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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
119/167

げーむ・ウェブ網

 この世にこれさえ押さえておけば面白い本が書けると言うものは無いが、これくらいはおおよその面白い書は押さえている条件と言うものはいくつかある。


 1つ、共感が得られる。2つ、的を射ている。3つ、考えさせられる。どれもまあ大概のジャンルには当てはまるが、前から主に物語文、評論、エッセイの順にその点が特に重要視すべき点になる。まあ面白い書が押さえている条件は他にも、想像を掻き立てられる、没入感がある、なんてのも上がるけれども、そこまで挙げ始めるとキリがないのでやめる。


 僕がこの3つを取り上げたのは、共感が得られるのは評論にあまりいらないし、エッセイは的を射ていなくともいいし、物語文は考えさせなくともいいからだ。それぞれのジャンルは目的が違うから、およそのジャンルに当てはまるべき項目が外れるんだね、評論は非論理的にならずに事実と評価さえ書いていればいいし、エッセイは言っていることがあやふやでも問題提起できればいい、物語なんて娯楽小説の王道なんだから戦争とは人類とはなんて重苦しい話は余程のプロでもなければ出来るだけ避けるべきですらある。勿論、三点が全て押さえられている物はそのどれかが欠けた書よりは大抵の場合は素晴らしい物ではあるのだが。


 さてさて、その点でいうと、僕が手にする教科書とはいかにつまらない書だというのだろう。教科書、分類からすると評論に当たるのだろうか、言ってることが適当だし間違った記述もあるし、道徳観も日本人的な目でいる僕からしたら首をひねりたくなるし、情操教育の為の歴史話もなんだか肝心なとこがあやふやだったり、下手な嘘がそこかしこにありふれているように思える。


 ところで、教科書と言えば、最近の子供達、まあ僕やヤマオカさんの友達だから今の高校2年生くらいの教科書とは、ネットであったりもする。それは僕の様にネット環境というか電子機器にあまり馴染みのない一部や、ネットをあまり使用しない一部を除いて概ね正しいはずだ。それというのは、SNSを使用する事が手っ取り早く友人を作る方法であるからだ。新年度にクラス分けをして数週間程度したらクラスのSNSグループができていたりするらしい。そのグループでは明日の宿題とかテストの日程が書き込まれたり、他愛のない会話をしていたりするとかなんだとか。そんなこんなで、多くの学生はSNSをしているが、SNSをするには電子機器、情報通信機器が必要だ。で、ネットに子供のうちから触れることになる。


 ネットと言うのは面白いもので、様々な人種に会える。バイト先の冷蔵庫に入るイカレポンチに、極右極左など際立った政治思想を持つ人、平和活動を訴える人、まあ例に挙げた通りここで言う人種というのはこれらの様にDNA情報に拠らない人種だが。言の葉の折々に潜む様々な政治主義・宗教概念・人生的思想に触れ合うことで、子供達はかつての世代より一足早く世に擦れていくわけだ。だから、その様にはネットに触れていなかった子供の僕が言うのもなんだが、世の子供は世界を冷ややかな目で見ているとかなんだとか。まあ実際、僕が俗世の情報を得るには友達との世間話やテレビ・ラジオに新聞くらいで、ニュースサイトで色々とアメリカヤバいだのフランスヤバいだのと言っていた友人よりも格段に世界に対する情報量は少ないのは事実だった……と、思う。ここまで詳細に言っててなんだが、これは僕の中にある微かな記憶を参考にほざいているだけで、実際にそうなのかは知らない。適当な事を言うのは前からだから許してくれ、そも、この話は学生という身分で社会に対する不信感や不満、不安を抱かなければならない子への同情から逸れた話で、本題じゃあないんでね。まあ、同情すべきはアフリカや中東、中国内陸部の更なる不幸な子供なのかもしれないが……まあ、語るのはやめておこう。日本の子供いや日本人がどれだけ恵まれているかどうかは、今語りたいことでは……ない。いずれ語りたいことではあるが。


