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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
126/167

飲めば全てを忘れる酒は百薬の長なり

 まあ予想はしてた事だよね。うん、条件が揃ったらアクシデントは必ず起こる、ゲームの中でこれは絶対なんじゃないかな。ナビさんとエリィさんが連れさらわれた。ナビさんからテレパシーが来て、いま人間の里にいると伝えられた。多少ゴネてでも一緒に行くべきだったか……。


 街には一度訪れたことがある、ある程度の地理情報は知っているし、ナビさんからのテレパシーによる目的地へのナビゲートもあるので、潜入の目処は立っている。僕はこっそりと水路に紛れて街へ潜入した。


 山岳の中腹にある街は土地に傾斜があり、何にしても死角と言うものが出来やすい。ちょっと目線を掻い潜りながら建物へ潜入する事は分けなかったが、問題は建物内部だった。ナビさんの情報によれば幽閉されているのは地下の奴隷部屋、捕まえたエルフ達を一箇所に集めている部屋だそうだ。中にいるエルフの数は全部で13人、半分は衰弱していて、残りの半分も健康状態ではないそうだが……衰弱している魔法使いが一人だけいるらしい。ポーションを使えば元気になるそうなので、部屋まで入れば脱出も楽そうだ。しかし、潜入した入口から部屋までの経路に遮蔽物とかがない。今はそれが問題だ。そして何より問題なのが——。


「尋問官はまだか?」

「森でエルフ狩りをしてたからな、あと少しのはずだぞ。」


 との事だ。人間側も無傷では済んでは居ないのだろう、尋問官が前線に出張らなきゃいけないのだから。幸運なことに今回はまだ少し時間の余裕があると言うことだ。今の僕はネズミ対策か知らんが足の着いていて若干潜り込む余裕のある宝箱の下に隠れているが、どうも隙ができない。もういっそ洗脳してしまおうか? してしまうか。僕は巡回している兵の一人に魔法をかけ、僕を服の下に入れさせトコトコと歩かせた。洗脳はどうも雰囲気が独特になるっていうか、石を奪う以上表情や応答が死ぬのが不自然なのがたまに傷だが、鎧姿なら顔も見られないだろうし関係ないだろう。応答も僕がその都度洗脳すればいいし。


 そんな楽観的な考えで行った結果、僕はハーメルンの笛吹き男となった。もうめんどくさいので開き直って今は戦闘を歩く男の肩に乗って、警備兵を見つけ次第魔法をかけている。ぞろぞろとあーだかうーだか判別もつかぬ呻きを漏らしふらふらと歩く男達を従えて、エルフ達を収容したタコ部屋の扉を開かせると、ようやくの事ナビさんと再開できた。


「解放者tokage、今回は遅かったですね。別にいいのですが。」


 そう言ってナビさんは今までゴツゴツした鎧の肩に乗っていた僕を抱え、エルフ達に脱出を促した。エルフ達は幽閉されていたせいかあまり体調がよろしくは……いや、これ素面だな。磁器のように青白い肌をしているが、皆んなまだ体力はありそうだ。あまり日光が浴びられずにビタミンが足りないのか、多少衰弱しているがそれでもまだ元気そうだ。ナビさんに頼んでmp回復用のポーションを僕に、体力回復用のポーションを例の魔法使いに飲まさせてもらう。魔法使いのエルフはまだ若い男だが、先ほども言ったように幾分か僕の知るエルフに近い顔つきをしている。素で白粉をつけたような皮膚をしていて髪はダークグレー、唇は青白くなっていた。これから推察するにエリィさんは血の薄まった個体なのか、しかし集落規模で一人だけそんな極端に薄く……。まあいい、他の共同体に口出しすると碌なものにならないのは有史以来明らかだ。ウイグルみたいな事になっているのならともかくとして、エリィさんは深刻な人権侵害に悩んでいるわけでもないのならセーフだろう。


 う、君は……だなんて声を漏らし目を覚ましたエルフの魔法使いはダーンさんと言うらしい。ダーンさんね、魔法使いとしての腕前は僕の世界で言えば下の上だろうか。魔力の豊富なエルフにしては珍しい、外見は準拠しているのに……。


