退治と対峙
さて、どうするかな?
まず、直感はバレても問題はないと僕に訴えている。だが、同時に、まずバレ得るという状態がまずいと訴えている。
思い出して欲しいのだけど、校長は軍の上部に属するというのも神殿から僕の加護について何も聞いていないということがヤバいのだ。校長は僕を預かる立場だぞ、それに僕の担任のハゲチャビンは神殿に勤める神官の弟だ。もし校長が神殿から軽んじられていなかったら知らない訳がないだろう。
僕は公爵家前妻の忘れ形見、当然の事として父親からの愛情はあるだろうしそれ故に僕を見ている上の人は多い筈だ。そんな、僕に、対する、重大な、情報を、校長が、知らないだとぉ?
コイツ立場弱すぎだろ……。部下であるはずのハゲチャビンからも隠し事をされているのだから、学園内部はボロボロという事だ。いやしかし、内部がズブズブだからこそ神への生贄が学園へ通えるという話なのかもしれないけれども。
論理的に考えて、神殿は校長へ意図して僕の情報の一部を伝えていないという事になるので、僕は校長に不用意な話をするべきではない。しかし直感は特に気にする必要はないと言っているのは何故だ、僕は今まで直感に頼ってきたのだから今更になって直感を無視するという手はないのだけれど。それでも根拠もなしに踏み込むのは危険だろうし、直感の言う問題はないは伝えても伝えなくとも問題はないと言う意味だ。ここは、一つ隠蔽の方向で進んだ方がいいだろう。
「イメージですよ、イメージ。ワニとか、その……バンシーとか、色々と強そうな生き物の伝承を元に、強化するんですよ。」
「そ、それであの様な……! い、いや、あり得る……のか。御子の事は神殿でも大した伝承はない……いや、しかし……。」
しつこく聞いてくる校長を嫌がり、僕はスイッチを入れた。気分はアップル社のceoだ。黒いシャツにジーパンのハゲね。
元々、魔力さえあれば詠唱というのは適当でも通ります。でも例えば古代エルフ語の方が人によっては威力が出せる、それはイメージの差で、例えば大雨よ降れという詠唱で川のせせらぎの様な水は出せない様に、言語のイメージに魔術が引っ張られることはよくある事です。言語に付属するイメージで魔術自体が変わるということは、つまり複数の意味を内包した複合的な言葉はそれだけ強い呪文になり得るという事です。そこで童話や伝承に現れる怪生の類の名前は、どう言ったものになるか。もうお分かりですよね? そう、この上なく呪文に適していると言えるでしょう。
身振り手振りを大きくして意味もなくウロウロとほっつき歩く事で自分を大きく見せ、自信満々に商品をプロデュースし続ける。時には相手の思考を誘導した上で発言させて、流れを掴む。卑小な身では難しくあるが、未開の地の小児性愛者ごとき現代っ子だった僕が騙せないわけがない。まあ、奇怪なスピーチに引いただけかもしれないが。
僕の芝居に関して校長先生に「そ、そうか」なんて引き気味に答えられて少しショックだ。野郎、そもそもお前がもっと頼り甲斐のある男だったらこんな事には……!
なにはともあれ、校長の口を閉ざさせた。しかし、今回の同行者であるチャムロさんだったか、彼への説得はまだ済んではいない。そもそも彼の立場がわからないのだけれど、いやまあ、直感は彼についても特にどうしろとは言ってないし、彼が気になったら言葉の通じる校長先生が説明をつけるだろうからノータッチでいいだろう。
そんなことより、しーちゃんだ。校長先生のお話によれば倒しても倒してもカケラから復活するそうじゃないか。まあ実のところ、最後にチラッと出たマシエッテさんが多分魔術生物の核、擬似霊魂とも言える部分を食べてしまったのか、魔力は全くと言っても良いほど感じられないのだけれど。
「今まで目で見ても魔力で探ってもまた復活してしまったからの、この水道をせき止めて底を漁るんじゃ。」
せき止めるも何も、僕の直感はそれでは意味が無いと言っているが。どういう事だろう、どこにそう判断する材料がある?
そう思いながらも僕は一帯の水道をそこまで凍らせて掘削作業を開始した。生態系のことを考える必要はないのでかなり乱暴だが、もちろんそれなりの成果はあった。しーちゃんが僕らに隠れて移動できるほどの深い、水草で隠れた場所から拳大の石ころが見つかった。特に水道に欠けた様子もないので多分しーちゃんのだ、はぁ、自分で巻いた種だが面倒くさいなぁ。
そもそも、僕の手を離れて自律行動ができる使い魔とか、そんな物を生み出すつもりは無かったのに、困った話だよ。それで何が面倒だって、僕が最初に見たしーちゃんは水草で隠れていないところは無傷だった。僕は美術部だったし、観察眼、特に推測能力でなく空間認識能力は鍛えていた方だ。傷は見えなかったのは絶対でいいだろう。だが、そこでしーちゃんの石が見えたという事は、しーちゃんが僕たちに隠れて自分から石を切り離した可能性が高い。保険をかける能があった訳だが、保険をかけられるしーちゃんが、その保険を1つだけで済ませるのだろうか?
