らいと
「うっ……おぁー、おふぅっ!? うぬォォ!?」
僕は汚い喘ぎ声を聞きながら、おっさんの体に魔力を通していた。精神が削れる。
こうなったのは前回、僕が仕事の安請け合いをしてしまったからなのだが、僕は早々にしてそれを後悔している。僕は初めに実験体に選ばれた大男の歪に空いた魔力の孔を拡張したり閉じたりして、孔の形を整えた。それで男の魔力で強制的に魔法を使わせて見たりして、僕の施術に一定の効果が見られることを示した。ゲームの中の命は酷く軽い、僕は早速人外の化物共の施術に移ることになったんだ。モルモットとかの段階を踏まなくて良いには助かるが、面倒な事だった。
それと言うのは、化物供は総じて魔力の穴がめちゃくちゃだったからだ。きちんとした魔術を使っていると、魔力の孔はそれ相応の形をして行く。つまり、ある程度きちんとした魔術を使ってないという事は孔が正常でない事を意味するんだ。この世界でも僕は一部の魔法をスキルに頼らずきちんと使っているから孔が無意味に複雑になる事はないが、人外の物は人というある種の完成した生物の体を無意味に崩すのだから必然的にスキルの魔法に頼らなければならない。それにプリセットだかんだかは邪神の手心かある程度は整った孔をしているのに無駄に手を入れるから、その部分でも孔が複雑になる要因になっている。
何故スキルによる魔法が歪な孔を形成するのは、そもそもコレがゲームだから生じる問題なんだろうと決断が下されたらしい。僕の知っている魔術の扱いでは個人よって大きく差が出る。キャラクター作りで孔を滅茶苦茶にされたのに、初期に与えられた魔法が一定の効果を発揮しないとなると、どうも不平不満が出る。だからキャラクターの肉体を出来るだけ使わないように邪神パワーでどうにかしようとすると、スキルと言う謎のものに頼る羽目になるんだとかなんだとか。まあ、僕がスキルに頼って魔法を使うように、一定以上自力で魔法を使うのならば別にスキル併用でも無問題だとは思うのだけれど。
さて、魔眼を使ってある程度は規則正しい孔を開け続けてみたものの、やばい事になりつつある。簡単に、ワンオペがキツイ。魔術の孔は魔眼が無ければ見えないので、孔を開ける人を育てなければならないが、魔眼は目に魔力を集めた後にちょこちょこと変な作業をしなければならないので、そうぽこじゃか施術の助手やら何やらを作れないんだ。まあ慣れれば魔眼なんて簡単だからある程度すれば僕が携わら無くとも良いとは思うけれども。
そう言えばこう言った強化人間?制作をしていると、どうも気になってくるのが戦いの相手だ。いや、なんら利用方法を考える事なく核開発する科学者みたいにやばい奴だとは自分でも思うけれども、まあゲームにマジにならなくとも言うか、ね。それで、スキルに頼らない魔法は効率が非常に悪い、ぶっちゃけ戦いに役立つのか不思議に思うくらい。確かに自由度も利くし慣れれば孔が自動調節されて段々と楽に使えるようになるけれど、それは時間もかかるし成果が明確ではないのだ……まあ、大きな穴が掘れたり簡単に地形を整えられるだけでだいぶ違うか。あるいは、ガチで弾道ミサイルにでも手を出すのだろうか……? それは、なんとも言い難い。
大体、僕が言うのも何だけれども、戦争なんてダメだよ。殺す相手にも家族がいるし、その人の生活があった。そうなってくると苦しくなるのがシュテンドウジの件だけど、まあ……うん。なんだか心の中に重いものがある。彼の件は僕が裏で猛省するとして、戦争はない方が嬉しい。殺したいほど憎い相手だって実際死なれたら何となく心痛むし、まして見ず知らずの人が死んだと聞くとやっぱり悲しいなあと思わずにはいられない、顔を知る人なんてもう。だから戦争なんてないのが一番なんだ。
地球にいた頃は怖かったね、アメリカがロシアと派閥争いして、中国とバチバチして、韓国と色々争って……冗談みたいに無数の命が危機にさらされていた。それは何もミサイルや銃で撃ち殺される数ではなく、経済戦争により貧しくなって死んでしまう人間も入る。信じられるか? 韓国の話によると北から亡命した兵士の胃の内容物がトウモロコシの芯だったんだってさ、トウモロコシの芯ってお前、ホント……貧しさは日本でも悩ましい問題だった、毎年1人くらいは冬にホームレスが衰弱死していたり、白昼の路上に酒で弱ったホームレスが倒れてたりもしていた。コンクール関係で都会へ行くたびに街のゴミ箱を漁っている人を見かけて、どうも、この世の無情を感じずにはいられなかった。あの時の僕は彼らに温かいお茶を自販機から買ってきてあげることも出来なかったが、今の僕は彼らに何をしてやれるのだろう。貧しきに差し伸べる手は、今も持ち合わせていないのか、なんだか悲しい気分になる。
