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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
122/167

校長との訓練

 昨日くらいにも語ったんだがね、それはそれは退屈なものだよ、今の教科書と言うものは。現代日本くらいにもなれば分かりやすい解説に綺麗な図などが載っていて更に薄く持ち運びにも便利で自宅学習も捗る素晴らしい物だが、それに比べてこちらの教科書の酷さと言ったらないね。それに、授業も先生は教科書を読み上げる機械と化すだけで教科書を参考に授業を進めるとか、そう言った話でもないし。正直に言って、通常授業で僕の為になっている部分は午後の戦闘訓練とか言うウォームアップだけだからね。


 だが、今日に至っては通常の授業とは違う、まあまあ実のある授業であると言えようか、そう考えながら僕は校長の姿をした泥人形の頭を薪の様に叩っ斬った。フハハ、気持ちがいいぞ!


 僕はゲーム世界からログアウトをして今日も元気に学校に来た。いや正直に言えば小児性愛者疑惑の奴との授業かよなんて思って気が滅入る登校だったが、まあ全く変なこともなく僕は普通に訓練を受けられている。よかったよかった。


 笑いながら刀を手放し空中へ高々と飛び上がり、僕は校庭へ向けてダカダカと音を鳴らすように石の槍を射出する。打ち出す槍の1つを手に取り刀へと整形、こちらへガチャガチャと仲間の屍を踏みながら向かって来る校長の泥人形の首を刎ね、自分を中心に青い炎を爆発的に展開し、辺りの泥人形の息の根を止めた。ウラーと叫び声を上げたくなる、実際に上げた。今回の戦績、校長泥人形20体を2分くらいで倒した、まあ一体につき6秒もかかっている計算だ。ダメだな、ゴーレムごときにこれじゃあ。


「……君は、危ういのぉ。実に危うい。」


 危ういとはなんぞや、まあ言われなれたのでそこまでの苛立ちはないが、うむ、それよりも体を動かした事により実に清しい爽やかな最高の気分だ。おお私を祝福する晴天よ、君は実に美しいが、今の僕に見劣りするな。もっと天晴れな物がいい、アマッパレて書いてんだから晴天で良いだろっつー、うん、何が言いたいかわからないが、まあなんとなく察せるだろう、晴天ですら今の僕には相応しくない。気持ち的には真っ赤な朝日と霊峰富士を背景に鶴と亀を脇にして僕一人が仁王立しながら高笑いをしている感じと言うか、わかるかなこの独特な絵画感覚。倒すのが爽快なんだ、鬱憤が溜まってたのか、実に気持ちいい。


「それで、次はどうしたら良いかね? もう少し儂の人形の数を増やそうか?」


 いや校長、それは結構だ。もうわかった、一対多の場合は面で攻撃すれば、つまり一度の攻撃で複数人倒せばいいと言う事を覚えた以上、今後は攻撃する力の強化以外に何ぞ特別なものは要らない。そうという事で、組手だ。僕の師匠からは旨味を殺すので戦う型を習うなと言われているので、型を戦いで洗練する方式で授業をしてほしい。そんな事を校長先生への言葉としてふさわしい程度で上品に話すと、校長は呆れたような、あるいは単純に疑問に思ったのかもしれないが、癪に触る様な調子で聞いてきた。


「君は何の為に強くなろうとする? 今のままで十分じゃないのかね?」


 十分じゃあないが、校長先生に話しても仕方がない事なので話しづらい。メイドが好きで好きで堪らないから社会的に結婚が認められる様な地位に、そしてメイド自身に自分が伴侶として相応しい人であると認められる様な存在になりたいです、だなんて言ってどうなるよ? そもそも僕の生まれは何の因果か知らんが神子だ、神に仕える子供、まあ今のところその様な気配はないが交際だって決められるかもしれない。彼女以外の人と結婚しろだとかそう言った話を蹴られるとまでは言わないが、そう言った話の時に取れる選択肢の数が多い権力なり何なりが欲しい。今の時代は分かりやすく力=権力だ。1人で非魔術師の国を壊滅させる程の力があればそれ相応の権利を貰って好き勝手できるだろうし、とかく力が欲しい。僕が校長先生にこんな事を語ってもみろ、危険分子としてマークされるわ。いやまあ、言うんだけど。


