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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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ボーガイ

 ガヤガヤと騒がしい宴会場、僕の隣にいるエルフの長老が静かに見つめている。魔法使い殿は、随分とつまらない人間ですな。老人は宴会の席で僕にそういった。それと言うのも、今日一日で拠点の破壊と捕虜の解放という大きな仕事を二つこなした僕が、僕の為にエルフが開いてくれた宴会の席でずっと適当に過ごしていたからだろう。僕は罪を重ねた事を後悔していた。後悔だけだ。落ち込んでいることが前面に出て、少し相手方の気を損ねた。仕方がないじゃないか、こんな性格だもの。


 とかく、火鼠の衣を持った僕は火吹き壺のことだけ考えていた。火吹き壺を得さえすれば、このゲームがゲームとして実感が湧く。僕は罪から逃れたかった、いや良心の呵責という罰から逃れたかった。とは言え、何かを行う際に何かの結果が必ずつきまとう、それは僕も重々承知していることなので、僕はナビさんによって傾けられた杯から酒を口に含み、情報収集に回った。……辛い、お酒って全然美味しくない。ゲームだからきっとこうしてお酒に対するイメージの改善を防いでるのかも。お酒はマズイし健康にダメって言うイメージを植え付ける作戦かな。まあいいや、長老は火吹き壺の他に何か火吹き壺のようなものを知っておられるので?


「火吹き壺のような物? それなら、南ドワーフの国へ行って見たらどうでしょう。」


 南ドワーフと言うのは、ある国の俗称だ。元々は一つの国だったが、王国派に属するか巨人族や竜族などの魔族派へ属するかで二つに割れた国だ。僕が住む世界では今は竜族が人族側に一応属しているので、二地方とも同じ勢力に属するのだけど……まあ、王室が二つ出来てしまったので統合されずに残っている。南北朝時代みたいなものかな、よく知らないが。長老によると南ドワーフには幾らでも水の出る底抜けの柄杓があるらしい。水受け、合と呼ばれる部位を水につけておけば水は出ないらしいが、適当に柄を地面にぶっさしておけば合が冠水するまで水が出続けるらしい。つまり、火吹き壺とほとんど似たようなものだね。こちらも蓋をしっかりと締めるまで延々と火を吹き続ける、まあ山一つ火達磨にする火か土地一つ冠水させる水のどちらがエネルギーの総量が多いかとか、考えるとあれだけど。いや、ずっと燃え続けたと言う伝承が本当なら山が全て灰になっても炎が有ったはずだし酸化対象と酸素を作り出しているからそこも含めると……?


 まあいい、南ドワーフと言うとオソレダニからして西だったな。早速ホートを出してもらおう、確か乗ってきたものが……ああ、そういやくすねて来たものだったなアレも。馬、自力で馬より早い移動ができる魔術師が基本的な兵力の帝国でも、母体となった王国で価値がある以上一応は資産として扱われる物だ。しかし僕がホートと呼ぶ動物はどうだろう、帝国では見かけなかった。まあ山岳地帯以外には向いていないのかもしれない、アルプスみたいに寒くやや乾燥してなければダメなのかな。まあいいか、人を何人も殺した以上、今更何の罪を重ねたって僕は大罪人だと言う事は変わらない。


 地獄での裁きを待つ他ないだろう、それが嫌なので神を信じ神の救いを僕は願うだけだし、主を信じた結果として御心のままに僕は裁かれたいとも願う。神の意志なら僕は心の拠り所以外、どうとでもなってもいいとも思っているさ。そうして一部の悪魔にそそのかされた者によって扇動され、大抵の宗教の信奉者は過去に大きな悲しみを生んだ。人々を皆んな同胞と思うなら、大きな過ちであるとも言える。アイツは俺の信じる宗教を信じていない、蛮族だ、俺が改宗させてやろう、うんぬん。


