表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
108/167

病名:なかに

 僕はズタボロになったあと、大人しく床についた。



「冒険者tokage、新たなアイテムを探る為に聞き込みに行きましょう。」


 現在の日本において、風説の流布は比較的重い罪である。それはそれを取り締まれる力と、社会における信用性の重要さがあるからこその重みだ。なので逆に、このゲームの世界において風説の流布はそれ相応の重さしか持っていない。もちろんメタゲーム、ゲーム外でのゲームでは恐ろしい重さを持っているのだろうが。なので噂話など大して当てにならない様な気もするが、しかしここは人気らしいゲームだから、万人ウケするようなゲーム性がある、つまり大した労力も払わず達成感を得られる設計になってるかもしれない。でもまあそこは謎だ、邪神パワーでどうにかしてても不思議ではないからね。何はともあれ、精々酒場などで同業者から聞く噂話になんぞ信用性があるのかどうかという話で。


 しかしそれ以外にアーチファクトとやらを手に入れる術がないのも事実、仕方がない、僕はあまり成果の見込みのない噂話を聞きに行くこととした。まあ、聞きに行くのは有力な情報が得られそうな人だけだ。前回、沼地のカタコンベに関する情報を僕に情報を与えてくれた同業者を捕まえてグールはどうにもならなそうだと噂話をする。やれ、グールがクソ多いだの洞窟があって崩落してるだの、とにかく割りに合わないだろうという事を強調する。


「がー、マジか。クソ、当てが外れたな……。おいアンタ、アンタはこれからどうする?」


 冒険者相手だ、少し口調を崩して返事をしておこう。そうだな、一人称を俺とでもしておけば良いだろう。ペルソナだ、仮面をつけて野卑た人物を演じてみせよう。つーか、喋りの展開上の都合でこんな紹介だが、俺はさっきからこのヤローの相手はしてたんだがな?


「俺は適当にぶらつく。ただまあ、どこへ行っても仕事がな……こうして軽い情報を持ってきたんだ、何かアンタも情報をくれないか?」


「ああ?……そーだな、次の稼ぎ場はオソレヤマあたりくらいか?」


 オソレヤマ? 話を聞くに、国境付近の古合戦場らしい。そこでも亡者やらなんやらが大量発生をしているのだとか。ここは向こうでいう所の王国、隣接する国は帝国とエルフとドワーフの各国々で、後は小人族の秘密の隠れ里が端々にあるくらいだが……王国が帝国に戦争を仕掛けることはないと考えると、ドワーフかエルフの里になる。小人族のドワーフと不死属のエルフ、多分王国が攻められるのはドワーフの国になるが……この世界がどれほど向こうとリンクしてるのかわからないし、とにかく言ってみなきゃな。オソレヤマまででの行き方を聞くと、数日中に出発するキャラバンの馬車に乗っての移動が勧められた。


 キャラバンは日本語に翻訳すれば隊商、つまり行商人の群れで、沢山の護衛を引き連れてゾロゾロと移動する商人だ。1人では10人くらいの盗賊に襲われたらひとたまりもないが、逆に20人で行動すれば盗賊も手が出せないだろうという話さ。


 キャラバンに参加する方法はいくつか有って、1つは冒険者ギルドに登録して護衛の依頼を受けること。これは護衛を受けられると信用されるまで時間がかかるからオススメされないらしい。2つ目、個人でキャラバンの隊長と話し合ってキャラバンに参加させてもらうこと。3つ目、キャラバンに忍び込むこと。この3つのうちらしいが、このうち取れるのは2の隊長と話し合うことだけれども、単にオソレヤマ行きたいから乗せてってくれという言うのでは多分無理らしいので口上を考える必要があるとか。少し面倒だ。


「あー、ありがとよ。頑張ってみるわ。」


 適当に話をして切り上げようとすると、男は俺はここでしばらくグール狩りを続けるから頑張れよと言って手を振ってきた。気を良くしたので男に1つ忠告を入れておく。


「沼地の魔術師には喧嘩を売らない方がいい、彼は強い。」


 男はよくわかってないような感覚だが、まあ沼地の彼に会えば気づけるだろう。ああいや、沼地の魔法使いだっけか。この世界では微妙に魔術の使い方が違う、どちらかというと魔法を使う感覚に近いし。冒険者だとスキルだとも言うし、少しめんどくさい。


