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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
125/167

ファイアバグ

 

 ログインすると、ナビさんに例のチンパンジーからチャットが来ている伝えられた。次の仕事をする気はないかと言う内容だった、適当に断っておこう。僕はもう赤の世界の扉に登録をしているから組むメリットが無い、僕がこんなんだからアイテムを渡すとかの攻略への貢献も何らできないだろうしね。


 そもそも安易にこの邪神製オンラインゲームを攻略するなんて、邪神の用意した儀式の遂行をしていいのかと言う疑問があるが……。まあ、避けようもない。精神の核とか言うよくわかんない存在であるらしい僕が邪神に拉致られているから、いざとなれば僕を殺してしまう事で秩序の神への嫌がらせは完了する。命惜ければ大人しく従う他あるまいて。


 さて、赤の世界に来てボクへゲームの攻略をしてくると伝え、僕はエルフの山へ向かった。エルフの長老から協力を受け入れるかどうかの返事が数日の間に来るそうだから、今回か次回のプレイで返事が聞けるのだろう。まあ、ヒューマンへの嫌がらせなんて、小拠点の破壊工作くらいだろうしそれくらいはお茶の子さいさいだ。流石に物流を断つとか、市街地に火を放つ事はしたくないが。あーでも、魔法も使えるから洗脳して撤退させるのでもいいかも知れない。風邪とかは……流石に、危険かな? ゲームの処理がどうなっているのかはわからないけど、この僕のいる世界に良く似たゲームの世界が本当にゲームなのかはわからないからね。僕の元の世界、佐々木ヒロトが生きた世界では魔術なんてファンタジーはゲームや物語の中の世界で、ファストトラベルとかプレイヤーと言う異界からの侵略者もそれと同じく保現実的に思える。ならば、あの世界が現実というか、一つの世界でない確証もなく……という訳さ。まあ、その場合において僕が殺したグール達はどうなるのかと言う話にもなるが。


 グールに意思はあるのか、そんな疑問点が浮かぶっちゃあ……浮かぶ。まあ前々からある問題だ、権利というモノを何処までに提供するか。僕は前に自由・権利・機会なんて物は幻想だとは言ったが……そもそもの話、ホムラビの様なモノではなく、いわゆるキリスト教の神様がいると言うのならば、大方の事は神によって許されて、いや、黙認されている。


 神様は全知全能なんだ、人が主にとって許されざる事を成したならば、主はそれを無かったことにすれば良いのだ。だが、されなかった。世に悲劇は起き、悲しみは溢れた。それは神の不在証明などでは決してない。罪には罰を、多くの罪を犯したものは地獄なり煉獄なり、僕達人間が知れる範囲では神父への告白と懺悔などの、禊が与えられ、そこで神の怒りから解放され、許されるのだ。神が許した一時の悪によって悲しみを負ったものには神の祝福を、死後の世界での魂の救済なりなんなりが授けられる。


 まあこんな独自解釈をもっと話すと、神様が私達に罰を与える代わりにその罪をお許しになるのなら、この世のありとあらゆる不条理は当然なのだ。同じ神様の被造物である人を人が殺すといった神様の神経を逆撫でするような愚行を犯す輩には、凄惨な罰が与えられ、神の定めに従わぬ背教者にもまた罰が与えられる。だが、僕達が今生きるこの世界において、神はその不条理を止めない。だから、僕達が保証されていると思っている権利も当然のことの様に奪われる事もある。神の怒りに触れはするが将来的に許されうる悪人によって人らしく文化的行為を営む権利は当然のように奪われる。


 つまり、僕達の認識している奪われない権利というのは本当は奪われうる、普遍でもなんでもない物なのではないかと言う話だ。僕達が勝手に保証しているだけの物ならば、絶対的なる神によって保証された完璧なる権利ではない。ここで問題になるのが、人が認識する権利をどの者までに認めるかだ。意思あるもの全てと言うのなら、動物だって含まれそうだし、将来的に、と言うか今まさに高度なAIを目前としていて、彼らに権利を認めるのか。認めないなら何故か。そう言った問題が出てくる。畜生や被造物なんぞよりも人間の方が上等だと言うのなら、それはいざ人間よりも上等な存在が出てきたときに危ない。


