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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
110/167

どっぽもの

 僕は今、猛烈に燃えている……!


 もちろん、やきうに対してではない。僕はゲームの世界で燃やされてゴロゴロとのたうち回っている。ゲームだから結構余裕だ、熱いという情報はあるのだけど本当に燃えているという苦痛や実感がない。


「ふははは、これが戦争というものなのだよ! いいか、逃げる奴は焼け! 逃げない奴も焼け! 戦場とはそういう場所だぁ!」


 そう叫んだ男は白髪で神官の服の様な物に身を包んでいる。男が杖を天高く掲げ何か叫ぶと、男を中心に黒い波が伝わり、焼けただれた僕の体が元に戻り、すぐに戦闘に戻らされる。毛嫌いしていたわけではないが、避けていたオンラインプレイと言う物で遊んでいるのだ。参加はじめにもたついていると『遊びでやってるんじゃないんだよぉ!』とか怒られはしたものの、魔法で敵を焼き払ってみたり水を引っ掛けてみたりと嫌がらせをしていると次第に何も言われなくなった、多分上達したと思いたいが……。僕達が戦っているオソレヤマの近くにあるオソレダニではプレイヤーによる戦いがいつも開かれている。まず大半は黒軍と白軍に分かれて……て言う細かなシステムの説明は抜きにして、ここではゲームジャンルがRPGから対戦ゲームになって、ここでいい成績を残すとゲーム本編で役に立つアイテムを貰えたりするのだ。例えば、それが無いと話が進まないなんてストーリー的に重要なアイテムが。


 後ろを預けたナビさんが僕が渡した剣で一人倒し、僕がまた一人焼き殺すと、頭の中に電子音が響き『tokage&Naviのキル数が100を超えました』とナビさんの声が聞こえた。そしてその後のアナウンスで聖水と言うアイテムが得られた事を知り、ナビさんに言って僕のルームを閉じてもらう。やれやれ……リザルトなんてキルした数キルされた数だとか、色々な情報が書かれたウィンドウもナビさんに閉じてもらい、2人で今手に入ったアイテムを確認する。


 初めて参加したにしては中々頑張った方なのか、一気にそこそこのお金とアイテムが手に入った。ああ、別に誤解されようとされまいと構わないのだから弁明の必要はないのだけれど、僕とNaviさんは経験値やらなんやらをとにかく2人分稼がないといけないため、実質の倒した敵の数は200だ。1人倒しても0.5人しか倒したことにならないので、僕は可能な限りフェアにプレーしたと思ってくれ。ああでも、そうなると少し気になるのが彼らのリザルト画面で、もしかしたら僕達に奇数回殺された人は◯.5なんて表記でもされているんだろうか。それとも混乱を避けるために小数点切り上げとかそう言う何かがあるのだろうか、すこし気になる。


 100人を倒した報酬に聖水以外のアイテムは回復薬やらメダルやら武器などで、売っても大した値にならない物はクラフトスキルを使って素材ごとに分解をしてインベントリに入れておく。鉄は鉄で、錆びた鉄は鉄鉱石としてなんて感じで纏めておくと、インベントリに沢山のアイテムが入ると教えられたからだ。それに、鍜治屋とかの生産職とやらには遥かに効率が劣るけれども素材であれば僕も加工して自分用の装備を作れるから、こうした方がまあまあお金が足りなくならずに済む。この世界でのお金もゲーム攻略には不可欠だからね、お小遣い程度でも稼いだ方がいいのさ。僕は稼いだ分を整理して次の冒険の準備をしに街へと移動して行った。




 僕はオソレヤマに行くキャラバンに引っ付いて行って、ちょくちょくとグールやら狼やら野盗やらを撃退して、それから山の腹頃にある街についた。遠くから見えたオソレヤマはまさに恐れるに値する霊峰、そして連なる山の集合で、高くには冷たく霜が降っていた。しかし頂上は生憎の曇り空で見えなかった、それはつまり、オソレヤマの偉大なる高さを表していて……と、ここはまあ喋らずともいいか。そんな山の中腹にある街は崖に穴を開けたように建っている家もあれば、まるで映画で見たシチリアの様に高低差を無視してデコボコと建てられた家もあった。谷を流れる川を囲む様な細っ長い場所で、四つん這いで動くとなると大変で、ナビさんの手を借りれなかったらと思うと少し恐ろしい。街にいる人間の皆んなは馬だか山羊だかの中間の様な生き物に乗って移動していた。他にもあげつらう特徴といえば、ああ、そう言えばこの街の門番は僕の事を人間と認識していたな……少し気になるが、それはまあいいだろう。