「助けてくれてありがとう。取り敢えず、脱出しなければな……。」


 ああ、脱出するにあたって少し話が。僕がそういうと、そこそこ真剣に耳を傾けてくれるのでマジメに答えておく。帰りに人間を襲わないで欲しい。別に人間が好きだからじゃなく、そうなると君達がやばいからだ。火遁の術と言うものがあるんだがね、ボヤ騒ぎを起こしてその隙に逃げ出すと言う戦術みたいなものなんだけど、今はそれができる状況にない。できはするが、この街の感情を煽って泥沼になるだけだ。


 そもそもの話、ヒューマンはそんなに長く戦争ができるほど丈夫にできていない。フランスの百年戦争だって休み休みやってきた結果どろっどろの泥沼くんになっちゃっただけで、限界まで小さく分けるとそんな長い戦争でもない。つまり、エルフとヒューマンの戦争はヒューマンの消耗によりヒューマンの敗北によって終わる筈だ。もし、この世界に帝国がなければ、の話だけど。帝国が敵になると一気に敗戦色が濃厚になる、帝国を味方につけられれば早いけど……偶数回目の人魔対戦じゃなきゃ帝国は王国びいきになるから、この世界の時代がそうであるか、この世界に帝国がないことを祈るばかりだね。


 まあぶっちゃけて言えば僕は火吹き壺だかなんだかを手に入れられさえすればエルフとヒューマンのどちらにでも負けて欲しくない、と言うか死んでほしくないので、適当に両者の妨害に立ち回るか諦めて次のキーアイテム探しにいくだけだけど。後半は伏せて喋ると、エルフ達も衰弱している仲間もいる事だしと納得してくれた。それは良かった。……と、アレ?


「ナビさん、エリィさんは別の牢?」


「そのようですね。私の予想なら近くの尋問室で鉢合わせをすると思っていたのですが。」


 ああ、通る必要のない部屋に入らせたのはそう言う。出来るだけ見張りとの接触を避けさせたかったからかと思ったけど、エリィさんを途中で回収したかったんだ。しかし、まずったなぁ。兵隊を洗脳してきたから近くにはいないはずだ。居たら真性の間抜けだね、逃げるか騒ぎ立ててこちらの息の根を止めようとしなきゃいけないのに。僕が悩んでいると、エルフのダーンさんが声をかけてきた。


「あの娘の事は後で頼めるだろうか? 見捨てる事はできないが、あまりここに居ても私達もあの娘も得をしないだろう。」


 僕はダーンさんに軽蔑の眼差しを向けた。言う事がわからないわけじゃない、時間を無駄に消費する事はよろしくない。嗅ぎつけられたら折角の潜入も無駄になってしまう。仕方がない、ここはダーンさんの意見に従うとしよう。僕は鎧の人を数人ほど数台のホート馬車の操縦席にそれぞれ乗せて、幌付きの荷台にエルフの人を詰め込んだ。多分街の出口でバレるだろうけど、そこまでくればいくら負傷者がいるからと言っても君達も逃げ出せるだろう。ああ後、民間人を殺す事は避けてもらいたいが軍人ならギリギリ市民感情を爆発させないで済むかもしれないので、そこは臨機応変に頼む。君たちが死んでは元も子もないんで、必要とあれば攻撃もやむなしだから。それとダーンさん、僕はエリィさんを探すため残る。君も魔法使いならこの程度の護衛はこなしてくれ、君のコミュニティだ。君が守れなければならないからね。


 さて、ダーンさんを送り出した後はエリィさんの捜索だ。鎧の一人を洗脳から解放して話を聞くと、街の中にいるのは確定だそうだけど……。エルフとヒューマンの混血は人気が高い。そして王国は、ヒューマン至上主義というか……『国民』として扱われているのはヒューマンだけだ。その他の人種に関しては察してほしい。まあ何が言いたいかと言うと、王国では合法な人身売買に巻き込まれたんじゃなかろうか。例えばフランスで処刑が娯楽であったように、そして僕の本当の家、フロワユースレス家のお膝元での娯楽が風の噂で聞く限りでは惨殺ショーであるように、非人道的な娯楽というのは得てして道徳的な娯楽として扱われる。テンプル騎士団なり剣闘士なり、正義と信じる者は異なる意志を正義と掲げる者と相容れない。多種族を売るのも彼らは正しいこととしてやっているので合法というわけだ。