 まあよくある事だね、死んでも戦う事が美学になり死を恐れなくなった人ほど恐ろしい人はいない。それを恐ろしいと思う一方で、前時代に毒された日本人的な考えで畜生のような恥を晒すくらいなら自分で腹を切って死にたいと言いたいけどね。主は誰であろうと主によって作られた私たちの命を奪う人を許さないけど。愛しなさい、許しなさい、幸福でありなさい。神はいつも酷な事を言ってくれるが、それは僕たちの為であることを思うと、人類はこんなことも実行できないのかと思うばかりだね。……思考がまとまらない、つか吐きそう。


 さて、酒を飲んでいる長老に対してそろそろメインを出すように頼む。酒は好かない、僕の体じゃあ少量でも立派な毒たりうるので、今後は僕に注がれた分のお酒はナビさんに飲んでもらうとしよう……いや? アンドロイドがそれは良いのか? いやでも、液体であるポーションが効くなら良いのかな……。


 長老が近くにいたエルフに耳打ちをすると、エルフはまるでSLの体の様に黒々とし煤けた板でできた箱を持ってきた。SLのアレは鉄が錆びない様に先に黒錆にして内部の反応を防ぐ的な奴だったけど、これも同じ様な物だろうか。高音ではあるものの蒸気機関車の様な過酷な環境でもなく鉄が脆くなっても構わないだろうしあまり意味をなしているのかわからないが……まあいい、僕は火鼠の衣を取り出した。奴隷商から窃盗した金銭だが、仕方がないので使う事としよう。これから返しに行くわけにもいくまい。どうせ更にヘマを犯して殺す必要のない人を殺すだけだ。


 エルフが蓋を開けると、確かに上昇気流か何かで押し上げられ小刻みにカタカタと音を鳴らす蓋と壺の間から火が漏れているのを確認できる。長老が試しにと蓋を少しづらすと、ボウっと火柱が上がった。綺麗ではあるが、どうも荒々しい魔力の流れだ。蓋は閉じられ、ウォレットチェーンに使う様な輪の小さな鎖で蓋がふとした弾みで開かない様にグルグルと巻かれた。そこにナビさんが更に壺を衣で巻き、またそれを更に鎖でグルグルと巻いた。まあ持ち運びの時に火が出ないように三重の処置が施されたんだな。出来れば金属の箱に入れて水の中に沈めるなり何なりしたほうがいいような気もするけど。


 そしてそれをナビさんが受け取り、アイテムボックスへしまった。エルフ軍への貢献のクエストやら何やら、前にナビさんをカタコンベへ迎えに言った時みたいに法螺貝の様な音がしてそのクエストをクリアしたとアナウンスが入った。宴会に参加しているエルフ達が拍手し、指笛を鳴らし酒を呷った。盛り上がるなあ、まあ彼らは【敵】に痛い目を合わせられた訳だから当然か。僕とは違って、彼らは喜んでも良いのかもしれない。


 そう言えば、アイテムボックスはまあ、魔術としては面倒くさい。僕はめんどくさすぎて剣とかは全部その場その場での手作りだけど、多分ほとんどの魔術師がそうであるはずだ。僕が見かける凄腕の魔術師が少ないのもあるけど、実際にアイテムボックス的な魔術を使ってる人はクロノアデアしかいないんだ。まあ空間を作る事自体は簡単だ、x,y,zではないwの座標をずらす感じをイメージすればいい、四次元ポケットみたいな感じだね。実際に軸があるかは知らないので魔術で作った軸への平行移動をさせるのだけど、それがめんどくさくて……。しまった物を取り出せなければポケットではない、つまりある座標A(x,y,z)=(1,1,1)でしまった物を少し移動した座標B(3,3,3)で取り出せなければ意味がない。でもAでw座標1にしまったとしても物がしまわれているのはA’(1,1,1,1)であって、Bでw座標1にアクセスしてもアクセスできるのはB‘(3,3,3,1)だからBでは物を取り出せない。本に置き換えればわかるかも、あるページのある位置に点を書いたとしても他のページでその位置に点は見られない、何故なら座標が違うから。この場合は紙面と言う二次元的な物にページと言う三次元的軸がついた訳だ。だから四次元的な袋を作る際には空間の作成だけではなく四次元的囲いをだな……。