 とかく、ネットには世界のありとあらゆる情報が、いや世界に関する有る事無い事が載っている。例えば実銃の仕組みや大戦中あたり古い銃弾の火薬の配合比率、あるいはアフリカで一部の地域はいまだに注射器が使い回しの状態であったりする事やモロッコのサハラウィなど世界各国の民族独立問題まで載っているそうだ。話が逸れそうだね、ごめん。で、超リアルなゲーム世界だと、現実世界とほとんど同じことができるわけだが、そう言った知識を持った人がそう言ったゲームに入ると、銃を作っちゃったりできてもおかしくはない。おかしくないと言うか、ナビゲーターからして機械だから、まあそういう設計でもあるのだろう。


 だがしかし……リアルからゲームに情報が持ち込めるなら、ゲームからリアルへ情報が持ち込めることもあっていいはずだ。まあ、魔術なりナビゲーターアンドロイドの高性能AIなりがそうであるのだけれど……僕がこうして話しているのは、今、邪神共の使い筆頭と対談をしているからなのだが……うん、やっぱりゲームは情報の流出に制限をかけているらしい。それはまあ、随分と昔のことのように考えられるけど、前に産業スパイごっこをしてた女性とあったからわかっていたことでもあるね。こちらでの未知のテクノロジーを向こうの世界へ運び出すこととかも頑張ってるそうだ。ハードというか技術体系が違い過ぎて未だにタンパク質の電位差を利用しうんぬんくらいしかわかってないらしいけど。


「それで、これからどうするのだね?」


 3対の腕と三つの顔を持つチンパンジーが葉巻を吸いながら聞いてきた。それを見守るロボット擬きとナメクジ擬き、相変わらずこのゲームの一部のプレイヤーはグロテスクな見た目をしている……。僕は彼らに選択を迫られていた。服従か死か、究極の二択だ。本当に、なんだってこんな事になるんだろう……。ナビさんに頼んでルームを縮めて貰いたいのだけれど、ナビさんは今は邪神との交渉中で、どうも敗色濃厚だし……。


「僕が組織に加わってどうなると言うのです?」


 何度も教えただろうとナメクジが粘液を撒き散らしながら笑った。まあ、確かにそうなんだけど、だけど、僕が彼らに求められた条件はどうも受け入れがたいもので、しかもその組織とやらに入る意味もないように思える物だったのだ。


 彼らの望む物はただ一つ、魔法の伝授だ。まあ実際に使ったことがない君達だって言われずともわかるとは思うが、魔術や魔法を使うと言うのは中々に独特な感覚である。運動神経が通ってない筈のものを動かしたりするんだから、それはそれは独特だし、そのメカニズムはわかりようもなく考えるだけ時間の無駄なような気もする、そんな訳で魔法を使うプレイヤーは手探りで魔法を使っていかなきゃいけないのだ。だが、魔法や魔術を使うには孔と呼ばれる魔力の通り道が必要だ。それは魔力を無理に押し込むことで開いてしまったり、魔術を使い続けることで形が変わったりするもので、結構デリケートな物でもあるのだが、その癖に魔術の発動効率に深く関わってきやがる。その為、普段からスキルと言う唱えるなり念じるなり発動方法は魔術とは似ているが魔力を移動させたり捏ねたりせずともなぜか発動してしまう訳の分からない物に頼っていると、当然孔はおかしくなるし魔術の腕も落ちると言うか上がりようがない。その点、魔術を持ち前の技術でどうにかなる所をどうにかすれば魔術の腕は自然と上がるのだが……。


「それはない。その方法が有効ならば既にやっている。」


 なんだってよ。僕にわかっているのはそれくらいなのでどうもしようがないのだけれど、彼らは何かある筈だと言って聞かない。ナビさんをちらっと見ると、残念そうに首を振った。PvP専用アイテムだっけ? 余計な事をしてくれる……魔眼を使ってみても普通の紙っきれのように見える護符と言う物が、ルームの収束を阻害し、また高位の持続回復魔法をかけられている為に自害をしてセーフルームにも戻れない。この状況から解放されるには彼らの提案を飲むしかないのだけれど、それさえも難しい。


「君も諦めが悪いな。早く秘密を教えればよかろう、全部を教えろと言ってる訳でもないのだから。」


 僕のボディが特別とかじゃあないんですかぁ? 相手を見下し始めた僕は面倒になってきたので適当に返した。どうせ、こちらの世界で日を跨いでも現実の時間は進まないんだ。もう、なんでも良いように思えてきた。むこうの時間もただじゃあないんだ、交渉不能となればどうにかなるんじゃあないだろうか。そんな淡い希望さえ抱けてきた。


