信じ頼る、信じ用いる、真の重さ
アンタの情報を完璧に信じるわけにはいかないわ。証拠がないし、アンタはヒューマンだしね。でもまあ、長老様達には伝えといてあげる。
僕の住む世界でのエルフではなく、指輪物語的なエルフの姿をしているエリィさんの言葉だ。だが、帝国の隣国である王国がそのままあったりして、まあまあこちらのゲームの世界と僕の住む世界はリンクしている。エリィさんの話す言語は実はエルフ語だったりする。僕の知っているのは古代エルフ語なんで、少し会話に難はあるが、まあ……うん。エルフの寿命自体が250から長くて500年と長いのでどうも若者言葉と標準語みたいな違いなので、どうとも言い表しがたいが。
「それで……アンタはこれからどうするの? まさか、私達と一緒にヒューマン狩りにでも行く訳?」
エリィさんは僕たちの情報を信じるかどうかの分岐点に立たされている。確かに人間達よりも早くに第三勢力のグールが居なくなると知ればそれはアドバンテージになり得る。だが、嘘の情報であった場合はその逆、グールの対策を怠った結果として痛い目を見るだろう。だから僕達が信じるに足るかを測っているのだ。なんで同じ種族ヒューマンではなくエルフに情報を漏らしたのか、そしてこれからの動きはどうなるのか、それを知らなければ彼らも気が気でないだろう。ここは正直に話しているとどうにか信じ込ませるしかないが……。
【僕達はキーアイテム……えっと、今回の古戦場を呪っていた杖みたいな特別な魔道具を探しているんだ。今回は取られちゃったけど、ほかの奴を手に入れるため情報を探すつもりだよ。エリィさん、そう言う噂とか知らない?】
今回はテレパスにまあまあの余裕がある。レベルがだいぶ上がっているし、やった事と言えば古戦場で襲いかかるグールを追っ払うことぐらいだったからね。疲れる分には変わりないけれどね。僕の考えでは、だ。僕の考えでは、今の発言で僕達は彼女の目に放浪の魔術師として映っているだろう。もしこれで僕が『もちろん、エルフの軍に味方するヨォ~!』なんて態度だったり、『ヒューマンの軍にも同じこと知らせる、フェアじゃないとね』みたいな行動にでるなんて言ったら、一気に僕の信用が地に落ちていただろう。
まず、僕達はエルフに味方する理由がない。もし前回、ヒューマンが憎いとかそう言う態度を取ってたならまだ信用されたかも知れないけれどそんな事はしてないし、ここでエルフに味方したらクソ下手な情報工作員として見られるのは確定的に明らかだ。次に、ヒューマンに同じ事を伝えるとかヒューマンに関わる行動を取るなんて言うと、それは僕がヒューマン相手に森の地形とかの情報を流しますと言っているような物になる。帰り道のことを考えるとヒューマンの軍に加わるって正面切って言った方がまだ安全まである。まあいずれにせよ、戦争に関わるのはあまりエルフ達からしたら信用できないだろう。
だから、僕自身は戦争に興味ないふりをする。ぶっちゃけた話、これで望んだ通りの事、この抗争に巻き込まれる事が起きるかはわからない。エリィさんがそんなん知らねー、無駄足ご苦労サンパウロとか言いだせばもう当てもなくマジで放浪するしかないし。祈る思いを悟られぬように僕は振る舞った。
「あー、ある分にはあるけど。」
おお神よ。そう言えばどうでもいい事なんだけど、なんで米人は困った時は神に向かって話して、嬉しい時は自分の幸運を喜ぶんだろう。オーマイゴッド、オーマイグッネス、なんだかこう……恩知らずというかなんというか、普通は逆なんじゃあないか? まあどおでもいい話だが、少し思っただけで。気持ちを落ち着かせながら僕はエリィさんの話に食いついた。