 人の保証する人の為の権利、それはつまり人権だが、人とはなんぞや。遺伝情報で区切れば一般的でない生まれをした子供はどうなるのだろう。そこに対して人間が人間と認識できる者と限るならば、差別され非人とされた存在はどうなるのだろう。物事を詳細にするには、人が身につける悪意というものが余りにも邪魔をする。


 もっと一般的にするなら、『犬にも仏性はあるのか』と言う問いが良いのかもしれない。犬は喜び、悲しみ、楽しみ、怒る。十分な感情を有しているだろうが、彼らは仏になる権利を有しているのか。あるいは、そうだな、もっと過激な話で、犬や猫の生死かな。犬を食べる文化がある人達に、犬猫を殺すなと言うのはどうなんだろう。僕達は犬や猫を愛玩動物として飼っていて、それらを殺されるのは心が痛む。だが、犬猫を食べる文化では牛や豚・ニワトリなど、僕達の食文化を支えている畜産動物を愛玩動物とするならどうだ? 犬や猫を食べない代わりに僕達は牛や豚を食べている。そう言う意味で僕達の文化と彼らの文化は激突し、牛や犬の命は等価ではないかと言う考えが浮かぶ。僕達は犬や猫の権利を保証しておいて、牛の権利は保証しないだなんて、それはおかしいんじゃないのか? 命の価値とはなんだ? 疑問が常に心を蝕む。理解できる意思があるかないかを命の価値とするならば、AIの命は重い。彼らを蔑ろにするのか……云々。


 熱く語りすぎたな。まあ所詮、害をなしてくるものは害をなしてくる者。そう割り切れば良いのさ。確かに僕は彼らを殺さずにすむ事もあっただろうが、彼らは僕を殺そうとしてきたんだから、誰かを殴る権利を自分は有していて他の者は自分を殴る権利を有していない。そんな不道理があるか? 嫌なら襲って来なければ良いのさ。言い訳終わり。


 いや、僕の考えでは法を逸脱した者に法を超えて罰する事は出来ないんだから、この考えはダメなんだけどね。大義を失ってしまっては元も子もないというか、ミイラ取りがミイラになってどうするって言う。必要悪だの確信犯だの緊急性だの、偉そうな事をおっしゃるのは結構だが、やった事はやった事だ。他人に押し付ける気は無いが、罪は罪として自覚していきたい。


 とかく、到着。いやはや、相変わらずエルフの山はめんど臭いな。僕の思想よりかは存分に簡単だが、移動に間に語ることがなくどうも長い語りが必要になる。とは言え、僕は正しく生きたい。正しさを知らなければ僕は正しく生きていけない。正しさを常に追い求めていかなければ。


「求道者tokage、エリィが見えましたが……何を怒っているのです?」


 怒ってなんかいないさ、興奮しているだけだよ。やはり、僕は会話はどうでも良いが発話は好きなんだ。自分の中のまとまっていない考えを喋っていると、だんだんまとまって来る感覚がしてすごい楽しい。いや、相もかわらず混沌としてはいるが。


「そうですね、流石自己防衛で人一人殺めた人は言うことが違います。」


 ……そう、彼は、シュテンドウジは生前どんな人だったのだろう。僕は彼を殺さずに済んだはずなのに……。ああ、本当……。


「幾ら貴方が後悔しようと彼は生き返りませんよ。貴方が殺めたのです。」


 わかっているさ、知識としては。人を殺める、それがどんなに重いことか実感がないだけで、罪が重いことは痛い程実感できている。


「つまり後悔はしているが反省ができていないと?」


 そう……罪の重さがわからないのに、罪を犯したと言うことだけはわかってるんだ。シュテンドウジ……君は……。最低の屑ですねとハッキリ言ってくれるナビさんが僕には天使だと思える、彼女が与えるのは自己満足の慰みだけだと言うのにだ。