 クエスト『キャラバンの護衛』をクリアしただかなんだかで経験値とかそう言うのを貰って、早速何か異変とか困ったことはないかと酒場で聞き込みをしたんだ。聞くに、この山は自然保護派のエルフと開拓派の人間が争いをしている最前線らしく、最近はエルフが活発化してきて困っているらしい。自然保護派か……現代人としてはなんとなくエルフの側にも回りたい気分だが、どうだろうか。自然破壊云々、無計画な伐採には相応の犠牲がつきものだ。生態系の崩壊による環境の変化は大きく、すぐに思いつく地崩れだけでなく洪水や逆に干ばつ、強風など天候の変化の遠因にもなる。伐採された木の利用方法とて、ただ単に薪として売るのも民族工芸とするのもいいのだけれど、燃料としての出荷だけはマズイ。大量の木灰は土地のpHを大きく傾け、これもまた生態系に影響を及ぼす。いやまあ、ゲームにマジになっちゃってもしょうがないとは思うけれども。ああもう、やめだやめ、この話は飛ばそう。


 それで、ああ、それから僕らは、エルフのいると言う山奥へと向かって行った。人間の街では、エルフは集落にいると聞いていたので、僕らは人為的に折られた木の枝や人ほどの体重を持った生物が通る道など、エルフの痕跡を探しながら山を歩いていたんだ。だが実際にエルフの住処にたどり着いたのはその探索のおかげではなかった。僕とナビさんは傷ついてボロボロになっているエルフの女性を見つけた。彼女はあちらこちらに擦り傷があり、意識はなく、熱にうなされていた。


 薬草を使い、火を焚きしばらく看病をしていると彼女は目覚めた。彼女は人間との争いで傷つけられたのか僕達を警戒し逃げてしまいそうになったが、薬草が足りなかったこともあり彼女の傷は完璧に癒されていなく、彼女は逃げることができなかった。落ち着く様に2人で彼女を慰めると、彼女はポツリポツリと事情を語ってくれた。彼女は僕達がここに来た理由の一つ、グールに襲われたらしい。不死属に数えられることもあるエルフだが、グールのお仲間という訳ではなく、今回のグール大量発生はエルフと人間の両方にとって危機なんだとか。まあ映画で言えばアメリカ軍とロシア軍が戦っていたら第三のエイリアン勢力が現れた的な勢いだね。映画じゃあ地球連合を作るけれどもこちらじゃあ作らなかったのかな、まあいつ背中からぐさりとやられるかも分からない人達を仲間にって言うのも無理な話だとはわかるけれど。


 真摯な態度で話を聞いていると、彼女も少なくとも敵対する様な人族ではないのだろうと判断したのか、嫌々ながら僕達に彼女が普段使っていると言う隠れ家の場所を伝え、そこまで動けない彼女を運ばせた。そこで本格的な治療をしたいらしい。場所は結構遠く、途中までは念力で僕も手伝っていたけれど、最終的にはナビさんが僕とエルフの女性を一緒に運ぶことになった。情けない……。そう言えば、ナビさんって力持ちだよなぁ……僕の中では彼女はアンドロイドって事になっている、実際にどうかは知らない。例えば僕の見た目が小動物なのに対して実際にゲーム中では人間として扱われる様に、この世界ではプレイヤーの見た目なんて当てにはならない。彼女が最初に僕を案内したナビさんとまるっきり同じ存在だと言うならまああまり機にやむかとはないのだけど。


 結局、ある程度進んでは運ぶ役を僕に代えて、僕が疲れたらナビさんに代えてと、代わり番こに彼女を運んだ。エルフの女性は私ってそんなに重いかしらと複雑そうな顔をしていたのが自分の至らなさを感じさせ少し悲しい。小屋で彼女の手当てを手伝う頃にはある程度の信頼を得ていて、彼女からエリィと言う名前を教えてもらった。それからある程度の自己紹介をしてみたりして適当に時間を過ごしていると、エリィさんは集落に行きたいと言う僕らの願いを聞いて、それは叶わないと言った。