聞く所によれば、里の蔵に封印されている骨董品の壺がそうなんだとか。実を言えば、この山には言い伝えがあるそうだ、ヒューマンの里ではもう既に語り継がれなくなってしまったほど古い言い伝えが。かつてこのオソレヤマやオソレダニは黒煙を上げ燃え盛る業火に包まれていた。故に山を挟んで生活していたエルフもヒューマンも触れ合うことはなく、お互いの住処で平和に暮らしていた。ところが、ある日のこと、流離の魔法使いが何処からともなくやって来て、数日間くらい接待してあげたとこ、お礼にと言って山の火を壺に閉じ込めてしまったんだそう。魔法使いの協力もあって山は人避けの呪いをかけられてエルフの好き勝手できる住処へと変わった。
だがしかし、諸行無常、呪いはいつしか解け、ヒューマンがゾロゾロと山を開拓しに来るようになった。しかも呪いが弱まったように壺の封印こ弱まり始めて、壺は蓋から常に火がコトコトと漏れてるように。誰の目からでももし壺に物理的な衝撃が加わったらまたすぐに山は火に覆われてしまうのは目に見えていた。以来、エルフ達はそれを火吹き壺と言って万が一封印が解かれることのないように厳重に保管してるんだとか、対侵略者用最終兵器として……。エルフは山を住処にしていることから判る通り、軟弱なヒューマンみたいに定住地を必要とはしていない。曰くあれば嬉しい程度だから、本当に切羽詰まって山を捨てる際には敵が増長しないように痛い目を合わせられることができるんだと。
……そんな物を僕が触れられるのか? いやまあ、ゲームだし大丈夫か……ナビさんを仰いで意見を聞く。
「常に火を漏らす壺……コレは、耐火性の入れ物が必要ですね。」
耐火性の入れ物……? と言うと、金属製の箱とかか。なあんだ、残念な事にプレイヤーはテキストフレーバー程度の火は無効化できるとかそんな事はないようだ。はぁー面倒臭くはあるが……まあ、ゲームだしね。仕方がないや。ナビさんによればチャチな物だとサラマンダー、まあウーパールーパーの原生種の皮でもいいらしいし、いざとなればオソレダニの戦場でお金を稼いでこの世界でばら撒けば、市場は大変な事になるだろうが火鼠の衣的な何かを買うなりなんなり、どうにかなるだろう。
「まあ、長老も別にヒューマンがどうにかなるんだったら別に壺をくれると思うよ。どうする?」
取り敢えず、話には乗ろう。だが、そのためには長老と会いたい。いや、会いたいとかではなく、意見の交換をしたい。ヒューマンをどうにかすると言ったって、具体的にどうすればどうにかしたと見なせられるのかだ。
例えば、まあ出来る出来ない実行するしないは置いておくにしても街の住民を皆殺しにすれば当座はヒューマンの問題は出ないだろうが、それも時間の問題ですぐに人間が外道エルフの猿どもを皆殺しにするぞと山へ押し寄せてくるだろう、それじゃあいけない。かと言ってヒューマンを支配下に置くのも難しい。僕達には組織を下すとかのノウハウがない、ただ単にトップを叩けばいいと言うものでもないだろうしね。それじゃあとヒューマンと和平交渉を結ぶとしても、それは両陣営のトップがやる事で僕達が関われるのは場のセッティングくらいだ。あと、和平交渉は相手が信用できる場合にしか結べないしね。
そのようなことをナビさんに言ってもらうと、エリィさんは難色を示した。聞くに、混じり物のエルフではおいそれと物を伝えられないそうだ。混じり物というのは、まあ……風貌がヒューマンやドワーフに近いエルフの事だ。僕の住む世界ではエルフは死人もかくやと言った青白さとウサギみたいな長い耳をしている、だけれどもこのゲームの世界のエリィさんは違う。エリィさんは普通の血色で、言っても三角定規の尖った耳をしている事以外は普通のヒューマンと同じような見た目だ。僕はゲームだからだと思っていたが……どうも違うらしいな。日本にいる間は実感がわかないが、未開の地では血の問題は結構デリケートな話だから、どうだろう、安易に触っていいものか……。
「ま、数日中には返事を出せると思うわ。それで……それまでどうしようかしら。」