 僕が居心地の悪さを思考によって誤魔化していると、ナビさんが僕にテレパシーを送ってきた。『背徳者tokage、居づらいのならばこっそり抜け出しましょうか?』だ、そうだ。まあそうだね、抜け出せるものならば。ナビさんは僕の思考が読めてるから、気遣いしてくれている限りまあまあ有り難い存在だ。それは僕を言葉で責める時に的確な罵倒ができると言うことの証左でもあるが。


「そこは信用ですよ。長老、少し気分が悪いみたいで。私も少し酔いすぎたようなので一緒に風に当たってきます。」


「おや、それはいけませんな。おい、誰か水を。」


 ナビさんがお構いなくと言って宴会場の外へ出ると、素早く物陰に移り物の流れなどと言うふざけた理由で窃盗してしまったホートに乗って、森を駆け出した。存外に早い物で、ホートはすぐにセーフルーム前の扉に辿り着きそのまま僕はログアウトした。


 いつもの白い教室は、少しいつもとどこか違った。多分僕の邪神どもへのキャパシティが増えて、邪神どもの姿を直視しやすくなったのだろう。今目にする邪神は白いはずだが、赤黒い様な気もすると言う多面的情報の重なりで見えている。ま、右目と左目が別々の情報を得ている様なと言おう。その体を構成する触手がいつになくビチビチと脈打ち、十三の裂け目が愉快そうに震えている。ボウボウと音を立てて生暖かい息も吹きかけられ、不快だ。そうか、向こうで人を殺すと邪神を愉快にさせてしまうのか。


「ふはは、ゲームは如何だったかね!? あー、蚤の糞にも劣る答えは結構、君が不快というだけで私は楽しい! はは、フはハハ!」


 それはどうも。レビューが不要なら帰っても? 邪神の醜悪さは日に日に増していく。受け入れると決めた以上、受け入れる他ないのだけれど……辛いな。そろそろ秩序の神の勢力が危なさそうだ、マシエッテさんやホムラビにもっと協力を仰ぎたい。


 そう考えると、だいぶ形が崩れた邪神の使いが馴れ馴れしくも僕の肩に手を置いた。黒板に化ける十三の裂け目の邪神が触手の集合体なら、もう一人の僕を珍獣のアバターに変えた人型の邪神はクラゲだろうか。頭がぶくぶくと膨れ首は触手の集合の様に細くシワシワで、腕はまた別の生き物の様に見えるが……頭が痛い。直視するとキャパが限界になるな。僕は目をそらし、何の用だと聞いた。


「いや、そろそろお前にも祝福をやろうと思ってな。受け取れ、俺の属性は毒風の力だ。」


 そう言って邪神はその姿を解放した。彼らは普段僕が壊れない様にと会えて姿のグレードを落としているので、多分元の姿に戻ったのかどうなのか。まああの世界にいた僕は多分死んだかどうかしたんだろう。僕は汗まみれで目覚め、朝の冷たい空気を肌に感じた。少し、体が冷えるな。魔術で体を……温めようとしたら、確かに自分の魔力に何か異物が混じっている事がわかる。加護として与えられた毒風の法力だろう。……常識的に考えてあの邪神たちが僕と言う、ああいや、さっきまでの僕、つまりササキと言う今の僕の精神の核を押さえている存在を手放すとは思わないから、加護を受け取らせるために殺してもあの世界に残留する状態だから殺したのかな? しかしフロワユースレス家の神様達といい、加護ってあの世界で殺すことが条件なのか? 随分とまあ……いや、良いけどさ。


「へっくち!」


 おっと、ついクシャミが。汗で体が冷えすぎたか?うう、ティッシュ……は、ないから何か手軽な布は。いや、いっそ凍らすか、僕は鼻水を凍らし、更に魔術で作った氷で包み、それをゴミ箱へ投げ捨てた。封印を施したから多分溶けることはないだろう。と、ここまで来て僕をクロノアデアが呆然と認めていることに気づいた。どうしたんだろう、僕が口に出そうとするとクロノアデアが駆け寄って熱を測ってきた。