「僕の身の上は自由な様で本当に自由ではありません。欲望のままにしたいとは言いませんが、自由ではありたい。だから力が欲しいのです。」


 今の生活に不自由をしているのかと校長は聞いてきた。ああそうだ、今後は君達への気の緩みというか敬語を使わずに話すが校長先生へはキチンと敬語で話していると思ってくれ。それで、不自由しているといえばしているがしていないと言えばしていない。確かに僕程の身分ならそこらの子供、いやさ一般の成人が望む大抵の物は望めば与えられるだろうさ。金銭や女性、豪華な食事に綺麗な衣服、住居だって僕専用に仰々しい館が建てられたくらいだから更に望めば何でも手に入るだろう。しかし、それは与えられた自由だ。家畜の暮らしは幸福だが家畜にはなりたくない、満足な豚よりも不満足な人間でありたいと思うのは傲慢か? 与えられた自由に価値などないとは言わないが、誰かが望んだ明日を生きる人は必ずしも明日を望んだわけではない。飢饉に瀕し死に絶える命が今この世に一体どれ程あるかなんて誰にも答えることが出来ないだろうが、食事をする際に飢えたことがない者がどれ程感謝をするだろう。傲慢であり悪であると言うのなら悪と教えない者が悪いのだ、自分の行いの客観的善悪など考えるに値しないことだ。


「与えられていない自由とは何だね。今の暮らしが与えられた自由と言うのなら、君が強くなって得る自由と何が違うと言うのじゃ。」


 まず経緯が違う。物事の形ばかり気にする愚か者と笑うのならば、僕はその人こそ見せかけの事物に囚われた愚か者と言ってやろう。更に言うなら与えられた自由はあくまでも与えられた分でしか自由がない、自分で得た自由も同じではあるが自分で自由の範囲が決まると言う点で違う。既存の権威から離れた自由を得られたとするなら、ふらりと旅にでる事も誰かに愛を囁く事も自由だ、公爵家の隠し子兼今代神子という立場では僕の求める自由と形が違いすぎる。


「その身分が自分の求める自由には狭すぎると?」


 自由ではあるって言ってるだろ、器の形が違うっ言ってんだよ。『檻に入れられた囚人とスラムに住む犯罪者のどっちが自由だよって言われたら野放しの犯罪者だし、その犯罪者が真に自由かと問われれば違うとしか言えない。』校長が理解しているのはこの形だろうけど、僕の言わんとすることは囚人と野放しの犯罪者のどっちが自由って話からして観点が違えば結論も違うって言う理解なんだよ。囚人は刑が執行されるまでに食の心配をしなくていいと言う意味で自由だけれど、犯罪者は警官や同じスラムの住民に怯えなくてはならないと言う意味で不自由だ。物質的にはその逆だし、そうやって考えていくと情報が処理しきれず『観点によって結論は変わる』と言う答えしか出なくなる。そして、僕の観点で言えば力を身につけて得られるかもしれない自由と今の与えられた自由では前者の方が求める自由性が高いと言う訳だ。


「ふむ……どこまで強くなるつもりかのぅ。」


 神格を得る程まで。実際に神格を得なくてもいいけれど、とかくそれ程までの強さが必要だ。社会的権力の方はそれ以前にどうとでも出来るけれど、必要な時に必要な選択肢を取るためにはそれ位が必要だ。いや、僕の師が神の力を使っても倒せないからそう言うのだけど、それはつまり師が神より強ければ神より強く、師を超えるまで強くなるのが目標だ。


「師を超えるのに神格が必要とは、随分と大げさな物言いじゃが……いや、君の事だ、それ程の者なのじゃろうな。」


 ぶっちゃけ僕に加護を与えたワタツホムラビメ本体とは言わなくてもホムラビより強い気がする……、いやまあ、そこは言わないでおこう。神の分霊より強いと言い切るのは個人的に嫌だ。乗り越える山は低くあって欲しい、それがたとえ認識上だけと言う場合であっても。まあそんな情けない話はいいんだ。校長先生、お話も結構ですが休憩は十分取れましたのでそろそろ訓練を再開しましょう。


