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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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いじらしいじらしのとうてんまよい

 ヤマオカさんに彼女の事を話すと、自分がなんとなく探ってみるから、しばらくは待っていて欲しいと言われた。まあ、僕は性急であると言われると否定はできない。僕は人とは違うテンポで生きてしまう、それで何か大きな損をしたというわけでもないので、僕はそれを恥じた事はあまりないが。とかく、僕はこの件において一週間かそこらを待つこととした。


 さてさて、日課の訓練だ。僕は寮に着くなり剣を腰にさし、部屋の扉を開けクロノアデアを見るなり行こうかと声をかける。まあ、帝都に着くまではサボっていたが最近は習慣化しているから、最低限の声かけだけだ。その内に『やあ』とか『じゃあ』とかのもはや鳴き声レベルのものになり、いつかはボディランゲージとかアイコンタクトの、動物的な物に移るだろう。悲しいね。


「坊っちゃん、訓練はいいのですが、その前にお昼に例の調べ物が届きましたのでご確認を。」


 クロノアデアはそう言って僕を部屋の中に入れて奥にあった木箱を見せた。中に色々と書が入っている。例の調べ物というのはアレだ、ゲーム関連だ。帝国や王国の地理、オソレ山とやらの伝説、他には各地にある伝説などの調べ物などなど、ほんの少し前に裏で調べるようにと言っておいたんだ。些か早すぎやしないだろうかと尋ねると、全て帝都で見つけられた書物で、今回のは一時報告らしい。王国の地図もゲームで得た情報に誤差があったら、別に大した価値のある物では無いが……。


 ああ、うん……残念だね、どうやら特にこれといっためぼしい情報はなかった。まあ、所詮ゲームはゲームというわけだ。別に火に包まれた山もなければエルフとの国境でそのような事件が起きたというわけでもなかった。だが、オソレ山と言う地名は実際にあるようで、脳内にある向こうの、ゲーム世界のマップもまあまあ手元にある地図と同じであるため、おそらく地理情報は当てにできるかな。ゲーム世界でボクの待つ赤の世界へ行くと言うのは当面の目的ではあるが、その為の道がわからないのだから、行き詰まったらこの地図を参考に帝国へ訪れてみるのも良いかもしれないね。……まあ、そも、最短で赤い世界に行くにはどうしたら良いですかとタナカデスさんに聞けば良い話なんだけど、彼らとの繋がりは面倒臭いから自分から切った道だ、今ぐちぐち言っても仕方がない。


 一通り書に目を通して感謝を述べておくと、クロノアデアはどうして急にこんな物を求めたのかと聞いてきた。授業で地理情報が出てきたりするから、まさか聞かれないとは思うけれども押さえておきたかったのさとでも答えておくと、勉強の意欲があることは素晴らしいことですと頭を撫でられる。ゴロニャン、ノドモナデテ。なんておふざけは実際クロノアデアは本気にするのでやらないが、僕はようやっとと言う思いで外に出ようとしたが、今度は寮の玄関で見知らぬ上級生……いや、僕をスカラークラブに戻したパイセンの側にいた事のある、リザードマンだかなんだかが話しかけてきた。


「少し良いか? お嬢様から伝言がある。」


 なんだよ一体と思いつつ話を伺うと、どうやら今日は自分が校長先生との授業があった放課後すぐに迎えに行けなかったがだからと言ってクラブをサボった事は良くないと言う言伝と、それに明日は貴女の番だそうだ。僕の番? 一瞬ピンと来なかったが、そう言えば昨日は先輩は明日はアンタの番なんて言われてたな、それと言うことはつまり僕が校長先生の授業を受ける番……と言うことか? 僕の使い魔一体に手こずるアイツから何かを学べるとは思わないけれども……。まあ、数学の解法を最も効率的な1つを知っていると言うことはそれ以外の何かを学ばない理由にはならない。効率的と言うことは、目標としていない物に関しては特に何も産まないという事だ。まあ、目標次第で色々と動くものではあるが。とかく、複数のアプローチを学ぶということはまあわるいことではないだろう 悪いことではないだろう。特に、僕のようにクロノアデア、特定の誰かとの戦いの中で色々学んでいる人は戦い方がどうしても我流になりがちだからね。


「坊っちゃん、次は貴女の番とは? 何の話をしているのか伺ってもよろしいでしょうか?」


 一人でハイハイと納得していると、クロノアデアが現実へ戻してくれた。僕はクロノアデアに貴女とは我が愚兄率いるスカラークラブから見た僕の事で、そして明日は通常授業とは違い校長先生から指導を受ける予定であることを伝えた。


 そうすると、さあ早速訓練に行こうかと息巻く僕の隣でクロノアデアは少し傾げそれはなんともと声を漏らした。女性らしい格好をさせろと命令されたからとは言え自分で育てた男の子の僕が遺伝子的実兄から女性扱いされていることは色々と悩みどころだろうね。僕はもう慣れた、男だって言っても聞かない奴に一週間そこらですら悩み続ける必要はない。ニーチェも言っている通り事実なんてものはなく有るのは解釈だけだ、有る側面から見たら僕は女性としか認知できないんだろう。畢竟、自己で有る僕と僕の世界の大部分を構成する家族であるクロノアデアやポミエさん達が僕を男だと思って入れば良いのだ。腐ったみかんは腐ったみかんで箱詰めに、腐った世界といつまでも関わっている必要はないのだから、当面の所に問題がないのなら不快な世界からは目をそらそうじゃないか。


 僕が適当に上記のことを掻い摘んで話すと、クロノアデアはそうではないと言った。おろ?