戦争に使う兵士を作っておきながら何言ってんだって話だけどね。まあパクス・ロマーナなりパン・アメリカなり、大国が正義の押し売りをするのは人が滅ぶまでいつの世も変わらない。AIに感情があるかとかの問題を考えずにこう言った戦力増強なんていうのは僕がやらなくても誰ぞいつかやらん、責任の分散ってやつだね。どうせ、いつかは、俺は悪くない、たまたま俺だっただけ、誰だってお前だって引き金を引きかねなかった、いつだって過去の巨悪はそう言って正義の名の下に殺されて行った。
今を生きる人にとっての過去を作るのは過去に住む人ではなく今を生きる人だからね。屍に気を使って新たな死体を増やすこともないだろうし、高度な政治的判断と言うお題目を唱えれば無罪放免、意見落着って訳だ。巨悪になる人は堪ったもんじゃないが。でもまあ、アインシュタインはその分報われているよ。アメリカの強さがそれを許したのか、かつてのニホンヘイの残虐さが許したのか、ただたんに彼と言う存在か、彼は肝心要の日本人からも純粋尊敬をされている。まあ開発者自体に追求できる罪がないってのは良くある、包丁で人殺してそれは包丁なんてものを売った販売元が悪いと言われたって販売側は知らんがなとしか言いようがないように、まあ武器と包丁には明らかなる差はあるが。包丁の正しい使い方と武器の正しい使い方は違うだろって、武器の正しい使い方って何だよって話にも移るが……よし! 完璧だ、無駄話の裏で孔開けが完了した。いや無駄話というわけではないがね。いやあ疲れた、休憩に入ろう!
「技術者tokage、疲れたならマッサージをしてあげましょう。私の膝に来なさい。」
しばらく按摩師とかしたナビさんとぼーっとしていると、前回僕を尋問していた3つの顔のチンパンジーさんが声をかけてきた。少し話があるらしい。
「トカゲ君、少し聞きたいのだけれど……ナビはどうやって?」
うん? どういう事だろう。話を聞くに、キャラクリの1つなのか、あるいは特殊なクエストでも解いて味方NPCにでもなったのかと問われた。そのどちらでもないが、まだ事実に近いと思われるので単に後者ですよと答えるとチンパンジーさんは残念がった。何故だろう、キャラクリなんて人力よりもNPCの仲間としてナビさんが仲間になった方が嬉しいのじゃないか? そう尋ねると、高々仲間キャラが1人増えることよりも1人の人間が2人のキャラを作れる事が有難いらしい。特殊ばクエスト発生やら攻略やらがめんどくさいが、キャラクタークリエイトのやり直しならいつでもできるからだとか何だとか。それと、クエストは個人と言うか、グループで秘密にすることが多いとか何だとか、まあそこら辺の事情は良くわからなかったが。
「指導者ValadimiL、体を2つ作ればよいのですよ。」
ナビさんがそう言うと、指導者ウラジーミルと呼ばれたチンパンジーさんは君達2人はと言って口を閉じた。何で僕まで入った? ああそうか、単純に魔法をスキルに頼らずに使っていれば良いって言うのも、体2つ用意するのも、両方難しい事なのか。僕はそうは思わないが……まあ、自然に逆らう造形でキャラクターを製造できる程の頭のいい人なら何か思うことがあるんだろう、フォン・ノイマンみたいなその分野以外の発言を信じちゃダメな人かもしれないけど。て言うか、かなりジェネラリストだよね、人間じゃない人達って。ただ一介の数学者や経済学者が人外の体を構成できるわけないし、スペシャリストではないだろう。だから多分、一部の高度な学習を受けた人種なんだろうとは思うけれど……。まあ、頭のいい人のことは良くわからない。僕みたいな原型のある完全動物は人によっては作れるんだろう、骨組みを変えてスキンを変えるだけだからね。多分、ジェネラリストとスペシャリストで完全キメラかただの動物かに別れるのかもしれない。それに単純に孔を閉じた状態では魔術の発動はほぼ暴走に近いからね、最悪体内で暴発して内臓ズタズタになるし、彼らの言い分もまあわからなくもない。でもなぁ、キャラクタークリエイトで変ないじり方しなかったり、一回でも無理に魔力の膜をぶち破れば後は打つのは楽だから、別にそんな……まあ、良いか。
