく有る事なんだろうけど……。


 それに宗教的無節操さなんて言ったら、ユダヤ・キリスト・イスラムの三派は、悪意を持って見ればお互いがお互いに異端、つまり同じ神を崇める集団なのに酷く無節操な集団なんだよね。キリスト教においてはムハンマドさん、いやこの敬称はムハンマドさんが偉いと認識しているわけではなくて他者へ向ける一般的敬意なんだけど、とにかくムハンマドさんと言う最後の預言者なんてものは存在しないのに勝手に主張をしている集団だし、ユダヤ教は三位一体の考えに置いて神であるイエス様を認めない背徳者となる。そしてこれらはユダヤ教やイスラム教においても残りの二派へ言える事で、宗教的対立もやむなし。最初から敵である存在よりも味方のふりをした裏切り者の方が憎いと言うのはまあ人においてはよくある事だよね。今の話は悪意を持った話であってこの三派は、神の被造物である生命を愛すべき兄弟として尊重し、力によってではなく愛の対話によって改宗させると言う姿勢を取り続けられるのなら、平和な物なんだけど。


 まあいい、今となっては関わり様の無い事だから、ある程度の進度まで行ったらその話題は切り替えよう。とにかく、とにかくだ、僕からの質疑が終わったら次は神殿からの質疑で僕が応答をしなければならない。


 神殿からの質問はこうだ。今日はどうした、お前から邪気を感じていたんだが大丈夫か。まあ向こうも混乱しているのだろう、質問内容が被っているので丁寧に答えてやった。と言っても話せる内容と話せない内容があってだけど君達は1から10と言わなくても大まかな流れは知っているのであまり詳細に伝えた内容を伝えるのも馬鹿みたいなのでこちらも省くが、大体の内容を語ろう。夢の世界で毒風の呪いだか加護だかよくわかんない物を受け取ったら呪いとして発動したので、神殿への連絡をしようとこちらへ来たが、オーバーフローを起こしても問題ない部屋つまり魔術の影響が外に出ない部屋があったなと途中で思い出したので、部屋に入る事で眠ったら意識的な制御ができなくなる毒風の呪いを部屋の内部に留めて眠りにつき、呪いを受け取った夢の世界で呪いに対する対抗策を取って、夢の世界からこちらへ戻って来ました。こう言う説明をしたら、向こうはなんとも言えない反応をした。


 ま、自分でも荒唐無稽な話だと思うがな。邪神が夢に訪れて加護を託したってお前ホントにこちら側の神子かっつー。そう思ってたけど、向こうが引っかかっていたのはそうではないらしい。神子が粉をかけられるのは過去に何度もあった事で、まあだから幼いうちは存在を隠すんだろうが、その粉かけが想像以上に早かったらしい。聞くところによると個人差はあるものの、大体の神子は二十歳頃に邪神からちょっかいがあるそうだ。確かにだいぶ早い、あと10年以上は来ないはずだったらしい……いや、でもその点で言ったらシュテンドウジの襲撃はどうなるんだ? 僕は全体がその存在を打ち消す秩序の神の勢力に傾いているだけで、混沌へ属す虫やアンナさんがいるんだ。今までの神子は邪神側の襲撃がなかったのか?


「いえ、確かにありましたがその際に呪いをかけられる事はありませんでしたね。」


 質問するとそう答えが返って来て、まさか他にも呪いがあるのかと聞かれた。しまった藪蛇だったか、僕はそうなる前に倒れましたのでそうではありませんがと嘘をついて誤魔化した。ぶっちゃけ混沌の神に従う人間だっているんだし、どちらかに戦況が傾く事で大きな悲劇が生まれると言うわけでもなし、神の代理戦争が激化するのは僕はあまり望んでいない。僕は自分の判断で嘘をついた。僕の挙動に対していつもいつも心を見抜いてくるクロノアデアも引っかかった様子はない、今の嘘はだいぶ上手く通った様だ。


 まあそんなこんなで話していると、途中でポミエさんが神殿へ来た。やはり一介のメイドでは校長へ会う事が難しく、公爵家別邸を仲介して事情を説明しなければならならかったので時間がかかったそうな。なんだったら今日は休みですとだけ伝えればよかったのにとは思ったが、僕は僕の身分を時たま忘れてしまう癖があるな、そんな事は許されないわ。程なくして校長も神殿へ訪れた、いざという時の為に沢山の解呪道具を持って来ていたが、まあ無駄になった。


 今日はすまなか……いや、これ僕が謝る必要はないな。僕の故意で起こった事件でもないんだし、僕になんかあった時にどうこうするのは校長や準教皇の職務だろ。クロノアデアやポミエさんに感謝はするけど、特段彼らに申し訳なさや感謝の念は抱けないと言うか、まあ人騒がせな事故が起きて気の毒だったねくらいだ。変な誤解を産みかねないし文化慣習的な発言は控えよう。


 色々と話し込んだり、大体今は夕方くらいだ。神殿へさす赤みを帯びた黄色の和らげな日差しはそろそろ一日が終わる事を示していた。勿論準教皇含む教会の人はなんか職務があるだろうし、校長だって途中で学校を抜け出したんだし色々とやる事があるかもしれない、僕だってクロノアデアの判断にもよるが許可が出れば訓練をするし、ポミエさんだって食事の用意や訓練で夜が来てもすぐには寝ない僕の為に起き続けて寝る準備をさせたり、この場にいる人の殆どが今すぐ一日を終える事はないだろうが。まあそこはこっちの習慣的な話だ、日の出が一日の始まりで日の暮れが一日の終わりっていうのは綺麗な対象だろう?


