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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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がおー!

 朝起きると、クロノアデアが僕に手紙を渡して来た。彼女の要約を聞きながら手紙を読み進めるに、どうも今日は臨時休校だが、僕だけは学校に行かなければならないらしい。手紙は校長から直筆で、今日は特別に従者と共に来ても構わないが一人で来る事をお勧めするだとか。少し急ぎの要件らしく、朝起きたら動きやすい服装ですぐに登校することと書かれている。一体何なんだろう?


「坊っちゃん、馬車の中でサンドウィッチを食べて下さい。今日は少し飛ばします。」


 クロノアデアにも事情がわかってないらしく、僕はパジャマからスカートの丈の短いワンピースと履き慣らしたブーツなどに手早く着替えさせられると、ガラガラと音のなる馬車で移動させられた。


 校門には校長と見知らぬ男が立っていた。校長は帯剣していているし、見知らぬ男は帯刀をしていた。なにやら穏やかな雰囲気ではないな、もう少し分析をしてみよう。見知らぬ男は浅黒い肌に少し彫りが浅い顔立ちだ。担任のハゲチャビンはまるっきり日本人顔だが、男は東南アジア顔とでも言おうか。鉢巻きや襷を掛けていて、結構日本人的な印象を受ける。足は草履だろうか、植物性のサンダルを足袋のような靴下で履いている。コレで和服でも着ていたら完全に侍のコスプレをしたタイ人か何かだけれども、そこはまあ流石にローブを着ていてくれている。あとはそうだな、無精ヒゲだ。定期的に剃ってはいるのだろうが結構モジャモジャだ、服装の汚れやサンダルの履き古し加減からして特に細かな事には拘らなさそうな感じがする。


「フム、オマエガトラノ。アー、ヨロシクタノミマス。」


 滅茶苦茶なカタコトだ。帝国語は成り立ち上リングワフランカ、様々な言語が混じっているから帝国語が全く喋れないという事は、彼は異国の、それも全く文化的に馴染みのない遠い地の人だろう。装いからして赤道付近で多雨、地球で言う所のアマゾンや東側のアジアとかになる。まあ残念ながら帝国は自国ともしかしたら攻め入るかもしれない近隣国以外の地図の作成はしていないので、その国が何処なのかは全く謎だが。外国の地図とかTO図みたいな物くらいだし。


「彼は学園で実技講師をしているチャムロさんじゃ。君も上級生になれば彼の教えを受けるじゃろう。」


 遠目で見ていた校長はいつも通りに思えていたが、近づいて見ると結構違う。ローブには魔術印か何か、色々と呪文が書き込まれていて、その下には鎧を着ていた。指輪物語に出て来る指輪の幽鬼のようだ。彼の魔力が魔術印から少しだけ漏れ燐光する埃のような物が見えた。結構やる気っぽい。


 クロノアデアを帰らせて一体どうしたのかを聞くと、鎧のガチャガチャとした音を立てながら校長は答えた。


「今回呼んだのは他でもない、君の産んだ獅子の退治を手伝って貰いたくての。」


 僕が産んだ獅子? 獅子と聞いて思い浮かんだのは僕がドロシー先輩と一緒に休む原因になった使い魔だけだった。だがしかし、かわいいかわいい獅子のしーちゃんは我らが校長先生に闇の魔術だとかなんだとか散々な言われようで殺されてしまったはず。なんだって今更退治なんぞ。ありえない事を排除した結果に残った事はどんなに信じられない事でも事実である、それをもとに考えられるのは僕が知らぬ間に獅子を作り出したか、校長がしーちゃんを倒したのは嘘だったかの2つだ。


 話を聞くに後者らしい、いや正確には倒したらしいが、自己再生をしてどんなに壊しても石のカケラ一つでもあればそれから完全体になるらしい。それに気づいていなかった最初のうちは手の空いている教師が壊していたらしいのだが、最近になって封印を施した後にまた表れたのを見て術者本人でないと対処できないのではないかという話になったのだと。今回は僕の護衛に校長先生とアジア系の先生の二人がついて、その二人が時間稼ぎをしている間にしーちゃんを構成している魔術を解くか使い魔として制御をするかしてほしいだとかなんだとか。