「なんなら君と同じボディを持ったプレイヤーを連れてこようか?」


 じゃあもう打つ手なしですね。貴方が教えてって言って私が知らないものは教えられないって千日手って奴ですよ。


「君、赤の世界に行きたいんじゃあないのかね?」


 行きたいけどもさあ、どうしようもないでしょ。まあ赤の世界に行けばマシエッテさんやらホムラビやらの親しい神格からどうにかしてもらえるかもしれないけれど、それは不確定情報だしなぁ。て言うか、なんだってこの人たちは魔法に対してそんなにこだわるんだろう。聞こうかなあ、でもなあ、聞いても答えられないしなぁ。


「コレからは全てのフィールドに網を張る。オンラインプレイができなくなるぞ。それでも良いのかね。」


 まあ、致命的ではないからね。直ちにストーリー進行に影響があるっていうのならそれはそれで別の話だけど、本当に直近の問題になるって訳ではないんでしょ? はあ、しかし迂闊だったなぁ、古戦場でのお金稼ぎにルームをオンラインにしてもらっただけなのに、まさかこんな事になるんだなんてさあ。


「……イスハークを呼んでこい。」


 ナメクジ擬きが沈んだ声をだした。イスハーク?……たしか、旧約聖書に出てくる生贄の子供がイサクだったけれども、その名前は英語圏になるとアイザックになるんだよな。だからイスハークさんと言ったらその起源の近く、いや起源と言ったら出エジプト記的にエジプトかも知んないけど、とかく中東付近の名前だろう。中東と言うと、まあ元日本人現貴族の温室生まれ温室育ちの坊やだからなんだけど、恐ろしく思えてしまう。余程コワモテな巨漢でもないかぎり良い身なりで一人歩きはできないみたいな……都会ですら女性が夜一人歩きできる治安のいい日本で育った人ならわかるだろう? 僕はそも報道規制が敷かれるような国は信用しない主義なんだ。だから、中東の男を呼んで僕をどうするつもりなんだって、まさかハードな尋問をするつもりじゃあないだろうな? 幾ら痛みにはある程度耐性があるとはいえ、意味もなくというか、逃れるすべもなくただただ痛めつけられるのは嫌だぞ。痛みの耐性だって、訓練で傷ついたりとか神様に殺されたりだけだし。


 しばらく待っていると、優しそうな女性が現れた。女性を目にするとき、まずその美を褒めてから色々ととやかく言う僕だが、その無礼を働かないと言うことからその人の美醜を判断してほしい。いや、そもそも外国人の美人と日本人の美人は違うのだから、向こうの人から見れば美人なのかもしれないが。ついでに、人種も中東系で、デザインに白で月と星があしらえられた赤い帽子をかぶっている。生粋のトルコ人としてはあからさまなデザインだし在日トルコ人とかそんな感じかなあ。


「待たせたな、イスハークだ。」


 コレはコレは、お初にお目にかかりまして光悦至極。私、トカゲと申しております。さて、如何なさいましたか? 僕は適当に流した。やる気が起きないからだ。眠気すら感じる。そうだ、世間話でもしましょうか、イギリスが乗り捨てようとしたりフランスやギリシャでも入れる様なEUの調子はどうで……って、わかんないかー! トルコってEUに初期からラブコールしてるのに後進国にドンドン追い抜かされて行ったもんねー! トルコ、EUじゃなかったかー! なんて煽ってやろうかしら、まあしないけども。向こうの世界ってどうなんだろう、前にアメリカ人の記憶を漁ってみた事があったけど、アメリカの暮らしってWASPと言うかまあ大国故の悩みで格差社会がどうしても消しきれないからあれなんだよね。アメリカの衰退が起きていたりとかの大きな変化が向こうにあるかはわからない。もしかしたら東亜は世界で一番貧しい国で、アフリカ大陸が世界で最も栄えている世界かもわからない。