「そうか……君が望むのであれば仕方がない。大人気ない気もするが、少しだけ儂の独自属性の魔術を見せてあげようかのぅ。」


 独自属性魔術、系統で言えば無属性の逆、読んで字の如くその人だけの独自の属性のものを言う。僕で言う美化の魔術、まあ回復魔術なり何なりに使う物の時を操る様な術で、あれは他の人には使えない。だが、ああ言ったどの属性にも割り振ることができない物よりも複数の属性に渡る物を独自属性と言い張る事もあるので、少し微妙だ。独自魔術は強い、まず初見では手が読めないのもあるが、それ以上にその人物に合った物であるから大概は強力な効果を発揮する。まあ火を人一倍恐れたり好んだりする人の火の魔術はその感情が乗る分効果が増すような事と同じような物だ。


「──我が魔術は剣の魔術、ディプロイ・ソード。」


 校長がそう唱えると彼の周りに十何本かそこらの剣が空中に浮き上がり、放射状に広がりながら漂うようになった。僕のあの剣や槍を打ち出す魔術と似ているっちゃあ似ているが、流石に独自魔術と言うだけあって向こうは精密な動きができそうだ。なるほど、良いじゃあないか、僕はさっき泥人形を倒した時は奴らのでかい図体を的として無理やり剣や槍を当ててたけれども今度からはそれができない訳だ。良いだろう、僕も学ぶ側としての礼儀として力を出してあげよう。


「──マシエッテさん、力を貸して。形ある物は須らく滅ぶ、剣は錆びて終には風化するだろう。」


 僕がそう唱えると、僕を中心に地面がぐちゃりと泥濘み、急速に腐り始めた。やはり金属相手に一番相性がいいのはコレだろうか、ホムラビの炎やアンナさんの腐敗、コクダやアカグモ、シュテンドウジと虫達の召喚も考えたけれど、校長先生が独自属性を出したのだから僕も独自属性を出したかったし、それに一番合う能力はマシエッテさんの水だ。僕の時を操る様な力で酸化などを嘘のように早められるので、保護をしなければ金属には致命傷なんじゃあなかろうか。校長が切りかかってくると、校長の周りの剣も襲いかかってきた。成る程確かに複雑な動きだ。校長へ斬りかかろうとすると剣が飛び出し彼を守るし、邪魔な剣を切ろうとすると細い身を活かして剣を躱していく。手数が増えるのでその対処に追われているな。とりあえず槍を射出してみるもそれらを悉く弾かれる、だがまあクロノアデアよりは弱い。弾く必要のない物も弾くし、一本で弾き切るとか冗談のような事もされないので相手の手数が減るわ減るわ。


 でもまあ飛んでくる槍を弾き落とせるとは凄い制御能だ、僕には無理だな。アルゴリズムの組み方が分かんないと言うか、校長の戦い方のコピーなんだろうけど、僕の戦い方でコピーしたらクロノアデアの言っていた通り、ビュンビュンと飛び回る剣が邪魔になる。やっぱり今の射出形式が限界だな、うん。


 でもまあ、それだけだ。僕の石の剣は刃もなく硬く脆いが、ただ僕の魔術によって出来ている。簡単に僕の魔術が制御しやすい。美化の魔術で最盛の時、つまり無傷のままでいさせる事が出来るのでマシエッテさんと僕の腐敗の魔術の影響を受けずにいられる。一方どうだ、校長先生の剣は刻一刻、剣が交わる度に、僕の射出の魔術を弾く度に、魔術で風化しボロボロと姿を変えていった。錆びて腐食しあと数度の撃ち合いで折れるのだろう。さあ手痛い一撃をと思って校長に突きを放つと、剣が僕の突きを下に払って折れた。読めていたのですぐさま突きを戻し、また更に突きを放つ。今度は校長が剣を掬い上げるように弾いてきた。これは予想外なのでイカ墨の様に炎を散らしながら後退する。撃ってから気づいたが普段クロノアデアと戦う時とは違って昼間だ、目潰しにはならないだろうと思ったのだけれど……校長の剣は炎に向かって数本が一気に向かっていった。コレは……?