 店を出てナビさんと一緒に街を練り歩き、大きな馬車が止まっている店を見つけた。ナビさんによると商人たちのギルドらしい。商人か……取り敢えず僕達を雇う利益を一目でわかるようにアピールしたい、その為には装備を整えることだが……僕はこんなんだしな。仕方がないのでナビさんに装備をどうにかする方法が無いかと相談すると、オンラインプレイの推奨をくらった。確かに手っ取り早いが……そう言えば、ナビさんは僕のボディの代わりなんだよね。人間様のドアを開けてもらったり、商品棚の物を取ってもらったり。ナビさんも言葉が通じないわけではない、少し僕が持っているモヨモさんの剣を装備してもらえないかと頼んでみた。なぜ私にと言われると、まあ少しでも良い装備をしておいた方がいいだろうけど僕がこんななりだからと言わざるを得ない。ナビさんは少し考えて大丈夫なようですと僕から剣を受け取った。何が大丈夫なのかと言えば、運営の上部、詰まる所邪神どもにゲーム的に大丈夫かと確認を取ったらしい。


 まあ邪神もなぜだか知らんが僕にゲームの攻略をして欲しいらしいし、あまりにもあんまりな要求じゃなければ断らないだろう。ナビさんにモヨモさんから強奪する形となってしまった鋼のドレスソードを渡すと、彼女は軽くビュンビュンと音を鳴らして見せた。剣の扱いは手慣れているよう……というか、彼女は常時空中浮遊のスキルを使ってたり、モヨモさんを一瞬で殺せる槍を装備していたりと僕よりも遥かに強いんだよね。ナビさんと友好的な関係を築けないものかな、すごい楽そうだ。


「ふむ……冒険者tokage、私の武器を整えるのもいいですが、前回の冒険での戦果の整理をした方がいいかと。まずはアイテム屋に行きましょう。」


 ナビさんがそう言って僕を抱え、アイテム屋に向かった。そう言えば地下墓地でナビさんを探す最中にグールと戦い、いくつかのドロップアイテムを手に入れていた。適当に採取した薬草の他に、折れたブロードソードやら、使い込まれたナイフ、ボロボロの皮鎧など、少なくとも錆びたナイフより少しは売れそうなアイテムが手に入ったから、確かにインベントリを圧迫しないように早く売っぱらった方がいいだろう。


 売ると全部で1000円くらいにはなった。いやまあ、gって表記されているけど読み方は知らないのでここは円で行かせてもらう。結構大金だ、少し嬉しい。僕が喜んでいると今度は雑貨屋で高い布の切れ端を買う様に指示され、黒い金糸の入ったよくわからない布を買った。こんなんでどうするのだろうかと思えば、ナビさんにクラフトスキルを与えられた。作れという事だろうか。


「ローブを作る工程をイメージして、クラフトを使ってみてください。」


 にっこり笑ってそう命令を下される。ローブを作る工程って、縫えってことか? そりゃあまあ、ローブなんぞちょきちょき布を切って縫い合わせるだけで済むだろうけど。えっと、まず布を大小6枚くらいに切って……?





 試行錯誤の結果、そこそこの物が出来た。まあ、僕が小動物なんでどうともいえないが。まあいいさ、僕は服を着せてもらい、杖を装備した。メニューを開き装備欄を目にすれば、高価な魔術師のローブ(粗)と書かれていた。粗末なんて言葉はつくが、まあ金がかかっているならいいだろう。


「これで、誰がみても魔法使いです。」


 ナビさんに掲げられて鏡に映った僕は、まあ何というか……ハロウィーンの日のペットみたいな格好だった。深くは言うまい、とにかく、魔法使いには見えないと言うことは伝わるだろう。ナビさんにまた商人のギルドに抱えて行って貰うと、丁度いいタイミングを逃したか、例の馬車郡に荷積みをしているところだった。


 取り敢えずガヤガヤと指示を出している大男を見つけ、そこそこの立場にいる人だろうと声をかける。あっあっあー、んっんん、もし、少しよろしいか。僕が声をかけると男は機嫌が悪そうに振り返り、僕を見て眉を顰める。


「あんた誰だ、そんで何の用だこの忙しい時に。」


【忙しい? そいつぁよかった。いや、良くないんだがな。僕は……ああいや、俺は……ベリーベンディフレンドリィマジシャン、まあそこそこ使える旅の魔法使いさ。キャラバンの隊長と話がしたいんだが、挨拶願えるかな?】


 男に僕は出来るだけ気さくな感じを装って話しかけた。ベリーベンディなんちゃらは即興で考えたからあってるかは知らない、まあ痒いとこに手が届く的な意味が通じればいいな程度さ、通じなくても構わない。いやぁしかし、気恥ずかしいな。こんなんキャラじゃない、でも、直感的にこうした方がいい様な気がしたんだ……。男はナビさんの手の中にいた僕の胸ぐらを掴んで大声で怒鳴った。