「私がより問題視しているのは、校長との訓練です。坊っちゃんは魔眼や肉体の改造など失伝された呪文が使えますし、戦いの型が形成され始めた時期でもあります。ですから……」


 ああ、なるほどね。魔眼と言うのは前にちょろっと使った事のある魔術だ、簡単に言えば少し細工した魔力を目に溜める事で可視光を放っていない魔力を目にすると言う不死属くらいしか知らない程古く廃れた魔術だ。本当はもっと複雑だけれど、まあ語っても仕方がないので割愛。ともかく、校長の前で魔眼やら人体改造の術なんて物を使って見てでもしたらそんな物を僕はなんで知っているのかと言う疑問が湧いてくるだろう? そう言う方面で困ることがあるそうだ。しかし、いやさ、型が形成され始めているとは?


「お気付きでは無いのですか? 特に顕著なのは剣の中段の構えですが、型がだいぶ破れていますよ?」


 剣の中段? そう言われて僕はすぐさま腰にさした剣を構えてみた。確かに、重心やら肩の出し方が少し崩れている。教わった当初の構えをキチンと直してみると、この構えでは無いと言う違和感というか、自分に合っていない構えだと言う感覚もまあまあある。……これは一体?


「守破離ですよ、型を守り、破り、離れる。坊っちゃんは破る段階に近づいたのです。」


 守破離、まあクロノアデアの言葉を日本語に訳すとそうなる。そんなん全然聞いたことないんだぜという人に説明すると。守破離とは日本に昔からある考え方で、千利休が歌に詠んだこともあるだとか。型っていうのは、言わば器用貧乏の力である。例えば力自慢だけど鈍臭い人と、貧弱だけど敏捷な人の戦い方が同じであるわけがないだろう。だが、それでも一律に同じ動きを押し付けるのが型だ。当然、型として受け継がれる以上は型を作った本人以外誰も使えないと言うのはないのだから、万人向けの、誰にも向いてはいないが、誰でもある程度は使える剣術になる。だが、力自慢向けの戦い方を得た力自慢の人とそうでない力自慢では当然前者の方が強い。そこで型破りが必要なわけだ。型と言う量産機を破る、つまりは専用機にカスタムしていくわけだね、赤くして通常の何割り増しの性能に改造した機体で、三倍の速さで木馬に近づくわけだ。誰だってその機体を使えるわけではないけれども、その機体にマッチした人ならば滅茶苦茶な成果をあげられる。 それが型を破るということ。ついでに足を取っ払った機体などでも充分に戦うことを型から離れると言う。


 所で、ここまでは知識共有であって、僕の知っている知識を吐き出したまでに過ぎない。だから、君達も僕と同じでクロノアデアの言わんとすることがわからないと思う。そこで素直にどうして不味いのかと聞いてみると、単純に戦い方が水と油というか、現代帝国流の戦い方は僕が身につけた型の特性を台無しにするようなものらしい。それはつまり、個で戦う型のことだ。僕は下半身がしっかりしてないからこそ動きまくる、普通は地面にドッシリと構えて戦おうとするらしいが、僕のように動きまくって戦い続ければ、それは常に正しい振りがしやすくなるからだ。この話における正しい振りというのは、剣をしっかり持ち上げ、しっかりと正面に振り下ろすと言う動作で、足腰の動きは無視している。だがしかし、それ故にと言うべきか、動き回る僕と一緒に戦うことは恐らくクロノアデアレベルですら難しい、十全に己の実力を発揮するにはお互いの存在が邪魔になるからだ。だから僕は手数を増やすために弾丸を撃つ魔術を使ったりするわけだが。


 ぶっちゃけ、魔術師の帝国と言う制度はともかく、魔術師の軍隊とはかなり残念だったりする。魔術師っていうのは僕の中では未だにファンタジーなんだけれども、ファンタジーなのに、彼らはファンタジーを殺しに行っていると言うか。乱暴に言ってしまえば銃だね、帝国魔術師の戦い方は銃撃戦だ。味方が近くで戦っているのに銃をぶっ放すわけには行かないだろう? だからこそ、帝国の魔術師は火や雷を遠くに放つか、あるいは土木建築のどちらかであったりもするんだが……。ファンタジーと言えば剣と魔法なのに、奴らは剣を殺している、それはつまり、刀から弓へ、弓から銃へという近距離から遠距離で戦うというそれと同じなんだなぁ。


 とかく、僕のように近づいてブン殴るタイプとは真逆なんだね。そういう人と実戦を積むのはまあアリだとしても、クロノアデア的には今僕の戦い方というのが確立されている中でそういう戦い方が混じるのはいけないらしい。君達にもわかるだろう、思春期にしろなんにしろ、形が出来かけている段階では影響が出やすいものなんだ。それも悪い方向にばかりね。


 だが、そう確かにクロノアデアの考えも最もだが、僕は別に校長との組手を頼めば特に問題はないように思える。あるいは、彼に頼んで学校の蔵書でも見せてもらうのもいいかもしれない。学校とは言えこんな前時代なんだからカリキュラムなどがギチギチと言うわけでもないのだ、そう言って特別授業の内容をどうにかする柔軟さもあるだろう。


 そんな事を言って、僕はクロノアデアを急かしながら森へ連れて行った。三度だ、三度だぞ? 最初は彼女自身から部屋に招き入れられ、次は何処の馬の骨かもわからん爬虫類ごときに呼び止められ、また彼女から困った事ですと、さあ戦いだと思った側から三度も焦らされて、僕はもう限界だった。クロノアデアとの楽しい楽しい訓練が始められそうで始められなかったので、もー……限界なんだ。

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