 さて、ここで奴隷商からエリィさんを奪う事は法に違反はする。法が間違っているから法を破るのだ、そんな馬鹿げた理由はどうも好かないが、ここでエリィさんを正規の手段で買い取るのもそれはそれで不味い。それは奴隷制への肯定であり、エリィさんを奴隷として認めることとなる。どちらを選んでも不味いので選ぶならその二択以外となるが、エリィさんを奴隷という身分からの解放は違法だ、少なくとも王国領に置いて。しかしここは王国なのだし、エルフ領に変える術は戦争しかない。なので、ここは仕方がなく買い取るという方式をとらせてもらうことにしよう。緊急性があったと、自分の中では思っておく。


 さてさて、騎士をホート馬車に乗せて適当に放つとともに、僕はナビさんと一緒にこっそりとホート一頭で奴隷商の館まで来た。館といってもすごく小規模だ。民家二つ分くらいの大きさしかない。成金が作ったプチ豪邸みたいな感じかな。門番が一人立っているが、それ以外の警備はない。いやまあ、真昼間に襲撃をかけられることも無いだろうし、置いてるのはただの見栄からだろう、貴族が雇うほどの人物ではない。なのでここは買収する。僕はナビさんとともに門番にお金を握らせ、奴隷を見たいと商人に伝えてほしいと言った。自分は旅の魔法使いで、小間使いを買いたいと伝えれば、まあ悪い事はならないはずだ。普通はこんな怪しげな人をつなげはしないだろうが、こちらでの魔法使いが向こうでの魔術師ならこれで繋がられる筈……。


 それに奴隷が人気なのは内部だからな、多分ここでは査定だけやって出荷しかしない筈だ。奴隷だって魔術に頼るとしても国境で『収穫』して安全な内部で『加工』するはずだろうし、多分ここなら売っている人物も王都の商人と比べて商売が不慣れなはずだ。そこに漬け込もうか。しばらくと言わず待っていたらすぐに商人直々に外へ出てきた。わざわざ主人が出張ってって事はやっぱり貧乏、いや普通の商人だな。格式高くなく普段は事務か或いは安価な奴隷だけの販売をしていると見た。


 取り敢えず変り種が欲しいと言って、今ある奴隷を全て見せてもらった。やはり質が悪い、というのが感想だろうか。中にいたのはかつては筋肉質だったであろうと言う名残を見せる男性奴隷だけで、見た目の麗しい女性やしっかりと教育を受けた奴隷はいなかった。読み書きや算数くらいはできて欲しいものだが、まあここら辺は前線基地だから土木業ができる人が一番良いんだろう。とは言え栄養失調気味なところも見るとやはり質の悪さが目立つが。一目見たところ目についたのは象の獣人とドワーフで、エリィさんの姿は見えなかった。


「ここには教育、ないし加工前の奴隷はいないのか?」


 僕がそう言うと奴隷商は危険ですのでお客様にはと言ってきた。魔術師が危険とかバカか? ああ、ついでに加工って言うのは魔術ないし魔法による枷の事で、教育を受けた奴隷よりも主人に忠実に働いてくれると言った具合に値は高いがそれだけ確実に働いてくれる奴隷ができる。エリィさんとかの貴族しか買えないような奴隷には大抵それが仕込まれる筈だ。そして僕は魔術師、ああいやこちらでは魔法使い。加工が自前でできると言う買い物客であり、奴隷商なら買う奴隷を値引くかわりに他の奴隷の加工まで頼んでもおかしくはない。そうと言うか僕は実際にそう言われると思っていた。仕方なしに、自分が加工するけれども加工後の値段で買ってやるからそちらも見せろと言った。僕は好事家と言うか、プレミア価値のあるものが好きでね、わかるだろう? そう言えば一気に笑みを深めてそうですかそうですかと奥へ案内してくれた。


 中に入るとやはりエリィさんが居た。こちらを見て反応しそうだったので、ナビさんにこっそりと黙る指示を出すジェスチャーをしてもらった。エリィさんは察してくれたようで、少し落ち着いた。エリィさんの他、中には複数のエルフがいた。まあ……仕方がない、お財布が空になるまでは買ってやろう。所詮ゲームのお金だ、無一文になろうが関係ないしな。


「商人、大体一人頭幾らで買い取ることができる?」


 商人はそうですねと少し考え、大体全財産の1割ほどの値段を示してきた。……今まで、モヨモさんの落とした剣でナビさんの装備は間に合ったし、僕には人間用の装備が合わないため何一つ買わず、得たもの全てを売っていた。しかも僕は例の古戦場で百人は倒してお金稼ぎだのをやったのだ。多分ゲーム攻略としては今の僕の所持金は進度で言えば高めに属するはずなのだけど、それでも全員は買うことができなかった。後6人、僕は比較的健康な男性のエルフを選んで残し、弱っているエルフを優先して買い取った。今まで散財しなかったからこその全財産だ、彼らを回収するにはまたすごく時間がかかるだろう。いっそこの街を取り壊したほうが早いほどに。


