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ちらうら  作者: 湊いさき21
本編
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そうぐう

 休日と言っても、過ごし方は人それぞれだ。だろう?

 本読んで過ごす人、散歩にでも行く人、知人とどこかに遊びに行く人、学生なら塾や自宅での学習も選択肢に入るし、社会人なら返上して仕事を入れたりあるいはスキルアップのために何か習い事をするのもいいかもしれない。魔術師の一般はそうだね、今日の僕みたいに新術を得るために師を仰いだり研究なりなんなりだ。新たな術を習い色々と遊んだ後に、僕は剣の稽古に励んだ。


 まあ純粋な魔術師流の剣を習った訳じゃあないが。魔術師流はそもそも護身術程度に触れればいいからね、魔術で相手の思考を乱したり目を潰したりするのが主だから、使える魔術のほとんどが有効でない為に剣の技術ばかりを磨く僕のクロノアデア用戦闘術はきっとこの先彼女以外に役立つことはないだろう。


 まあ何が言いたかと言ううとだ、正しき帝国国民の生活は鍛錬か休養の2つで、決して興味のないゲームのプレイレポをするとかじゃあない。でもまあ実際にプレイレポをしてるんだからこの場合考えられるのは3つ、僕が正しき帝国国民じゃないか、ゲームにかけらでも興味を持ってるか、あるいはその両方かだ。僕は戸籍があやふやなので正しき帝国国民じゃない、そして僕は赤の世界でボクと会いたい……あれ、変だな両方満たしてるわ。この状況はどうもおかしいって言いたかったのに。




 とまあ、ジョーダンはそこそこに、僕はゲームを進めていた。邪神側の狙いがわからない以上、安易に言われるがままの行動をするのは危険だと言うのは重々承知しているがそれでも動かざるを得ない。それと言うのは僕が現実に戻った際のダメージがあるからだ、ボクからの精神的不安が僕の良心を傷つける。僕は早々に赤の世界のある場所に行ってボクを安心させてあげなければならない。一先ずは黒騎士とやらのみんなが口を揃えて負けたと言った場面まで進め、そこでどうにか頑張りたい。


 そのため僕は前回手に入れたスキルを慣らしつつ、グール這い出る洞窟へ入って言行ったのだった……。


 中は薄暗く、ジメジメとしているどころか地下水の浸み出て泥濘みたる様子を見るに、ここにはグール以外に来た形跡はない。レッサーグール達は這って移動する為に足跡はあまり残っていないが、例えば剣を持っていたり鎧を着た人がいれば重量と設置面積の関係で圧力がそこが窪んだりする筈だ。腐肉の他は骨ばかりのグール達と普通の人間では重さが大きく異なるので、グールの作った窪みと人間の窪みとを見間違えることもないだろう。


 つまり、今の所僕の他にグールの出る穴に入ってきた人はいないと言う事だ。ゲーム序盤でいつまでもモタつかせてもしょうがない、簡単にたどり着ける場所で人が来た形跡がないならゲーム的にもあたりだろう……と、思ったところで僕は固まった。


 穴は地下にあり人間一人が屈んだり這いずり回るには十分な広さはあるが、主に地面と壁が泥濘んだ泥で構成されている。恐らく魔術的な要因で辛うじて洞窟の形を保っているのだと考えていたんだけど、どうもそれは違うらしい。バシャバシャと飛沫をあげ洞窟内は軽度な崩落をした。泥とつぶてが僕を襲い、世界が暗転する。



 気を失ってたらしい、目が醒めると辺りは真っ暗だった。毛皮の感覚から体が泥にまみれているのがわかる。取り敢えず体を振って泥を飛ばし火の魔術で明かりを確保した。僕がいる場所はまるで地下牢のような、人工的に作られた場所だった。僕のいる所だけは泥の丘ができていて、急な洞窟の崩落がこの施設の崩落、恐らくは経年劣化かなにかに依存する物に関係がありそうだという事が予想できる。


 壁の一部瓦解、キノコやら苔やらの繁殖、錆びて朽ち果てた松明置きと、至る所から施設の古さがにじみ出ている。特に床はちょろと壁から漏れる水で苔むしていて人間の体重だったらつるっと滑りやすそうだ。


 おっと、そう言えば人間の体をしているナビさんはどこにいるのだろう。僕と一緒に洞窟を進んでいたのに今はどこにもいない。崩落で離れ離れになったか?僕より先に目覚めて何処かへ行ったという事はないだろう、彼女はナビゲート役、現実ならともかくゲームだからその役通りに動く筈だ。


 ナビさんへ呼びかけるように鳴き声を上げてみるが、帰ってくるのは虚しいコダマばかりか、グールが寄ってきた次第だ。ぞろぞろとやってくるグールを焼き殺し少し考えるに、どうもここはグールの湧く源泉のようだ。この施設の奥でグールが湧き、僕が通ってきた道から外へ漏れ出ているのだろうか。地上とは違ってグールが多いので、多分あの道が細すぎて外へ出れるグールが少ないのだろう。