もしかしたら石は2つ以上あって、僕達が見つけたのは保険の保険、ティッシュ配りを見張るバイトを見張るバイトの様な、そう言う余分な物で、本当のしーちゃんはもうとっくに逃げ出しているのかもしれないといった可能性があるのだ。僕は天を仰いだ、まあ地下なんだけど。
マシエッテさんが綺麗に食べていようと食べてなかろうと、僕は安全が確認されるまでしーちゃんを探し続けなければならないのだ。
「校長先生、術者を霊媒に使い魔を呼び出す魔術ってないんですか?」
それを使ってしーちゃんの消滅を証明したかったのだが、残念なことに校長先生は難色を示した。ある分にはあるが、パスが殆ど切れている僕では無理だと言う。パスが切れかけていると言う話に、僕は少し疑問を抱いたが。それと言うのはさっきの襲撃では僕以外を狙っている様子がなかったからだ、なんでか知らないが僕に執着している。
魔術が使用者に牙を剥くと聞けば僕に宿った虫が思い出されるが、そもそも最低限の物、僕を襲うなとかの命令は予め入れているのだから、例えパスが切れても僕に襲いかかる事はせず、有ってフリーズするくらいだ。
それに、パスが切れた理由がわからない。僕としーちゃんの繋がりなんて確かに脆いものだけど、使い魔と魔術師の関係性の書き換えなんてそう起こらない筈だ。クロノアデアによると僕は使い魔とか使役魔術の扱いが得意らしいし、なおさら考えづらい。
と言うことで、何か人為的なことがあったと考えるのが妥当だろう。誰かが使い魔に乗っ取りと言うか、僕との繋がりを奪って命令を書き換えたんだ。でも誰がそんな事をできるんだろうか、しーちゃんが暴走できるのは当然この世に生まれてからだけれども、僕の知る限り僕に接触できた怪しい魔術師はいない。暴走したのを、生徒たちを追っかけ回した時だとすると更にだ。僕に接触できた怪しい魔術師はいないのだから、しーちゃんの方に問題があったと考えるべきだろうか?
僕がドロシー先輩を探し回っていた間に何者かが一年生教室に入り、しーちゃんにイタズラを仕掛けた……バカな、誰がそんな事をできた。誰もしーちゃんを知らないし、一年生の誰かがそんな事をできるとは思えない。考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ、迷宮入り、お手上げさ。
「……迷宮入り?」
「うん? どうかしたかね?」
つい声を出してしまった。迷宮入り、迷宮に入る? 入るだと? 頭に電流が走り、僕はパスが切れた原因はわかった。入ったからだ、校長室に。僕の認識疎外とかの諸々は校長室に入ると勝手に切れる、同じ魔術である使い魔の魔術も切れると見るのが普通だ。そして、更に考えが浮かんだ。
「校長先生、校長室に掛かってる魔術に攻撃対象の反転とかあります?」
校長先生は少したじろんだ。つまりは、しーちゃんが僕を攻撃してきたのも、校長室に入った時に勝手に弄られたのだろう。
僕は内心ほくそ笑んだ。校長先生に詰め寄ると、色々と条件はあるが攻撃性のある使い魔を持っていた場合は主人を襲うように命令を書き換える魔術がかかっていた事がわかった。例えば生徒程度の校長先生にはさして恐怖ではない魔術師には反応しないらしいが、まあ僕は神から色々と弄られているから、今回はそれに反応したんだろう。色々と混じった僕の魔力で主人を襲うなと言っているのに、人の力で主人である僕を襲えと命令を下したから、それも暴走の原因であるかもしれない。
つまりだ。今回の騒動において僕だけが悪いと言うわけではないと言うことだ。僕はそこをついた。そもそも、僕の実力は事前に知っていたのになんで魔術の設定を変えてなかったのか、あるいは事前に使い魔が暴走すると通告をしていればそんな事にならなかったのではとかね。
「う、ううむ。黙っていてすまなかった。じゃが、頼む。学園が危ないんじゃ。」
知ったことではないね、とは思ったが、校長の立場を考えると断りづらいものではあった。この男はどうも哀れというか、ご高齢なのに人から慕われていないというか。良い人ではあるように思えるのだけれど。哀れな人に冷たくするのもなんだけれど……。
「その、取り敢えず今は使い魔の魔力が感じられないんで、また見つけられたらということで良いですか?」
マシエッテさんが食べてしまったのだからどうも難しい。いっそ自作自演でもしようかと思うほどだ。
「うむ……それも、致し方なし。」
そういう事になった。
申し訳なさそうにする校長先生は声をかけづらかったので、チャムロさんと適当に話しながら外に出ると、時刻はお昼を過ぎた頃だった。日が少し傾いている、なんだかお腹が減った。とっとと帰ってポミエさんの料理が食べたいなんて考えながら寮への道を進んでいると、途中で魔術馬車に乗ったクロノアデアとあった。
「ああ坊っちゃん、使い魔を送って頂ければもっと早く迎えにきましたのに。」
馬車に乗ると、中に猫の耳を生やした女の子がいた。少し不機嫌そうだ。僕の顔を見ると、随分と可愛い人と同棲しているのねなんて文句を言ってくる。彼女は本気を出したい僕より遥かに強いと言うと、少し驚いた様な顔をした。それで、今日は一体なんの様でヤマオカさんはこちらにも来たのだろうか。
「ヒロ君、暇だから一緒に写生でもどうかなって思ったんだけど。今日忙しかったの?」
まあね、軽い調子で答えた。彼女とはなんだか上手く言えないが距離がある。僕からの一方的な距離なんだけど。彼女との記憶があまり無いからどうやって接したら良いのかわからないんだ。彼女もなんとなく感じ取っているのか、あまり昔の話は振ってこない。少し、嫌な関係だ。彼女のことは好きだ、具体的どうということはできないが、一緒にいると安心する。
「あ、ご飯はもう食べた? まだなら、一緒に食べない?」
僕がそう尋ねると、軽い物なら甘えちゃおうかななんて、可愛らしい返事が返ってきた。僕の部屋で食べるので少し手狭になるが、まあその点についての了承や食べられない食材が特にないことの確認をしながら寮へ帰っていく。