「俺が隊長だ、要件を言え!」


 舐められちゃいけない気がしたので僕は彼の指を火を入れて離し、手が足りないなら俺の手を借りないかと水かきのついた平べったく黒い足を突き出した。何回かのプレイで少し体が慣れてきた、さっそく直立二足歩行なんて人間らしい動きをしてみる。魔力も増え始めたし、ペラペラと喋りながらナビさんにふたたび抱き上げてもらい、目線を合わせる。コイツらやっぱゲームの住民なのかな、僕のシュールな行動に何1つ言わずにいやがる。


 それでなんだ、忙しい時期にとか言っていたな。定期的にそのオソレヤマ方面には馬車が出るんだし、まさかなんのトラブルもなしに忙しいことはないわけだが、そのトラブルと言えばあり得るのは沼地のグールの大量発生だろう。安全性の為にコースを変えたか、あるいは護衛が怪我でもしたか、荷物に被害が出たか。その3つの中、俺が手助けできるのはいくつだ? もちろん全部だぜ、全部だ。まずコースを変えて生じるトラブルと言えば安全性の確保だ。野盗に襲われないかだけでなく段差などの無理なルートを通ってないか、それらは魔術師の本領さ、地形を変えるなんてお茶の子さいさい、それどころか整地までできるぜ。護衛だって代わりになれる、大抵の動物は火を見りゃ怖がるもんだし、服なんて燃料を着ている人なんか更にだ。商品だってアンタらは行商だ、ルートの安全は確保するから他の土地から仕入れればいい。あるいは魔術師の調度品なんて加工貿易でも如何かな、もちろん俺手作りだが、魔術師が作ったなんて物を知らない人なんぞすぐに食いついてどうにかなるだろうぜ。なあ、どうだ俺を雇わないか?


 喋り終わる頃にはテレパスの使いすぎで若干の息切れがしていたが、なんとか長ゼリフを言い切れた……言い、切れた……。ナビさんが僕の背中を優しくさする、気持ち悪くはないんだが……。


「……本当に役に立つんだろーな? まあいい、今は猫でも良いから手を借りたい時期だ。また明日来い、護衛するメンツを引き合わせてやる。」


 イエス、やったね。彼らには護衛が2人追加、僕たちにはオソレヤマまで片道切符、もう万々歳さ。そう言えば……ナビさんの扱いはどうなるんだろう、微妙なんだよね。安定してないと言うべきか。彼女はまるっきり僕の飼い主の様に振る舞う時もあればいないかの様に扱われる時もあり、地下墓地の時の様に独立したキャラクターとして扱われることもある。一体、彼らの頭の中ではどう言う扱いなんだろうか。


「2人で1つの扱いですよ、弁証者tokage。」


 ナビさんが口を挟んできた。そう言えば彼女は考えが読めるんだった。喋れない僕に対しての翻訳者でもあったね。しかし、2人で1つの扱いとは一体なんだ。少し意味が不明瞭だ。声を出さずに説明を求めると頭の中に『文字通り、体が2つあるだけの1人のキャラクターですよ』なんてナビさんの声が響いた。聞くと、彼女と僕は基本的には1つのキャラクターとして扱われるらしい。そのお陰でナビさんは僕の考えが読めるし、僕も読もうと頑張って見れば読めるかもしれないだとか。試して見たが読めなかった、ナビさんによると生物としての規格が違うから仕方がないそうだ。


 でも例えば男女2人で成立するイベントとかそう言うケースならば僕とナビさんと2人の存在に急に分かれるらしい。全く情報が増えてない気がするが、まあ新しく追加された情報だけを取り出すなら、基本的には1人のキャラクターであるって事だね。そのデメリットとして、僕は普通よりもレベルアップに必要な経験値が2倍になっているそうな。それはつまり、僕と彼女が独立していると言うことで……とまあ、ゲームの話はあまり上手くできない。なんとなくで理解してもらえれば嬉しいな。


 しかし弁証者トカゲ? ナビさんの立ち位置も安定しないが、僕の呼称も安定しないなあ。最初は探索者だか次は冒険者だか、今は弁証者だと……まあ確かに直前にそれらしいことはしたけど。弁証も僕を雇う利の証明であるとすればまあなんとか……?


 僕はそう思いながらログアウトをさせてもらい、邪神に文句を言ってから現実に帰った。


 ああ、暖かい毛布に包まれてる感覚がする……もう朝か……精神的に眠いな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