「何話してんの? 私たちの領域に来てまで無駄話?」


 ターザンかオランウータンのように木々を伝って移動して来たエルフのエリィさんから叱責を受ける。いや別に、何でもないさ。ただ自嘲する事で少しでも健全な精神状態になりたくてさ、まあ自分勝手な屑の思考だね。で、エリィさんは長老から返事はもらえたかい? 色のいい返事がいいな、玉虫色の返事はごめんだがね。


「玉虫色? ええっと、取り敢えずヒューマンどもの妨害を私と一緒にする事。それで私が判断をしなさいって。」


 ふぅん、なるほどね……。わかった、エリィさん。早速妨害工作に行こうか、ただし僕は命が惜しいからなるべく戦闘は避けて貰うけど、良いかな?


 僕がそう聞くと、別に構わないけどと少し不服そうに返事を返してくれた。エルフって郷土愛が薄いのかなぁ、もっと強く反対されると思ったけど……まあ個体数が少ないと、全体よりも自分を第一に考えたりするのかも。それはともかくとして、僕達はそろそろと移動して、人間側の拠点探索をする事とした。木を使うエルフと比べ、人間が移動した際の痕跡は凄くわかりやすい。枝が折れたり、藪が切られたり、焚き火の後だったり、確かに人間がエルフの住みやすい自然を壊していくと言うのも納得だ。人間が移動に使っているヤギと馬の中間動物は野草を食い荒らし、このままでは生態系も崩れてしまうのだろう。踏み固められた道んど不自然な箇所を見つけ隠れながら辿っていけば、すぐに人間の拠点が見つかった。


 拠点はなかなか手が込んでいると言えば込んでいる物で、切り開いた森の丸太を使って柵を作っている。見張り台が一つ二つ……五つくらいか? 規模が大きい、人間とはこうも強かなモノなのかと少し感心してしまう。拠点は鎧を着た人間が馬だかヤギだか……ええい、もういい加減に名称を決めよう。ホースとゴートだからな、ホートでいいだろ。ホートに乗った軍人か何かが入ったり、見回りに周りをウロウロとしている。多分内部でも見回りがいるな。簡単なのは家事を起こす事だけど……死人が馬鹿にならなさそうだな……今は、まだ夕暮れには早い。


 エリィさんとナビさんに、僕が単独で潜入してくる事を提案する。内部の構造が分かれば拠点を全壊させやすいだの、もしトップの寝込みを襲えれば捕まえて人質にできるだの、色々と理由をつけ、背の小さくこっそり活動できる僕が潜入してくると言うと、少し渋ったがエリィさんは納得してくれ、ナビさんとも離れ僕一人で活動してくることになった。トントン拍子だ、やったね。


 まだ日が高く複数人では目立つ潜入も、僕一人なら簡単だ。物陰に潜みながら、一番内部に物陰が多い門を探し、見つけた。ここが北半球とするならばの話だが、南面していて茶色い僕が移動するには少し日光がきつすぎる。僕は門番の男を眺めた。鎧を着ていて視界が良い訳ではなさそうだが……試しに魔術で石を投げて遠くで音を立ててみると、石が投げられたとは気づかずに音の出る方へゆっくりと歩いて近づいた。あまり移動はしないが……成る程ね。僕は今度は石を投げているところが見つからないように彼の背後へ移動し、さらに遠くへ石を投げてみると、またそちらの方へ「誰かいるのか」と言いながら移動した。推定コンピューターゲーム相手に言ってもしょうがないかもしれないけど、馬鹿だなあ。


 さて、内部に潜入し、物陰に潜んでゆっくりと中を見渡すと、中にはテントが何個か張られていて、外装以外はあまり手が込んでいない事がわかる。大きなテントが6、そこそこ立派な小さなテントが1、巡回している人が2人だ。テント内に何人かいるようだが……。食料は一つの大きなテントに纏めて置いてあるようだが、中に誰も居ないなら攻め入る時にあのテントは燃やしてみようかな。パンとワインもあるようだから上手く燃えるだろう。