 つまり、教師陣は僕の魔術生物に手を焼いている……確かに僕は公爵家の倍以上の神の加護を受けているけれども、軍学校としてそれでいいのか? 先生たちが束になっても僕には敵わないという事じゃないか……いや、それよりも注目すべきは、しーちゃんが同じく神の加護を受けている疑惑がある事だけど。僕一人の魔力は血縁相応で個人としては大したものだけれどもその道のプロが集まったものには勝てない。そこに関わって来るのが家の神などの魔力とは別の力、神力なんだけど、それを合わせれば僕の魔力は何十倍にもなるため先生が太刀打ちできないのもわかる、つまりしーちゃんは僕の気付かないうちに僕が授かった神力を得ている可能性がある。


 それはつまり、僕の制心術がなっていないという事で……あ、制心術は自分に催眠かけて感情のブレ幅を減らす術のことね。そうする事で勝手に術が発動するのを防いだりするんだ、他には魔術師からの洗脳を解いたりとか色々効能はあるんだけど、まあそこはいいか。それで、しーちゃんを暴走させちゃった日に習った制心術なのに、しーちゃんが制心術下で暴走しているって、一体どういう事だ。下手すれば僕の手に負えないこともあり得るぞコレは……。


 不安を抱きながら校長先生にその件を話すと、大人二人して異国の言葉で話しあいながら移動し始めてしまった。曰く喋る事は歩きながらでもできるだとか。クソ、せめて僕にわかるように話してくれよな、結局しーちゃんを治めるのは僕なんだから。


 案内により僕は廊下を歩き、地図には載っていなかった地下への秘密の道を通り、薄暗い地下水道にきた。ここから更に歩き、しーちゃんを一時的に閉じ込めた区画に行くらしい。区画というのはさっき説明したけどしーちゃんが封印しても封印しても勝手に復活するから、封印を何重にもかけて単純に足止めをするしかないのだけど、その封印を破る早さが大まかにしか分からないので、それにより導き出される封印の解き具合、つまりはしーちゃんの居場所が大まかにしかわからないのだとかなんだとか。ついでにここでの封印は壺に閉じ込めるとかじゃなくて壁と扉で仕切られた部屋に鍵をかけるような、物理的な封印だ。封印と言えば他には霊魂を道具に閉じ込めたり、あるいは魔術印の中へ閉じ込めたり、魔術の鎖で縛ったりする方法がある。今回はその方法に頼るかもしれないので覚えておいたほうがいいだろう。


 しかし地下水道か、帝都の下に蜘蛛の巣状に有ると聞いていたが、学園の下にも通っているのか。ここは帝都奴隷が手入れしていると聞いたが、どうやら彼らは働き者のようだ。水捌けが悪いので滑りやすい道では有るが、滑りやらなんやらはそうない。匂いもそう酷くはない、下水道じゃないのだろうか。まあ、そうだな……ここが地下水道というのはただのダミーじゃなかろうか。軍事利用を目的に作られたのかもしれない。まあ、実際にどうかは謎なんだけど……。遠くで雷が鳴るように、低く轟く音が聞こえた。


「チャムロ!————!」


 校長先生が何処ぞの言語でチャムロさんに警告か何かを発した。予想よりも早くしーちゃんが封印から抜け出たのだろうか。ううむ、不安になってきた。嫌な汗が背中を湿らす、チャムロさんたちも顔つきが険しい、いったいどんな化け物になっているんだ。青い炎をチロチロと体からもらす程度に体を強化し、石のサーベルを用意した。


「ウン、オマエソノ――ハ?」


 ドンだか、バンだか、轟音と共に濁流が体を襲った。


 チャムロさんが異国の言葉で質問を投げかけるが早いか、水道から飛沫をあげながら何かが飛び出したのだ。ああ、考えるまでもない。しーちゃんだ。大分、姿は変わっているが。