 今日は午後の体育も受けてなかったし、憂さ晴らしに滅茶苦茶に訓練をしようか。そう考えながら、僕はクロノアデアの作った魔術の馬車に乗った。行きが牛車で帰りが馬車とはこれいかに、いやまあ速度は行きの方が断然速いんだけど。


 さて、服を着替えていざや訓練、と思いしを、今日の訓練はまた魔法の訓練だ。邪神の力を制御しようってのが目的らしく、つい先日やったばかりの訓練となる。いやね、実際にテンシさん邪神関わらず力を制御下に置けてないから今も発光してるんだけど、でも僕だってそれは理解しているがしかしやはり飽きという物が……。


「では実戦形式で訓練をしてみますか。見たところ、毒風の加護は坊っちゃんの力で打ち消すことができるのでしょう?」


 そうではあるがね。いや、めんどくさい人だなんて思わないでくれよ。まあ君達は今まで散々僕の話を聞いて既にめんどくさい思っているだろうし、クロノアデアも多分そう思う様な人でもないだろうから、誰に言ってるのか自分でもわからないが。クロノアデアにめんどくさいなんて思わないでと言っても彼女がどうであれ無駄だから言わず、僕はとっとと石の剣を作り出して体に慣らすように数度振って音を鳴らした。ブンともヒュルリラとも形容できよう風切り音がして、淡い光が剣の残像として空に現れた。毒風が浄化されているのだろう、なんとも迷惑な加護だ。僕レベルでは視界の邪魔になるしクロノアデアレベルでは全く影響がないので僕が不利になる一方だ。まあ良い、やろう。


 どうせテンシさんの力で無効化されると遠慮なく毒風を使い、追い風を作って急接近をした。クロノアデアは僕がついていけると判断したら遠慮なく訓練のレベルを上げてくる、今までの訓練で数度くらいしか見たことない速さで剣を振り下ろしてきた。慌てて剣を地面に刺しそれを軸にして急転回を試みるも、すんでの所で剣を槍に持ち替えたクロノアデアから突きをくらう。


 体が強化されてるから突き刺さりはしないものだが、まあ中々に痛いものだ。しかしここで攻撃を止めてはいつもと同じパターンで、成長がないだろう。今回は若干の余裕がある為、彼女の槍を足で挟んで引き寄せ、僕のお気に入りとなっている槍の射出魔術で攻撃する。今日は風を操って空気抵抗を極力なくす様にしたので威力がある。クロノアデアは槍を手放すと剣で打ち出される僕の槍を一旦打ち払って、次にどこからか取り出した盾で華麗に槍を防いで攻撃に移った。その間に僕は体勢を立て直していたので距離を取って攻撃をかわした。


 ここで槍が風を纏っている事により地面に着弾した槍を中心として土や木の葉が巻き上がる事に気づく。しかし地面がほじくり返されて柔らかくなっているのに彼女は全く足場に困ってそうには……これは良いじゃないか、毒風を全力で打ち出すと地面がいい感じに抉れて目潰しにする。まあ今までで散々使い古した手だ、クロノアデアも当然破ってくる。今までの僕は目潰しをしたら距離を取っていたが、それでいつも即座に距離を詰められたからな、流石に学習する。


 いつもの如くクロノアデアが走り寄るが、そこに僕の姿はない。大体は闇に紛れるか上空へ飛んで死角から攻撃するので、クロノアデアは素早く周りを見渡した。残念だけどそうも一辺倒じゃあないからね、まあ死角から攻撃するのは変わらないけどね。僕は隠れていた地面から腕を突き出して彼女の足をひっ掴んだ。地面を耕されても彼女が足場に困らないのは、彼女が地面に頼らず自分で足場を作っているからに他ならない。魔術で空中に足場を作っているんだ、だから土に紛れて地面に横たわった僕に気づけなかった。まあ、このネタが使えるのは今回の一回だけだが。


 クロノアデアは素早く握られた足を振り上げた。僕はそれに釣られ上空に跳ね上げられそうになるが、せっかく掴んだ足だ、離しはしない。握りしめる力をさらに強め、彼女の剣で攻撃されるより早く自分を攻撃して地面に足をつける。足を捻り肩と首で挟み、彼女の重心と僕との中点を軸にしながら無理矢理に自分の体を動かす。


 ああ、時が見えた感覚がする。


 初めて彼女へマグレではなくマトモな一撃を入れられたと言う恍惚と快楽の波に襲われて、気がついたら僕はクロノアデアに覆いかぶさられた状態で地面に横たわっていた。


 現実に随分と遅れて頭が理解した。僕は彼女を足から背負い投げを試みて実際に背負い投げたが、地面につく一寸先に空中で体勢を立て直したクロノアデアに負けた。掴んでた足を利用されて無理に引き倒されたんだ。


「……凄いです! 坊っちゃん、今の投げは完璧です!」


 彼女は僕に覆い被さったまま、土に塗れながらも大きなヒマワリの様な笑みを浮かべた。可愛い。


「坊っちゃん? 坊っちゃん……あのー?」


 達成感を味わった後にご褒美も与えられて、僕の脳はパンク寸前でもはやフリーズしてしまっていた。慌てて彼女に反応する。ああいや、自分でも驚く程うまく決まったね、もう一度やれって言われても無理だよ。クロノアデアが先に起き上がって僕を手を差し出す。彼女の手で起こされるのは毎度のことだけど、彼女に今回ほど土がついているのは初めての体験だ。へへ、自然と笑みが溢れてしまう。


 精神がどうであれ子供の頃の脳にとっては成功体験というのは強烈な麻薬らしい、僕はこの日気が狂った様に訓練をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