 それと言うのも、ここのエルフは集落を作って生活をしていなかった。彼らは彼ら単体のテリトリーを持つ、つまり皆んな一人暮らしをしているらしい。しいて言うならこのオソレヤマの森こそがエルフの集落なのだと。人間に敵対するのもこれが理由で、人間が勝手に森を切り開くのは家を勝手に壊されている様なものだと。正直、あまりこう言ったことは予想していなかった。人間が完璧な悪役というか……少し思う事はあったが、種族人間という立場を取らざるを得ない僕はエルフと人間の争いには関わらない事にしようかと若干の方向転換をして、グールについての情報収集をし始めた。


 曰く、最近急に現れだした。聞いた限りでは時期的に沼地の魔法使いが活動するより少し前あたり、当初は人間が邪法に手を染めたと言うのが噂だったが人間側も襲われていて街での諜報活動からも人間の仕業ではないとわかり、グール作りの首謀者を探しているのだとか……。


 そこまでの話を聞いて、僕達はエリィさんと別れて山の探索に移った。山にはあまりグールがいなかったが、全くいないと言うわけではなかった。例えば鹿を見るぐらいには、そうだな、現代人の感覚からいえば野鳥を見るぐらいには……いや、田舎と都会の感覚が違いすぎてなんとも言えないが……まあ、沼地の時よりかはみないぐらいだね。その代わりに偶に獣が襲いかかってくる様になった。火を吹きつければすぐに退散するので幾分か楽ではある。そうこうしてるうちに他のエルフと知り合ったりなんだりで、僕はオソレヤマにあるオソレダニにたどり着いた。


 カルデラの様な場所なのだろうか、霧が立ち込めて視界がよろしくなかった。適当な量の木の枝をインベントリに入れて松明代わりにして探索をすると、古くは戦場だったと言うのは本当らしく、不自然に朽ちた木や石を積み立てた墓標の様な物が見えた。アンデッドでもあるグールもいたし、湧き上がるのも見つけた。ナビさん曰く、土地が呪われているのだろうと。何かあったか知らないが、確かに嫌な魔力的な物を感じる、この世界では神力が魔術の発動に必要だから、おそらく呪いの魔法がかけられているのだろう。


 呪いを解くと聞いて真っ先に思いつくのは呪いの上書きか相殺だ。例えば体温が下がる呪いには発熱の呪いをかけたりする様な感じで、死霊を無理に肉体に宿らせグールを生み出す呪いなら、生身の肉体から霊魂を抜き出す様な死の呪いをかければ良いのだ。勿論、そんな物騒な魔法は僕の様な小動物じゃあ使えない、と言うかゲーム的に使えて良いものなのかも謎だし。


 そうなると次の手は呪いではなく魔法そのものに対する魔法だ。魔術陣を書き換える様に魔法の構造から破壊すれば呪いは簡単に溶ける。しかし残念な事に僕は魔法使いだが、そう言った奇跡に該当する魔法は僧侶と言うジョブにならないと使えないとナビさんに教えられ、これも断念……と、思ったけれど、ナビさんにこの世界には聖水と呼ばれる解呪アイテムが比較的ポピュラーで、大きな教会に行けば売っていると伝えられる。しかも、それより簡単に手に入れる方法があるとも。




 それが、今回の戦争ゲームだったわけさ。やれやれ、長く語りすぎたかな。オンラインプレイと言うものに忌避感を覚えている事を承知で紹介してくれたナビさんには感謝しかない。君達には語らずにいたが、街から街への移動はかなり長い時間を要する。街から村程度ならまあ別に良いのだけど、移動するだけでもプレイ時間が1日もかかるんだ。しかもプレイヤーを飽きさせないための配慮か所々にクエストを配置してのロングラン、とてもじゃないがやってられない。まあプレイヤーにはファストトラベルなんて物があるからまだ楽に旅が出来るんだけど。ああそうそう、ナビさんに他のプレイヤーはどうしてるのかと聞くと、あるアイテムを使う事でセーフルームに人を招くことができる様になるので、それを使って先輩プレイヤーやそう言う事で小遣い稼ぎをしているプレイヤーに頼んでファストトラベルに付き合わせて貰っているらしい。セーフルームに繋がる扉は登録してしまえばもう何度でも使えるので、それで色々としてるとかなんとか。


独歩者(どくほしゃ)tokage、オンラインプレイをする気になれましたか?」


 いやぁ、あんまり。心の中でそう呟くも、心の奥底までは誤魔化せないらしく、意地を張ってもわかりますよと微笑まれた。恥ずかしい、僕は少し羞恥を覚えてナビさんに運ばれて行った。ヤギの様な馬、近いうちに借りようかな。移動手段がナビさんの手持ちとか、尊厳がゴリゴリ削られている様な気分だ……。


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