「まあトカゲ君、約束だ。赤の世界へ連れて行ってあげようじゃないか。それにホラ、ポーション類と金銭だ。色もつけといたから受け取りたまえ。」
ああ、ようやくか。……前回、結局のところなあなあで流されてしまい、僕はある程度の人数を改造することで赤の世界へ行くことになった。やっぱり、道理を自然に捻じ曲げていく大人は凄い。文句を言う暇もなく気づいたら施術をやらされていた。やれどうやって孔を開けるのかききたいやれ実際に効果があるのか見てみたいだのなんだでアレよアレよと、そう言うのは信頼を失くすからあまりやらない方がいいのに、これからは絶対彼らに隙を見せない様にしよう。警戒しながらも彼の後に付いて歩くに、彼はセーフルームの扉を開けた。彼のセーフルームを経由して赤の世界へ連れて行ってくれるらしい。
セーフルームは僕の石造りの牢屋みたいなものではなく、赤い絨毯に白い壁、鮮やかな金の装飾がある煌びやかな広い部屋だった。格差が酷いな、ゲームを進めればこう言った部屋に入れるのか? いやあ、あんまり興味ないけど。ぶっちゃけセーフルームなんてログイン・ログアウト以外に使わないし。彼が扉を閉め、青い半透明のボードをちゃかちゃかと弄ってまた開けると、懐かしい気もする赤の世界に来た。僕の半身はいつも来ているし、毎朝記憶の同期が起こっているのであまり懐かしいと言うわけではないのだけれど。……うん、やはり赤の世界は僕の世界らしいな。僕は息を吸い込んだ。
腐った様な生臭い様な匂いに、高温多湿な環境、地面は少し濡れていて、ドス黒い泥が紫色の草の下にいる。そんな最悪な環境だが、どうもいい気分だ。なんとも、清々しい気分になる。ゲームの世界に取り込まれかけているとはいえ赤の世界にいる事で僕に神力の一部が帰ってきた。おお神よ、貴方を信じます、貴方は私を貴方に似せて作られた。
「トカゲ君、これで良かったかね? ここはあまり新規登録者が来ても旨味はないのだが……。」
新規登録者が来ることに意味はなくとも僕が来ることに意味があったんですよ、僕が。早速神格の一部を使い、ボクを探した。ああ近いな、行こうナビさん、ボクは向こうだ。
「ト、トカゲ君? 大丈夫か? なんか怪しいぞ?」
大丈夫ってなにさ、そんな定義が曖昧なものに自分が収まっているだなんて誰ぞ言うこと能わん、怪う物言いはかねてより、吾は用件があるゆえこれより貴君とは別れ、行く、では。テンションが高まりに高まり、口調がおかしくなったが気にせずに走り出す。向こうも気づいたらしい、こちらに駆け寄る気配がする。次の曲がり角だ、次の曲がり角、あともうすぐ、あと一歩!
そうして巡り合った人は、ボクではなかった。いや、ボク存在ではあるし物質的に近しいものではあるが。テクスチャが貼られている。
「……知ってはいたけど、随分と珍妙な姿だね。」
そう言ったボクは、なんと言ったらいいか、そうだなぁ、パーティーゲームの2pカラー? 白いワンピースを中にして黒いローブを羽織り灰色の髪に赤い目をした女の子の様な外見だった。靴も履くことの多いベージュからダークブラウン系へ変わっていて、色が反転されたみたいだ。なるほどなぁ、そう言えば僕を男の子として見ていた人もいたしな。そう言うこともあるだろう、いやしかし、いいな、自分でもどうかと思うけれど改めて見ても可愛い。と言うか、見上げる視点だからからこそかもしれないがマイナーチェンジがなされている? 若干、骨格と肉つきが女児っぽいが……あまり小児の性別って体格に差を起こしてくれないって言うか……骨導音の差かもしれないけど、若干声も高い気がする……? 本当に男なのか不安になってくる、モデルは間違いなく僕と言う男だけど、テクスチャは女性かな。
いやでもそんな事は関係ないか。重要なのは何を思い何をなすかさ、どんなに見た目が良い人でも行動が語ることが出来ないほど醜悪極まる物ならばその人の評価は最低になる。黒人だから悪者で白人だから正義なんだと言うレッテルを持っていた多くのアメリカ国民が仕出かした罪をアメリカ国民は忘れてないだろうし、我々日本人はかつての部落や今もなおあるホームレスへの悪意を常に頭の片隅には置いていかなければならない。よくある事だし、人間は常に忘れてしまう様に進化して来た様なものなのでしつこく言うけれど、イと言う悪事を働いた人はあくまでそれだけの悪事しかしておらず、ロと言う悪事はしていない。