 まあ、ぶっちゃけ、ないとは思うが。世は必然でできている、それはまあカオス理論でうやむやになるんだけど、地理情報がほとんど同じなら世界の栄え方なんて変わらない。アフリカの様に人類に対して酷く劣悪な環境ではどうしてもリソースをそっちに割かざるを得ないし、地中海の様なそこそこ理想的な環境だったらその分他の事にリソースが割けてしまうので目に見える形で文明が発展して行く。まあ中国の様に理想的な環境だったのに西欧化に日本より遅れをとりかける事もあるので、そこら辺は素人が安易に突っ込んでいい話ではないのかもしれないが。まあ日本の場合はアメリカのスクラップアンドビルドがあるから、どうもね。だって大日本から普通の日本になったのは初期にマッカーサーさんGHQが主導となったのも大きいし、そうなるには日本が共産主義のソ連と中華に地理的に近かったというのも絡んでくるし。まあ、そこは人類の起源アフリカから遠かったからと乱暴にかたずけてしまう事にしよう。起源アフリカは人類に厳しいのでアフリカから出なければ発展しなかったが、出すぎるとそれに時間がかかってしまい、遅れてしまう。日本がどんぐり美味しいって言ってる時にギリシャは既に出来てたんだから、それは確かな事だろう。そしてそうやって最初生まれた僅かな……まあいいや、僅かな差でドンドンと貧富の差というものは開いて行くものだ。それは、文化の発展というのは発展係数の大小にも影響する二次関数的物だという事を暗に示しているのかもしれないが、そこは置いておいて。


「なあトカゲ君、話を聴いているかい?」


 ぼんやりと考えていると釘を刺された。イスハークさんは男の人かな、どうも距離が近い。いや、僕が小型犬くらいしか大きくないのでどうも近づかなければならないのだけれど。トルコはイスラム圏、まあだいぶ緩いけれども、それでも女性は男性と比べて慎ましやかな生活をしているから、どうもリアルは男性の様に思える。まあ名前からの連想もあるけれども。女性キャラで太郎を名乗られてる様なものだからね。


「トカゲ君、私の話を聞いてくれ。そうだな、聞くだけで赤の世界へ連れて行ってあげよう。いいかい?」


 僕は直ちに居ずまいを正し、話を聞く姿勢をとった。曰く、彼らはあるモンスターを倒そうと準備を整えている段階らしい。相手はとても強く、単純に包囲して戦うだけじゃとても倒せず、現代兵器でももはや弾道ミサイルでもない限りは効かないらしい。幸いな事に時間はたっぷりあるので、兵士全体のレベルアップを図っているそうだ。戦車でも無理なら諦めろとしか言いようがない様な気がするのだけれど、もしかしてレベルが上がると戦車の砲撃を超えるレベルで戦えたりするのか……? ゾッとしないな。


「トカゲ君、長時間拘束してすまない。お腹がすいただろう、何か食べないか?」


 ……ああ、なるほど? 良い警察悪い警察か。使い古された手だけれど、中々に優秀だからこそ使い古されているんだ。イスハークさんを重々しい雰囲気で読んだ事によって、僕に安心感をもたらそうっていう話か。乗ってやっても良いが、乗ったところでと言う話だ。しかし、どうして赤の世界へ僕を連れて行くんだろう……北方領土返還するよってテーブルに着かせておきながら、主権は私たちのものねって言うみたいな魂胆なのだろうか。それとも、もっと別な、何かが……?


「トカゲ君、ケバブは好きかな? 東京では好まれるのだが。」


 中東人だからケバブ? なんとも安直なキャラ付けだけれど、そうやって不思議を装う事で正常な感覚を奪って行くつもりか? ああ、やばい、側から見たらこれ人間不信だな。ダメかも。そうだな、頭をリセットしよう。ケバブは好きだけれど、カモノハシは人間の様な歯が無いからプリンやぬるめのおじやみたいな柔らかいものを頼む。生のエビや小魚の踊り食いは勘弁してくれ。僕がそう言うと喉をくっくっくっと鳴らし、イスハークさんは笑った。


「わかったわかった。じゃあ柔炊きピラフでも用意させよう。」


 ピラフってフランス料理じゃないんだっけ、よく覚えていないが……僕の態度が軟化すると、後ろからやはり女かと言うつぶやきが聞こえる。辞めてくれないか? 女性だから態度を軟化させたとかじゃないから、むしろ人型だからの方がまだ可能性としてはあるから。て言うか天然かどうかは知らないけど良い警察悪い警察やっておいてそれは無くない?


 僕はナビさんと一緒に世界三大料理に数えられるトルコ料理を待ちながらそんな事を考えていた。


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