 そこそこ立派なテントには門番が突っ立っているから、多分司令とか偉い人がいるテントだ。あのテントは警備が厳重と言えば厳重だけど、その分拠点内の巡回に2人しかいないのか、結構なことだな。決行は夜にしようと思ったけど、案外今すぐやっても良さそうだな。


 僕はそそくさと警備を出しぬき脱出し、2人と合流した。中の様子を伝え、警備の様子を伝える。拠点内に警備は凡そ10人、今は手薄だが夜になれば外を巡回している人も帰ってくるのでさらに厳重になるだろうと伝えておく。


「そうね、じゃあ今のうちに攻めましょうか。昼だから逃げるのは辛そうだけど、私とアンタ達で二手に……ああ、それじゃ見張りがダメか。じゃあナビ、アンタ一緒に来なさい。」


 ちょっと待ってくれ。僕に1人で逃げろって言ってるのか? チビでモタモタとしか逃げられないのに? いやま、ゲームは所詮ゲームと言うか、プレイヤーは命が一つではないから構わないけどさ……まあ一応データ上は僕はヒューマンの男性だから、色々とあるのかな。


 さて、エリィさんは火を着けて拠点を壊滅させる事を提案した。僕だって真っ先に思いついたけど、エリィさんはマジで言ってるのか? 火をつけるって、その拠点が設置されている谷に住んでいるエルフさん達的に良いのか? 

 人の命を奪う事は、火の勢いで森に燃え移らなければ、多分格段に少なくなるだろうが。あれ、エルフは森に住む必要がなかったんだっけ? まあ魔力を十分に扱えるなら砂漠での生活だって訳なさそうだしな、エルフに数人の魔術師がいるなら一つの群れとしては十分か。


「アンタ魔法使いなんでしょ? 付いて来なさい、火をつける場所を指定するわ。」


 エリィさんはそう言ってとっとこと移動し始めるので、付いていけそうになかった僕はナビさんに脇に抱えての移動を要求する。忘れないで欲しい、幾らネズミの足を動かす速さがキリンの何倍も早かったとしても、移動速度はキリンの方が早いんだ。白昼に火を着けて回るとか足が速くなければすぐに発見されてしまうからね、どうしても足が必要だ。そもそもこの邪神の使いが面白半分で作った体では何かと不都合なことがあるからとナビさんが派遣されたんだから、多分ナビさんのサービスを享受する事は当然と思っても良いはず。


 ナビさんは僕を抱え、スイスイと移動し、僕はエリィさんの言われるがままに火を着けて回った。恐ろしいほど上手く行った。まあ、巡回している兵の目をかいくぐりながら火の魔法を使うだけだ。火打ち石の音や油の匂いがする訳ではないので、すごく簡単だった。前にも言わなかったっけ、魔術師一人いれば前世の要人なんて何人も暗殺できるって。魔術師に叶うのは魔術師かドラゴンくらいなのさ。まあドラゴンなんてクロノアデアからの話に聞いただけで見た事ないけど。


 僕達は十分に燃えた事を確認し、打ち合わせ通り二手に別れた。人型の二人はサーっとどこかへ行ってしまったが、いや落ち合う場所はエリィさんの隠れ家と打ち合わせはしてるけど、僕はのそのそと茂みに隠れながら移動して行った。鎧を半端に脱いだ男達が水を掛けたり慌てふためくホートを宥め安全な場所へ連れて行こうとしている。鎧は脱いだ方がいいと思うが、まあいい。消化作業中に男達はエルフの仕業だだの、近くにいるはずだの、色々と喚いていた。ナビさん達にも追っ手が回るだろう。体が大きいからホートに乗って探していると、僕よりも見つかりやすいかもしれない。まあ僕も踏まれないようにしなきゃいけないが……藪の中を進んでいけば大丈夫か。


 僕はゆっくりと、そして静かに歩み去った。しかし『ゲームだから』なんて言い訳を盾に罪を重ねていくなぁ、この世界に人たちが生きている可能性だってあると言うのに。正しいことなんだろうか……一体……。

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