例えば、殺人を起こしたAさんが居たとして、当然常日頃からそう言ったことに慣れて居ない僕達はAさんを殺人者として酷く避難してしまいがちだ。だが、それがAさんの家族にも及ぶ事がある。Aさんの親は近所から村八分にされ、毎日無言電話などの悪質な行為がされたとしよう。ここで、まあ村八分は程度の度合いにもよるが、実際にAさんの親はAさんの教育に対し、ある程度の非一般的な何かがあったかもしれないので、村八分に関しては個人の自由だ。誰にだって人付き合いを選ぶ権利があるし、犯罪を起こして居なければそれは許されてもいいかもしれない。だが、迷惑電話に関し、Aさんの親がノイローゼになったり、あるいは各都道府県の条例に違反して行われてた場合、それは許されざる行為だ。事件に関係のない民間人にとって、Aさんの親はAさんを殺人を犯す様な人に育て上げた『かもしれない』人物であって、Aさんに殺人教唆をしたり近因的間接殺害をしたわけでもないのに、Aさんの親を執拗に避難してはならないし、そもそもAさんは然るべき司法判断により断罪がなされるのだから、民間が法を逸脱した行為をしていいわけがない。無論、例えばAさんが出所した後に就職をしようとして面接し悉く落ち続けたとしても、労働の自由がある様に雇用・採用の自由と言うものがあり、Aさんよりもキャリアを持っているか将来の見込みがあり非一般的な風評が立つ様な心配もない人の方を優先して雇用する事は当然ありえるし許されることかもしれない。資本主義・市場の仕組みにも絡まる複雑な事情なのでそれに関しては難しい話ではあるが。
とにかく、僕たちは何かあればバイアスをかけて見がちなのだ。普遍的な物に対しての意見である為に過激な例を出したが、例えばAさんがいじめッ子であった場合でも僕達は同じようにバイアスをかけて彼を見てしまうし、あるいは聖人君子であるともっぱらの噂であっても彼に対してバイアスがかかってしまう。だからこそ人付き合いに対して最も重要なのは相手が何を思い何を行うかを見極め、その人を知ろうとする事なのだ。その人が傍目から見て性同一性障害であろうと、その人が自分を男だと考え男として振る舞うのなら僕たちはその人を自己を男として認識し男として行動する人だとして対応しなければならない。
毎回思うのだけど、扱う事が事だけにどうも論を慎重に進めなければならないから、時間がかかるね。人として正しい行いと言うものを安易に決めて良いものではないし、今を生きてそして正しく生きようと思う人間としての義務的なものではあるからどうも、あれなんだけど。
僕を抱え上げたボクはこの卑小なる体躯に顔を寄せ会いたかったよと言いそのままホムラビの小屋へと歩を進めた。ナビさんも同行しているが、一言も喋って居ないので少し目をやるが、無表情で何か怖い……。
「あ、おーい、テンシ、アンナ! 会議開くから来て!」
そう言ってボクは道中に幾人かのプレイヤーの相手をしていたコクダやアカグモ、幾らかの虫など僕に巣食う神格を回収して小屋に入った。いやさ、圧巻とも言うべきか。ホムラビの部屋に、僕とボクの一柱、テンシさんにシュテンドウジとホムラビの三柱、アンナさんと虫達代表にナビさんの三柱、それにアカグモとコクダの二柱が、力量差を加味する事なく計算すれば計九柱の神格がいることになる。マシエッテさんは部屋に入らないからテレパシーで繋がっているけれど、彼を入れたらまあ僕の精神世界がパンクしかけたりするのも当然だよねとは思わなくもない。まあ、シレッと自分を神格にカウントしたので、若干の水増しはあるが。いやぁ1割強の水増しはでかいね、9を10だから小さいけれど。ナビさんやアンナさんはあまりしなくが強くないが、虫達の微々たる力を補って余りある数の多さと、僕と言う邪神側を挟むルート経由でここにいる存在を考えると、数的有利がどうも埋められている気もするが、しかし、確かに今の僕は邪神側ではないと言う事がなんとなく感じられる。ことホムラビ、最初はあまり有能と言うか真っ当な神に思えて居なかったけれど、確かに僕のキャパの拡張という点において、優秀な神材なのかも知れないな……。
その様な感慨を持ちながら、僕とボクは会議なるものを開こうとして居た……。