「AOOOOOOOoOoOoOoO!」


 ともすれば狼のような声がした。石の癖に、随分と豊かな声帯をしている。どちらかと言うと虎だな、でもまあ、姿形はライオンに()()。随分とまあ変わったなりをしている。ライオンの首が2つはえていて、尻尾はワニのように太い。水草のような物を纏い、鮫のようにザラザラとした石の肌を持っている。しかし、石がヌルヌルと動くのは恐ろしいと言うか不気味な感覚がする……。


 しーちゃんの顔の僕から見て右側、レフトしーちゃんが口を開けて舌を伸ばしてきた。銛のように返しが付いている、狙いはまっすぐに僕だ。チャムロさんが刀でへし折り、校長先生が舌の根元を引っ張った。レフトしーちゃんの首が校長先生によって締め上げられた。これが15秒の出来事だ、次にライトしーちゃんが炎を吐いた。名前で今一緊張感がないとか言わないでくれよ? 実際には汗腺が一気に開いたかと思うほどのヤバさが有る。


 チャムロさんが火に突っ込み、また首を絞めた。もともと僕が作ったしーちゃんは別に酸素を必要としないので意味はないと思うが。だが、更に悲しいことに、そもそも僕が作った獅子の形からだいぶ外れている事をよく考えるべきだったな。彼は自分の姿を変えようと思えば変えられると言うことだ。3つ目の首を作り、僕に噛み付こうとしてきた。速さはそこそこだ、参ったな。早いとこ彼を押さえつけて封印の上から彼を構成する魔術を変更しなければならないのだけれど……。そもそも僕から生まれた術式のくせに、随分と生意気なやつだ。


 若干の不快感を抱きながらサーベルで鼻を貫き、思いっきり魔力と神力を流し込んだ。彼も伊達に魔術学校の敷地内に住んでいない、中々の魔力を持って対抗される。サーベルからホムラビの青い火ではない、煌々とも言える赤い炎が漏れ出し、皮膚を加熱する。いつもより何倍も魔力で強化されている今だから耐えれるが、平時なら肌は焼き爛れていただろう。ああ、ホムラビの神力でさえ押し返されそうだ、もっと力を込めなくては。


「ホムラビ、テンシ、アンナ、マシエッテ!僕に力を!」


 僕は僕の中にいながら厳格には僕の支配下にいない四柱の神格の名前を呼んだ。僕の体から波のように光が溢れた、まるでトンボが脱皮するように背中から何かが引き摺り出された感覚がする。僕のサーベルを握る手を二人分の手が包む。黒い喪服の女性アンナさんと、白いギリシャ彫刻のようなテンシさんだった。いつの間にか、普通のワニと比べてそこそこのワニがしーちゃんに噛みついていた。本体よりもの凄く小さいしマシエッテさんの分霊だろうか、ホムラビの姿は見えなかったが、僕を包む青い炎はさらに強く燃え上がり、しーちゃんのぬらぬらと光る濡れた石面を照らしあげた。しーちゃんは流し込まれる力に耐えきれず内側から大きく爆ぜた。すかさずマシエッテさんの顔の一部が現れてしーちゃんの残骸をあらかた飲み込んだ。


 まるでイルカショウの様に現れたマシエッテさんが再び水に消えると、今までで一番大きな水飛沫が上がった。


「な、なんじゃ今のは……お、おわ……フロワユースレス!今のはなんじゃ!」


 ガッと肩を揺すられるのを疎ましく思いつつどう答えようか僕は悩んだ。バカ正直に神ですなんて答えてもろくな事にならないのは素人目からしても明らかなのだけれど、僕の直感は少し悩んだ末に明かさないことを選んだ。経験と推論に基づく直感が微妙な反応を引き起こすと言うことは、経験的にどちらに転んでも碌なことにはならない事を表しているのだけれど。


「いやぁ……ま、魔術生物の親戚ですよ。皆んな僕の友達と言いますか。」


 マシエッテさんに食われてしまったしーちゃんも元はと言えば魔術生物だし、神様も魔力の親戚である神力の塊であるため魔術生物の親戚と形容した。友達というのは直感がそう言って小児性愛疑惑のあるジジイに幼さを演出しろと言ってきたからなんだけど。


「と、友達……?」


 さあて、反応は芳しくない。まずい事になったぞ。どうやって誤魔化そうかな……。



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