 まあいい、ここで僕が彼らに奴隷用の服従の呪法をかけては彼らの人生にとどめを刺すも同然だ。ここは値引き交渉をせず、10人を確実に救うことを優先しよう。僕は奴隷商に個室へ案内してもらい、安全のために一人づち加工すると言ってエリィさんと僕とナビさんだけを部屋に入れてもらった。扉のそばにいる奴隷商には万が一でも聞かれたくないのでテレパシーでエリィさんに事情を説明する。


 エリィさんの同意の上で見た目だけはしっかりとした魔術陣、ああいや、魔法陣を仕掛けさせてもらった。ある魔法を使うことで発光するが、それ以外は何もない。僕の魔力も戦場での戦利品のポーションを飲んではいるけどそれの残量も多くはないので、ここで彼女に一芝居打ってもらう事にする。僕はテレパシーで陣が光ったら苦しむ振りをしてとお願いし、商人を招き入れた。実際に光らせてみると、まあまあ迫真の演技で痛がって見せてくれ、商人を信頼させてくれた。そこで商人に部屋の外にいる次のエルフを呼ぶようにと言って背後を向かせ、僕は彼を洗脳した。結構強めに洗脳したのでまあ半日は持つだろう、彼の目の前に全財産を置きエリィさんと共に部屋を出る。


 皆んながこちらを注目する。意外そうな顔だ、しかし一部のエルフはこちらを睨んで居て、少し居心地が悪い。僕はエリィさんを介してエルフの皆んなにも事情を説明し、誤解が解け協力が得られたところで堂々と館の外に出ようとした。しかし、思うようにならない物というか、まあ自分のしでかしている行為に酔っぱらってまともな思考を持っていなかったのか。エルフ達は捕らえられた仲間の回収を要求して来た。ここで彼らの欲求を断ったら全てが水泡に帰す、そう思ったので他の奴隷の解放もした。罪を犯す気はなかったのに……いや、少なくとも窃盗という罪を、今回だけは。お金もエルフの人が回収してしまった、火鼠の衣用のお金も、多分これで足りてしまうが……。使うのは罪悪感が……奴隷商にも明日があって、こんな前線付近で仕入れをしている身分などそう良い生活をしているわけでもないだろう。僕が彼から奪ったお金で彼は死ぬかもしれない。もはやコレは僕自身の問題だ、物事の上辺だけ見れば確かにゲームの中で犯罪を犯しただけだ。でも、例えゲームであろうと道徳的観点からしたら犯罪なぞ犯すべきではない、形而上の話ではあるけど。


 外に出るとき門番は放心状態の僕があまりにも堂々としている様に見えるからか、十何名も奴隷である筈のエルフ達を引き連れた僕を上客と見て、深くお辞儀した。ホートに乗り僕はホートに乗り、ゆっくりと門まで来た。門では特に兵士がいなかった、おそらく洗脳が仕掛けられたが故に落馬した兵士と洗脳されなかったが故に戦闘になり火で焼かれた兵士は『有った』が。……この人達だって家族がいて、生活があったんだよなぁ。仕方がなく、僕はちらほらと野次馬が集まっている中、いそいそと街の外へ出た。良心的にも実利的にもこれからはあの街に寄れないな。


「殺害者tokage、今回のキルスコアは素晴らしいですよ。同じルートを辿った中ではトップ9になります! いやはや、惜しかったルートであればトップ4にもなりましたね。でも、世界9位ですよ、流石のルート管理です!」


 ナビさんはそう言って僕に追い打ちをかけた。そうか、兵士の数名だけかと思ったがトップ9になる程多くの人が死んだのか……。この世界の人間が、ただの機械であって苦痛や幸福を有する事のない事を切に願う。罪を重ねたくない、酷く自己中心的な願いではあるが。道徳形而上学では酷くこき下ろされそうな考えだけど、形而上でなければ道徳的な考えだと自分では思っておこう。


 僕はエリィさんの魔法陣を解いて、彼女達を山へ連れて行った。人肌よりも低い温度の風が、僕の毛並みを撫でていった。


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