エリィさんの一声は、考え無しに行動していた僕の思考を現実に返してくれた。そう言えば僕はヒューマンの街に戻れないのに、どうやってログアウトすればいいんだ。慌ててエリィさんに近頃、急に現れたドアはないかと尋ねた。そして幸運な事に、ドアはあるそうだ。ああ帰れるようで良かった、しかし、つくづくゲームなのだなとは思わせてくれる設計だ。エルフ側についても別に進行上は問題がないという保証でもあるし、別にセーフルームがある事自体に不満はないのだけれど、世界観的に少しどうなのかとは思う。まあゲームをたくてプレイしているわけではないのだけれど、プレイしている以上は楽しみたいと思うのが人の性というものじゃないか。
それから僕は不満を抱きつつ、ゲームをログアウトし、邪神共の待つ白の教室に行った。邪神共もこの頃になるとダレるというか慣れて来たようで、今日は邪神の御付きの男なんて生徒の席に座っていながらもワインを脚を組んで飲んでいた。邪神である十三個の黒板の裂け目も、多少素を曝け出し始めていてぬらぬらとした触手をにょろにょろと漏らし始めていた。
彼らの姿は僕と言う存在が受け入れられる物に合わせて変化して行く。ぱっと見は十三の裂け目が円状にあって、また変なささくれのある白い黒板だけれど、目を凝らすと言うか存在を受け入れようとすると、裂け目のうち三個は口でその他は目、ささくれはイソギンチャクのようなツルツルとした粘液にまみれた触手であることが頭に叩き込まれる。彼の真の姿を僕が認識すると僕が空気を入れすぎたゴム風船みたいに弾けてしまうので、邪神の気遣いで僕の認識できる範囲で姿を見せていてくれているらしい。ふざけるなよ、僕はどんな醜悪だって美しいと受け入れてやると躍起になって彼らの真の姿を見ようとすれば頭が痛くなって吐き気もするので実際にそうなんだろう。
「で、今日はどうだね。エルフと接触をしたのは見たが。」
どうもこうもないね。記憶、読み込めるんだろう? 面倒だからしないだけで。そうだな、ナビさんはよくやってるよ、嫌な顔一つせずに。彼女がどう言う立ち位置なのかは知らないが、彼女になにかご褒美があってもいいと思うね。他には……そうだ、セーフルームについて一言——
「相変わらずベラベラとよく飽きないな。」
そりゃあ飽きないけど。僕は少し固まった、怒りで頭がどうにかなりそうなほどだったのでそれしかなかったのだ。気の狂ったような白の教室はどうも感情が激しく揺すぶられる。そもそも、君たちがゲームレポを出せと言ってきたからこうして来るだけで不快になる空間にて長々と語っていると言うのに!
僕がプリプリと怒ると、邪神共は愉快そうに悍ましき笑い声を響かせ、僕にレポートの続きを促した。なんだってんだ一体、ああくそ、もうこの場は語らない事にしよう、僕は早々に現実世界に帰ってきて朝を迎えた。終わり!
腹立たしき空間とは違い、朝は非常に穏やかだ。ちと分割された僕とボクの記憶の処理に頭が痛むが、まあクロノアデアとポミエさん2人の顔が観れる以上これ以上の幸せはなかなかない。しかし、赤の世界に残ったボクは相変わらず謎の行動をしている。最近では赤の世界でお店を始めたようだ、プレイヤー間の取引をNPC、つまり運営側の立場に居るという事を利用して色々としている、例えば預かり物をしたり伝言を伝えに行ったり、まあ子供のお使い程度の事だな。
だが、そう思う僕もあまり良い行動をしているわけではない。今日やったことといえば山の散歩とエルフの女性との会話じゃないか、しかも黒騎士に遭遇したって事はボクに会える可能性があったって事じゃないか、アレに勝負を挑めば良かったのに。
おお、頭の中で僕たち2人がお互いの行動を批判している、毎朝のことだけれどもカオスだ。
「坊っちゃん、どうかしましたか?」
痛みに頭を押さえているとクロノアデアが顔を覗き込んで来て、痛いの痛いの飛んでけーと僕に鎮痛の魔術をかけた。可愛すぎる、可愛さの概念体と言えよう。彼女に癒されたところで、僕の1日が始まる。今日は何事もなく過ごせるといいのだけれど、まあ完璧に一日をどうすごすのかを考えるには事前情報が足りないので多分なんらかの予想外は起きて特筆すべき事柄が出るだろうね。ま、日に新鮮な何かがあるのは脳にいい事だと言うし、忌み嫌うわけではないが。