「そんな——治れ——レフェクティオ——キュア——クラティオ!」


 ん? お? おお? 物凄い勢いで治療の魔術がかけられていくが、依然としてクロノアデアは焦ったままでいる。解呪の魔術とかも色々と使われるが、全然やめる気配はない。コレは……多分、僕が毒風の加護を受けたからか? クロノアデアも神様の力を使えるから、きっと何か感じるものがあるんだろう。いやしかし、毒風の加護か。僕が風邪を引くということは加護が暴走しているのかな? ヘックション、うう……体をホムラビとテンシさんの魔力で強化して症状を緩和させる。


「ああ、大丈夫ですか坊ちゃん。どうされたのです、そんな。」


 落ち着いてほしい、いやこの程度で心配されるのは凄い嬉しいけども。僕は夢の世界で新しい加護を貰ったことを伝えて、多分暴走しているのだと伝える。その神が悪い神なのかどうかは知らないけど、祝福らしいので取り扱いになれれば多分大丈夫であろうとも伝えた。が、どうも宜しくない。あまりにもクロノアデアが慌てるあまり、流れで僕は教会へ搬送されることになった。子供一人の風邪っ引き程度を相手する程準教皇はそんな暇なんだろうかと思う一方で、まあ国を揺るがす神子だからなとは思う。神子、みこ……巫女……この帝国は結構微妙なんだよね、国として。宗教国として成り立っているんだけど、この国独自の宗教という訳でもないし国家元首は帝王だ。まあ本拠地があるだけで本当に微妙なんだよね。一等の聖地が複数あり、lt神によって認められた帝王と教皇がいる。神という名の王の元に文官と武官がいると思えば良いのかな。船頭多くして船山に登るとも言うしそんなんが長続きするとは思えないんだけど……まあいいや。


「ポミエさん、連絡をお願いします。校長への通達が直接できないなら公爵家の別邸で赤い髭の庭番に連絡を。私は先に連れて行きますので、なるべく急いでください。」


 クロノアデアは直ぐ様いくつかの呪文を唱えて素早く身支度をし、僕の肩を抱いて出かけようとした。ポミエさんには急ぎすぎて怪我や粗相をしない様に命じてクロノアデアに着いて行く。ヘックション、少しテンシさんの力が乱れてしまった。流れを意識して魔法の調子を元に戻す。


「は、はいぃ。わかりましたぁ。」


 クロノアデアが外に出て作った魔術の馬車は何時もの一頭立ての物ではなく、所々に制御を失った魔力の光が漏れていて、緑色の巨大な牛が二頭立てサイズの二人乗り用馬車を一頭で引く規格となっている。牛車かあ、初めて見たけど凄いなあ。乗りながら少し牛よりも馬の方が早そうだと思っていたが、そうではない様だった。牛はバチバチと雷電を散らしながら走った。牛にはクロノアデアの法力が練りこまれている様で、一足一足ごとに牛の身体が痩せ細り、ものの数分で神殿に辿り着いた。前は……いや、確か前回は観光もあったからルートも違うし止まった事も考えると速さの参考には不適か。


 前回は本当に不愉快な事になった。僕と馬鹿一人のせいで、全くの無関係であるクロノアデアへ不快な思いをさせてしまった。今回はバカをやらない様に気をつけないと、例え馬鹿が逆鱗に触れても──邪神の力が強く反応した。不快さに反応して、一瞬だけアンナさんと蟲達が僕の体から毒風と共に漏れ出し、僕はテンシさんの力を更に引き出す羽目になった。制心術だ、心を支配しろ、僕……。術がゆっくりと引いて行き、毒風の加護も元通り僕を軽く蝕むだけになった。ヨシ、ヨシ……これで良い。


 邪神め、何が加護だ……毒風の力が制御しきれないぞ。いっそばら撒いてしまおうか? いや、そうか……あの神殿のあの部屋なら、どうにかなるかもしれない。僕は確かな希望を持ちながら、神殿の中へ入って行った。


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