 いやさ考えている時間ではないな、多分剣の動きのアルゴリズムに何か条件が合致して変な動作が起きたんだろう。今のままでも十分にしのげるのならばその手を態々取ろうとしなくてもいい。まあどうせ、熱源感知辺りなんだろうが。


「——我が剣は正義の剣、不動なり、絶大なり。リディプロイ・ソード。」


 校長はそう言って剣を再び浮かび上がらせた。今の所どちらが有利という訳でもなく、お互いが余力を残しながら戦っている。今のまま回避と攻撃の繰り返し作業を続けてもいいけれど、訓練だからね、負けてもいいんだから冒険しようかな。僕はいくつか生み出した火の玉に適当にやれと言ってぽこぽこと放った。1つは何を思ったか空高く上がり視認ができなくなり、1つは地面へ飛び込んで霧散、1つは僕の周りにすり寄って遊ぶだけになったが、まあ残りは校長の剣を引きつけて適当に引き剥がした。良いね、流石だ。僕の校長の剣は僕の予想通り熱源を切る事が1つの目標に設定されているらしい。どれ、校長へ火を吹き付けて僕の体を冷やしてみるか、面白いことになれば良いが。


「我が正義は悪を切る。リムーブ・ソード。」


 まあ、そう上手くは行かなかった。彼の剣は彼の持つ剣と左右に浮かぶ二本の剣を除いて全て消えた。二本はアルゴリズムが違うのか、あるいはマニュアル操作で動かしているのか。適当に放った火がハエがたかるように校長の目前を飛んで霧散した。挑発的だなぁ、まあ良い、槍を打ち続けながら校長へ斬りかかる。良い感じだ、左右に浮いていた校長の剣は錆びてへし折れ、校長と鍔迫り合い合いになった。体格差で押し切られるので引くが、射出の魔術の設定を弄って槍を短くする代わりに沢山の数を打つように変更する。危なくなった校長が岩の壁を出現させ、体制を整えたのち再び呪文を唱えて剣を浮かび上がらせた。僕は槍と言うか丸太のように棒を飛ばし、壁を壊し、そこの上空へと回り込むようにして跳躍し、目下にいる校長へ槍を降らせつつ背後へと移動、さらに目潰しとして泥水を飛ばしておく。裏取りやら目潰しなどと姑息な手だが、ハマると凄い笑いが込み上げてくるので多用する。今回の戦いで一番楽しいのはアレだな、校長が度重なる僕の石の槍と水の攻撃で泥濘んだ地面に足を取られた事だ。フハハ、常に動いて戦いやすい場所へ移動しないからそうなるのだよ。僕はここぞとばかりに突きを放ち、勝負を決めるには十分なほど肉薄した。


「……強いのぉ、見誤っておったぞ。」


 校長の言葉を聞いて僕は石の剣を宙に散らし、乱れた校庭を元の状態に戻した。戦いの最中の魔術で冷やしたが、少し体が火照った。良い訓連ができたと思う。僕は僕の強さを見誤ったと言う校長先生にお礼を言った。


 それはどうも、神子ですから沢山の力を借りれる物なんですよ。まあ他の人が僕と同じ立場ならもっと上手く運用できて僕より強い可能性が高いですけど。そういう根拠はないですけど、まあ力に振り回されてる感覚はあるんで、振り回されない人がいたらきっとその人が適任だったんでしょうが。


「それはなんとも言い難い。力に振り回されない人間なぞ、儂の人生でも数えるほどしか見ておらんものじゃ。」


 まあ恵まれてばかりの僕からすればそもそも借り物ではない、与えられた物ではない力なんて幻想のような物だと思いますが。恵まれた環境に育った者がどうして自分の力は与えられた物ではないと言えましょうか。そしてどれ程の人物が自分は恵まれていないと言えるのでしょう。運も実力のうちだなんて恵まれた者の戯言をほざこうだなんて思いませんが、僕は恵まれた力を惜しむことは無いんで。僕はそう言って乱れた身なりを整え、脱いでいたローブを羽織った。そう言った僕の行動を見て、校長はまた危ういのぉと呟いた。だから危ういとはなんぞや。


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