 ゲーム的にも人情的にもすぐさま行方不明のナビさんを探しに行くべきなんだろうが、探すにしたってノーヒントは少しキツイのでもう少し手がかりを探したい。一応もしそうだった場合が可哀想でならないので泥に塗れながら彼女が土砂に埋もれていないか探してみたが居なかった。仕方がない、虱潰しに行こう、闇雲に探すとも言うが。結局策なしじゃねーかなんだったんだこの時間。違うね、違う違う。真面目に考えようじゃないか、まあ考える事は歩きながらでもできるので同時進行で虱潰しに探しに行こう。


 まあまず何処にいるかの目処だ。この施設は沼地の地下にある地下牢のような施設だ、ただし鉄格子やらなんやらが無いので地下牢ではないだろう、それにこの世界が僕のいる世界と全く同じかは知らないが文化的な矜持があるのだけど、僕の住む世界の地下牢とはここは少し構造的な違いがある。語るのは特に重要な話とも思えないし面倒なので語らないが、とにかく牢屋では無いという事は確かだ。


 じゃあどんな施設なのかという話だが、恐らくは墓地か何かだろう。地下墓地、カタカナでいうところのカタコンベだかなんだか、地下納骨堂か何かだとは思うのだけど。苔やらなんやらで殆どが見えないが神話的なレリーフが色々と見れる。


 苔やカビの量からして多分この施設は数十年以上は放置されている。地下にある設備、それも墓地なんて重要施設が放置される理由はなんだろう、考えられるのは急にしよう不可になったかもっと良い代替施設ができたかだが、沼地に地下施設があるところからして多分前者だ。


 僕は最初沼地に魔術的な何かでグールが産まれる地下施設ができたと思っていたのだがそれは違うらしい、つまり正常な地下施設がグールを生み出す沼地に変えられたんだろう。しかしマズイぞ、一帯の植生を変える魔術と大量のグール、つまりは使い魔の亜種をぽこぽこ生み出せる大魔術師だ。そんな奴を、本来の僕ならともかく火をふーふー吹くしか能のない小動物の身で倒せるのかどうか……曰く国をまたいで販売される大人気ゲームは序盤からそんなハードな物を言う事は無いと思うが、ナビさんを探す上で頭に入れておかなければならないだろう。刺激せずにご機嫌とりをすれば、もしかしたら手伝ってくれるかも知れないし。基本的に寂しがり屋かつめんどくさがり屋の気分屋だからね、魔術師なんて人種は。


 さて、推定マッドな魔術師のいる地下墓地(崩壊寸前)だが、ナビさんが居得る場所はどこだろうか。1、小動物な僕は見逃してもらえたが人型のナビさんは魔術師に連れ去られた。2、崩落に巻き込まれてゲーム的に死んでしまった。3、ナビさんはプレイヤー扱いで僕がストーリーを進めるために僕のルームから外された。


 なんとなく3つ考えて観たけど多分2、3はないだろう。1もどうかとは思うが……多分、マリオがピーチ姫を救いに行くみたいに僕がナビさんを救いに行く話だ。と、言うわけでやって来たるは魔術師のいるであろう部屋だ。グールの歩いた後と魔術的な要素の濃い方向を向かってたどり着いた部屋なのであまり自信はないが。


 ドアをノックしてから人間用のドアノブをどう回そうか考えてるうちにドアがガチャリと開かれた。


「おや……随分とまあ、弱っちい奴が来たもんだ。」


 中からは髭に飾りをジャラジャラつけた男が出てきた、薬草の匂いがする、爪も黒ずんでいるし、結構勤勉そうな魔術師だ。いや、この世界の魔術は魔術ではないのだけど。


【初めまして、このような形での訪問をお許しください】


 取り敢えず挨拶をすると部屋にあげられて話をする事になった。魔術師の部屋は如何にもな大釜や如何にもな書物がたくさんある、恐らく自筆の研究ノートだろう。薬草が入った瓶も沢山ある、何個か僕の庭にあった物も見えた……ラインナップ的にはたぶん睡眠薬と麻酔あたりでも作っているのだろうか。


「気になるかね?」


 男がチラチラ周りを伺ってるのを見て、僕を抱き上げて聞いて来た。男に抱き上げられるってのはあんまり愉快じゃないな、不愉快というほどではないが。まあ、僕はナビさんを探すという目的があるので噛みつきやしないが。


【グールを生み出す死霊使いにしては、珍しい薬品かと思いまして。】


「……? ああ、奴らはただの使い魔だからな。我の本業は池沼の魔法使い、そも丁度よく手元に死霊のアーチファクトがあったからそれを使ったまでだ。」


 男はそう言って壁に立てかけてあった槍を指差した。やけに穂先が長い緑色の奇妙な物で、所々に錆があったり武器としては役に立たなそうな物だった。男は槍を手に取り古代エルフ語で光あれだかなんだかと呪文を唱え、切っ先と石突きで交互に床を叩いた。オレンジ色の魔術陣が現れ、近くに置かれてあったシャレコウベに光の玉が打ち込まれた。グズグズとした闇が骸骨から水が漏れるように出て、グールの肉を作り出した。男が骸骨を拳で砕き、使い魔の生成をやめた。


「驚いたか? この槍には霊を操る力がある、だから少し弄ってそこらへんに漂う霊に契約付きでグールの肉体を与えるように改造したんだ。」


 苦労した事でしょうねと適当に相槌を打ち始め、僕は男に取り入り始めた。魔術師は理解者が欲しいはずだから、研究に関して聞き出してそれは凄いとか知らなかったと言いつつ、適度なレベルの発言を織り交ぜるだけなので簡単だ。相手がそこそこに満足したところで、そろそろ帰ろうかと言うそぶりを見せて気を引かせた。


「そ、オオンはなんゆへここんこや?わぁん聞かせん。」


 なんか中々訛りがひどくなってきたな。話の途中で酒も入れたしまあ別に構いやしないのだけど。まあいい、僕はナビさんの捜索をしている事を話した。ナビさんは僕にとてもよくしてくれた見た目の良い女性である事を強調して話すと、魔術師は心当たりがあるといいながら席を立ちかけてあるローブを取っておぼつかない足取りで案内をすると言ってくれた。素直に提案に乗り、薄暗い地下墓所の道を隠し階段やらなんやらを降って行くと、大きな部屋に出た。


「探索者tokage……貴方ならすぐこちらに来ると信じて居ましたよ。」


 それはありがたい事だ、ナビさんは広い部屋の隅で体育座りをして居た。腐乱臭がしたり蛆の湧いた死体があったりと汚らしい場所だが、汚れていないところを見るにずっと宙に浮いていたのだろう。力も使うだろうにこんないつ敵がくるかもわからぬ場所で浮遊し続けるとは随分な綺麗好きなようだ、早めに迎えにきてよかった。


「おう、やっぱりここに連れられてこられたか。」


 辺りを見渡すにここは男が新たに作った死体置き場だろうか。グールも使い魔だから、人型を見つけたら生死を問わずこの部屋に連れて来いと命令が入っているのだろう。魔術師ではあるがネクロマンスに関しては門外漢なのでハッキリと断言はできないが、死霊術も骸骨やらなんやらを使った方が楽なはずだし、ここにある死体は多分グールの素材だな。現実なら病原になるかもしれないからとっとと焼き払いたい所だ。


 ナビさんが僕を抱き上げると何処からともなくホラ貝でも吹いたかのような音がして、【クエスト:囚われの姫をクリアしました】とナビさんの声でアナウンスが入った。しかし囚われの姫か……姫?まあ、配管工の話題出した僕がツッコムのはよそうか。それに美人に目が慣れ過ぎてるせいであまり実感はないけどナビさんは整っている顔立ちだし。


「我はそろ、帰るとする。出口はこの部屋を出てから角を右へ右へと曲がり続ければすぐにたどり着く。ではな。」


 そう言って魔術師の男はそそくさと部屋を出て行ってしまった。急にどうしたのだろう、あっ、訛りか?お酒数杯で強い訛りが出始めたから、恥ずかしくなったのかもしれない。田舎者コンプレックスみたいな感じかな、あまりよくわからないけれども。


「tokage、今回は助かりましたが……グールはどうするのです?」


 ナビさんは僕が魔術師の男を襲わなかった事を言っている、僕が魔術師の男に不意打ちかまして殺してしまえばナビさんの捜索は遅れるがグールの発生を止められたからだ。確かに考えるところはあるが……まあゲームだし、街の一般市民がグールに襲われて命を落とすことはあるまいし、別に放置で良いと僕は思う。勝手に沼を作ったのは確かに迷惑行為だけども、かといって殺したり僻地に追いやったりするのもかわいそうだ。彼も話が通じないわけではなさそうだし、いつか遠い未来で街の人が困ったときに頼る善い魔術師になるかもしれない。そんな未来を摘み取る事もないだろう。


「そうですか……私はナビ、貴方をナビゲートするのが役目です。目的地を設定するのは貴方の役目ですからね。」


 ナビさんが意味深な事を言った。目的地を設定するのは僕だと? 僕の行動によって何かが大きく変わるのだろうか? まあゲームの主人公なんてそう言うものだと言われればそうなのだけれど。


 僕は疑問を抱きつつ、街でのログアウトと白の教室でのプレイレポートの提出をして現実へと戻って行った。


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